「落ち着きましょう」
深夜一時。わたしとホムンクルスは、荒い息を整えて一息ついた。ちなみにわたしたちの周囲ではドラゴンの死体が山になってる。いや、襲ってきたから、迎撃をね……。
「まずは、来てくれたことに素直に礼を言っておくわ。ここなら誰にも邪魔されず、お話しできるでしょう。ちょっと散らかっちゃったけど」
「ちょっと……?」
周囲を見る。ドラゴンの死体が山となっている場所を見る。他のドラゴンはさすがに学習したのか、襲ってこなくなったけど……。それでも、悲惨な光景だ。いや、半分ぐらいはわたしがやったんだけど。
ホムンクルスも周囲を見て、そして言った。
「ここなら二人きりね!」
「続けるんだ……」
――さすがに無理がありすぎるでしょ。
まずはお片付けをしよう。会話はゆっくりとでもできるから。
わたしがそう提案すると、ホムンクルスも仕方がないとばかりに頷いた。さすがにこのままだとだめだとはあっちも思ったらしい。
片付ける、といってもやることは単純。強力な火の魔法で燃やし尽くす。それが一番手っ取り早い。
「ドラゴン……お肉……。これって、食べられないの?」
――やめておきなさい。まずいから。
「ドラゴンはほとんど魔力で構成される生物だから、何の味もしないわよ」
「え……」
そんな……。本とかだと、ドラゴンのお肉のステーキとか、すごく美味しそうに書かれてるのに……!
内心で裏切られたような感覚を味わいながらも、お片付けは終了。ドラゴンの死体がなくなってすっきりした。
その後は、話し合いの場所へ向かう。わたしとしては別にこのまま外でも良かったんだけど、なぜかホムンクルスの方がこだわっていたみたい。
先にここに来ていたホムンクルスは、山をくり抜いて洞窟を作っておいたのだとか。案内されたのは、ちょっとした部屋みたいになった洞窟。私の家の部屋ぐらいの広さがある。これを作ったって、なかなかすごいと思う。
中にあるのは、木製の簡素なテーブルと椅子。あとは、ベッドらしきもの。毛布とかは置かれていないから、多分、だけど。
「すごい、広い……。わたしの家ぐらいある……」
「え。うそ。狭すぎない……?」
「…………」
――な、菜月の家を悪く言うんじゃないわよ! 否定できないけど!
否定できないなら余計なことを言わなくていいよ。
ともかく。わたしとホムンクルスはテーブルを挟んで対面で座った。念話の魔法で、リーナの声はホムンクルスに聞こえるようにしてある。
最初はわたしとの話し合いかなと思ったんだけど、ホムンクルスは最初から三人で話すことを求めて来た。二度手間になるから、かな?
「さて……。何を聞きたい? ここでなら何でも答えるわよ」
「あなたが知っていることを全て知りたいけど、それよりも気になってることがある」
「なに?」
「戦うことに、なりそう?」
聞きたいことはたくさんある。わたしのルーツ。そして、どうしてそれを知っているのか。そして何のためにこっちに来たのか、とか。
でも。それよりも。この後、どうなるか。そっちの方が重要だ。戦うことになるなら……。覚悟をしないと、いけないから。
ホムンクルスはまっすぐにわたしを見つめてくる。わたしもしっかりと見つめ返した
いや、睨み返した、の方が正しいかも。
やがて小さく笑みを浮かべて、ホムンクルスが言った。
「戦っても、勝ち目なんてないけど」
「そんなこと……。やってみないと分からない」
わたしの魔法は、リーナから教わったもの。しかも、まだ一年も経ってない。付け焼き刃もいいところで、元々の使い手と比べるときっと児戯みたいなものだと思う。
でも。それでも。わたしは負けるつもりなんて……。
「誤解しているみたいだけど。こっちに勝ち目がないの」
「え」
「そもそも、もう長くないし」
「え……?」
「私がやること。何をしたいか。それは、説得」
彼女が言うには。もはや残された力も残りわずかで、戦っても勝ち目がない。だから、どうにかわたしとリーナを説得して、月の都市に来てもらうのが目的とのこと。
「そうすれば、私は……まだ、長らえさせてもらえるかも……」
「それって、どういう……」
――ああ、なるほど……。
ここからはリーナが教えてくれた。ホムンクルスはとても不安定な存在で、定期的に処置をしないと、その存在が保てなくなるのだとか。体が崩れてしまったりするらしい。全く関係のない体に他者の記憶を植え付けた代償、とのことだ。
でも、それには月の都市の基準でも結構なコストが必要らしくて……。リーナを呼び戻すことができたら、その時は初めてホムンクルスを維持していてもいい、と思ってもらえるかも、らしい。
それは……。それは、まるで。
「人質、みたいだね……。まさか、自分自身を人質にするとは思わなかったけど」
「あなたはお優しいみたいだからね。こっちの方がきくでしょう?」
「…………」
否定しない。できない。本音を言うと、リーナにも手を汚してほしくないから。
「でもそれなら……。あっちでも、ギルドでも話はできたんじゃ……?」
「仕切り直したかった。だって、リーナ様、完全にこっちを殺す気になっていたでしょ」
それは、まあ、うん。怒りは持続しないって言うからね。
――残念だったわね。私は今でも、あなたを殺すつもりよ。
「みたいですね。それなら、綾瀬菜月を説得するまでです」
――ふん……。
つまり。ホムンクルスの今の目的は、わたし。わたしを説得して、リーナに体を譲らせる。その後どうするつもりなのかは正直分からないけど、まずはそこから、ということなんだと思う。
「あなたが、体を諦めれば……。リーナ様に体が戻れば。もう地球には戻れなくなる。綾瀬菜月を失っておいて、地球に戻って生活できるほど、リーナ様は厚顔無恥ではないでしょう?」
「リーナは怒っていいよ」
――菜月も怒っていいわよ。
うん。やっぱりこいつ、嫌いだ。大嫌いだ。殴りたい。
殴りたい、けど……。死んでほしいとまでは、思えるわけじゃない。
「まずは、そうね……。私があなたのルーツを誰から聞いたのか、そこから話しましょう」
「ん」
「神様からよ」
「ん……。はい?」
え、なに。神様? 本気で言ってる?
「頭でも狂ったの?」
「さすがにそこまでストレートな罵倒が来るとは思わなかったわね!」
当たり前の反応だと思うけど。いきなり神様から聞いたとか……。意味が分からない。リーナも絶句してしまってるぐらいだよ。
壁|w・)私のお話に真面目な戦いがあると思ってはならぬ。
ホムンクルスさんはすでにぎりぎりなのです。