ギルドでちょっとした事情聴取を受けて、わたしたちは自宅に帰ってきた。
事情聴取はわりと簡単なものだった。というのも、あの個室には監視カメラが設置されていたみたいで、あの子……ホムンクルスが突然起きたことはギルド側も把握していたみたい。
ただ、わたしの……というより、リーナとホムンクルスの会話はなぜか聞こえていなくて、何を話したのかと主に聞かれた。
さすがに詳細を教えるわけにはいかなかったから、かなりごまかしたけど。とりあえず、どうしてここに連れてきたのか、とかそんな口論をしたと伝えてある。あながち間違いでもない……はず?
体の主導権は、いつの間にかわたしに戻っていた。リーナの気持ちが落ち着いたら、なんだか勝手に戻ったみたい。理由はよく分からないけど。
「ふう……」
コップに水を入れて、一息。帰り道に買ってきた板チョコを食べて、気分を落ち着かせる。やっぱり疲れた時は甘いもの、だよね。疲れたとはまたちょっと違う感じだけど。
「さてと……。リーナ」
――…………。
「お話し、しよう」
あのホムンクルスが語っていた内容が真実なのか、それを知りたい。リーナのことを信じるためにも。
「リーナが友だちのために不老不死の研究をしていたっていうのは、一度聞いたことがあるけど……」
――そうよ。私の月での親友……レフィというのだけど、厄介な病気に冒されてね……。月の魔法でもどうにもできなくて、死ぬのを待っているだけの状態だったの。
その運命を認められなくて、あがいて、不老不死の研究に手を出した。リーナは自嘲気味にそう教えてくれた。
――笑っていいわよ。結局何もできず、私は親友を死なせて、自分だけはこうして転生の魔法を使って逃げて生き続けているんだから。
「ん……。笑えないよ。笑えるもんか」
わたしだって……。もしも、リーナや陽葵がいなくなってしまう可能性があるなんて言われたら、できるだけあがくと思うから。禁忌の研究にも手を出すと思う。だから、リーナを笑うことなんて、わたしにはできない。
「それで、ホムンクルス、というのは……?」
――菜月も教科書か何かで見たことがあるんじゃない? 人造人間。人によって作られた生命。不老不死と同じで、禁忌の研究とされているものよ。
不老不死と人工生命。どちらも、命に関係するもの。月では命に関わる研究が禁忌になるみたい。
――レフィの病気は珍しいものだったからね。いろいろと、調べられていたのよ。たくさんの管やケーブルに繋がれていて……。見ていて痛ましかった。
「そう……。記憶を植え付けたっていうのは……」
――それもそのまま。脳をスキャンして記憶を保存する、なんてふざけた技術があるのよ。そうして保存した記憶を、あのホムンクルスに植え付けたのでしょうね。本当に、忌々しい。
わたしが聞いてもかなり不愉快な内容だ。それが親友の記憶なら、尚更だと思う。リーナの怒りも当然だ。
――でも。そう思うと、あのホムンクルスも犠牲者と言えるのでしょうね。それでも……許せるはずがないけど。
「そう、だね……」
リーナからすれば、あのホムンクルスの存在そのものがもう許せないんだろう。例えあの子に罪はなかったとしても、すでにあの子は親友の記憶を持ってしまっている。リーナには耐えがたいことだと思う。
――だから……。あいつは殺す。私が殺す。これは私の意志でやることだから、菜月は何も気にしなくていいわよ。
「ううん。一緒に、やるよ。わたしとリーナは一蓮托生、でしょ?」
――…………。そう、ね……。
正直今から考えるとちょっと気が重いけど……。それでも、リーナがやると決めたのなら、わたしはそれを手伝うだけだ。
――菜月の方は? あいつがいろいろと言っていたけど。
「あー……。うん……」
わたしの、ルーツ。わたしの魂がどこから来たのか、とかなんとか……。正直、なんのことだか分からない、というのが本音なんだけど……。
「でも、どうにもちょっと気になるんだよね……」
――そうなの?
「うん……」
普通に考えて、魂がどこから来たのかなんて分かるはずがない。リーナの魂は月からというのが確定してるからともかく、わたしの魂の前なんて誰が分かるのかっていう話だ。
でも。あのホムンクルスは、なぜかとても自信ありげで……。そんなホムンクルスの言葉を信じるなら、この体を乗っ取ったのはどうやらわたしの方らしい。
そう、なんだろうか。分からない。分からないけど……。
――菜月。
ちょっと嫌な考え方をしそうになったところで、リーナから心配そうな声で名前を呼ばれた。
――変なことは考えなくていいから。今のこの体は、菜月の体。私がその体にお邪魔しているだけ。それが、全てよ。
「でも……。もしかしたら、逆だったかも……。ううん、逆どころか、わたしなんていなかったのかも……」
――やめなさい。
そのリーナの声は、ちょっと怒りが混ざっているのが私にも察せられた。
――菜月が、私をどう思っているのか。それは私には分からない。でも、私は……。少なくとも私は、あなたを代えがたい友人だと、親友だと思ってる。
「リーナ……! わたしだって! わたしだって、そう思ってるから!」
――ふふ……。ありがと。でもそれなら、もう悩む必要はないでしょう?
それは、うん。そうだ。例え何があったとしても、わたしたちの関係は変わらない。それでいい。それでいいんだ。
「ありがとう、リーナ」
――どういたしまして。それで、だけど……。
うん。ここからが、本題だ。
「あのホムンクルス、どうしよう……」
なんかあのホムンクルスは私に来てほしそうだったけど……。正直、もう行く必要がないんだよね。わたしのルーツなんて、もうどうでもいいやと今は思ってるから。
でも。リーナは、あいつの存在を許せないわけで。
「三十層。行けると思う?」
――余裕で。
うん。リーナが言うなら、きっとそうなんだと思う。それじゃあ、行こう。ダンジョン三十層に。ちゃんと準備をしてから、だけど。
――菜月。言っておくことがあるわ。
「え、うん……」
――お弁当をたっぷり用意しましょう。メンチカツサンドも忘れないように。
「台無しだよ」
平常運転で安心はするけれど、このタイミングでそれはないと思うよ……。