コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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36 釣り

 

『泉に到着したわけですが』

『無慈悲に虐殺された狼さんの数を数えよ』

『いっぱい!』

 

「わたし、もしかして……ケンカ売られてます……?」

「あはは……」

 

 泉への移動中、当然のように狼たちが襲ってきたんだけど、いちいち足を止めるのも面倒だからわたしがさくっと倒してさくっと魔石を回収した。

 それがなんだか視聴者さんにはうけたみたいで、みんな最初は楽しそうにしてくれていたんだけど……。いつの間にか、怖がるようなコメントが増えていました。なんで?

 

「わたし、がんばってただけなのに……」

「むしろがんばらない方が良かったと思う」

「え」

 

『そんなご無体な』

『言いたいことはとても分かる』

『魔物に同情する日が来るとは思わなかったよ』

 

 ええ……。そんなにひどいことはしてないと思うんだけどなあ……。

 泉に到着してやることは、もちろん釣り。釣り竿とエサは後藤さんのものを使わせてもらえることになった。

 でも、ダンジョンでの釣りって何が出てくるのかな。魚の魔物とか釣れたりしない?

 

「釣れるものは魔物じゃないですよ。ただ、地球にいる魚でもないですけど」

「え……。それ、魔物では……?」

「殺しても魔石にはならないので。それに、魔物ほど凶暴でもないですし」

 

 後藤さんが言うには、魚を釣ってもその魚に襲われるということはないらしい。その場で食べるために切っても、魔石になったりせずにちゃんと食べられるのだとか。

 ただし、魚について研究されたわけじゃないから、安全面は保証しかねる、とのこと。ギルド側でも魚を食べる時は自己責任と周知しているのだとか。わたしは聞いたことがなかったけど。

 

「そういえば、あたしは動物が捕れる場所もあるとか聞いたことがあるな」

「え、なにそれ」

「なにそれって……。そのまま。あたしも噂でしか聞いてないけど、襲ってこない動物がいて、倒しても魔石にならなくて、実際に食べられそうだって。食べなかったらしいけど」

「おー……」

「ちなみに見た目はウサギだそうだ」

「ウサギ……」

 

 ウサギ。ダンジョンは月に繋がってる。そんなダンジョンの、ウサギ。それってつまり、いわゆる月のウサギなのでは? 月でお餅をついてそう。

 

――どうなの?

――ノーコメント。

 

 こういう時はリーナに聞いた方が早いと思ったけど、残念ながら教えてくれなかった。でも、教えてくれなかったことが答えなのでは……なんて思ったり。

 釣り針にエサを取り付けて、釣り竿を振る。やり方は後藤さんに教えてもらった、けど……。

 

『目の前www』

『不器用かw』

『かよわいいきもの?』

『魔法使いは筋力がないもんだからw』

 

「…………」

 

 怒ってもいいよね? だめかな? いや、事実なんだけどね? 確かに目の前に落ちたけどね? 勢いよく投げたつもりなのに、ぽちゃんって目の前に落ちたけどね?

 

「むう……」

「あはは……! 魔女はへたくそだな!」

「そう言うなら剣士がやってよ!」

「いいぜ、任せろ」

 

 釣り竿を陽葵に渡す。陽葵はにやにやしながらそれを受け取って、慣れた様子で釣り竿を振った。わたしと違ってしっかり飛んで、泉の真ん中あたりに落下。

 

「どうよ」

「…………」

 

 とりあえず、そうだね。

 

「燃やしたい」

「なにを!?」

 

『魔女さんwww』

『悔しいからって相棒を燃やそうとすんなw』

『これが魔女のパワハラかw』

 

 だって、納得できないよ。陽葵は釣りをやったことがあるの? あるんだよね、それで得意なんだ。きっとそうだ。

 

「釣りはあたしも初めてだぞ」

「…………」

 

『やめたげてよお!』

『無慈悲な追い打ちw』

『でも初めてでそれなら普通にうまいのでは』

 

 初めてで、そんな上手なわけがないと思う。きっと何か秘密が……。

 

「いや、運動神経じゃないか? 魔女は学校でもぼっちのもやしっ子だし」

「うぐ……」

 

『やっぱ学生なんか。しかも同級生?』

『ぼっちwwwもやしっ子www俺かな?』

『もやしっ子なんていつの時代の言葉だよ』

 

 運動神経だと言われると、わたしはもう何も言えない。動体視力とか、良さそうだもんね。わたしは正直、あまり自信がない。魔法がなかったら小学生にも負けると思う。

 

「わたしも……今はぼっちじゃない……。ともだち、いるから……」

「あたしをカウントしなかったら?」

「…………。後藤さんとか」

「俺!?」

 

 いや、その……。こうして、わざわざ約束して会うんだから、友だちだと思う。友だちじゃなかったら、そんな待ち合わせとかしないはずだから。

 だから、後藤さんとは友だちだ。間違いない。

 

「どうしてこうなるまで放っておいたんですか」

「あたしに言うなよ。家庭環境だろ」

「重たくて何も言えないんだけど!?」

 

『家庭環境はマジの地雷っぽくて触れられない』

『ええやんけ。女子高生?の友だちやぞ。羨ましい。死ね』

『処す? 処す?』

 

「おまえら……」

 

 わたしは釣りには不向き。とりあえず、これで納得した。もうそれでいい。

 ちょっと離れて、景色を楽しむことにする。陽葵がちょっと言いすぎたのかと心配そうに見てくるけど、別に怒ってないから大丈夫だよ。

 むしろ、お魚を早く釣ってほしい。食べたいから。

 ちょっと離れて、座って一休み。休むほど何かしたつもりはないけど……。魔物を倒していたのは私だから、その分とういことで。

 

「いい景色だね」

――そうね。

 

 なんとなしに呟いたら、リーナから返事があった。こういうときに相棒がいるのはちょっと嬉しい。

 泉の水はとっても綺麗に澄んでいて、魚がはっきりと見えるぐらい。泉の周りにはいろんな木があって、木の実もたくさんだ。後藤さんが言うには、あの木の実も食べられるのだとか。当然、自己責任だけど。

 そしてこの辺りは不思議なことに魔物に襲われないらしい。実際に、ちょっと離れた場所で狼が水を飲みに来てたけど、こっちを一瞥しただけで襲ってくることはなかった。

 不思議な場所、だよね。休憩場所にはちょうどいいけど。他の探索者さんもちらほら見かけるし。

 

「あとはお魚だね。美味しいのかな。月の魚なの?」

――多分、そうね。日本の魚も美味しいけど、月の魚もなかなかよ。

「楽しみだなあ」

 

 早く釣ってほしいね。わくわくしてくるよ。

 

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