でも、あの子の場合は……。
「パーティメンバーが、いない?」
わたしがそう聞くと、お姉さんが苦々しそうな顔で頷いた。
「その通りです。それどころか、あの者のデータすらこちらにありません。わたしたちギルド職員の誰も、彼女のことを知らないのです」
「はあ? お前らの怠慢ってことか?」
「ちょ……」
陽葵はもうちょっと言葉を選ぶべきだと思う。でも……言いたい気持ちも、分かる。
ダンジョンに入るためには、必ずギルドを通る必要がある。だから、ギルド職員が知らない探索者なんて、普通はあり得ないはず。
ダンジョンの入口も常に管理されてるから、無断で入ることなんてできないはずなんだ。
それこそ。ダンジョンに直接出現でもしない限り。
「ひとまず、救助報酬として、ギルド側からそれぞれ十万円お支払い致します。相場よりもかなり少ないとは思いますが……」
「ああ、いえ……。わたしは、十分です」
「あたしも。後藤さんは?」
「いやあ……。六層の救助としては本当に安すぎるけど……。ぶっちゃけ、俺何もやってないから……。お二人が何も言わないのなら、何も言えない……」
「いや後藤さんは釣ったじゃん! それ言ったらあたしもだからな! 魔石拾ってただけだからな!」
「つまり魔女さんが頷くなら文句はないってことで」
「あう……。あ、あの……。もうちょっと増額を……」
「え!? ま、待った魔女さん! 別に増額してほしいってわけじゃなくてだな……!」
なんだか変なやり取りの結果、一人十五万円、ということになった。ちょっとだけ増額だ。臨時収入、だね。美味しいものを食べよう。
とりあえず、お金を受け取ってこれで終わり、なんだけど……。
「もう一度確認しますが、皆様にあの子について心当たりはありませんね?」
お姉さんの質問に、わたしは思うところがありつつも頷くしかなかった。
後藤さんと別れて、自宅に帰って。なぜか陽葵も一緒についてきた。
「それで? 何を隠してんだよ」
「えぅ……」
「変な声出すな」
「いたい!」
チョップはやめてほしい! わりと痛いんだから!
「わたしは、知らないよ」
「てことはリーナか」
「うん」
――あー……。
リーナのうめき声みたいなのが聞こえてくる。まさか、誤魔化せてるとか思ってないよね? 思ってたのなら、さすがにちょっと正気を疑うよ。怪しさしかなかったんだから。
陽葵には家に上がってもらって、カフェオレを用意する。そう、カフェオレだ!
なんと、わたしの部屋には冷蔵庫が設置されました! ちっちゃいけど、ちょっといい冷蔵庫! 冷蔵庫の中にはいろんなジュースやカフェオレ、ココアまで入ってる! なんて贅沢! すごい!
「うふふ……」
「うわあ……」
――菜月。冷蔵庫の中を見て笑うのはやめなさい。陽葵がどん引きしてるから。
「はっ!?」
そ、そうだよね。さすがに気持ち悪いよね。気をつけよう。
コップにカフェオレを注ぐ。それを陽葵に差し出した。
「どうぞ」
「どうも」
二人でカフェオレを飲む。とりあえず、一息。
「さて、リーナ」
「きりきり吐け」
――ぬぐぅ……。
リーナはまだ唸っていたけど、わたしたちに引く気がないのを察したのか、小さくため息をついて答えてくれた。
――私の知り合いね。間違い無く、月の住人よ。
「うわあ……」
「やっぱりかよ……」
リーナの反応からして、そうじゃないかとは思ってた。でも本当に、月の住人だなんて……。
「ということは、やっぱりリーナを追ってきたってこと?」
「敵、か?」
――さあ?
「ええ……」
リーナが言うには、リーナにもよく分からない、とのこと。出会った頃に教えてもらった通り、リーナを狙って来たのならあまりにも遅すぎる。それに。
――月の魔法は強力よ。六層程度で死にかけるはずがないでしょ。
「あー……」
しかも、何故か泉に沈んでいたという状況。確かに意味が分からない。何があったら泉に沈むことになるのやら。
――あとね……。
「まだあるの?」
――あの子、あんなに小さいはずがない。いい年したおばさんになってるはずなんだけど……。
「え……」
リーナの幼馴染み、らしい。リーナの理解者で、かつリーナの研究を止めようとしていた人。そのことについてリーナは別に怒ってもいないし、当然だと思うらしい。
「その幼馴染みの子供、とかか?」
――ないない! 絶対ない! あり得ないから!
「めちゃくちゃ失礼なこと言ってる……」
その幼馴染みさんに怒られてもリーナは文句言えないからね?
ともかく。月の住人というのは分かるけど、リーナにとっても謎が多すぎていまいちはっきりと言えない、とのこと。
ちょっと困った。月の住人の時点でリーナ関係なのは間違いないと思う。でも、この後どうなるか分からないから、どうすればいいのかも分からない。
リーナを狙ってきたのなら……。わたしは、戦うしかない、かも。だって、リーナを殺すということは、わたしも殺されるということだから。死にたくはない、かな。
「菜月」
「なに?」
「あいつと戦う必要があるなら、言えよ。あたしも力になるから。殺し合いでも……やってやるよ」
殺し合い。そういうことに、なるのかな? 話し合いで解決できればいいけど……。でも、わたしも覚悟をしておこう。もしもの時は……やるしかない。
「菜月。震えてるぞ」
「陽葵こそ」
わたしたちはそう言って、お互いに苦笑いを浮かべた。覚悟なんて、できるはずがない。
――…………。
ただ、何も言わないリーナだけが不安だった。
ここまでが第四話、のイメージです。