一月四日。準備を終えたわたしは、ギルドで陽葵と会っていた。また四日から探索しようって声をかけていたから。
でも……。さすがに、今回は同行してもらうのはだめだ。目的地が深すぎる。
「三十層、ね……」
経緯を聞いた陽葵は、なんだかとても複雑そうだ。何かをすごく言いたそうにしてるけど、ぐっと堪えているような、そんな感じ。
わりと長い間沈黙して、そして大きなため息をついた。仕方ないな、みたいな、そんなため息。
「なあ、菜月。今日の探索も菜月が誘ってきたって分かってるか?」
「あー……。うん……」
「誘っておいて、やっぱりやめる、と」
「う……。はい……」
陽葵が怒っても仕方ない。誘った私がやっぱりやめるなんて言うんだから。これで絶好されても……。そ、それはやだな……。
「なんでいきなり泣きそうになってんだよ」
「だって……」
「ったく……。こんな泣き虫だったんだな、お前」
陽葵が私の頭を撫でてくる。今はそれが、とても心地良い。
「あたしも行くって言いたいけどさ……。邪魔、なんだろ?」
「うん」
「即答すんな」
「いたっ」
ぺちりと、額にデコピンされた。本来なら痛くないはずのそれが、今はとても痛かった。罪悪感、なのかな? 分からない。
――リーナ。菜月を頼むぞ。
――言われなくても。
陽葵は小さく頷いて、わたしをじっと見つめてきた。
「菜月。気をつけて行ってこいよ」
「うん」
「ちなみに、どれぐらいかかる予定なんだ?」
「んー……。一週間ぐらい? リーナが言うには、だけど」
「そうか……。三十層って、未踏領域なんだけどな……」
未踏領域。まだ誰もたどり着けていない場所がそう呼ばれてる。わたしが今から行くのは、そんな場所だ。
でも、わたしはそこまで不安には思ってない。だって、リーナがいてくれるから。
「がんばってくる」
わたしがそう言うと、陽葵はうすく笑顔を浮かべて頷いた。がんばってこい、と。
それじゃあ……。ダンジョンに行こう。目指すは、三十階層だ。
一日目の夜。たどり着いたのは、十階層。もうちょっと行けるかなと思ったけど……。明日からはペースアップしないと、一週間で帰れないかも。
ここまで来ると、出てくる魔物は多種多様になってる。七層まではそれぞれ決まった種類の魔物しか出なかったけど、十層ともなると出てくる魔物はランダムだ。しかも、どれもが強力な魔物ばかり。ただのゴブリンでも、上位種とかになってる、らしい。
いや、あの……。全部、魔法で一撃だったから……。相手からの攻撃も結界で無効化されてたし……。
今は下層への階段がある部屋の前で、毛布にくるまってる。壁みたいに結界を張っておいたから、襲われる心配もなし。ギルドがお休みしていた影響なのか、今日はまだこのフロアに人はいないみたいで、迷惑をかけることもない、はず。
だから。この満天の星空は独り占めだ。
「まあ、作り物なんだろうけど」
――一応、月からの星空を投影しているはずだけれどね。
「そうなの?」
――仕組みが変わっていなければそのはずよ。
へえ……。これが月からの星空。そう思うとなんだかちょっと感慨深い。
地球からの星空との違いは何一つとして分からないけど。そもそも地球の星空をわたしは覚えていないから。みんなわりとそういうものだと思う。
「一日で十層……。もうちょっと急いだ方がいいかな?」
――そうね……。ここから先は一フロアが広くなるし、急いだ方がいいかも。三十層でどんな話をするのかも分からないし。
「あー……。そうだね……」
今はまだ、どんな話をするのかも分からない。戦うことになるのかすら分からない。だから、そこでどれだけ時間を使うかも分からない。
うん。やっぱり、急いだ方がいいかも。
――まあほどほどにね。
「ん……。分かってる」
あくまで無理しない範囲で、ちょっと急ごう。
そうして、二日後の夜。わたしは、三十層にたどり着いた。
「時間考えなさいこのバカ!」
そしてホムンクルスに怒られた。なんで?
「い、急いだ方がいいかなって思ったから……!」
「時間! 夜の十一時! バカなの!?」
「ば、バカって言う方がバカなんだよ!」
「なんですって!?」
長話になるかも、なんて思ったから急いで来たのに! こんな、バカバカ言われるなんて……! わたしだって、怒る時は怒るんだよ!
「時間指定しなかったのはそっちだし! そもそもこんな危険な場所に呼ぶとか意味分からないし! そっちだって場所を考えろって言いたい!」
三十層は、火山のフロア。あっちこっちに噴火している山があって、マグマの川が当然ように流れてる。そんな。とても危険な場所。
しかも。しかもしかも。周囲を飛び回っているのは、ドラゴンだ。わたしじゃなかったら間違い無く死んでるよ。
「正直、火山エリアに入ってから、何度も帰りたくなったからね? こんな場所を選ぶなんて、頭悪いにもほどがあるね!」
「はあああ!?」
ぎゃいぎゃいぎゃいと。売り言葉に買い言葉。わたしはホムンクルスと夜の遅くまで口喧嘩をして。
――なにこれ……。
リーナがただただ呆れている気配だけが伝わってきた。いや本当に、申し訳ない。
壁|w・)さくっと到着。
争いは同レベルの者でしか起こらないのだ……。