コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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45 売り言葉に買い言葉

 

 一月四日。準備を終えたわたしは、ギルドで陽葵と会っていた。また四日から探索しようって声をかけていたから。

 でも……。さすがに、今回は同行してもらうのはだめだ。目的地が深すぎる。

 

「三十層、ね……」

 

 経緯を聞いた陽葵は、なんだかとても複雑そうだ。何かをすごく言いたそうにしてるけど、ぐっと堪えているような、そんな感じ。

 わりと長い間沈黙して、そして大きなため息をついた。仕方ないな、みたいな、そんなため息。

 

「なあ、菜月。今日の探索も菜月が誘ってきたって分かってるか?」

「あー……。うん……」

「誘っておいて、やっぱりやめる、と」

「う……。はい……」

 

 陽葵が怒っても仕方ない。誘った私がやっぱりやめるなんて言うんだから。これで絶好されても……。そ、それはやだな……。

 

「なんでいきなり泣きそうになってんだよ」

「だって……」

「ったく……。こんな泣き虫だったんだな、お前」

 

 陽葵が私の頭を撫でてくる。今はそれが、とても心地良い。

 

「あたしも行くって言いたいけどさ……。邪魔、なんだろ?」

「うん」

「即答すんな」

「いたっ」

 

 ぺちりと、額にデコピンされた。本来なら痛くないはずのそれが、今はとても痛かった。罪悪感、なのかな? 分からない。

 

――リーナ。菜月を頼むぞ。

――言われなくても。

 

 陽葵は小さく頷いて、わたしをじっと見つめてきた。

 

「菜月。気をつけて行ってこいよ」

「うん」

「ちなみに、どれぐらいかかる予定なんだ?」

「んー……。一週間ぐらい? リーナが言うには、だけど」

「そうか……。三十層って、未踏領域なんだけどな……」

 

 未踏領域。まだ誰もたどり着けていない場所がそう呼ばれてる。わたしが今から行くのは、そんな場所だ。

 でも、わたしはそこまで不安には思ってない。だって、リーナがいてくれるから。

 

「がんばってくる」

 

 わたしがそう言うと、陽葵はうすく笑顔を浮かべて頷いた。がんばってこい、と。

 それじゃあ……。ダンジョンに行こう。目指すは、三十階層だ。

 

 

 

 一日目の夜。たどり着いたのは、十階層。もうちょっと行けるかなと思ったけど……。明日からはペースアップしないと、一週間で帰れないかも。

 ここまで来ると、出てくる魔物は多種多様になってる。七層まではそれぞれ決まった種類の魔物しか出なかったけど、十層ともなると出てくる魔物はランダムだ。しかも、どれもが強力な魔物ばかり。ただのゴブリンでも、上位種とかになってる、らしい。

 いや、あの……。全部、魔法で一撃だったから……。相手からの攻撃も結界で無効化されてたし……。

 今は下層への階段がある部屋の前で、毛布にくるまってる。壁みたいに結界を張っておいたから、襲われる心配もなし。ギルドがお休みしていた影響なのか、今日はまだこのフロアに人はいないみたいで、迷惑をかけることもない、はず。

 だから。この満天の星空は独り占めだ。

 

「まあ、作り物なんだろうけど」

――一応、月からの星空を投影しているはずだけれどね。

「そうなの?」

――仕組みが変わっていなければそのはずよ。

 

 へえ……。これが月からの星空。そう思うとなんだかちょっと感慨深い。

 地球からの星空との違いは何一つとして分からないけど。そもそも地球の星空をわたしは覚えていないから。みんなわりとそういうものだと思う。

 

「一日で十層……。もうちょっと急いだ方がいいかな?」

――そうね……。ここから先は一フロアが広くなるし、急いだ方がいいかも。三十層でどんな話をするのかも分からないし。

「あー……。そうだね……」

 

 今はまだ、どんな話をするのかも分からない。戦うことになるのかすら分からない。だから、そこでどれだけ時間を使うかも分からない。

 うん。やっぱり、急いだ方がいいかも。

 

――まあほどほどにね。

「ん……。分かってる」

 

 あくまで無理しない範囲で、ちょっと急ごう。

 

 

 

 そうして、二日後の夜。わたしは、三十層にたどり着いた。

 

「時間考えなさいこのバカ!」

 

 そしてホムンクルスに怒られた。なんで?

 

「い、急いだ方がいいかなって思ったから……!」

「時間! 夜の十一時! バカなの!?」

「ば、バカって言う方がバカなんだよ!」

「なんですって!?」

 

 長話になるかも、なんて思ったから急いで来たのに! こんな、バカバカ言われるなんて……! わたしだって、怒る時は怒るんだよ!

 

「時間指定しなかったのはそっちだし! そもそもこんな危険な場所に呼ぶとか意味分からないし! そっちだって場所を考えろって言いたい!」

 

 三十層は、火山のフロア。あっちこっちに噴火している山があって、マグマの川が当然ように流れてる。そんな。とても危険な場所。

 しかも。しかもしかも。周囲を飛び回っているのは、ドラゴンだ。わたしじゃなかったら間違い無く死んでるよ。

 

「正直、火山エリアに入ってから、何度も帰りたくなったからね? こんな場所を選ぶなんて、頭悪いにもほどがあるね!」

「はあああ!?」

 

 ぎゃいぎゃいぎゃいと。売り言葉に買い言葉。わたしはホムンクルスと夜の遅くまで口喧嘩をして。

 

――なにこれ……。

 

 リーナがただただ呆れている気配だけが伝わってきた。いや本当に、申し訳ない。

 




壁|w・)さくっと到着。
争いは同レベルの者でしか起こらないのだ……。
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