コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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40 初詣

 

 朝。わたしは日の出の少し前に目を覚ました。目覚ましは偉大な発明だと思います。

 

「リーナ! リーナ!」

――朝から元気ね……。どうしたのよ。

「初詣に行こう!」

――好きにすればいいじゃない……。

 

 わあ……。すごく眠たそうな声だ。リーナに眠気があるのかは分からないけど。わたしも実はかなり眠たいから、そのままリーナにも伝わってしまっているのかも。

 でも。それでも! 今回ばかりは譲りたくない!

 

「友だちと行ける初めての初詣だから……」

――…………。なにをしているのよ。早く準備しなさい。

「うん!」

 

 リーナの許可ももらえたので、早速準備だ。といっても、持っていくものは特にない。最近厚みが増したお財布ぐらい。身軽でいいけれど。

 服装は、いつもの学校指定のセーラー服に魔女のローブ。月の魔法がかかっていて、暑さ寒さをほとんど感じない。だからずっと愛用してる。

 

――もっとこう……おしゃれとか……。

「服を買ったら、魔法をかけてくれる?」

――めんどくさい……。

「だったら今のままでいいかなあ……」

 

 わたしはおしゃれよりも快適性だ。そして今の服装に勝るものがない。悪いのはリーナの魔法。だからわたしは悪くない。

 

――でも、さすがにその服装で初詣は目立たない?

「目立つだろうけど、そこまででもないよ」

――なんで……?

 

 理由は、行けば分かる。

 というわけで、初詣に、最寄りの神社に出発。せっかくだから初日の出も見たいね。

 通り道には商店街もある。日の出前とか普段なら店は閉まってるんだけど、今日ばかりは活気にあふれていた。それもそのはずで、神社に向かう時にここを通る人が多いから。

 つまりは、商機。新年から稼ぐためにたくさんのお店が開いてる。

 そして当然、わたしに声をかけてくる人も……残念ながらいなかった。

 

――ローブで通るのは初めてだからね。

――だねー……。

 

 わたしはいつもギルドで着替えてる。だから、商店街をこの服装で通るのは初めて。フードを目深に被ってるし、誰もわたしとは分からないはず。

 それに……。わたしがそこまで目立っているかというと、きっとそこまででもないと思う。

 理由は単純で、これから向かう神社に参拝するのは、探索者が多いから。

 

――そうなの?

――そうだよ。

 

 ダンジョンが出現した山に、ダンジョン出現よりも以前からあった神社だ。ダンジョン出現後は立ち入り禁止区域でしばらく手つかずだったらしいけど、今はもう誰でも入れるようになっている。

 そんな、ダンジョン発生から生き残った神社だからか、探索者はご利益にあずかろうと参拝する人が多いらしい。

 

――菜月は今まで行かなかったみたいだけど?

――んー……。神様を信じてないわけじゃない、というより、わたしは神様を信じてるんだけど、どうしてかあれはまた違うかなと思っちゃって……。

――どうして?

――なんとなく。

 

 自分でも説明できない不思議な感覚だ。なんとなく。本当に、なんとなく。あの神社の神様は違うって。わたしが会った神様は……。

 …………。あれ? 会った? 何と? うん? あれ?

 

――どうしたの?

――んと……。なんでもない……。

――そう?

 

 なんだか、頭の中にもやがかかったような、そんな感覚。よく、分からない。

 自分の身に起きた現象に首を傾げながら、わたしは神社に向かって歩いて行った。

 

 

 

 神社は山の中にあるけど、敷地は広いとは言えない。というより、はっきり言って狭い。出店の類いはまず出店できないぐらいには。

 だからか、初詣でよく見かける出店は、山の麓、神社への階段前の道にずらっと並んでる。店の数はわりと多い、かな?

 

「お店多いね」

――わあ! わあ! わあ!

 

 あまり乗り気じゃなかったリーナも、出店にはとても興奮してる。ただその理由は、あまり見ない食べ物にあるみたいだけど。

 

――菜月! なにあのふわふわの食べ物!

「わたあめ、だね。甘くて美味しいよ。ふわふわもしてる……らしい」

――あれは!?

「りんご飴。なんて言えばいいかな……。丸ごとのりんごをあめでコーティングしてる……らしい」

――じゃあ、あれ!

「ベビーカステラ。小さいカステラ……らしい」

――全部伝聞じゃないの!

「食べたことないんだよ!」

 

 わたしだって自分で食べていたら自分の感想を伝えたけど、残念ながらお祭りのお菓子はどれも食べたことがない。お金もなければ、一緒に行く相手もいなかった。一人で行くお祭りなんて、寂しいだけだよ。

 

――…………。ごめん。

「いや、いいんだけど……」

 

 あまりいい思い出ではないけど……。今は、リーナがいる。それで十分。

 参拝よりも食べ物を先にした方がいいかも、なんてリーナの反応から思ったりもしたけど、それよりもまずは参拝を、ということになった。これはわたしから言ったわけじゃなくて、リーナから。食べ物に夢中になってしまいそうだから、だって。リーナらしい。

 それに、食べ物なら後ででも大丈夫だからね。三が日はずっと出店があるだろうし。参拝は今のうちにやっておかないと、時間が経つにつれどんどん混雑していくから。

 出店がある道を通り、神社に繋がる階段を上り始める。一般の人も多いけど、探索者の方がもっと多いちょっと不思議な状態だ。

 階段を上り終えて、鳥居をくぐって……。そうして、神社にたどり着いた。

 

――へえ……。ここが神社。

――うん。あそこの水で手とか清めて、参拝。お願いごともね。

――お願い事……。美味しいものが食べたい。

――あはは。

――やめて。冗談だからそんな生暖かい感情を向けないで。

 

 いや、わたしはいいと思うよ。美味しいものは大事。モチベーションにも繋がることだから。

 手を清めて、参拝の列に並ぶ。鈴が一つしかないからか、列の進みは遅いけど、それでもゆっくり確実に進んでる。

 そうして、ようやくわたしの順番になった。お賽銭を投げ入れて、鈴を鳴らして……。

 

――この鈴、何の意味があるの?

――え? さあ……。水と同じじゃないかな。祓い清める、みたいな?

――ふうん。

 

 正直、わたしもあまり分からない。でも多分、そんな意味だと思う。

 次に、二回ほど頭を下げて、二回手を叩く。そうして、お願い事。

 

――これからもリーナと一緒に過ごせますように。

――菜月が健康でありますように。

 

 いや……。あの……。

 

――リーナさん?

――菜月が病気になると私も苦しいでしょうから。菜月だって恥ずかしいこと言ってるじゃない。

――だって……。今更もう、リーナがいない生活なんて考えられないから……。

――…………。

――あれ? 照れてる?

――うるさい!

 

 なんだろう。わたしの相棒がとてもかわいい。あまりからかうと怒られそうだからこれ以上は言わないけど、ちょっとだけいい気分だ。

 最後に二回頭を下げて、参拝は終わり。階段を下りる前におみくじを買っておこう。

 おみくじを買うのは実は初めてだったりする。大吉だったら嬉しいけど……。

 

「ええ……」

――大凶、ね。これはいいの?

――ものすごく悪い。

 

 大凶なんて大吉以上に引かないだろうから、むしろレアかもしれない。詳細もいろいろ書いてるけど、気をつけて生活すれば運気は良くなる、と書かれていた。何に気をつければいいのか、これが分からない。

 

――どうせランダムで出てくる紙でしょう? 気にしても仕方ないわよ。

――それはまあ、そうなんだけど……。

 

 でも、なんだろう。失せ物、見つからず。探し人、失う……。これが、妙に気になってしまった。

 

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