コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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03 現状確認

――それでね、さすがにもう逃げられないってなって……。転生の秘術を使ったのよ。

「はあ……」

――で……。この体に取り憑いちゃったみたい。

「はあ?」

 

 取り憑いて……。取り憑いて!?

 

――つまり今、この体には、菜月の魂と私の魂の二つが入ってしまってるってわけね!

「出て行ってください」

――ひどくない?

 

 ひどくない。そんな悪人と一緒になんていたくない。なんか巡り巡ってわたしに不幸が訪れそう。いや絶対に何かに巻き込まれる気がする。というか、よく考えたらリーナも巻き込んだみたいなこと言ってたし。

 

「その、月の誰かにわたしが狙われたりとか、しない……?」

――た、多分大丈夫……。

「多分……」

 

 正直、すごく不安だ。明日とか、いきなり教室に変な格好の人が乗り込んできて、襲われたりとか……。そんなこと、あったり、とか……。

 

「…………」

――菜月。さっきも言ったけど、考えてることがなんとなく分かるから。そんな、テロリストが学校に乗り込んで占拠して、みたいな漫画みたいなことないわよ。

「やめて!?」

 

 確かにちょっと考えちゃったけど、いちいち言わなくてもいいと思う。誰にも聞かれてないからこそ、こういう想像とかするんだから。

 

――ああ、うん。ごめん、そうよね……。気をつけるね……。

「ものすごく優しい目で見られてるような気がする……」

 

 だめだ。やめよう。この想像は私の心にすごくダメージが入る。しんどい。

 

――実際のところだけど……。わたしが目覚めたのは、多分この体が成長して、魂二つ分を抱えても大丈夫になったからだと思うのよ。

「え……。なにそれ……」

――普通の人間が魂二つを抱えるなんてできないから。精神崩壊するわね。それで、体の防衛本能で私の魂が封じ込められていたんだと思う。

「おお……。わたしすごい」

――はいはい。すごいすごい。

 

 もうちょっと褒めてくれてもいいと思います。

 

――でも、目覚めてないだけで、私の魂は休眠状態のまま存在し続けていたわけだから……。月から追っ手とかあるなら、もうとっくに来ていると思う。

「それって、どれぐらい昔から……?」

――あなたが生まれた時から。

 

 リーナが言うには、リーナの魔法はあくまで転生の魔法。ちょっと魔法が誤作動したのか、わたしという魂がある肉体に入ってしまったらしいけど、本来は魂のない肉体に入るはずだったみたい。

 

「あれ……? それ、下手をするとわたし、体を奪われて殺されてた……?」

――…………。

「…………」

――そ、それでね! 私のことが感づかれているなら、十年以上前にもう見つかっているってことね!

「話を逸らされた……」

 

 いや、まあ、いいんだけど。実際に殺されていたならともかく、今のところこうしてわたしは生きているから。釈然としないものはあるけど、引きずるほどでもない、はず。

 それにしても……。私、知らない間に命の危機とかあったりしたんだなあ……。

 

「あれ? もう感づかれていたなら見つかってるはず、ということは、来てるのは来てる……?」

――あなたの記憶を見ていたら、それらしいのがあったからね……。

「ええ……」

――まあ、もう諦めているだろうから、気にしなくていいわよ。

 

 いいのかなあ……。でも確かに、十年以上も何もないなら、さすがにこれからも何もないと思いたい。心配しながら生きていくのは、ちょっと辛いから。

 

――それにしても……。どこで魔法を間違えたのかな。私は新しい肉体を手に入れるはずだったのに……。こんな、共存みたいな形になるなんて……。

「あー……。今からどうにかとか、できないの?」

――無理。転生の魔法って、いろいろ貴重な素材とか、そういうのが必要だったから。地球だと手に入らないわね。

「そっか……」

 

 つまり……。わたしはこの先、この変な声とずっと付き合っていかないといけないってことだと思う。それは……それは、ちょっとなあ……。

 

――ごめんなさい。

 

 わたしがそんなことを考えていたら、ちょっと落ち込んだようなリーナの声が聞こえてきた。

 

――巻き込んでしまった菜月には、本当に悪いと思ってる。可能なら消えてあげたいところだけど、今の状態だとそれすらできないから……。

「あ……。いや、その……。違うから、ね?」

――え?

「リーナにちょっと申し訳ないなって……」

 

 リーナはどうやらわたしの体を動かすことはできないみたい。つまり、主導権はわたしにあるわけだけど……。正直、わたしの生活はあまり楽しいものじゃないと思うから。

 そんな生活に強制的に付き合わせてしまうことが、ちょっと申し訳ない。

 そう言うと、あからさまにリーナが呆れたのが分かった。

 

――菜月って、お人好しって言われない?

「コミュ障根暗とは言われるよ」

――反応に困るからやめなさい。はあ……。

 

 大きなため息をつかれてしまった気がする。呆れ果てたってこういうのを言うのかもしれない。表情とかは分からないけど。

 

――菜月。私のことは気にしなくていいから、好きに過ごしなさい。私は映画でも見ているつもりで、あなたの人生を見守らせてもらうわ。

「きっとおもしろくないよ?」

――私からすれば、禁足地の地球をこうして見れるだけでもおもしろいわよ。

 

 あ、禁足地扱いなんだ……。なんというか、月の都市って、ちょっと変わってるのかも。もしも仲良くなれたら……。聞いてみても、いいかな?

 

――そ、それより、ほら。せっかくだし、寝ちゃいなさい。ね?

「いや、授業に戻らないと……」

――さぼれる理由があるんだからいいでしょ。

「わあ、不良だ」

 

 さすが指名手配犯。とっても悪い子だ!

 

――授業をさぼって指名手配とか、平和すぎるでしょ……。

「確かに」

 

 わたしは小さく笑って、リーナの言う通りだな、と眠ることにした。別にわたしは優等生というわけでもないから、たまにはいいかなって。

 ちょっといろいろあって疲れたというのもある。情報が多すぎて……。

 だからかは分からないけど……。目を閉じると、わたしはあっという間に眠りに落ちてしまった。

 

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