気を取り直して。ご飯だ。
階段下の道に戻ってきた。リーナはもうそわそわしっぱなしだ。リーナの希望を聞いて選ぼうと思ったけど、この様子だと待っているといつまでも決まらない気がする。
希望が出てくるまではわたしが勝手に決めよう。とりあえず、わたあめから。
「一つください」
「まいどあり!」
アニメのキャラクターが描かれた袋に入ったものも買えるんだけど、この出店は目の前で作ってもらうこともできるみたいで、今回は後者にしてもらった。
わたあめ機に素を投入。お店の人が割り箸をくるくる回すと、わたあめがすぐにまとわりついてくる。その様子が、見ていておもしろい。わたあめってこんな感じで作るんだね。
――なにこれ。どうなってるの?
――えっと……。さあ?
さすがに興味がなかったかな。一応、理科の授業で何か聞いた覚えがあるけど……。その程度だ。はっきり覚えてない。
とりあえず食べよう。一口、はむり。
――わあ……。これは、砂糖ね? すごい、口の中で溶けちゃってる……。すごい!
――おー……。こんな感じなんだ。美味しいね。
――もっと! もっと!
――はいはい。
もぐもぐはむはむ。がつんと来る甘さじゃなくて、ちゃんと食べられる甘さだ。薄い糸みたいになってるから、かな? ふわふわで食感がとてもいい。
他にもいろいろと食べ歩き。りんご飴、ベビーカステラ、焼きそば……。
――菜月! 菜月! 焼きもろこしが気になる!
「う……。り、リーナ……。本当に次で最後にしてね……。おなか、いっぱい……」
リーナに付き合っていたらよくあること。限界まで食べさせられる。この満腹感も共有しているわりには、リーナはずっと食べたがる。くるしい。
焼きもろこしは、文字通り焼いたとうもろこし。醤油をぺたぺたして、じっくりと焼いていく。醤油の焼ける香ばしい香りを周囲にまき散らしていて、なかなか暴力的だ。リーナも食べたくなるわけだ。
一本購入して、早速食べる。うーん……。満腹感は確かにあるけど、やっぱり美味しいものがあるとついつい食べてしまう。
――とうもろこしの自然な甘さに、醤油のあまじょっぱさがマッチしているわね……。ああ、美味しい……。とても、いいもの!
――あはは……。リーナが喜んでくれたなら、嬉しいよ……。
正直、わりと限界。食べ終わったら、次を言われる前に移動しよう。
次を言われても移動すればいい、なんて思われそうだけど、わたしはリーナのおねだりには勝てないから。わたしが食べたいと思うものも多いからね。
焼きもろこしを食べ終えて、ゴミをゴミ箱に捨てて、その場から離れる。リーナはちょっと残念そうにしてるけど、明日また来るようにするから我慢してほしい。
それじゃあ……。ギルドに行こう。昨日助けたあの子が起きているかもしれないから。
元旦のギルドはいつもと違って、閑散としていた。普段ならいつも人が並んでる受付にも誰もいない。受付の中にいる人も一人だけだ。
これには理由があって、ギルドが三が日を休むから。三が日にダンジョンに入ることを禁止してる。三が日ぐらい休め、ということなんだと思う。
ただ、休むといっても人がいなくなるわけじゃない。というのも、元旦までにダンジョンから戻ってこられない人は当然いるから。そういった人たちのために、医務室にも担当の人が必ずいる。
受付の人に医務室に向かうことを告げて、その部屋へ。ダンジョンで誰かを助けた時にここに連れてくるから、わたしの顔、というより風貌は覚えられてしまっていた。
「ああ、魔女さん。ようこそ」
「あの……。その……」
「ふふ……。落ち着いて、ね?」
「あ、はい……」
――これが探索者で話題の魔女の姿です。
――変なこと言わないで……。
自分でも情けないとは思ってるけど、こればかりはどうしようもない……。
「あの……。昨日の、子……」
「まだ眠ったままです。検査では健康そのものなんですけどね……。会っていかれます?」
「は、はい……!」
そうして案内された先は、医務室でも個室になっている場所。重症な人とかのための部屋だ。その部屋の一つに、昨日助けた銀髪の子が寝かされていた。
個室はとてもシンプル。大きめのベッドに、医療関係の機械がいくつか置かれてる。一応、心拍数とかもチェックしてるみたいで、ぴっぴっと機械から音がしていた。
――ドラマでよくあるやつ。
――家にテレビがないのにどこで見てるの?
――商店街のテレビで見かけるわよ。
よく見てるなあ……。リーナが見ているならわたしも見ているはずなのに、全然分からない。
ベッドに近づいて、顔をのぞき込んでみる。今も整った寝息を立てていて、本当にただ眠っているみたい。体を揺すったら起きそう。
「ギルドでも調べたのだけど、この子の情報が何もないのよ。魔女さんは知らない?」
「その……。すみません……」
「ああ、ごめんなさい。一応聞いてみただけだから。知っていたら教えてくれてるよね」
でも、誰も分からないだろうな、というのは思う。きっとリーナの、月の関係だから。
「それじゃあ、帰る時はまた声をかけてね」
そうして、わたし一人になった。いや、わたしと、このずっと眠っている子だけ。
さて、どうしよう。リーナは何か調べたかったりするかな?