どうしてこうなった。
わたしは、絶望的な状況に自問自答を繰り返す。どうしてこうなった、と。
頼りになる相棒と友だちは、今回ばかりは頼りにならない。
――ふ、ふふふ……! あはは……!
「くく……っ。腹痛い……! がんばれよー……!」
めちゃくちゃ笑ってる。生まれて初めて、人を本気で殴りたいと思ったかもしれない。全力で、グーで殴りたい。
「今日は特別ゲストだ! 最近何かと話題の魔女さんに来てもらったぞ!」
わたしの横では、つい昨日知り合った人が、ドローンに向かって笑顔を振りまいていた。あのドローンはカメラになっていて、日本、どころか世界にいる視聴者にこの場の映像を届けてる。
もちろん、いつものローブ姿のわたし、つまり魔女の姿も。
本当に……。どうしてこうなった。
始まりは、昨日。十二月三十日。
もう年末ということもあり、ギルドに来る探索者の人数も少なくなってる。年末年始は休みたい、という人が多いらしい。
もちろんそんなものは気にせずにダンジョンに潜る、という人も一定数いるけど。わたしと陽葵のパーティも。
「今日も狼狩りか?」
「うん。年が明けたら、ちょっと泊まりで深く潜ろうかなって思ってるけど。陽葵も慣れてきたみたいだし」
「まあ、ここまでお膳立てされたらなあ……」
陽葵が装備してる剣や動きやすそうな鎧には、月の強化魔法がかけられてる。剣は切れ味が上がってるし、鎧には防御魔法の他、身体強化魔法も。狼程度の動きなら十分に対応できるぐらい。
事実、今はもう陽葵一人で狼を倒せる。とても、簡単に。正直二人で行動するのは無駄だと思えるぐらいだ。
だから、その提案は必然だったのかも。
「なあ、菜月」
「うん?」
「別行動で狩り、てのは嫌なんだよな」
「それはだめ」
わたしが見ていないところで何かあったら、きっとずっと後悔するだろうから。同じパーティの間は、認めるつもりはない。
――ふふ……。過保護ねえ。
過保護にもなるよ。死にかけたところを見たんだからさ。
「じゃあ……。六層、行かないか?」
「んー……」
それは……。悪くない、かも。
六層は狼が集団で襲ってくる。しかも毒持ちも当然のようにいるから、五層からさらに難易度が上がるんだけど……。今の陽葵なら問題ないかな。
往復の時間とかも考えて一人では避けていたけど……。もう一層ぐらい、いけるはずだ。
「うん……。行こう」
「よし!」
そういうことになって、六層に向かう。六層の探索のために、行きはちょっと急いで。
そうして、六層にたどり着いて。
「うわあ……」
「すげえ……」
六層を見て、わたしとリーナは同時に感嘆の声を上げた。
五層まではずっと洞窟だったのに、どういうわけかいきなり草原が広がってる。太陽もあれば風もある、不思議なフロアだ。なにこれ。どうなってるの?
「噂には聞いてたけど、すごいなこれ……」
「噂?」
「…………。もうちょっと情報収集しろよ……」
「あはは……」
六層から下は行くつもりがなかったから、あまり調べてなかったです。
陽葵が言うには、六層からはダンジョンの様子ががらっと変わるらしい。五層の階段を下りて、階段の先の小さな部屋を出たらこうして草原が広がっているのだとか。
洞窟の中に草原も草も太陽もある。昼夜もちゃんとあるらしくて、どういう仕組みなのかは何一つとして分かってない。
「ちなみに、階段のある部屋に魔物は入ってこないから、寝泊まりするならそこがいいって話だ」
「ええ……。こんなに綺麗な場所なら、ここにテントを張りたいなあ……」
「お前は魔物がうようよいる場所で寝られ……るなお前は……」
「あははー」
――えっへん。
リーナの魔法があれば、当然余裕。結界を張れるから、狼程度なら気にせず休める。
まあ、朝になったらすごいことになってそうだけど。結界の外に大量の狼がいるってなりそうだよね。
「あれ? 夜に来て、ここで寝て、集まってる狼を狩れば簡単に稼げるのでは?」
「おいばかやめろ。他の探索者のことも考えろ」
「ああ、うん……。そうだよね……」
夜に活動する探索者さんが来たら、かなり驚くかも。いや驚くだけならいいけど、その集まってる狼に襲われて、とかで迷惑をかけてしまうかも、だね。やめておこう。
「それにしても、開けてるね」
「視界良好、てな」
草原だから、遠くまでしっかり見える。所々に木があるだけ。あとは、狼の姿もうっすらと。
――逆に言えば、魔物からも補足されやすいってことを忘れないようにね。目の前の敵に集中していたら、背後から襲われる……なんてこともあるかも。
「あ、そっか……。うん。気をつける」
「めんどくさいエリアだな……」
陽葵が言うには六層から十層までは草原のフロアらしいから、すごく面倒、だね。
ダンジョンの探索を始めて。わりとすぐに、それも頻繁に襲われることになった。五層の狼を倒せる程度だと、六層は本当に難易度が高いと思う。
「こんなに来てくれなら、最初から六層で探索しておけばよかったかなあ……」
「その場合、あたしは死んでただろうな」
「ん……。五層でやっててよかったよ」
「五層を狩り場にしてくれてて助かったよ……」
嫌がらせの主犯だったとはいえ、いつの間にかダンジョンで死んでました、なんて言われたらさすがに嫌だから。
襲ってくる狼たちを倒して、魔石を回収して。それを繰り返していたら、別の探索者と出会ってしまった。これはわりとあることだからそこまで驚きはなかったんだけど……。
「はい、俺ぐらいになると六層の狼もザコってことで……。おや?」
「わ……」
その人が、すぐ側にドローンを飛ばしていたことには驚いた。
身軽そうな軽装にナイフで戦う男の人の探索者。そしてドローン。このドローンは、わたしも知ってる。わたし自身は見たことはないけど、そういうものがあるって聞いてるから。
この人、配信者だ……!
壁|w・)申し訳程度の配信要素。