コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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38 月の人

 でも、あの子の場合は……。

 

「パーティメンバーが、いない?」

 

 わたしがそう聞くと、お姉さんが苦々しそうな顔で頷いた。

 

「その通りです。それどころか、あの者のデータすらこちらにありません。わたしたちギルド職員の誰も、彼女のことを知らないのです」

「はあ? お前らの怠慢ってことか?」

「ちょ……」

 

 陽葵はもうちょっと言葉を選ぶべきだと思う。でも……言いたい気持ちも、分かる。

 ダンジョンに入るためには、必ずギルドを通る必要がある。だから、ギルド職員が知らない探索者なんて、普通はあり得ないはず。

 ダンジョンの入口も常に管理されてるから、無断で入ることなんてできないはずなんだ。

 それこそ。ダンジョンに直接出現でもしない限り。

 

「ひとまず、救助報酬として、ギルド側からそれぞれ十万円お支払い致します。相場よりもかなり少ないとは思いますが……」

「ああ、いえ……。わたしは、十分です」

「あたしも。後藤さんは?」

「いやあ……。六層の救助としては本当に安すぎるけど……。ぶっちゃけ、俺何もやってないから……。お二人が何も言わないのなら、何も言えない……」

「いや後藤さんは釣ったじゃん! それ言ったらあたしもだからな! 魔石拾ってただけだからな!」

「つまり魔女さんが頷くなら文句はないってことで」

「あう……。あ、あの……。もうちょっと増額を……」

「え!? ま、待った魔女さん! 別に増額してほしいってわけじゃなくてだな……!」

 

 なんだか変なやり取りの結果、一人十五万円、ということになった。ちょっとだけ増額だ。臨時収入、だね。美味しいものを食べよう。

 とりあえず、お金を受け取ってこれで終わり、なんだけど……。

 

「もう一度確認しますが、皆様にあの子について心当たりはありませんね?」

 

 お姉さんの質問に、わたしは思うところがありつつも頷くしかなかった。

 

 

 

 後藤さんと別れて、自宅に帰って。なぜか陽葵も一緒についてきた。

 

「それで? 何を隠してんだよ」

「えぅ……」

「変な声出すな」

「いたい!」

 

 チョップはやめてほしい! わりと痛いんだから!

 

「わたしは、知らないよ」

「てことはリーナか」

「うん」

――あー……。

 

 リーナのうめき声みたいなのが聞こえてくる。まさか、誤魔化せてるとか思ってないよね? 思ってたのなら、さすがにちょっと正気を疑うよ。怪しさしかなかったんだから。

 陽葵には家に上がってもらって、カフェオレを用意する。そう、カフェオレだ!

 なんと、わたしの部屋には冷蔵庫が設置されました! ちっちゃいけど、ちょっといい冷蔵庫! 冷蔵庫の中にはいろんなジュースやカフェオレ、ココアまで入ってる! なんて贅沢! すごい!

 

「うふふ……」

「うわあ……」

――菜月。冷蔵庫の中を見て笑うのはやめなさい。陽葵がどん引きしてるから。

「はっ!?」

 

 そ、そうだよね。さすがに気持ち悪いよね。気をつけよう。

 コップにカフェオレを注ぐ。それを陽葵に差し出した。

 

「どうぞ」

「どうも」

 

 二人でカフェオレを飲む。とりあえず、一息。

 

「さて、リーナ」

「きりきり吐け」

――ぬぐぅ……。

 

 リーナはまだ唸っていたけど、わたしたちに引く気がないのを察したのか、小さくため息をついて答えてくれた。

 

――私の知り合いね。間違い無く、月の住人よ。

「うわあ……」

「やっぱりかよ……」

 

 リーナの反応からして、そうじゃないかとは思ってた。でも本当に、月の住人だなんて……。

 

「ということは、やっぱりリーナを追ってきたってこと?」

「敵、か?」

――さあ?

「ええ……」

 

 リーナが言うには、リーナにもよく分からない、とのこと。出会った頃に教えてもらった通り、リーナを狙って来たのならあまりにも遅すぎる。それに。

 

――月の魔法は強力よ。六層程度で死にかけるはずがないでしょ。

「あー……」

 

 しかも、何故か泉に沈んでいたという状況。確かに意味が分からない。何があったら泉に沈むことになるのやら。

 

――あとね……。

「まだあるの?」

――あの子、あんなに小さいはずがない。いい年したおばさんになってるはずなんだけど……。

「え……」

 

 リーナの幼馴染み、らしい。リーナの理解者で、かつリーナの研究を止めようとしていた人。そのことについてリーナは別に怒ってもいないし、当然だと思うらしい。

 

「その幼馴染みの子供、とかか?」

――ないない! 絶対ない! あり得ないから!

「めちゃくちゃ失礼なこと言ってる……」

 

 その幼馴染みさんに怒られてもリーナは文句言えないからね?

 ともかく。月の住人というのは分かるけど、リーナにとっても謎が多すぎていまいちはっきりと言えない、とのこと。

 ちょっと困った。月の住人の時点でリーナ関係なのは間違いないと思う。でも、この後どうなるか分からないから、どうすればいいのかも分からない。

 リーナを狙ってきたのなら……。わたしは、戦うしかない、かも。だって、リーナを殺すということは、わたしも殺されるということだから。死にたくはない、かな。

 

「菜月」

「なに?」

「あいつと戦う必要があるなら、言えよ。あたしも力になるから。殺し合いでも……やってやるよ」

 

 殺し合い。そういうことに、なるのかな? 話し合いで解決できればいいけど……。でも、わたしも覚悟をしておこう。もしもの時は……やるしかない。

 

「菜月。震えてるぞ」

「陽葵こそ」

 

 わたしたちはそう言って、お互いに苦笑いを浮かべた。覚悟なんて、できるはずがない。

 

――…………。

 

 ただ、何も言わないリーナだけが不安だった。

 




ここまでが第四話、のイメージです。
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