ホワイトベースは、ムサイ級ファルメルに曳航されてサイド7を出た。コロニーに穴は空いていないようで、避難民は生じていなかった。
ファルメルの営倉には、生き残ったWBクルーが詰め込まれていた。ブライトやジョブ・ジョンが、ジオンの軍服に身を包んだ私を睨んでいる。
「グラント中尉。裏切ったのですか…?」
「失敬な。乗り換えただけだよ」
「それを裏切りと言うんです」
「死ぬよりはマシだ。私の提案を亡きパオロ艦長が受け入れていればこうはならなかったかもしれない」
「そんなことを! よくもぬけぬけと!」
ブライトと口論していても仕方がない。ジオンに寝返ったのだ。なんとなくシャアと致してしまい、身体の関係を持っている。まぁ、愛人枠だ。ララァの代わりかもしれない。
営倉をあとにして、ブリッジへ向かった。私を見るなり、ファルメルのブリッジクルーがヒソヒソと噂をしている。やれやれ愛人も楽じゃないぜ。
「シャア、これからどこへ行くの?」
「ジオン本国の技術本部だ」
技術本部…? あそこはギレン派の巣窟だ。シャアは、正史ならばドズルの宇宙攻撃軍。キシリアの突撃機動軍に所属する軍人である。
「このフネって、宇宙攻撃軍の所属じゃないの?」
「む。言ってなかったな。私たちはギレン親衛隊の所属だよ」
「親衛隊……? それって私を迎えて大丈夫なの?」
「…………大丈夫だ。問題ない。戦果は挙げてるからな」
ちょっと言い淀んだな。戦果で誤魔化せるのだろうか。
「ギレン総帥に、思うところはないの?」
「なんの話だ?? 総帥に対して、私は思うことは無い。ギレン派は給料も高い。良いことずくめだ」
シャアは特に何も考えていなそうだった。復讐とか考えていないのだろうか。
「シャアの両親って元気?」
「ああ。元気だとも。いつも手紙でやり取りしているよ」
仮面を外したシャアは、屈託のない笑顔を浮かべた青年だった。瞳の色も青くない。
……いや、誰だよ。キャスバルじゃないじゃないか!? シャア・アズナブルの方じゃん!! すり替えられて殺されてない本物じゃん!
「その赤い軍服は?」
「私は赤が好きだからな。親衛隊は制服がカスタマイズ出来て良いんだ」
赤が好きなら仕方がないな。個人の趣向だもの。
「その仮面は?」
「カッコいいだろう? 友人であるリノがくれたんだ。アイツ、なかなかユニークなヤツでな。私をキャスバルだと思っているんだ。笑えるよな」
「その仮面、ダサいと思う……」
「え!!!? 嘘だ。誰もそんなこと言っていないぞ!!」
「遠慮したんでしょうね。はっきり言ってやめたほうが良いですよ」
「そうか……分かった……ありがとう」
シャアは、この会話をして以来、仮面を付けることはなかった。 単なる金髪イケメンがいるだけである。
ルナツーの部隊と多少の戦闘は有ったが、それ以外には何事もなく、ズムシティに着いた。
シャアが鹵獲したガンダムを搬送し、私のボコボコにされた01も運ばれていった。
「シャア大佐、君が鹵獲したガンダムを解析したい。是非とも、我々に預けてくれないかな?」
「ええ。シャハト少将なら安心して預けられます」
鹵獲したガンダムは技術本部に流れていきそうだった。ちょっと待って欲しい。ガンダムは赤く塗ってサイコミュを積んで運用しないのだろうか……
このまま、バラされてしまったらなんかアレだ。
「シャア、乗らないの?」
「正規部品があってサポートもあるザクの方が良い。MSの性能差が決定的な戦力の差ではないからな」
こいつ、シャアのくせに正論を。
「シャハト少将! 意見具申します!」
「あ〜。なんだね、中尉?」
「リア・グラント中尉です。私は連邦軍でガンダムのテストパイロットを務めていました。シャア大佐には才能が有ります。是非とも、ガンダムを実戦に出して頂きたい。大佐の能力なら、ガンダムを万全に動かせます」
シャアがぎょっとした表情を浮かべる。仮面がないから分かりやすい。
(待て、待て待て待て。そんなことを言うんじゃない)
(大丈夫ですよ。なんとかなります)
(私の首が飛んでしまう)
なんか、猿のようにヤッていたらニュータイプ的なテレパシーが出来るようになってしまった。ちなみに避妊はちゃんとしている。
「ふむ。興味深いな。キシリア閣下が、シャア大佐に興味を持っている。丁度、技術本部にいらっしゃっている」
「私に? キシリア少将が? 用事があるなら会いますが」
シャアは抜けているので、キシリアと会うことを決めたらしい。私も副官としてついていくことにした。
応接間で、キシリアはマスクを外していた。血のような赤いワインの注がれたグラスを傾けている。
「来たかシャア。いや、キャスバル坊や」
「ええ。キシリア閣下」
(キャスバル坊や?? ああ。リノが言っていた奴か。ここはノリの良さを見せた方が良いな)
副音声が聞こえているので、私は表情を崩さないようにするのに必死だった。
「まさか兄上の親衛隊に潜り込むとはな。思った以上に大胆なことをする。キャスバル坊や。私の下に来ないか?」
「是非とも。機会が有れば」
(金次第だな。親衛隊よりも給与と権力が有れば)
「そうか。期待しているよ。私は、兄上を好かん。αサイコミュをお前に預けよう」
「はっ。閣下のご期待に沿えるよう努力します」
(何を言っているかよく分からんが、貰えるなら貰っておこう)
鹵獲したガンダムは赤く塗られ、サイコミュシステムとビットを搭載することになった。
シャアも新しい玩具を手に入れた子供のように喜んでいた。
「早く前線に行きたいな。リアもそう思うだろう?」
「いえ、思いませんね。私は、シャアと後方でゆっくりしている方が好きですので」
「む。そうか」
シャアは、少し拍子抜けといった様子だった。新しい玩具を試したくてしょうがないのだろう。
「ソロモンに向かおうと思ったのだがな……許可が下りん」
「はぁ。じゃあ、本国でぬくぬくしていましょう」
「そういうわけにもいかん」
グダグダ言っているシャアを抱き寄せるとそういう雰囲気になった。まったく、我ながら単純すぎるのではないか。
シャアがイケメンなのが悪い。イケメン無罪である。
ひたすらイチャコラしていたらソロモンが陥落していた。ジオン軍は、ア・バオア・クーとグラナダに兵力を集中している。
連邦軍の進路がどちらになるかは、未だに判明していない。
「偵察機より連邦軍の進路が判明した。奴らはグラナダに向かっている。ア・バオア・クーからも、手隙のものはグラナダへ向かえ」
「346MS中隊、進発しました」
「Sフィールドより、グワンバン発進します」
ア・バオア・クーが、お祭り騒ぎだった。グラナダ防衛戦の援護のためにMSや艦が忙しく動いているのだ。パンクしていないだけマシである。
「シャリア・ブル中佐。ドムの調子はどうだ?」
「万全であります。シャア大佐の足を引っ張るような真似はしないかと」
「なら良い。リアのゲルググと合わせて私を援護しろ」
「はっ。了解しました」
シャリア・ブルは、木星帰りのニュータイプだ。ギレン総帥から、シャアの監視として送り込まれたという。
シャアが、キシリアから引き抜かれかけたことで、彼の正体をギレンが察したのかもしれない。隠すような正体など、存在しないのだが。
「シャア大佐……アレを見てください」
「ソロモンか。連邦め考えたな」
ア・バオア・クーからグラナダに着いた私たちが目にしたのは、核パルスエンジンによりグラナダへの突入軌道を進むソロモンだった。
質量をぶつけるのは、単純だが効果的だ。ソロモンの軌道を変えるには、まず護衛の連邦艦隊を排除しなければならない。
グラナダの兵力では、軌道の変更までに連邦艦隊を排除できるかは微妙なところだ。
「私に、策が有る。キシリア閣下ならば分かって頂けるはずだ」
シャアの持ち出した策は、ソロモンの内部に乗り込み爆破することで、進路をグラナダからずらすというものだった。
「なるほど。これならば可能性は有りそうです。キシリア閣下からも許可が降りました」
ソドンが戦隊を組み、連邦の護衛艦隊に楔形に食い込んでいく。ジオン艦隊は、普段の訓練の成果を発揮し存分に囮役を果たした。
「シャア・アズナブル。ガンダム。出る」
「シャリア・ブル。ドム。出ます」
「リア・グラント、ゲルググ行きます」
シャアをシャリアと二人で支援する。ニュータイプというものは戦場ではかなり有用なようで、快刀乱麻の活躍だ。
連邦軍のジムが、面白いように撃墜されていく。
「侵入路を確保した。各機、起爆装置を運べ」
「はっ」
作戦は、成功するように思えた。
「爆破装置ロスト!? トクワン隊……全滅!?」
「なんだと…? リア、私に続け。おそらく敵の特機だ。それを排除する」
シャアと2人で、味方機のシグナルがロストしたポイントに向かうと、そこには2機の青いジムがいた。
「んふ。赤い彗星のシャア。そして裏切り魔女リア。私が、このペイルライダーで殺してあげるわ」
「シイコさん。敵は強いです。そう感じるんです」
「大丈夫よアムロ。HADESに敵う相手じゃないわ」
ちょっと頭が痛くなった。だが、尻込みしている場合ではない。ここで、やらなければ死んでしまう。
ペイルライダーにゲルググで勝てるだろうか。いや、勝つしかないのだ。
「シャア、私は女の方を殺る」
「分かった。なら、気は進まんが少年の相手をしよう」
シャアがアムロとドンパチやっている間に、私はシイコと戦っていた。クソ強い。ここは、逃げるしかない。ごめんシャア。勝てなかったよ。
自分の命が大事である。私は、どうも負け癖と逃げ癖がついてしまったらしい。
おそらく、シャアはペイルライダーに乗ったアムロとシイコにより殺される。だが、この世界にシャロンの薔薇があるならば、シャアはその運命から逃れられるだろう。
私は、その可能性に賭け、勝った。
「シャア大佐を中心に謎の発光現象が生じています! ソロモンが、軌道を逸らしました……あり得ない。奇跡だ」
ソドンのオペレーターが、絶叫する。それはまさに奇跡だった。
「光エネルギー反応!! コロニーレーザーです。連邦軍艦隊の7割の消滅を確認。我々の勝利です」
勢いに乗ったジオン軍は、ルナツーを攻略し、連邦軍の宇宙拠点全てに、自軍の旗を立てた。
そして、停戦条約を結び、ジオン独立戦争に勝利した。
けれども、地球連邦軍は消滅していないし、残党がウヨウヨいる。本当にジオンは勝利したのだろうか?