『クリア・ノート』に転生しました。 作:ファウード編アニメ化まだですか?
「ピピピピ……」
「よしよし……ほーらごはんだよー」
「ピッ!」
……僕は目の前の光景に眉をしかめた。
僕が孤児院に入ってある程度時間が経った頃だったか……。
白い短髪の後ろ姿に、僕はそっと話し掛けた。
「……何をしてるんだい」
「わっ、ビックリした」
ビクリと肩を跳ねさせ此方を振り返った少女は、僕を見てその真ん丸な赤い瞳を瞬かせた。
白いワンピースをはためかせ、少女は僕を見上げてニコリと笑った。
「小鳥さんにね、ごはんあげてた。ほら、可愛い」
そう言って彼女が見せてきたのは、ふわふわの毛の生えた雛鳥だった。
彼女自身が作ったのだろう、歪な巣の中で一羽だけが生え揃っていない羽をパタパタと羽ばたかせていた。
はぐれたか見捨てられたか、はたまた巣から落ちたか……どちらにせよそのままにしていれば数刻と生きられなかっただろう雛鳥、それを彼女は拾っていた。
その手には自身の昼食であったパンがあり、それを小さく千切って与えていたようだった。
「……別に良いんだけど、パンよりは……こういう……」
そんな彼女に呆れつつ、足元に丁度這っていた小さな虫を掴みとった。
わさわさと焦ったように足を動かす小さな虫を見つめ、少女へと差し出す。
「虫とかを与えたほうが良いんじゃないかい?」
「えー……虫さんが可哀想……」
「そうか……」
けれど少女には断られてしまった。
心優しい少女には、目の前で命を摘み取るのは許容出来ないようだ。
……それを傲慢だと感じるのは、やはり僕に前世の記憶があるからだろうか。
それとも、僕が
「ボクね、いつかこの子の背中に乗せて貰うんだ」
「……? そんなに大きくなる種族なのかい?」
「わかんない」
「わかんないか……」
ピーピーと喚き餌をねだる小鳥は、とてもではないが人が乗れるようなサイズになれるとは思えなかった。
そもそも鳥がどれだけ大きかろうと人を乗せて飛ぶなんて出来なさそうだけど……魔物に人間時代の常識、物理法則が通じる筈もないか。
「はい、たんと食べて大きくなるんだよ」
……まぁ理屈じゃないんだろう。
彼女はただ、目の前の命を繋げたいだけ。
その為に自分の命を……食料を削る事に躊躇いはない。
惜しい、くらいは思ってるかもしれないが……まったくもって度しがたい。
この子も含めて、僕達は孤児院で暮らす身寄りのない子供でしかない。
食料なんてのは最低限しか配られない。
そんな僅かな食料を分け与えるのだから、まったくもって愚かしく傲慢で……純朴で心優しい子だ。
「ピッ…………ピピッ……」
雛鳥は、小さく鳴きながらパンクズを啄む。
必死に、生きる為に……。
「……大きくなるといいね」
「うん!」
僕を見上げて元気よく頷いた彼女は、満面の笑みを浮かべていた。
この奉仕の心は……僕にはとても真似出来そうにない。
――――壊せ――――
「さあ、そろそろ帰ろう。日が暮れる前にやらなきゃいけない事がいっぱいあるんだから」
そう言って少女に手を伸ばせば、彼女は躊躇いなく僕の手をとった。
残ったパンを巣に放り込み、ゆっくり食べるように言い聞かせながら。
……まだ日は高いとはいえ、雑務などをしていればあっという間に日は暮れてしまうからね。
「はーい。じゃあね、レーちゃん」
「レーちゃん? それの名前かい?」
「うん!
「……諸説あるかな」
彼女の独特なネーミングセンスに苦笑を漏らし、手を繋ぎながらその場を後にする。
歪な巣の中で、雛鳥は此方が見えなくなるまでピーピーと鳴いていたようだった。
「ピギャッ! ピギョォッ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ピギョォオオオオオオオオオオオ!!!」
「ZIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
バードレルゴとジガディラスの放った雷の衝突……。
バードレルゴは既にその身を消滅の力に変えて、触れたものを消し去る形態となっている。
それでもなお、ジガディラスの雷は消滅しながらも凄まじい奔流でバードレルゴを近寄らせない。
バリバリバリバリバリバリ!!!
消しきれない雷がそこら一帯に撒き散らされ、砕けたバードレルゴの体の一部が地面を消滅させる……。
「ピ……ピギャ…………」
ジガディラスのあまりの力の奔流に、バードレルゴは一瞬仰け反った。
感じるのは、ゼオンの雷に対する忌避感だ。
意思を持つ術であるバードレルゴは恐らくここに来るまでに、ゼオンの雷にしこたま打ちのめされたのだろう。
さもありなん、と言ったところだけど……ただ一方的に負けると……。
「ピ…………ゴ………………!」
少し、困るかな。
カッ
「ピギュアァアアアアアアアアアアア!!!」
「ちっ……そこから盛り返すか……!」
一度は体を仰け反らせ、もうダメかと思ったバードレルゴだったが、目を光らせ一際強い咆哮をあげ、雷の奔流の中へと再度身を投じた。
雷を相殺しながら、体を消し飛ばされながら、その残る体を捩じ込んでいく。
既に腕と頭しか残っていないのにも拘らず、バードレルゴはその残る腕でジガディラスへと掴みかかっていた。
自分の身を省みないバードレルゴの特攻に、ゼオンの表情が歪んだ。
「くっ……デュフォー!」
「……これは……無理だな。ゼオン」
「ちっ! くそっ!」
「ZI、ZIGAAAAAAAA――」
バードレルゴが雷を受けながらもその口を大きく開いたとほぼ同時に、ゼオンはマントを広げデュフォーを包み込んでいた。
そしてその瞬間バードレルゴの顎は閉じ、ジガディラスの顔面を消し飛ばしたのだった。
ボシュゥウウウ
「ピゴォオオオオオオオ!!!」
その身を消滅させながらもゼオンの最大術を消し飛ばしたバードレルゴは勝鬨のような雄叫びをあげ……。
「ピ……ギャォ…………オォォ…………」
そのまま、ジガディラスと共に消滅していった。
ビキッ
そして、僕の左手の手から割れるような音が響いた。
「…………お疲れ様、バードレルゴ。君の勇姿は見届けたよ」
さぁ、バードレルゴに分けた僕の力を戻し……更に完全体に近付くとしよう。
ドクンッ
脈動、発光……僕の体に力が満ちていく。
『シン・クリア・セウノセス・ザレフェドーラ』、『シン・クリア・セウノセス・バードレルゴ』。
僕が造り出した意思を持った二つの術。
分け与えた力は僕に戻り、僕の体を完全体へと近付けていく……。
体が最適化されていく。
この溢れる力に適応した、強い体へと……。
「ガッシュ! ブラゴ! シェリー!『テオザケル!』」
「ウヌ!」
「オラァッ!」
「『ディゴウ・グラビルク!』はぁっ!」
ガィンッ!
「うぉおっ! またか!」
そこで唐突に、ガッシュとブラゴが僕に肉薄した。
ガッシュは隣に清麿を乗せて強大な電撃を、ブラゴは更に強力な肉体強化術をその身に宿して蹴りを、それぞれ僕を挟み込むように放ってきた。
更にシェリーはヴィノーへと攻撃を仕掛けているようだ。
僕の変化に隙と見て攻撃したのか、ゼオンの最大術が打ち破られ慌てて攻撃してきたのか……。
本当のところはわからないけれど……もう遅い。
バチィッ!
バキィッ!
「「「何!?」」」
彼等の声が重なる。
素手で『テオザケル』をかき消し、ブラゴの渾身の蹴りを片腕で受け止めた事に、酷く驚いているようだった。
「ボーッとしていて良いのかい?」
「っ……! チッ!」
体勢の整っていないブラゴへ、僕は無造作に拳を振りかぶり――
ドゴォッ!
ブラゴの咄嗟のガードを突き抜け、その頬に拳を叩き込んだ。
あえなく吹き飛ぶブラゴを後目に、一瞬気の逸れたガッシュ達へと肉薄する。
「君達もだよ」
「マズッ……『ラシルドォッ!』」
「『テオラディス!』」
彼等の足元からせりだした盾と、強めの消滅の力。
拮抗は一瞬。
ズォンッ
即座に消滅した盾に、後に残るのは消滅し抉れた地面。
そして、ガッシュのマントの切れ端だけだった。
ちら、と横目で見れば、大きく息を吐いている様子のガッシュが、それでもなお尽きぬ闘志で此方を見ていた。
『ラシルド』を目隠しに……ゼオンの移動方と似たものを感じるな。
「ふぅううううう…………」
「……行けるか、ガッシュ?」
清麿も僕を真っ直ぐ見つめてくる……その魔本の輝きは衰える事なく、むしろ輝きを増しているようにも見えた。
「ウヌ! 当たり前だ! 私は託されたのだ! 決して負けぬ。どれだけクリアが強かろうと、あのような者には、決して負けられぬのだ!」
ガッシュはそう啖呵をきり……その瞳に宿る闘志は、輝きは増すばかりだ。
今力の差をわかりやすく見せてあげたというのに……諦める様子は微塵もない。
本当に真っ直ぐな子だ……ゼオンと同い年には思えないな。
……いや、ゼオンがスレ過ぎているだけか。
「よく言ったガッシュ!」
不敵な笑みを浮かべて、ガッシュに並び立つのはゼオン。
そこには隠しきれない喜色……自分の弟の立派な姿に喜んでいるように見えた。
「魔界の未来は、俺達に託されている! クリアに勝ち残らせる訳にはいかん! 我ら兄弟の力……見せつけてやるぞ!」
「ゼオン……!」
嬉しそうに笑みを浮かべるガッシュの逆隣に、ブラゴもまた並び立つ。
……わかってはいたけど、二人ともピンピンしているな。
「フン……俺もまだまだ奴を殴り足りないんでな……!」
「ブラゴ……!」
三人……いや六人全員が闘志に溢れ……まだまだやる気に満ち溢れている……。
ゼオンの最大術を砕き、単純な力の差を見せ付けて……それでも微塵も諦めようとしない。
まだまだ……彼等の心を折るには足りないようだ。
「さぁ、第2ラウンドだ。こうなったらさっきまでの僕のように、そう甘くはないよ……覚悟すると良い」
僕はそう宣言して、両手を広げた。
完全体にまた一歩近付いた事で僕の体に満ちる力を感じて……自然と笑みを浮かべて。