コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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30 配信者の後藤さん

 

 ダンジョン配信。簡単に言ってしまえば、ダンジョンの探索の様子をドローンなどに搭載したカメラでライブ配信すること。

 最初はダンジョンの研究用に作られた技術で、ダンジョンの比較的安全な場所に一定間隔に電波とかを増幅させる機械を置いて、地上とのリアルタイムの通信が可能になってる。

 当然ダンジョンに電源なんかはないんだけど、動力源はダンジョンで得られる魔石を採用。そのための装置も今では小型化され、ダンジョンの天井近くの壁に埋め込まれてる。

 

 この魔石の交換は探索者の仕事。たまにギルドから依頼が来て、見つけた人が探索ついでに受けるから装置が止まったこともない。

 その装置の一般利用が解放されたのが、五年前ぐらい、だったかな? それからダンジョン探索をライブ配信する探索者が増えてきた。

 これがわりと人気のコンテンツらしくて、学校でもそれなりに話題になってる……らしい。陽葵がそう言ってたから。ちなみにわたしは見たことがない。

 

――見てる人がお金を送ることもできるのよね。最初から知ってたらもうちょっと稼げたかもしれないのに。

――いや、道具一式揃えるのに結構お金がかかるから……。

――菜月はパソコンからだから余計に、だな。

 

 そんな会話を念話でして、配信者さんを見る。配信者さんは手際よく狼たちを倒していってる。

 

「はい。どうやら他の探索者が来たようなので、いったん配信を止めます。はい、ごめんなさいね。プライバシー優先だから」

 

 そんな声が聞こえてきて、陽葵がへえ、と小さく声を上げた。

 

「相手のことなんて気にせず顔を撮るやつも多いんだけど……。ちゃんとしてる人だな」

「うわあ……。そんな人がいるんだ……」

「ああ。あたしも撮られかけて、慌てて隠れたことがある」

 

 それは、すごく非常識というか、なんというか……。ダンジョン探索ってわりと匿名性があるはずなのに。

 

「三層までは配信が禁止されてるから、初心者はあまり撮られないけどな。四層とかだとわりとあるんだ。といっても、配信者って探索に慣れたやつがやるから、だいたいが五層以降が多いらしいけど」

「ふむふむ……」

 

 わたしが出会わなかったのって、そもそも危なげなく探索してる人に気づいたら避けてたから、だろうね。わざわざ人と会話をしたいと思わないから……。

 陽葵が一緒になってからはあまり気にしないようになってたけど。陽葵が頼りになるから。

 

「はい、これで終わり、と。すみません、お待たせしました」

 

 安定した動きで狼たちを狩り尽くして、配信者さんがこっちに手を振ってきた。それを見て、わたしたちもそっちに向かう。お互いに気付いてるのに避けるのは失礼かなって思うから。

 

「どうも、俺は配信者の……」

 

 わたしの姿を確認した配信者さんの動きが止まった。目をまん丸にして、じっと見つめてくる。なんだろう、ちょっと怖い。

 

「おい。人の顔をじろじろ見るのは失礼だろ」

――フードのせいで顔が見えないけど。

――リーナはちょっと黙ってろ。

 

 陽葵が言うと、配信者さんは慌てたように頭を下げてくれた。

 

「失礼しました! 俺は配信者の後藤です。あなたは……魔女、ですか?」

「は、はい……」

「おお……。ダンジョン内で会うことができるなんて……! あなたのファンです。握手してください」

「え、あの……。は、はい……」

「流されすぎだろ……」

 

 後藤さんとしっかり握手。ファン、だなんて言われて、ちょっと驚いてしまった。いやだって、ファンって。いるんだ、そんな人。

 

「そちらの人はパーティメンバー、ですか? 最近魔女にも仲間ができたと聞きましたけど、本当だったなんて……! 握手してください」

「え? あ、お、おう……」

――陽葵も流されてるじゃない。

――うっせ。

 

 陽葵ともしっかり握手。後藤さんはとても嬉しそうで、なんだかほっこりする。

 後藤さんの方が年上なんだけどね。多分、二十代ぐらいだと思う。柔和な笑顔で、話していて安心する。あまり怖くない、かな……?

 

「魔女さんも六層で狩りですか?」

「はい……。仲間が……増えたので……」

「なるほど。お二人だけで大丈夫ですか? 六層が初めてなら、よければ少し同行しますよ。ついでに、いい景色の場所とか」

「デートの誘いか?」

「はは。まさか。魔女さんを狙うような自殺行為はしませんよ。だって……」

 

 後藤さんがわたしをじっと見つめて、そして小さく頷いた。何かに納得したように。

 

「多分……。いえ、間違い無く。俺より強いでしょう」

「…………」

 

 熟練者は相手の力量が分かるようになる、なんて物語ではわりとあるけど、本当なのかも。もちろんはっきり分かるわけではないだろうけど、自分よりも上、ぐらいは分かるのかもしれない。

 それぐらいの技能がないと、この先では生き残れない、ということかもしれない。強い魔物は避けないといけないだろうから。

 

「どうする?」

 

 陽葵に聞かれて、わたしは少し悩んでしまったけど頷いた。

 

「お願い、します」

 

 初めての階層、やっぱり誰かに教わった方がいいと思ったから。

 後藤さんは嬉しそうに頷くと、背負っている小さめのリュックから大きな紙を取り出した。それをわたしたちに渡してくる。開いてみると、地図みたい。

 

「まずは地図です。ギルドの売店でも売られていますけど、よければどうぞ」

「ど、どうも……」

 

 売られてるんだ……。気付かなかった……。

 

「六層からはそれぞれの階層がかなり広大になりますが、要所要所の場所を把握していればそれほど困りません。次の階層を目指すにしても、二時間ほど歩けばつきますから」

「なるほど……」

「ところどころ丘になっていたり、ちょっとした洞窟や湖があったりと、わりと楽しい場所ですよ。出てくる魔物は鬼畜ですけど」

「その鬼畜をわりとあっさり倒してたよな」

「まあもう慣れていますから」

 

 後藤さんが言うには、もう五年以上六層で狩りをしているらしい。そこから先には行かないのかなと思ったら、そのつもりはないんだって。

 六層で十分に稼げる。だからそれで十分、なんだとか。

 

「それに、七層からのフロアボスは危険ですから。ここがちょうどいいです」

「…………」

 

 フロアボスって、なに?

 

――リーナ! フロアボスって知らないんだけど!

――私も知らない。なにそれ。こわ。

――マジかよ……。お前らのダンジョン知識、偏ってないか……?

 

 陽葵がジト目でこっちを見てる。そうは言われても、五層までにそんなフロアボスなんて見たことがなかったから。見かけたら気付くはずだし。

 




壁|w・)配信者さん。
なお主人公が自分から配信をすることは(多分)ありません。
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