コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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26 お好み焼き

 

 陽葵に案内されたのは、なんだか不思議な雰囲気のお店だ。線路の高架下にあるお店で、ちょっと古めかしい。横開きのドアを開けて中に入ると、ちょっと狭い造りだった。

 真ん中に鉄板のあるテーブルが、四つ。それだけのお店だ。陽葵が言うには、店主のおばあさんが趣味でやっているらしい。

 

「いらっしゃい」

 

 そのおばあさんがお店の奥から出てきた。にこにこと、柔和な笑顔を浮かべてる。とても話しやすそうなおばあさんだ。

 

「どうも。豚玉で。菜月はどうする?」

「えっと……。同じもので……」

「あいよぉ」

 

 おばあさんが奥に引っ込んでいった。優しそうな人だけど、ちょっとだけ不安になる。本当に美味しいのかな?

 

「ここは自分で焼くか、あのばあさんに焼いてもらえるか選べるけど、どうする?」

「え。えっと……」

 

 リーナ! リーナ! どっちがいいの!?

 

――美味しく焼ける自信なんてないでしょう。

 

 そりゃそうだ!

 

「お任せで……」

「はは。だよな」

 

 大きなボウルを持ってきたおばあさんに、陽葵がお任せでと頼む。するとおばあさんは笑顔で頷いて、テーブルの鉄板でお好み焼きを焼き始めた。

 

――うわあ……。どろどろしてる……。なんか、いろいろ混ざってるようにも見えるし……。これが本当に美味しいの?

 

 美味しくなかったら名物になんてならないよ。

 もっとも、物珍しさだけで名物になってるものはあるだろうけど……。少なくとも、お好み焼きは美味しいって聞いてるから大丈夫だ。

 お好み焼きのどろどろを鉄板の上で丸い形にする。さらに豚肉をたっぷりのせて、しっかり焼いて……。そして、さっとひっくり返す。そのままさらに焼いて、できあがり。

 最後におばあさんがソースをたっぷりかけてくれた。ソースは鉄板にも落ちて、ソースの焦げる香りが鼻をくすぐってくる。すっごく、いい香りだ。

 

――うわあ! うわあ! なにこの匂い! 食欲をくすぐるってこういうことをいうのね! いつの間にか、お好み焼きも美味しそうな焼き色になってるし!

 

 うん……。すごく美味しそう。

 

「あとはこのヘラでお好みの大きさに切り分けて食べるんだよ」

 

 おばあさんはそう言って、店の奥に戻っていった。

 

「それじゃあ、食べるか」

「うん」

 

 おばあさんが言った通りに、ヘラでお好み焼きを切って小皿にのせる。そうしてから口に入れた。

 

「ん……っ。熱い、けど……。美味しい……!」

 

 不思議な食感。表面はしっかりと焼けていて、中はふんわり。これもまたソースの味を際立たせてる。大阪はソースだっていうのはテレビで見たことあるけど、なるほどと理解できる。

 

――はあ……。さいっこう。

 

 リーナも満足してるみたい。これは、本当に美味しかった。

 

「そこまで喜んでくれると、案内したかいがあるってもんだな」

「うん……。陽葵に頼んで良かった。ありがとう」

「あ、ああ……」

 

 そっぽを向いた陽葵の顔は少し赤くなっていて、ちょっとかわいかった。

 

 

 

 その後も商店街で買い食いとかをして、最後にコンビニでお菓子とかを買って、暗くなる前に宿泊予定のホテルに戻った。一応これでも中学生だ。あまり遅くなると警察に補導されるかも。

 いや、もうすでに何度も声をかけられたけど。そのたびにギルドカードを見せて納得してもらった。かなり怪訝そうな顔をされていたけど、ちゃんと本物だから。

 ギルドに電話で問い合わせまで何度もされて、向こうも多分苦笑いとかしてるんだろうなあ。ギルドの依頼で来てるんだから、わたしは悪くない、はず。きっと。

 ホテルのフロントで預けていた荷物を受け取って、部屋に向かう。部屋の鍵はカードキー。エレベーターもカードをかざさないと使えなくて、セキュリティはばっちりだ。

 ホテルは十五階建て。そしてわたしたちの部屋は、十階。部屋が隣同士なのは、気を遣ってくれたのかも。

 

「それじゃあ、陽葵。あとでこっちの部屋に来てね」

「ああ……」

 

 陽葵は、ちょっとだけ緊張した面持ちだ。この後、わたしの事情について話すと伝えてあるからかもしれない。

 わたしは……不思議と緊張してない。なんでだろうね? 陽葵なら大丈夫だって、不思議と信じてるから、かな?

 部屋は、本当にシンプルな部屋。とても短い廊下に、ベッドがある部屋がすぐ前にある。廊下の横にもドアがあって、そこはトイレとお風呂だった。

 ベッドの側にはテーブルと椅子。椅子は一つしかないから、陽葵にはそっちに座ってもらおうかな。ベッドに、でもいいけど。

 荷物……といっても、わたしの荷物はコンビニのレジ袋ぐらいだ。それをテーブルに置いて

ローブを畳んでベッドに置く。あとは、陽葵を待つだけ。

 

――菜月。大丈夫?

 

 うん……。なにが?

 

――伝えるって言ったこと、後悔してないかなって。

 

 それは大丈夫。理解者というか……強力してくれる人は必要だって思っていたから。

 それでもやっぱり、ちょっと緊張してきた。信じてる、なんて言っていたのに、情けない。

 ベッドに座って少し待つと、ドアがノックされた音が聞こえてきた。

 

「はい」

 

 立ち上がって、ドアを開ける。陽葵が私服で立っていた。

 

「…………。菜月」

「うん?」

「服、今度買いに行こうか……」

「…………」

 

 自分の体を、服を見下ろす。いつもの、セーラー服。

 放っておいてほしい。正直、ファッションとか今まで無縁すぎて何も分からないから。

 陽葵を部屋に招き入れて、ドアを閉める。そうしてから、魔法を……。

 

「リーナ。防音の魔法」

「は? 菜月、何を言って……」

――わざわざ聞こえるように言うのね……。とりあえず、この術式ね。

 

 リーナに教えてもらった魔法を使って、部屋を覆うように結界を張る。防音の魔法。外から音は聞こえないし、中の音も外に聞こえない。内緒話をするにはうってつけ。

 

「それじゃあ、陽葵」

「あ、ああ……」

「椅子に座って。わたしのこと、話すよ。魔法と、リーナと、月のこと」

「月……?」

 

 気になるだろうけど、まずは座ってほしい。きっと、信じられないような話だろうから。

 

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