コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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32 配信前の質問

 

 翌日。大晦日。わたしはそんな一年の締めくくりの日に、何をしに来ているんだろう。

 

「本当に来てくれるなんて……。ありがとう」

「いえ……」

 

 六層で、わたしは後藤さんと会っていた。六層の入口になる部屋の前。後藤さんの側にはドローンが飛んでる。カメラを搭載したドローンだと思う。

 

「あの……。もう、配信、してます……?」

「いや、まだですよ。ちゃんと合図はしますので」

「はい……」

 

 どうしよう。とても緊張する。陽葵が側で見守ってくれてるのが本当に心強くて……。

 

「ふ……ふふ……。くく……」

「…………」

 

 だめだこいつ頼りにならない。完全におもしろがってる。何か仕返しでも考えてやろうか。

 

「何も問題がなければ、昼の一時から配信を始めます」

 

 昼の一時。つまり、あと三十分。質問とかがあれば今のうち、だね。

 んー……。

 

「あの……」

「なんでしょう?」

「えっと……」

 

 じっと見つめられる。なんだろう、ちょっと怖い。昨日まではまだ普通に話していたのに、どうにも今は、どう言えばいいのか分からなくなってる。

 一日目は……最初だけだから、と思えたから。今は、六層で狩りをするなら今後も会うだろう、なんて考えて……。迷惑にならないように、不快にさせないように、と考えたら、言葉が出なくなってしまう。

 どうしよう。聞きたいことはあるのに……。

 

「仕方ねえなあ……」

 

 わたしが口ごもっていたら、そんな声が後ろから聞こえてきた。陽葵だ。

 

「あたしになら言えるだろ。ほら」

 

 ああ、やっぱり持つべきものは友だちだ……!

 

――甘やかしすぎじゃない? 菜月のためにならないわよ。

――そうは言ってもさ。これがトラウマになって人見知りが悪化したら、それこそだめだろ。

――まあそれもそうだけど。

 

 うん。あの……。そういうのは、わたしに聞こえちゃだめだと思うよ……?

 いろいろと言いたいことはあるけど、とりあえずは質問だ。陽葵にこしょこしょと耳元で話して、聞いてもらう。

 

「あたしから聞かせてもらうよ」

「あ、ああ……。魔女さんはわりと内気なんですね」

「人見知りのコミュ障ってやつだよ。それじゃあ、質問だけど……。視聴者が書き込んだコメントってのはどこで見るんだ?」

 

 ダンジョン配信に限らず、動画サイトの配信は自由にコメントを書き込むことができて、リアルタイムで配信者に届けられるようになっているものが多い。

 ダンジョン配信もほとんどがそうのはずなんだけど、後藤さんの側にあるのはカメラのドローンだけ。コメントはどうやって見るんだろう?

 

「コメントなら、読み上げですね。適当なコメントを抽出して、合成音声で読み上げてくれます。俺がお二人と会った時は、片耳にイヤホンをして聞いていました」

――ええ……。仮にも命がけのダンジョンでしょう? よくやるわね。

 

 それはほんとにそう思う。周りからの音も、探索者からすれば重要な情報なのに、それを一部制限するなんて……。それだけ自信があるってことかな。

 

「戦闘中でなければ、スマホとかも使って確認しますけどね。魔女さんたちはスマホを使ってくれてもいいですよ」

「だってよ。どうする?」

「な、流れで……?」

――どうしよう。今更ながら不安になってきた。

――あたしも。流れってなんだよ。この調子で大丈夫か?

 

 言い出しっぺのくせして、この二人は何を言っているのかな?

 

「他は何かあります?」

「えと……」

 

 もう一度、陽葵に耳打ち。内容を聞いた陽葵は、ちょっと呆れたような視線をわたしに向けてきた。気にしすぎだって思われてそう。

 

「変なこと言ってしまったらどうしよう、と」

「あはは。気にしなくて大丈夫ですよ。ダンジョン配信に関してはその辺り緩いですから。そもそも、場合によっては人の死体も映りますからね」

「あー……」

 

 これは、道中で死体を見つけてしまう、とかの意味じゃない。それぐらいはわたしも知ってる。

 配信中に配信者が魔物に負けて食い殺される。そういう時が少なからずある。それすら規制されずに残るのがダンジョン配信だ。ある種の無法地帯みたいになってるけど、そもそもダンジョン探索そのものが無法地帯なものだから。

 それに、配信っていうのは悪いことばかりじゃない。もし他の探索者ともめても、証拠が常に残る。あとは……死亡した場合に、すぐに分かるということも。

 ダンジョン探索で亡くなった場合は、基本的には行方不明だから。そういう意味では、これもまた役に立っている面、だね。

 

「他はあります?」

「えっと……」

 

 もう一度、こそこそ。

 

「実際に何やるんだ?」

「俺の視聴者にも魔女さんについて知りたがっている人は多いんですよ。黙秘ありの質問コーナーとかやろうと思いますけど、どうですか?」

 

 まあ……。それぐらいなら。黙秘がだめって言われたら断るところだけど。

 

「大丈夫、です」

「よかった。改めて、よろしくお願いします」

 

 そう言って頭を下げる後藤さんに、わたしも頭を下げておいた。

 うう…。緊張する……。

 

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