『クリア・ノート』に転生しました。 作:ファウード編アニメ化まだですか?
「来たか」
その次の日、僕はまたゼオンのいる場所へと赴いていた。
既にその手には槍と剣が握られていて、やる気に満ち溢れている。
「はっ、ゼオン様。本日も宜しくお願い致します」
「ああ、早速やるぞ」
言葉少なにゼオンは僕に槍を放り投げ、自分は身の丈程の剣を構える。
「今日は当てるぞ?」
「お手柔らかに」
昨日から既に何百と打ち合っているけれど、未だ互いに被弾はない。
それは僕が多少そう調整していたってのはある。
既にズタボロな子供を打ちのめすような趣味はないからね。
今日は別に大丈夫そうだけど……さてどうするか。
僕は全力を出している訳ではない。
本気でやればゼオンと力が拮抗する事はなく、正面からぶつかり合えば力負けする事はないだろう。
まぁ、本気なんて兵士やっている限り出す気はないけど。
そもそもゼオンの訓練相手は基本的に大人の魔物。
力で負けてる相手なんてごまんといただろう。
そんなのと同じように戦った所で意味はないし、個人的にも格好悪く感じる。
それならばまあ、技量で勝負するのも……ゼオンからしてもタメになるだろう。
「すぅ…………ふっ!」
「っ……」
キキキキキキキキキキンッ
昨日も見せてきた僕の瞬きに合わせての動き。
そこからの息もつかせないような連撃に、流石に息が詰まった。
成程、考えてる……。
槍と剣では明らかに剣の方が取り回しが良く、小回りが利く。
速さ一点で言えばゼオンには負けているようだし、こうなるのも宜なるかな。
しっかりと自分の強味を知り、活かして勝ちを狙うゼオンは、やはり強かだ。
それはそれとして、自分と背丈の変わらない剣をああも自在に振り回す光景は、前世の常識が過ってしまって目を疑うけれど。
「ふぅううう……ちっ……これも通用せんか」
刃の嵐、とも呼べるような凄まじい連撃を僕はどうにか捌ききった。
一度動きを止めたゼオンは、間合いをとった後大きく息を吐き、舌打ちを鳴らした。
彼にとってはそれなりに自信があったのだろう。
とはいえ、汗はかいているけど息を大して乱していないのは凄いな……。
よっぽと幼い頃からしごかれたらしい。
……
「ふん……おい、そういえば貴様の術はなんだ?」
キィンッ!
振り下ろされる剣を同じように防ぎ、横に反らして今度は僕から突く。
それがゼオンの残像を貫いたのを見た後、即座に振り返った。
「僕の術は打ち消し、です」
振り返ると同時に振られた刃を受け止めながら答えた。
中途半端な体勢に見えたので押し返してみれば、ゼオンはそのまま逆らわずにグルリと回る。
「ほう? 確か『スプリフォ』だったか。珍しいな。直接攻撃能力はないが、我々の強みを一つ奪うような術……成程、道理でこれだけ近接戦闘の練度が高い訳だ」
そのまま体全体を使っての切り返しは……流石に間に合わないか。
柄で一瞬受け止めた後、即座にその場から飛び退いた。
ゼオンはその僕の対応に、ニヤリ、と笑みを溢した。
「だがまだ、付け入る隙はありそうだな?」
「……そうですね。僕もまだまだのようです」
直撃した訳ではないけど、初めて穂先以外で受けてしまった。
それと、防御に回っている時に僕から距離を取ったのも初めてだ。
昨日の今日で、既に進歩が見られる……幼さ……いや、ここは若さと言おうか。
若さ故の成長性……。
魔界の王を決める戦いの時に、彼はどれだけ強くなっているだろうか?
「…………さあ、続けましょう。あまり休ませるな、との指令が下っています」
「ふん、そんな指令、なくともまだまだ休む気はない! 行くぞ!」
もしかしたら、僕はアレが起こる間も無く負けるかもしれないな。
それでは僕の本懐は果たされない。
……不確定要素を排除するならば……まだ強くなりきる前にこの新芽を摘んでしまうのが正しい。
僕の視界に、いくつものゼオンの残像が浮かび上がる。
そのうちの一つ、または死角から次の剣戟が繰り出されるのだろう。
実体のあるそれに穂先を合わせながら、僕は思考を回す。
手加減を投げ捨てれば恐らく……殺す事だけは出来る。
だがそうした場合、僕は王族を殺した事で良くて拘束、最悪は処刑となるだろう。
逃げれば指名手配されるだろうし……良くも悪くも目だってしまう。
それにそんな状態で魔界の王を決める戦いに選ばれるかは定かじゃない。
それに、こうしてひた向きに僕に勝とうと、強くなろうとするゼオンの姿はこ――――。
――――ほろぼせ――――
……うん、ここでゼオンを滅ぼすのは得策じゃない。
一先ずは暫く、このまま、鍛練の相手をするとしよう。
ギィインッ
耳障りな音をたててぶつかり合う刃と穂先、飛び散る火花。
そんな中でも笑みを浮かべて動き回り、剣を振るうゼオンの姿が、ひどく印象的だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
視界が戻る直前、僕とゼオンはどちらからともなく、ほぼ同時に距離をとっていた。
閃光が晴れ、砕けた『ランズ・ラディス』の破片を放り投げ、ゼオンへと掌を向けた。
ほぼ同時に、ゼオンの掌も此方に向いていた。
「『ジャウロ・ザケルガ!』」
そして即座に放たれる、11の電撃……その性質を思い出してその容赦の無さに苦笑を浮かべ、両手を掲げた。
「ヴィノー」
言葉もなく
これを無傷で切り抜ける術はこれしかない。
『ラディス』系列では恐らく抜かれる。
『スプリフォ』系列でも瞬間的なものでは恐らく対応出来ない。
「わかってる!『アム・ドュ・スプリフォ!』」
発動した術は僕の手と連動して動く、打ち消しの力を持った巨大な掌を操る術。
自在に操れて時間差も可能なゼオンの『ジャウロ・ザケルガ』に対応するにはこれしかない。
ドラララララ!
殺到する電撃に、『アム・ドュ・スプリフォ』の掌を掲げた。
上下左右、回り込むように、到達するタイミングもバラバラ……。
狙う箇所は以前よりも厭らしい……まったく、大変だ。
バチィッ!
真っ直ぐ向かってきた一発目を、払いのけるように打ち消す。
ババババッ!
パリィッ
上下左右、ほぼ同時にけれど時間差で到達するそれらを、くるりと手を回して対処……打ち消しから漏れた電撃が視界の端で閃いた。
あと、六発……。
そうして残りの電撃に意識を向けた時、また別の所から魔力の高まりを感じた。
「『ボルツ・グラビレイ!』」
僕の近くに現れる、漆黒の重力球……軽い引力を感じて足に思わず力が入る。
そこて視界の端に金色の影が過った。
「『ザグルゼム!』」
いつの間にかそこそこの距離にいたガッシュから放たれたのは、触れた相手に与える電撃の力を倍増させる術。
……そんなものを食らってはいられないな。
万が一を考えて少し大袈裟に避けよう。
重力球から離れるように、少し力を込めながらかわして――――。
「つれないな、俺から意識を逸らすとは」
「ッ……!」
瞬間ゾワリと、背筋を寒気が走った。
未だに『ジャウロ・ザケルガ』は僕を狙い今にも到達しようとしているというのに、目の前には既にゼオンが掌を僕の腹部に向けていたのだ。
意識の隙間を縫うゼオンの移動法……それより『ジャウロ・ザケルガ』発動中も動けるというのは知らなかった……いや、わざと僕に知られないように――――。
「『ザグルゼム!』」
バシュウウウウ
痛みを覚悟し腹に力を込めた僕へと放たれたのは、ガッシュが放ったのと同じ術……僕の体が光を放つ。
何故それを、と僕が思うと同時に、此方を見上げるゼオンがニヤリと邪悪に笑った。
そして……『ジャウロ・ザケルガ』の残る六の電撃が、突然スピードをあげて僕に殺到した。
「なっ……!」
不意に背後を確かめれば、僕と同じような光を放つ重力球……僕が避けた筈のガッシュの『ザグルゼム』か……!
『ボルツ・グラビレイ』は僕の足止めだけじゃない、ゼオンの移動補助、更には『ジャウロ・ザケルガ』の誘導の為か……!
ガッシュの『ザグルゼム』は本命のゼオンの『ザグルゼム』を当てる為の囮……!
そして、この状態を作り上げる為の布石……!
焦り『アム・ドュ・スプリフォ』を操作するも、するりと掌をすり抜けてしまう。
多少威力は削れたかもしれないが、僕の体は今『ザグルゼム』に……!
たらりと冷や汗が流れ――。
ビシャァアアアン!
「ぐっがっあぁあああああああああああ!!!」
抵抗空しく、僕の体は、強大な雷に貫かれた。