『クリア・ノート』に転生しました。 作:ファウード編アニメ化まだですか?
僕とゼオンが初めて出会ったのは……僕が転生したと気付いて数年後、働き口として兵士を選んだ頃。
物心ついた時から肉親と身寄りもなかった僕は孤児院で過ごし……ある程度育ったら直ぐに飛び出して兵士として働き、そして力をセーブしたままでもそこらの大人相手でも問題なく戦えるようになった頃だった。
年功序列か、勤めた年数か、はたまた出自か、僕は一切の地位を得ることなく、ただの兵士として過ごしていた。
そんなある日、上司であるラジン中将……そんな彼に呼ばれて行った訓練所で、ボロボロな姿のゼオンと出会ったんだ。
「……」
初めて会った時は驚いた。
彼があの
知識では知っていた。
彼は父親によって虐待とも言える程の厳しく辛い訓練を受けているのだと。
だが、これ程までボロボロにするものなのだろうか。
これが実の子供にする事なのだろうか。
今世でも前世でも肉親を持った事のない僕では、よくわからなかった。
「ゼオン様、こいつはクリア。孤児ですが中々に見所があり、世話を焼いております。ゼオン様の相手として、不足はないかと」
そんなボロボロの、血塗れの姿で立つ少年は痛みか疲労か、体を軽く震わせているもののその眼光の強さは微塵も衰えず、ラジン中将を鋭く見上げていた。
「貴様がそこまで言うとは、珍しいな……。おい、お前。クリアと言ったか?」
そして、その紫電の眼光はそのまま僕を貫いた。
怪訝さを隠そうともしない……此方を見下しきった視線だった。
僕はそれに特に何も思う事もなく、静かに頭を下げた。
「はっ、ゼオン様、お会いできて光栄でございます。私はクリア・ノート。本日は手合わせとのこと……宜しくお願い致します」
「……ふん」
じろじろと無遠慮に此方を見るゼオンは、鼻を鳴らして腕を組んだ。
「まぁいいだろう。早速やるぞ。お前、武器は使うのか?」
武器、武器か。
術として出さなくても、普通に使う武器としても、妙に槍が手に馴染む。
「はっ、槍を使っています」
「そうか、ならば武器を使った模擬戦だ。そこらにあるのを好きに使え。俺は――」
「ゼオン様も武器を持つのが宜しいかと」
ジロリ。
音をつけるならこれだろうか。
自分の言葉に口を挟んだラジン中将を、ゼオンは鋭い目線で睨み付けた。
そこにあるのは、自分への強い自信と矜持だ。
「中将ごときが、この俺に指図するのか?」
二人の実力は明らかにラジン中将の方が上だ。
今はまだ、と頭につくだろうが。
だがそれでもラジン中将から僅かに焦りの感情が浮かんだのは、ゼオンの生来持つ王族として覇気……とでも言おうか、それに圧されたのだろう。
……それはそうと、視線は外されているけれど、僕へと意識は向けられたままだな。
僕の反応を見てるか……怖がっているフリくらいはしておくべきだったか?
いや、もう遅いか……愚鈍な奴だとでも思ってくれる方に賭けよう。
「クリアはいずれきっと、ゼオン様と同じく魔界の王を決める戦いの100人に選ばれます……そして、ゼオン様と互いに高め合える、そういう存在となると、私は確信しております」
「……こいつがか?」
ラジン中将から高い評価に多少驚きを見せつつも、ゼオンの反応は淡々としたものだった。
むしろより怪訝になったように思う。
「ええ、少なくとも先ずは、同じような条件で戦うのが良いと思われます。私からはそれだけ……その後はゼオン様のご意志にお任せします」
そこからゼオンは腕を組み、暫し考え込んだ。
苛立ちを紛らわせる為か、タンタンと足を鳴らし、眉間にはシワが寄っていた。
僕達は黙ってただその場に立ち、その考えがまとまるのを待っていた。
「ちっ……いいだろう。だが、期待外れだったら覚悟しておけ。ただでは済まさんぞ」
そう言ってゼオンは眉間のシワはそのままに踵を返し、乱雑に積まれている訓練用の武器がある場所へと歩を進めた。
……僕も適当に穂先の潰れた槍でも選ぶとしよう。
『ランズ・ラディス』が突撃槍だからか、そういうタイプのほうが手に馴染むけれど、普通の槍が使えない訳ではない。
今回は普通の槍にしておこう。
チラリとゼオンの方を見れば、その手には身の丈の倍はあるような大剣が握られていて、それを軽々と振り回していた。
訓練用で刃が潰されているだけの鉄製の大剣を、あの小ささでああも使えるのか……。
魔物……魔界では特に珍しくもない光景だが、やはり実際に目にすると前世の常識に引っ張られてか、つい戸惑ってしまう。
「やるぞ、準備は良いか?」
そうこうしている間に、ゼオンは既に移動を終えていて、自身の乾いた血がこびりついている石畳の上で、大剣を構えていた。
「はい、いつでも大丈夫です」
両手で大剣を構えるゼオンに対して、僕は右手だけで槍を持ち、穂先をゼオンへと向けた。
左手はだらりと垂らして、自然体で。
そんな僕の構えとも言えない構えにゼオンの眉間のシワは深くなる。
……真面目に相対してないように見えて不愉快なのかもしれないけど、これが僕の構えなのだから仕方ない。
「では、術の使用は禁止、降参、気絶、または私が止めたらそれ以上攻撃しない事。良いですね? 始め!」
向かい合った僕達の準備は万端。
ラジン中将の声と共に、ゼオンとの戦いは始まった。
さて、転生してから幾人かの
そんな機会は魔界の王を決める戦いが始まってからしかないと思っていたから、正直ビックリ。
……思えばラジン中将の姿に既視感があったのは、『ゼオン』の回想にいたからか。
それがこういう場面に繋がるというのだから、巡り合わせという物は面白い。
「行くぞ!」
石畳が砕ける程の勢いで地を蹴ったゼオンが、一息に僕の前で刃を振りかぶる。
……速い。
起こりがわかり辛い動き出しにも拘らず、その速さはまるで雷。
瞬きの間に……という言葉が相応しい程に常識外に速い。
僕の目の前で脳天に刃を叩き込もうとしてくるゼオンの姿に……。
「はぁっ!」
背を向け、背後に槍を突き出した。
「何っ?」
ガキィイイイイイン
僕の背後ではゼオンの本体が刃を振り下ろし……僕はそれの中ほどを槍の穂先で受け止めていた。
先程まで僕に真正面から刃を振るおうとしていたゼオンの像が、すぅ、と消える。
潰された刃が甲高い音をたて……ゼオンはそこで初めて、僕を見た。
視界には入れていても、大した価値のない存在だと切り捨てていたのだろう。
けれど今は、その視線は確かに『僕』を見ていた。
僅かな驚き……呆気に取られたようにその丸っこい目を見開きつつも、次の動作への移りは早かった。
競り合う穂先と刃、その先を僅かに逸らされ、今度は側面から刃を振るってくる。
それに対しても、僕は槍を即座に引き戻し、中程を穂先で穿った。
キィイイン!
「……ほう」
感心したような声を漏らし、ゼオンは姿を消す……速……いや、動き出しに僕の瞬きの瞬間を狙ったか……。
気付けば僕の周囲には銀の像がいくつも浮かび上がり、そのどれもが刃を振りかぶっていた。
瞬きを狙った事といい、残像を残す動きといい、
……小技、というには少し高等技術過ぎるか。
キン!
本体を見極め、その振り下ろしに再度穂先を合わせる。
拮抗は一瞬、即座に刃は離れ、次々とゼオンの残像が本体と重なり、その刃を振るう。
虚実を織り交ぜた無数の剣戟に、僕も合わせて槍を振るう。
……それにしてもこの速さでフェイントまで出来るとは、この幼さの子供とは思えないな。
っと……次が来る。
キンッキンッ!
右、左下からの切り上げ。
キンッキンッキンッ!
背後から横凪ぎ、袈裟切り、真正面からの振り下ろし……。
ギィイインッ!
正面の突き。
剣先と穂先が真正面で衝突し、そのまま拮抗する。
余分な力は一切ないからか、ビクともしない。
そんな状態で僕を見るゼオンの表情は…………笑顔だった。
ニィイイ
……言葉にするなら、こうだろうか。
ゼオンはその表情を邪悪に歪めていた。
面白い物をみつけた、とでも言いたげな……何処か無邪気さも感じる笑みだった。
「良いな、お前……おい、もう一度名乗れ」
「……? 僕の名はクリア。クリア・ノートです」
「そうか。俺はゼオン。ゼオン・ベルだ」
唐突な自己紹介を求められ疑問符を浮かべる僕に、ゼオンはただ笑みを深めるだけだった。
その間も刃と穂先は拮抗したままで……。
ピシッ
どちらからともなく、軋み、罅が入る音がした。
パキャァアンッ
砕け散る刃と穂先……僕とゼオンの力に耐えきれなかった大剣と槍は、柄を残して床に散らばってしまった。
構えを解いたゼオンは残った柄をじっと見つめた後、適当に放り投げ、僕を見つめて口を開いた。
「まだまだやれるだろう? 後数刻は付き合え。後明日も来い。また俺の相手をしろ」
カツカツと音をたてて歩くゼオンは、訓練用の武器に再度手を伸ばす。
そこで新たな槍を僕の方へ放り投げながら、似たような剣……先程よりも一回り小さな剣を手に取った。
パシッ
僕も柄だけが残った槍を放り捨てつつ、ゼオンから投げ渡された槍を受け取った。
……うん、殆ど同じだな、問題ない。
ただ、次は壊さないように気を付けよう。
槍を放り投げた時、僅かにラジン中将が怒気を放っていたし。
「わかりました、ゼオン様。お付き合い致します。貴方様の気が済むまで」
それにしても、予想外だ。
なんだか気に入られたみたい……かな?
色々とこれから大変かもしれないね。
「ハッ……良い度胸だ。いつ音を上げるか楽しみだ! 次は貴様から来い! 全て迎えうってやる!」
「……では、失礼して、此方から攻めさせて頂きましょう」
……まぁ、良い。
強者との戦いは、経験としては悪くない。
それに……全ては……。
僕が、魔界を滅ぼすまでの話……。
どうせいつかは全て消すのだから。
「はぁっ!」
「甘いぁっ!」
それまでのただの、暇潰しだ。
キインッ!
武器をぶつけ合いながら、至近距離で互いを見つめ合う。
ゼオンは笑顔で、僕は無表情で……ずっと戦い続けた。
暗くなるまで、ずっと。
そうしてまた明日、同じように訓練すると約束して別れ……僕達の関係は続いていく事になる。
それが、僕、『クリア・ノート』と『ゼオン・ベル』の出会いだった。
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「ククク……ラジン中将、良い拾い物をしたな?」
「はっ……随分とお気に召したようで」
「ああ……アレが魔界の王を決める戦いに選ばれるのであれば……クク、退屈しないですみそうだ」
「ええ、ゼオン様の良き壁となってくれるかと」
「ああ……面白くなって来た」