燃裳エミカは中堅冒険者(一撃特化)である   作:純愛の方が好き

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捨てないでください

「うわああぁ!!!待って!捨てないで!」

 

 冒険者達が集う酒場(といってもちょっとお洒落な雰囲気のバーみたいなもの)に、悲痛な叫び声が響いた。その声の主はポリカーボネート甲冑(黒)に身を包み、金の装飾が施された日本刀を腰にさすブロンドの美少女。燃裳エミカその人であった。

 

 おいうるせぇぞ!とかの野次は飛ばない。現代でそんな強気に他人を注意できる者はあんまり居ない。ただ言外にうるせぇな……という視線を浴びせていた。もしくは無視を貫いていた。それでもエミカは周囲に構わず泣き喚く。

 

 それに相対するのは二人の男。エミカのパーティーメンバー(離脱を言い渡されたため現在は元)であるライフとディッシュである。

 

「やめてくださいよ。お店の迷惑でしょ」

「だってぇ……お前らが私を捨てようとするから……」

 

 今度はいじけたような口調で言う。エミカの可愛らしい容姿から繰り出されるそれは高い破壊力を秘めているが、ここ数年の間ずっとパーティを組んできた男達にそれは……

 

「ま、まあ少し言い方は悪かったかもしれませんけど……」

「ほ……ほら。座れよ」

 

 バリバリ通じていた。何せエミカの容姿は数値で言えば80(16)くらい。人間のものとしては限界に指先が届いていると言って良いレベルなのだ。素人童貞にこのパワーを耐える精神力は無い。

 

「捨てないで……」

 

 椅子に座り、しおらしい態度を取るエミカ。しかしこの女、実際は一切反省などしていない。媚を売れば許してもらえると思っている。エミカはそういう少女であった。

 

(ククク……効いてるっ、効いてるぞっ。やっぱり俺の泣き落としは最強だぜ)

 

 一瞬グラつく男たち。が、通じたのはその一瞬だけである。ダンジョンを潜る冒険者として、美少女耐性皆無の彼らにも譲れないものがあった。

 

「別に俺達も積極的に離脱して欲しいわけではねえけどさあ……」

「ミカのビルド、ピーカー過ぎるじゃん」

 

 冒険者達にとって仲間の強さは生命線である。特に重要視されるのがスキルの組み合わせ、所謂ビルドである。そして中堅冒険者ともなれば常時発動型スキルによって常に身体を強化するのが定石。だというのにこの女、常時スキルを取得していないのだ。それも全て、一撃の火力を追い求めるために。

 

「だ……だって……」

「だっても糞もあるか!恵まれたステータスをクソみたいなビルドで無駄にしやがって……。三人パーティーじゃ一撃特化型は荷が重ぇんだよ」

「少数パーティーには向いてないよねぇ……。中層まで潜るのも斥候丁寧にやらないといけなくなってかなり時間かかるし」

「俺の負担もやべぇんだからな。タンクとはいえ一人でお前を庇い切るのはクソほどキツイ」

「ぐう」

 

 ぐうの音も出ない正論とはこの事。エミカのビルドは回避は取らない、ガードも取らない、防御上昇も取らない。クールタイムが長くスタミナ消費も大きい代わりに一撃の火力を増す、必殺技スキルばかりを取るという自殺志願者のようなピーキーなものなのだ。

 死んでも復活するゲームなら兎も角、死ねば終わりのダンジョン探索でこんなビルドの仲間を選ぶ理由はほぼ無い。

 

「ま、まあほら。大手のパーティーなら一撃特化型も需要あるだろうしさ」

「そういうことだ。俺達は新しくマトモなアタッカーを探すから」

「いやぁあああ!待って待って!大手のマトモなパーティーは大体女子ってだけで門前払いなんだよ!」

「じゃあ次スキルポイント貯まったら防御アップ系の常時スキル……『頑強』とかな。取るって約束するか?」

「……………」

「……じゃあな」

「待ってええぇぇぇーーーーー!!」

 

 叫びも虚しく彼らは去っていった。残されたのは、悲痛な顔をした少女ただ一人。男達の背中を見つつ、彼女は呟く。

 

「私を見捨てるなんて……。許せん……!後悔させてやる…ざまぁしてやるぞ……追放モノみたいに……!」

 

 

 二ヶ月後。エミカのソロ生活も二ヶ月目に入っていた。




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