「ここが……大阪……!」
終業式が終わって、新年を迎える前。わたしは大阪にいた。隣には、つい最近友だちになった陽葵。陽葵はなんだか微笑ましそうにわたしを見ていて、それを見るとちょっと恥ずかしい。
「まさか大阪に来ただけでこんなに喜ぶとは思わなかったよ。電車で二時間かからないんだぞ?」
「電車賃……なかったから……」
「…………。ごめんあたしが悪かった」
陽葵には、わたしの家のことについて話してある。話して、家に案内した時は絶句されて……。そこから、土下座の勢いで謝罪を受けてしまった。気にしなくてもいいのに。
ともかく。せっかくお金がいっぱいあるんだからと、わたしたちは大阪に遊びに来たのだ。いや、一応お仕事で、だけど。
「なあ、菜月。ちょっと恥ずかしいから、これやめないか……?」
陽葵が、首元に巻いたマフラーを引っ張りながら言った。リーナの認識阻害の魔法をかけてあって、マフラーを巻いている間は誰か分からないという素敵仕様だ。
「だめです」
「でも……」
「わたしだって、恥ずかしいから……」
「…………」
わたしの服装は、いつもの魔女スタイル。いつものセーラー服に黒いローブを羽織って、フードを目深に被っている格好。違うところは、さすがに杖は持ち歩いていない、ということ。
そんな服装のせいか、それはまあ目立つ。とても目立つ。電車の中にいる時とか、たくさんの支線を集めていた。
恥ずかしくないわけがなくて、陽葵とか顔を真っ赤にしていたぐらいだから。もう今は開き直りつつあるみたいだけど。
「今回はギルドの仕事で来てるから、我慢してね……」
「大丈夫……分かってるよ……」
そう。今回は、ただの遊びじゃない。ギルドからの依頼、つまりお仕事だ。
陽葵とパーティを組んで、初めてダンジョンに潜って。無事に探索を終えて報酬を山分けにしていた時に、受付のお姉さんに話しかけられた。
ちなみに、報酬を山分けにした時、陽葵は思った以上に多いお金を見て驚きつつも喜んでいて……。ちょっとかわいかったです。
ちょっと遠慮していたけど、わたしとしても陽葵がいるおかげで効率が上がったから、気にせず受け取ってほしいんだけどね。
それはともかく。お姉さんの依頼は、とある人の治療をお願いしたい、というもの。わたしがダンジョンの外でも魔法が使えることはギルドも把握しているから、こういった依頼が回ってきたみたい。
ギルドからの依頼を受けておけば、いろいろと便宜を図ってくれるかも、というリーナの言葉に納得して、わたしはその依頼を受けることにした。人助けもできて一石二鳥だ。
報酬は、少なくない金銭と宿泊費用。つまり、わたしたちからすれば無料で旅行できるようなもの。
というわけで。わたしたちは宿泊予定のホテルに来ていた。全国展開する有名なホテルで、利用者限定の大浴場もあるホテル。
――ホテル! ホテルと言えば、朝食バイキング! あるのよね!?
リーナの元気な声が聞こえてくる。初めての旅行でテンション高めだ。正直、朝からちょっとうるさいです。
朝食バイキングだけど、もちろんある。むしろギルドに希望を言って、バイキングがあるホテルを用意してもらったから。
――いろんな美味しいものをちょっとずつ食べられるらしいわね! ああ、早く明日にならないかなあ!
その前に治療のお仕事があるんだけどね。分かってるのかな?
まずはホテルで荷物を預ける。わたしは特にないんだけど、陽葵がキャリーケースを持ってるから。フロントの人に預けて、また移動。次は、梅田にある一流ホテルへ。
ちなみに。最初はその一流ホテルでの宿泊の予定だったみたいだけど、これは断らせてもらった。高級な宿。ちょっと怖いから。
「ここか……」
「だね……」
人がとっても多い駅で降りて、ちょっと歩いて。わたしたちは目的のホテルにたどり着いた。
わたしたちの宿泊予定のホテルよりもとても大きい。ホテルの人がとても丁寧な動作でいろんな人を出迎えたり、見送ったりしてる。ホテルの中も、なんだかすごくきらびやかだ。
なんというか……。こわい。
「実はさ。高級ホテルを避けたって聞いて、正気かよもったいない、と思ったんだよ」
「え……。そうだったの?」
「ああ。でもこれを見たら……その判断は正しかったって思うよ……」
あたしたちは場違いすぎる。そんな陽葵の呟きに、わたしは全力で頷いた。
今からここに入らないといけない。正直それだけで、ちょっと辛いものがある。
「どうしよう」
「どうしようか……」
――えー。さっさと入りなさいよ。
リーナはちょっと黙ってなさい。勇気がいるんだから。
――こっちは相手のために来てあげているんだから、気にしなくてもいいと思うんだけど。
そういう問題じゃないと思う。
わたしたちがホテルの前でまごまごとしていたら、ホテルの中から誰かが走ってきた。桜色のワンピースを着た、かわいい女の子。ちょっと年下のようにも見える。
その女の子はまっすぐにわたしたちの方に向かってきてるみたいだった。
「陽葵。知ってる人?」
「まさか。あんなあからさまな外国人、知らねえよ」
「あはは……」
ウィッグとかそういうのじゃなくて、ちゃんとした金髪だ。ダンジョンではわりと見かけるけど、外で見たのは初めてかも。
その女の子はわたしたちの目の前で立ち止まると、じっと見つめてきた。わずかに頬が上気していて、それだけ急いでいたのが分かる。
「あなたが……魔女?」
女の子の問いにわたしが頷くと、女の子はぱっと顔を綻ばせた。かわいい。
「お兄様が待ってるの! 来て!」
女の子に手を引かれて、ホテルの中へ。どうしよう、周囲の視線がとても痛い。誰だあれ、みたいな視線がいっぱいだ。恥ずかしい……!
「あ、あの……! わたしたちは、ギルドからの依頼で来ていて……!」
「私がその依頼人! 早く!」
「あ、えと……。ひ、陽葵……」
「まあ、ついていくしかないだろ」
「そんなあ……」
後ろからついてきてくれている陽葵はどこか呆れた顔だ。その呆れはわたしに向けられたものか、女の子に向けられたものか、ちょっと分からない。
「あの……! わたしが魔女だと言い張る不審者だったらどうするの……!」
そこまで言って、女の子はようやく足を止めた。振り返って、言う。
「ギルドカード、見せて」
「あ、はい……」
ギルドカードにはわたしの本名が最初は書かれていたけど、今では二つ名だけの記載になってる。いろいろと有名になりすぎた人はそうなるらしい。つまり、わたしのギルドカードには、魔女と書かれてるだけ。
女の子はカードを一瞥すると、すぐに返してきた。
「分からないけど多分本物ね!」
「ええ……」
――あはは! この子おもしろーい!
笑い事じゃないよ。陽葵まで顔を背けて笑ってるし。こんないい加減でいいのかな。
「ほら、早く来て!」
周りが止めないから……いいのかな? 結局わたしは、女の子に連れられてエレベーターに乗ることになった。