コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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33 配信開始!

 

 そうして、お昼の一時。

 

「じゃ、始めます」

 

 後藤さんが手元のスマホを軽くいじる。そうしてポケットにスマホをしまって、十秒後ぐらい。ドローンから鈴の音が聞こえてきた。

 

「よっす。今日も後藤の配信へようこそ! 告知は見てるな?」

 

『新鮮な配信だー!』

『男の配信を毎日のように見るとは思わなかった』

『ぶっちゃけ今日は常連以外にも人がいそう』

 

「だよな。いつもより視聴数が多い……。緊張してくるな!」

 

『緊張してるとは思えない声音w』

『後藤の配信は安心して見てられる』

 

 ドローンからコメントの読み上げの音声が流れて、後藤さんがそれに返事をしていく。なんというか……。すごい。もちろん読み上げられてるコメントは一部だけだからできる、というのもあるだろうけど、わたしにはできる気がしない。

 だって、コメントはずっとひっきりなしに流れてる。どういう基準で返事をしたりしているのか、まったく分からない。配信者って、すごい。

 

『ところで後藤、告知見たけどさ、いるのか?』

 

 そんなコメントが流れて、後藤さんはにやりと笑った。

 

「はは。やっぱり気になるよな。気になるよな?」

 

『とても気になる』

『しかも、最近話題の魔女さんが来るかも、程度だったから余計に』

『来てくれたんか? マジで来てくれたんか?』

『どうせ釣りでしょ。知ってる知ってる』

『釣りだと思ってるならなんで来てんだよw』

 

 えっと……。つ、釣り? え? お魚釣るの? 確かに六層にも泉はあるけど、魚釣り?

 

――り、リーナ! 陽葵! どうしよう!

――え、なんだよいきなり。何かあった?

――釣りなんてやったことない!

――…………。まじか……。

 

 あ、あれ? 今のまじかって、なんか妙なニュアンスだったような気がする。釣りをやったことがない、ということに驚いてるわけじゃなくて、通じてないのかよ、みたいな呆れの声。

 

――え? 釣りって釣りじゃないの? 私も分からないのだけど。

――うん……いや……。仕方ないよな、これは……。せっかくだし、あとで後藤さんに聞いてみるといい。もちろん配信中に。

――ええ……。なんかそれ、笑われそう……。

 

 いや、やれと言うならやるんだけどさ……。

 

「今日は特別ゲストだ! 最近何かと話題の魔女さんに来てもらったぞ!」

 

 あ、わたしの紹介になった。後藤さんが目配せしてくる。これが合図で、カメラの前にわたしが出ることになってる。カメラの前、というか後藤さんの隣に。

 ど、どうしよう。緊張してきた……! え、本当に行かないといけないの? やっぱりやめた方がいいんじゃない? わたしなんか見ても、何も楽しくないよ?

 

『誰も出てこないw』

『やっぱり釣りかな?』

『後藤さん、それはないわあ』

 

「あ、あはは……」

 

 ちらちらと、後藤さんがこっちに視線を送ってくる。でもそれは、急かすようなものじゃなくて……。わたしを心配してる視線だった。

 本当に、後藤さんは優しい。きっと怒られるのは後藤さんなのに、それでもわたしを心配してくれてる。きっとここで断っても、後藤さんなら許してくれると思う。

 でも、それはだめだよね。

 

――菜月。やっぱりやめる?

――いく。

――よし、がんばれ!

 

 リーナと陽葵の言葉に背中を押されて、わたしは後藤さんの隣に立った。

 

『うおおおおお!?』

『マジで魔女さんだ!』

『すげえ、マジでこてこての魔女衣装だwww』

 

 わ、わあ……。たくさんの声が流れてくる……。えっと、えっと、どれに反応すれば……。

 わたしが内心で慌てていると、後藤さんがすぐに助け船を出してくれた。

 

「魔女さんはちょっと人見知りで、シャイなんだ。あまり発言がなくても怒らないでくれよ」

 

『シャイwww』

『今時シャイなんて聞かないぞw』

 

「う、うるさいな!」

 

 あ、あれ? これ、助け船じゃなくない? むしろ突き落とされてない?

 

『本当にセーラー服の上にローブ着てるw』

『やっぱ魔女さんは学生かな?』

『よくある制服だから学校までは特定できねーなこれ』

 

 特定って……。そんなこと考えてる人とかいるの? 本当にやめてほしい。幸い、視聴者さんが言うように、よくある制服だから分からないだろうけど。

 

「すでに始まっちゃってるけど、最初は魔女さんへの質問コーナーだ。ただ、魔女さんには答えたくない質問には答えなくていいって伝えてるから、そのつもりでね」

 

『あいあい』

『ありきたりすぎない?』

『まあダンジョンでできることって限られるから』

『てかこんなとこで質問とかやってていいのかよw』

 

 こんなとこ……。ああ、そっか。ダンジョン内、だもんね。魔物に襲われたりとか気にしてくれてるのかも。

 でも、その辺りは心配ない。ここには、六層で活動している冒険者が三人もいるんだから。いやわたしと陽葵は昨日からだけど。

 

「質問コーナーの間に魔物が来たら俺が処理するから。あとは適当にどうぞ」

「え」

 

『え』

『丸投げwww』

『一文字だったけどかわいい声!』

 

 わたし一人でやるの……? いや、でも、質問コーナー、だからね。大丈夫、のはず。とりあえず、答えられる質問に答えよう。

 

『魔女さんお名前なんですか!』

 

「…………」

 

『いきなり黙秘www』

『恥ずかしいから答えられない、とかじゃないよな?』

『配信で本名名乗るやつの方がすくねーだろw』

 

 さすがに本名は答えられない。学校で何を言われるか分かったものじゃないし、他にも魔法のことで調べられたりとかいろいろありそう。

 ギルドはわたしの素性を知ってるけど、あそこはしっかりと情報を隠してくれるからね。それ以外では出したくない。

 

『いろんな魔法が使えるとかマジですか?』

『あー。そんな噂あったな』

『魔女さんが魔女さんって呼ばれる所以だっけ』

『回復魔法も攻撃魔法も使えるとか!』

 

 それは……。うん。隠してないから、大丈夫。探索者の人には知ってる人も多いし。頷いておこう。

 

『おー!』

『マジかよすげえ』

『しかもどれもほどほどに使えるって噂じゃん?』

『魔女さんマジで魔女!』

 

 もはや意味が分からないよ?

 

『魔女さんはソロでダンジョンに潜ってるってマジ?』

『後藤の配信に出てるってことは、ソロで六層!?』

『バケモンかな?』

 

 それはちょっと失礼だと思う。後藤さんだってソロだし、もっと奥に潜る冒険者の人たちだって、六層ぐらいならソロで狩れると思うから。

 それに。そもそも今は、ソロじゃない。

 

「パーティ……組み、ました」

 

『魔女さんの声!』

『かわいい!』

『いやそれよりも! パーティ!? マジで!?』

 

「まじ、です」

 

『なぜちょっと誇らしげw』

『どやあ』

『パーティが当たり前なんですがw』

 

 わたしからすれば、パーティを組めるなんて思ってなかったからすごいことなんだよ! わたし、がんばった! リーナが笑っている気配が伝わってくるけど、とにかくがんばった!

 

『で。そのパーティメンバーは?』

『もしかして……エアメンバー!?』

『幽霊メンバー!?』

『お前らwww』

 

 え、なんでそんな扱いなの? エアとか幽霊とか……。ちゃんと、いるよ?

 陽葵へと振り返る。うずくまって地面を叩いて笑ってる。怒るよ?

 

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