――気になることはあるけど……。この国の言葉にあるでしょう。触らぬ神になんとやら、よ。
「リーナはそれでいいの?」
――もしもこいつの話を聞いたら、私は怒るかもしれないから。
「なんで……?」
どういう理屈でそうなるのかと聞きたいけど……。リーナがそう言うなら、やめておこう。とりあえずわたしももう帰ろうかな。リーナはもう、この子と関わりたくないみたいだし。
そうしてわたしが踵を返すのと、わたしの手首が掴まれたのは同時だった。
「は……?」
慌てて、振り返る。眠っていた女の子が、目を大きく開いてわたしの手首を掴んでいた。
「……っ!」
手を振り払おうとして……、できない。いや、力がすごく強い……! 身体強化を……しても無理!? この子も身体強化を使ってる!
――菜月!
リーナの慌てたような声にはっと顔を上げれば、女の子がこっちに飛びかかってくるところだった。
「あ……」
まずい。避けられない。結界は……反応しない!? なんで!?
そうして、気付けばわたしは女の子に押し倒されていた。
「ああ……。やっと、会えた……」
「え……」
「探していました……! リーナ様!」
「は?」
リーナを、知ってる……? じゃあ、やっぱりこの子は月の人みたいだけど……。月の人ということは、リーナを捕まえに来た、人……?
そこまで考えて、わたしは反射的に魔法を使っていた。風の魔法で相手を吹き飛ばす。女の子は驚いた様子もなく、ベッドの上に着地した。
壁際まで距離を取って、女の子を見据える。心臓がばくばくとうるさい。
どうしよう。月の人が相手となったら……。わたしの魔法は、アドバンテージにはならないかもしれない。むしろ、オリジナルはあっちだ。わたしは、あくまでわたしが使えるものをリーナに教えてもらっただけだから。勝ち目があるとは思えない。
どうしようどうしようどうしよう……!
――菜月。落ち着いて。
――リーナ?
――まずは、対話。追っ手なら、泉に沈んでいたのはおかしいから。
――それはまあ確かに……。追っ手じゃなくてもおかしいけど……。
――まあね!
でも……。うん。そうだね、落ち着いて、まずは話し合いだ。追っ手かどうかも分からないんだから。
女の子はずっとこっちを観察してる。その目が、ちょっと怖い。
「あなた……。リーナ様じゃないの?」
「え……。ち、違うよ。わたしは、菜月」
「あり得ない。だって、その体はリーナ様のものじゃない!」
「え……?」
リーナの、体? 何を言ってるの?
「リーナ様の子供の頃とほぼ同じ体! 違うのは、髪や瞳の色だけ!
いや……。いや。あり得ない。だって、わたしは、ちゃんと日本人として生まれたわけで……。あまり会わないけど、両親だってちゃんといるし……。
――り、リーナ? これ、どういうこと?
――…………。あの子が勘違いするのも無理はないぐらい、似ているわよ。
――そ、そうなんだ……。えっと、あの……。
――心配しなくても、菜月は菜月よ。その体は、菜月の体。
――う、うん……。
リーナにそう言ってもらえたら、ちょっと安心する。わたしは小さく深呼吸して、女の子に視線を戻した。
「この体は、わたしの体だよ。間違い無く。リーナだって、そう言っているから」
「リーナ様が……? まさか……。お前の中に、リーナ様がいるの!? 魂が二つってこと!?」
「そんなところ、だけど……」
分かってもらえたかな? あ、いやだめだ。ものすごく怒ってる。すごく睨まれてる。こわい。
――私だって気になることがあるのよ。聞いてもらっていい?
――あ、うん……。そのまま、伝えていくよ。
――よろしく。
リーナの知り合いなら、リーナが話した方がいい。私が自分の意志でリーナに体を預けられたらいいんだけど、今はまだわたしが寝ないとできない。
「あの……。リーナが話したいらしいから……。リーナの言葉をそのまま伝える。いい?」
「構わないけど、それなら体を譲りなさいよ。直接話したいのだけど」
「寝ないといけないから……。今は眠くないし……」
「…………」
あ、すごく呆れられた。なにそれ、みたいな顔されてる。面倒だとは思うけど、ちょっと我慢してほしい。
「まあ、いいけど。それで?」
「うん……。あなたの名前を教えてほしい。予想はつくけど、確認のため」
「レフィ」
「えっと……。あり得ない? どうして、生きてる……? え、なにこれどういうこと?」
「魔法によるもの。正確に言えば、私はレフィの記憶を植え付けられたホムンクルス」
「は……。ちょ、リーナ!?」
あ、頭が痛い! な、なにこれ!? こんなこと、今まで一度もなかったのに……!
――記憶を植え付けた!? ホムンクルス!? ふざけるな! 私の! 研究を邪魔しておいて! お前らは平気で禁忌を犯す!? 納得できるか!
――り、リーナ、落ち着いて……! 声が、頭が、いたい……!
――ふざけるなふざけるなふざけるなあああ!
――りー……な……!
リーナが興奮するほどわたしの頭が痛くなっていって……。気付けば、意識が遠のいていた。
壁|w・)リーナさん大興奮。