【あんこ】TSオリ主ちゃんガンダムに乗る   作:むにゃ枕

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小説パート
01.家族という呪い


 家族にずっと違和感を持っていた。私は恵まれていたし、両親から愛されていた。

 でもその愛は、道具に向ける愛だ。私は、他の姉妹と同じく政略結婚のための道具にすぎなかった。

 

 父はジャブローのモグラの一匹で、母は政略結婚の犠牲者だった。

 私は、母を抜け殻の人形だと思っていた。父親の言う事や為すことを決して否定せず、自己主張をしない。そんな人生は死んでいるのと同じだ。こうはなりたくない。幼心にそう思っていた。

 

 私は母と同じ道具になりたくなくて、軍に入った。スペースノイドに対する憎しみも無かったし、強い使命感なんてものも無かった。ただ家族から、父親から逃れたかった。

 

 素晴らしい成績を残すこともなければ、優秀な技能を持っているだけでもない。そんな私がジャブローでぬくぬく新型機の開発に携われたのは、ひとえに父親のコネクションのおかげだろう。

 父親から逃げたいのに、結局、私は父親のコネクションを利用していた。矛盾している。どうしようもなく、私は子供で女だった。

 

「リア・グラント中尉。栄転だ。新造艦であるペガサス級の2番艦ホワイトベース。それに乗り込み新型MSガンダムを受領してもらいたい」

「……ホワイトベースですか? 私が?」

「そうだとも。不満か?」

 

 正直、不満だった。ホワイトベースに乗り込むということは死地に向かうということである。私は、死にたくはなかった。

 

「はい。辞退します。私より優秀なテストパイロットは他にもいますので。父が絡んでいるのでしょう。私は、あの人の操り人形ではありません」

 

 私に辞令を下した少佐は、呆れたようだった。溜息をつくと、私と目を合わせ、滔々と語った。

 

「上官である私にそんな態度を取れるのも、君がグラント少将の娘だからだ。単なる小娘に忖度するなど、私も本意ではない。だが、組織とはそういうものなのだ。

 君はもう少し、視野を広く持つべきだよ。私の立場をよく考え、その上で発言してくれたまえ。分かったかね?」

「分かりました。断固、辞退します」

「君は私の話を聞いていたのかね?」

「はい。聞いた上で拒否します。これは、私の意思です」

 

 彼は眉間を抑えていたが、私には関係がない。ホワイトベースには乗らないと言ったら乗らないのだ。

 

「リア・グラント中尉。ありがとう。君が快諾してくれて私も嬉しいよ。これで私も少将に顔が立つ」

「は?」

「いやー! 良かったなぁ!」

 

 少佐は少し怒った口調でそう言い残し去っていった。書いた記憶のない同意書と共に、私はホワイトベースに乗り込むこととなった。

 

 ホワイトベースは、新造艦である。内装は綺麗で、新車のような匂いがする。居住性は軍艦の中では抜群に良い。

 

「リア・グラント中尉か……」

「パオロ艦長。中尉に何か問題が?」

「彼女は、グラント少将の娘さんだ。政治だよ。これは」

 

 ホワイトベースのブリッジで、パオロ艦長とブライトの間でちょっとした雑談が行われていた。

 

 艦長であるパオロは、予備役の軍人であり派閥に属して精力的に活動しているわけではない。士官候補生のブライト・ノアも同様だ。

 少将の娘という肩書は、彼らにとって重荷だった。厄介な人材を預けられたものである。

 

「中尉は、どのような人なのです?」

「ジャブローの技術本部上がりのテストパイロットだ。はっきり言ってエリートだよ。勤務態度も成績も優秀だ。秀才だな。老兵と候補生ばかりのホワイトベースの中ではマトモな軍人と言える」

「それならば良かったのでは?」

「そういうわけにもいかん。少将から、突き上げがきている。娘可愛さから口を挟まれては、やりづらくてかなわん」

 

 パオロは、上から散々言い聞かされていた。本人は、父親の影響下から離れたがっているようだが、そうなってはいなかった。

 どこまで行ってもリア・グラント中尉は、グラント少将のお嬢様であった。

 

 

 大気圏を抜け宇宙へと上がったところで、オペレーターからアラートが出された。

 

「報告します。距離4000。ムサイ級です。こちらを発見したようです」

「なんだと…! 定期巡回路からは外れているはずだ。イレギュラーか。敵の定期巡回部隊を警戒させないために、ミノフスキー粒子を散布しなかったのが仇となったな」

 

 ミノフスキー粒子濃度が不自然に上昇しているとなれば、それ即ちそこに戦闘艦がいるということだ。パオロ艦長の考え方はあながち悪くはなかった。

 しかし、幸運の女神にはそっぽを向かれていた。

 

「どうします?」

「サイド7に向けて漂流しているように航行しろ。ムサイを引き剥がせ」

「はっ。了解しました」

 

 ホワイトベースの連度は連邦軍の標準的か、それ以下だった。しかし、追尾してくるムサイ級の練度はジオン軍の中でも群を抜いたものだった。

 

「ムサイ級、サイド7宙域に入りました。本艦を依然、追尾しています」

「止むを得ん。ルナツーに借りは作れない。サイド7に入港しろ」

 

 パオロの決断には焦りが有った。予備役から復帰しての艦長業務である。その能力は現役時代よりも翳っていた。

 パオロが、ジオンのやったことを詳細に知っていれば、彼はルナツーの援軍を呼び寄せていたはずだ。しかし、パオロには知識がなかった。ブリッジクルーも言わずもがなだ。

 

「パオロ艦長。リア中尉がお呼びです」

「入港時だぞ。つまみ出せ!」

「いえ、それが……」

 

 グダグダ言っているブライトを押し退け、私はパオロ艦長へと無理に話しかけた。

 

「艦長。ムサイ級を排除しましょう。奴らを野放しにすればサイド7が被害を被ります。条約違反くらいやる連中です」

 

 パオロ艦長は、顔を顰めた。それから、ブライトを見て顎を動かした。ブライトは、あたふたしている。

 

「1パイロットである君が、私に指図をするのかね? この任務の性質上、秘匿されることが重要なのだ。無用な戦闘はすべきではない」

「戦闘になると言っています。排除しなければ。それが分からないんですか?」

「君も初陣だろう? ジオンが憎いのはよくわかる。だが君は、疲れているのだ。休養を取り給え」

 

 にべもない態度で、艦長は私を追い払った。どうも面倒くさがられているようだ。

 コロニーに毒ガスを注入するような連中がジオン軍だ。どうして奴らが国際法を守るだろうか。サイド7を攻撃しない保証はどこにもないというのに。

 

 艦長は平和ボケか、腑抜けているようだった。私は、正史を知っているのに、運命は変えられないようだった。

 

 ホワイトベースは、ムサイ級の存在をひとまず棚上げしサイド7に入港した。いきなりベイのドックが爆破されるようなことはなかった。しかし、不安である。

 

「ホワイトベース所属。リア・グラント中尉だ。ここを開けろ。MSの起動試験を行う」

 

 警備兵に告げると、従順な彼はロックを解除してしまった。起動試験のオーダーは来ていない。

 彼がロックを解除した理由は、私の階級に忖度した、警備兵として無能だった、もしくはその両方である可能性が考えられる。

 

「RX-78-01ガンダム。コクピットが解放されている。無防備だ。これならアムロが入り込むわけだ」

 

 このガンダムはショルダーキャノンを装備している。装備試験を行う予定だったのかもしれない。ともかく、私はコクピットでじっとしていれば良い。

 シャアがいつ攻めてくるか分からないが、ここが一番安全なはずなのだ。アムロが全部解決してくれる。

 

 ひたすら、時間が過ぎるのを待っていた。腹の底から響くような振動が遠くからした。ああ。はじまってしまったのだ。

 

「ガンダム起動! ふふ。リア・グラント。行っきまーす。なんてね」

 

 マニュアルに沿った操作で、ガンダムは立ち上がった。実質的に軍事基地となっていた工事区画は、損傷を受けているようだ。

 私が出る頃には、アムロが全てを片付けているだろう。だから、心臓よ。そんなに高鳴らなくて良いんだ。

 

「嘘だろ…! ガンダムがキャノンをやってやがる」

 

 デュアルアイが捉えたのは、信じたくない光景だった。ガンダムがガンキャノンを串刺しにしている。

 咄嗟に隠れようとするが、そうは出来なかった。光が、ガンダムと私の中に入ってくる。

 

「シャア・アズナブル…! ぐうっっ、これが、感応」

 

 一種のドラッグのように、強烈な体験だった。1秒が1時間にも引き延ばされ、視界が極彩色になった。LSDのバッドトリップのような、反動が私の脳をぐわんぐわんと揺すった。

 

「クソ。逃げるしかないッ! こちら、リア・グラント。敵機と接触。援護を求む。単機での迎撃は不可能だ」

 

 味方周波数は沈黙している。私が、やるしかない。ホワイトベースに辿り着かれる前に、シャアを殺すしかない。

 

「当たれぇ!!」

 

 がッという発射の反動がコクピットに響いた。

 

「……外れた。でも、次がある」

 

 ショルダーキャノンを背負っている分、こちらの方が機動力に劣る。近接に持ち込ませてはダメなのだ。

 だから、ここで、この1発で決める。絶好のタイミングだ。どんな敵でも仕留められる。そんな確信が有った。敵を殺すか、私が死ぬかだ。

 

「ぅ…! 嘘……外れたッッ!! 無傷、っあァァ!!!!!」

「連邦のパイロット。惜しかったな」

 

 敵機のビーム・サーベルを受け止めようとしたものの、間に合いそうになかった。咄嗟に盾にした腕は、ざっくりと落とされてしまう。

 そして、頭も吹き飛ばされた私は、死の恐怖から気を失った。

 

 だが、死は訪れなかった。目をパチパチと瞬き、自分が生きている不思議を確かめた。

 死の恐怖から、股が弛緩し失禁したようで、下半身が濡れていた。

 

「リア……自分でも信じがたいが、私は君との間に特別なものを感じている。私と来てくれないか?」

「殺し合った相手と?」

「だからかもしれない。私は、シャア・アズナブル。単なるしがない軍人だよ」

「知ってる。良いよ。行ってあげる」

 

 ジオンに寝返ったら、私は父から、家族から離れられるだろうか? はたまた、シャア自身の血という呪縛に巻き込まれるのかもしれない。

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