コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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28 竹取物語

「そうそう。ちょっと気になったんだけど、どうして奈良だったんだ? いや、悪いわけじゃないけど、偶然か?」

――うん? まさか。元から道があったのよ。

「え」

「え」

 

 なにそれ知らない。聞いたことがない。元から道があった? 奈良に? つまり、すでに月の人がこっちに来たことがあるってこと?

 混乱するわたしとは対照的に、陽葵は何かに思い当たったのか手を叩いた。

 

「かぐや姫! 竹取物語!」

――日本ではそういう名前のお話だったわね。

「あれ実話だったのか!?」

 

 竹取物語。日本で知らない人なんてまずいない昔話だ。そうだ。かぐや姫も最後は月に帰ってしまってる。

 

――さすがにある程度脚色されてるみたいだけどね。ほぼ実話よ。かぐやは月でも有名だから。

「へえ……!」

――大罪人として。

「え」

 

 大罪人って……。竹取物語にはそんな様子はなかったと思うけど……。

 

――かぐやは許されない研究をしていたの。それがばれて、地球への道を作って逃亡した。研究中の薬を飲んで、若返った上で。幼くなったかくやは日本で拾われて、もう一度成長して……。そして、月の追っ手が来て捕まった。だいたいそんな流れ。

 

 あれ? なんだろう。どこかで聞いたことがあるような話だ。許されない研究とか、月の追っ手とか……。いや、どこかで、というか……。

 

「リーナってかぐやの生まれ変わりか何か?」

 

 陽葵も同じことを思ったみたいで、そう聞いた。

 

――違うわよ! あいつが不老不死の研究をしていたのは自分のためだけど、私は友だちのためで……。

「へえ……」

――あ。

 

 不老不死の研究。リーナも禁忌の研究をしていたって言っていたけど……。口ぶりからすると、同じ研究だ。ただ、リーナは友だちを助けるために研究をしていたみたい。

 友だちがどんな状態だったのか、どうしてその研究だったのかは分からないけど……。きっと、必死だったんだ。友だちを助けるために、罪を犯してしまうほど。

 もちろん、悪いことは悪いなんだろうけど……。でも、やっぱりリーナは優しい人だなって思った。

 

――ああ……! やめて! そんな目で見ないで! そんな生暖かい感情を向けないで! 恥ずかしい!

「ははは! あんたやっぱりいいやつだな!」

「うん。リーナはとってもいい子だよね。体があったら撫で回すのに」

――私の方が年上なんだけど!?

「そうは見えないかなあ」

「そうは思えないな」

――ひどい……!

 

 同年代って言われたらわりと納得するけどね。さすがに、年上とは思えない。

 

――と、ともかく! かぐやが作った道があって、塞ぎ切れていなかったから私もその道を使ったのよ!

「なるほどなあ……。奈良にダンジョンができたのは、偶然じゃなかったんだな」

「もしかしたら、他の昔話も実話に近いものがあったり……?」

――一応言っておくけど、他のやつは知らないわよ。

 

 残念。リーナなら知ってると思ったのに。

 いつか、もっと自由に過ごせるようになったら……。そういうのを調べてみても面白いかも? 幸い、お金には困らなさそうだし、ね。

 

「おっと、結構いい時間だな」

 

 唐突に陽葵がそう言って、わたしも時計を確認する。夜の七時だ。寝るにはまだ早いけど、今日はいろいろと歩き回ったし、疲れて……。

 

「大浴場行こうぜ!」

――大浴場!

 

 わたしよりもリーナの方が反応した。

 

 

 

 最上階にある大浴場。とっても広いお風呂に露天風呂まである。露天風呂といっても、木の板で囲まれているから雰囲気だけだけど。

 それでも! 広いお風呂だ!

 

「はふぅ……。いいよね、お風呂……。すごくいい……」

――菜月の家にはないものね……。本当に、気持ちいい……。

「え」

 

 陽葵があからさまに引いたのが分かった。ちょっと待ってほしい。

 

「か、体は洗ってたよ……?」

「どうやって……?」

「その……。水道で……」

「分かった。もう何も言わなくていい。地元の商店街にも銭湯あるからさ。ダンジョンが終わったら寄ろうな?」

「あ、うん……」

 

 いや、まあ……。今となっては行けたら嬉しいだけなんだけど。

 月の魔法はとても便利で、体の汚れを落とす魔法なんてものもある。もちろん服の汚れも落とせるから、お風呂も洗濯も必要なくなった。

 それでもお風呂は気持ちいいし、入ればなんだか心が洗われたような気持ちになるから、たまには入るようにしてるけど。

 でも、やっぱり大浴場みたいな大きいお風呂は格別だ。とても、気持ちいい。

 

「ところで」

「あん? どうした?」

「陽葵って……着やせするんだね……」

「どこ見て言ってんだテメエ」

 

 どことは言わない。何がとは言わない。でも言わないということはそういうことです。

 

「べ、別に羨ましくなんか……ないよ?」

――ギルティ。もぎ取れ。

「リーナさん!?」

 

 わたしよりもリーナの方の嫉妬がすごい。夢で会った時はわたしとよく似ていたし、きっと体の特徴も同じようなものだったんだろうね。

 そしてリーナが拗ねてるから、わたしは逆に冷静になれる。

 

「わたしの相棒、かわいいでしょ」

「かわいいか……?」

 

 体を隠して、陽葵が苦笑した。いや、なんというか……。申し訳ない。

 

 

 

 お風呂の後は、寝るだけ。ホテルのベッドはとてもふわふわで、すっかり薄くなってしまった家の布団と比べると、本当に気持ちが良い。

 んー……。お布団、買い換えようかな?

 

「リーナはどう思う?」

――好きにしたらいいじゃない。お金は十分あるんだから。

「そうなんだけね……」

――いつも言ってるけど、私の魔法はもう菜月のものよ。それで稼いだお金は自由に使っていいんだからね。私に許可を取らなくていいから。

「あははー」

 

 いつもそう言ってくれるけど、わたしとしてはやっぱりリーナのために使いたいというのが本音だ。正直今回の依頼も、リーナが大阪のご飯を楽しめたらと思って受けたものだし。

 

「リーナももっと欲しいものがあったら言っていいよ?」

――そうね。じゃあ菜月が過ごしやすいように使いなさい。感覚を共有してるって分かってる? あなたが不快なら私もわりと不快なのよ。

「あー……」

 

 なるほど。言われてみればその通りだ。もちろん感覚は同じでも感じ方、感想はわたしとリーナで違うだろうけど……。嫌なものは嫌、というのは当然だね。

 じゃあ、うん。お布団とかいろいろ買い換えていこう。そのためにも、冬休みでしっかり稼がないと。

 

「がんばるよ……!」

――まあ、ほどほどにね。

 

 そうしてリーナとおしゃべりしながら、わたしは眠りについた。

 

 

 今回の大阪旅行、いや一応依頼だけど、それでも大阪旅行。とても楽しかった。また機会があれば、別の場所にも旅行行きたいなあ。

 




壁|w・)この世界でダンジョンが奈良にしかない理由でした。
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