陽葵に案内されたのは、なんだか不思議な雰囲気のお店だ。線路の高架下にあるお店で、ちょっと古めかしい。横開きのドアを開けて中に入ると、ちょっと狭い造りだった。
真ん中に鉄板のあるテーブルが、四つ。それだけのお店だ。陽葵が言うには、店主のおばあさんが趣味でやっているらしい。
「いらっしゃい」
そのおばあさんがお店の奥から出てきた。にこにこと、柔和な笑顔を浮かべてる。とても話しやすそうなおばあさんだ。
「どうも。豚玉で。菜月はどうする?」
「えっと……。同じもので……」
「あいよぉ」
おばあさんが奥に引っ込んでいった。優しそうな人だけど、ちょっとだけ不安になる。本当に美味しいのかな?
「ここは自分で焼くか、あのばあさんに焼いてもらえるか選べるけど、どうする?」
「え。えっと……」
リーナ! リーナ! どっちがいいの!?
――美味しく焼ける自信なんてないでしょう。
そりゃそうだ!
「お任せで……」
「はは。だよな」
大きなボウルを持ってきたおばあさんに、陽葵がお任せでと頼む。するとおばあさんは笑顔で頷いて、テーブルの鉄板でお好み焼きを焼き始めた。
――うわあ……。どろどろしてる……。なんか、いろいろ混ざってるようにも見えるし……。これが本当に美味しいの?
美味しくなかったら名物になんてならないよ。
もっとも、物珍しさだけで名物になってるものはあるだろうけど……。少なくとも、お好み焼きは美味しいって聞いてるから大丈夫だ。
お好み焼きのどろどろを鉄板の上で丸い形にする。さらに豚肉をたっぷりのせて、しっかり焼いて……。そして、さっとひっくり返す。そのままさらに焼いて、できあがり。
最後におばあさんがソースをたっぷりかけてくれた。ソースは鉄板にも落ちて、ソースの焦げる香りが鼻をくすぐってくる。すっごく、いい香りだ。
――うわあ! うわあ! なにこの匂い! 食欲をくすぐるってこういうことをいうのね! いつの間にか、お好み焼きも美味しそうな焼き色になってるし!
うん……。すごく美味しそう。
「あとはこのヘラでお好みの大きさに切り分けて食べるんだよ」
おばあさんはそう言って、店の奥に戻っていった。
「それじゃあ、食べるか」
「うん」
おばあさんが言った通りに、ヘラでお好み焼きを切って小皿にのせる。そうしてから口に入れた。
「ん……っ。熱い、けど……。美味しい……!」
不思議な食感。表面はしっかりと焼けていて、中はふんわり。これもまたソースの味を際立たせてる。大阪はソースだっていうのはテレビで見たことあるけど、なるほどと理解できる。
――はあ……。さいっこう。
リーナも満足してるみたい。これは、本当に美味しかった。
「そこまで喜んでくれると、案内したかいがあるってもんだな」
「うん……。陽葵に頼んで良かった。ありがとう」
「あ、ああ……」
そっぽを向いた陽葵の顔は少し赤くなっていて、ちょっとかわいかった。
その後も商店街で買い食いとかをして、最後にコンビニでお菓子とかを買って、暗くなる前に宿泊予定のホテルに戻った。一応これでも中学生だ。あまり遅くなると警察に補導されるかも。
いや、もうすでに何度も声をかけられたけど。そのたびにギルドカードを見せて納得してもらった。かなり怪訝そうな顔をされていたけど、ちゃんと本物だから。
ギルドに電話で問い合わせまで何度もされて、向こうも多分苦笑いとかしてるんだろうなあ。ギルドの依頼で来てるんだから、わたしは悪くない、はず。きっと。
ホテルのフロントで預けていた荷物を受け取って、部屋に向かう。部屋の鍵はカードキー。エレベーターもカードをかざさないと使えなくて、セキュリティはばっちりだ。
ホテルは十五階建て。そしてわたしたちの部屋は、十階。部屋が隣同士なのは、気を遣ってくれたのかも。
「それじゃあ、陽葵。あとでこっちの部屋に来てね」
「ああ……」
陽葵は、ちょっとだけ緊張した面持ちだ。この後、わたしの事情について話すと伝えてあるからかもしれない。
わたしは……不思議と緊張してない。なんでだろうね? 陽葵なら大丈夫だって、不思議と信じてるから、かな?
部屋は、本当にシンプルな部屋。とても短い廊下に、ベッドがある部屋がすぐ前にある。廊下の横にもドアがあって、そこはトイレとお風呂だった。
ベッドの側にはテーブルと椅子。椅子は一つしかないから、陽葵にはそっちに座ってもらおうかな。ベッドに、でもいいけど。
荷物……といっても、わたしの荷物はコンビニのレジ袋ぐらいだ。それをテーブルに置いて
ローブを畳んでベッドに置く。あとは、陽葵を待つだけ。
――菜月。大丈夫?
うん……。なにが?
――伝えるって言ったこと、後悔してないかなって。
それは大丈夫。理解者というか……強力してくれる人は必要だって思っていたから。
それでもやっぱり、ちょっと緊張してきた。信じてる、なんて言っていたのに、情けない。
ベッドに座って少し待つと、ドアがノックされた音が聞こえてきた。
「はい」
立ち上がって、ドアを開ける。陽葵が私服で立っていた。
「…………。菜月」
「うん?」
「服、今度買いに行こうか……」
「…………」
自分の体を、服を見下ろす。いつもの、セーラー服。
放っておいてほしい。正直、ファッションとか今まで無縁すぎて何も分からないから。
陽葵を部屋に招き入れて、ドアを閉める。そうしてから、魔法を……。
「リーナ。防音の魔法」
「は? 菜月、何を言って……」
――わざわざ聞こえるように言うのね……。とりあえず、この術式ね。
リーナに教えてもらった魔法を使って、部屋を覆うように結界を張る。防音の魔法。外から音は聞こえないし、中の音も外に聞こえない。内緒話をするにはうってつけ。
「それじゃあ、陽葵」
「あ、ああ……」
「椅子に座って。わたしのこと、話すよ。魔法と、リーナと、月のこと」
「月……?」
気になるだろうけど、まずは座ってほしい。きっと、信じられないような話だろうから。