コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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46 戦いはありません

 

「落ち着きましょう」

 

 深夜一時。わたしとホムンクルスは、荒い息を整えて一息ついた。ちなみにわたしたちの周囲ではドラゴンの死体が山になってる。いや、襲ってきたから、迎撃をね……。

 

「まずは、来てくれたことに素直に礼を言っておくわ。ここなら誰にも邪魔されず、お話しできるでしょう。ちょっと散らかっちゃったけど」

「ちょっと……?」

 

 周囲を見る。ドラゴンの死体が山となっている場所を見る。他のドラゴンはさすがに学習したのか、襲ってこなくなったけど……。それでも、悲惨な光景だ。いや、半分ぐらいはわたしがやったんだけど。

 ホムンクルスも周囲を見て、そして言った。

 

「ここなら二人きりね!」

「続けるんだ……」

――さすがに無理がありすぎるでしょ。

 

 まずはお片付けをしよう。会話はゆっくりとでもできるから。

 わたしがそう提案すると、ホムンクルスも仕方がないとばかりに頷いた。さすがにこのままだとだめだとはあっちも思ったらしい。

 片付ける、といってもやることは単純。強力な火の魔法で燃やし尽くす。それが一番手っ取り早い。

 

「ドラゴン……お肉……。これって、食べられないの?」

――やめておきなさい。まずいから。

「ドラゴンはほとんど魔力で構成される生物だから、何の味もしないわよ」

「え……」

 

 そんな……。本とかだと、ドラゴンのお肉のステーキとか、すごく美味しそうに書かれてるのに……!

 内心で裏切られたような感覚を味わいながらも、お片付けは終了。ドラゴンの死体がなくなってすっきりした。

 その後は、話し合いの場所へ向かう。わたしとしては別にこのまま外でも良かったんだけど、なぜかホムンクルスの方がこだわっていたみたい。

 先にここに来ていたホムンクルスは、山をくり抜いて洞窟を作っておいたのだとか。案内されたのは、ちょっとした部屋みたいになった洞窟。私の家の部屋ぐらいの広さがある。これを作ったって、なかなかすごいと思う。

 中にあるのは、木製の簡素なテーブルと椅子。あとは、ベッドらしきもの。毛布とかは置かれていないから、多分、だけど。

 

「すごい、広い……。わたしの家ぐらいある……」

「え。うそ。狭すぎない……?」

「…………」

――な、菜月の家を悪く言うんじゃないわよ! 否定できないけど!

 

 否定できないなら余計なことを言わなくていいよ。

 ともかく。わたしとホムンクルスはテーブルを挟んで対面で座った。念話の魔法で、リーナの声はホムンクルスに聞こえるようにしてある。

 最初はわたしとの話し合いかなと思ったんだけど、ホムンクルスは最初から三人で話すことを求めて来た。二度手間になるから、かな?

 

「さて……。何を聞きたい? ここでなら何でも答えるわよ」

「あなたが知っていることを全て知りたいけど、それよりも気になってることがある」

「なに?」

「戦うことに、なりそう?」

 

 聞きたいことはたくさんある。わたしのルーツ。そして、どうしてそれを知っているのか。そして何のためにこっちに来たのか、とか。

 でも。それよりも。この後、どうなるか。そっちの方が重要だ。戦うことになるなら……。覚悟をしないと、いけないから。

 ホムンクルスはまっすぐにわたしを見つめてくる。わたしもしっかりと見つめ返した

いや、睨み返した、の方が正しいかも。

 やがて小さく笑みを浮かべて、ホムンクルスが言った。

 

「戦っても、勝ち目なんてないけど」

「そんなこと……。やってみないと分からない」

 

 わたしの魔法は、リーナから教わったもの。しかも、まだ一年も経ってない。付け焼き刃もいいところで、元々の使い手と比べるときっと児戯みたいなものだと思う。

 でも。それでも。わたしは負けるつもりなんて……。

 

「誤解しているみたいだけど。こっちに勝ち目がないの」

「え」

「そもそも、もう長くないし」

「え……?」

「私がやること。何をしたいか。それは、説得」

 

 彼女が言うには。もはや残された力も残りわずかで、戦っても勝ち目がない。だから、どうにかわたしとリーナを説得して、月の都市に来てもらうのが目的とのこと。

 

「そうすれば、私は……まだ、長らえさせてもらえるかも……」

「それって、どういう……」

――ああ、なるほど……。

 

 ここからはリーナが教えてくれた。ホムンクルスはとても不安定な存在で、定期的に処置をしないと、その存在が保てなくなるのだとか。体が崩れてしまったりするらしい。全く関係のない体に他者の記憶を植え付けた代償、とのことだ。

 でも、それには月の都市の基準でも結構なコストが必要らしくて……。リーナを呼び戻すことができたら、その時は初めてホムンクルスを維持していてもいい、と思ってもらえるかも、らしい。

 それは……。それは、まるで。

 

「人質、みたいだね……。まさか、自分自身を人質にするとは思わなかったけど」

「あなたはお優しいみたいだからね。こっちの方がきくでしょう?」

「…………」

 

 否定しない。できない。本音を言うと、リーナにも手を汚してほしくないから。

 

「でもそれなら……。あっちでも、ギルドでも話はできたんじゃ……?」

「仕切り直したかった。だって、リーナ様、完全にこっちを殺す気になっていたでしょ」

 

 それは、まあ、うん。怒りは持続しないって言うからね。

 

――残念だったわね。私は今でも、あなたを殺すつもりよ。

「みたいですね。それなら、綾瀬菜月を説得するまでです」

――ふん……。

 

 つまり。ホムンクルスの今の目的は、わたし。わたしを説得して、リーナに体を譲らせる。その後どうするつもりなのかは正直分からないけど、まずはそこから、ということなんだと思う。

 

「あなたが、体を諦めれば……。リーナ様に体が戻れば。もう地球には戻れなくなる。綾瀬菜月を失っておいて、地球に戻って生活できるほど、リーナ様は厚顔無恥ではないでしょう?」

「リーナは怒っていいよ」

――菜月も怒っていいわよ。

 

 うん。やっぱりこいつ、嫌いだ。大嫌いだ。殴りたい。

 殴りたい、けど……。死んでほしいとまでは、思えるわけじゃない。

 

「まずは、そうね……。私があなたのルーツを誰から聞いたのか、そこから話しましょう」

「ん」

「神様からよ」

「ん……。はい?」

 

 え、なに。神様? 本気で言ってる?

 

「頭でも狂ったの?」

「さすがにそこまでストレートな罵倒が来るとは思わなかったわね!」

 

 当たり前の反応だと思うけど。いきなり神様から聞いたとか……。意味が分からない。リーナも絶句してしまってるぐらいだよ。

 




壁|w・)私のお話に真面目な戦いがあると思ってはならぬ。
ホムンクルスさんはすでにぎりぎりなのです。
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