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そうして気付けば、私はホムンクルスの前に立っていた。
菜月は……大丈夫。ちゃんと私の中にいる。でもやっぱり、このやり方は今回だけにしておこう。無理矢理入れ替わっているような気がする。少し悪い影響があるかもしれない。
それよりも、だ。
「待たせたわね」
ホムンクルスへと言うと、やつは泣きそうな笑顔になっていた。
「リーナ様……。ありがとうございます」
「私の気持ちは分かっているでしょ。礼はいらないから、用件を済ませなさい」
菜月からは冷たすぎるなんて言われるかもしれないけど……。正直、長い時間話したいとも思わない。
ホムンクルスは小さく頷くと、右手をそっと胸に当てて言った。
「リーナ様。あなたが研究にばかり没頭して、顔を見せてくれなくなって……。本当に、寂しい日々でした」
「…………」
「私は、延命なんて望んでいなかったのに。少しでも、主であるあなたと一緒にいたいと、思っていたから……」
「まあ……。でしょうね……」
あの時の私は、あとでいくらでも、ゆっくり話せるからと思っていた。二人で不老不死になったら、ゆっくりと、長い時間を過ごしていけると思っていたから。
でも結果は、これだ。親友の最後の瞬間ですら、私は看取ることができなかった。その時にはもう、指名手配されていたから。
私と親しいレフィの側にも追っ手がいるはずで……。だから、会うことができなくなって……。
いや、言い訳だ。何を言っても、あの子の最後を見ていない事実は変わらないのだから。
だから、せめて。あの子の最後の絶望と、呪いを聞いておきたい。
内心で身構える私に、ホムンクルスが続ける。
「でも……」
「ん?」
「最後まであなたを心配していました」
思わず目を見開く私に、ホムンクルスが続ける。
「私のための研究だったことは知っていたから。むしろそのせいで、指名手配されたことに、罪悪感すら覚えていました」
「それは……!」
それは、私が勝手にやったことだ。だから、レフィが気にする必要なんて……。
「リーナ様。あなたのこれからの生が、良きものになることを……。星の彼方から、願っています」
「…………」
「これが、レフィの記憶に最後に残っていたものです」
「そう……」
レフィらしい、かな……。もっと恨み辛みを吐き出してほしかったのに、結局私は、最後の最後まで親友に心配されていたらしい。
「これを伝えられたのなら……。私が短い生を受けた意味もあったでしょうか」
そう言って、ホムンクルスが笑う。
私は……。情けないなあ。助けたいと思ってしまった。目の前のこいつはレフィじゃないけど、レフィの記憶は確かに持っているみたいだから。
――ねえ、リーナ……。
「ごめん」
助けたいと願ってしまう。願ってしまうけど、私でもどうすることもできない。
これは、ホムンクルスの構造上の問題だから。
「ホムンクルスの研究が禁忌になっているのは、ちゃんと理由があるの。あまりにも命を軽視しすぎているから。命を作っておいて、三年生きることができればいい方。あまりにも道徳に反しているから禁忌となったのよ」
「はい。繋ぎ止めることも不可能ではないけど……」
「莫大なコストがかかる」
しかも月で作る特製の魔石が必要だ。このダンジョンに手に入るような魔石じゃなくて、もっと高純度の、魔力そのもののような魔石。月ですら作成にはとても長い時間がかかるもの。ホムンクルスの維持に使わせてもらえるはずがない。
それこそ。こいつが最初に言っていた取り引きでもしない限り。
「言っておくけど……。奪いに行く、はなしよ。月には私以上の魔法使いなんて普通にいるんだから。絶対に、だめ」
――ん……。わかった。
だから……。私は、ホムンクルスを切り捨てる。
「恨んでくれてもいいわよ」
「まさか。もともとないはずの命ですから」
でも、とホムンクルスが続ける。
「ホムンクルスの最後は、体が徐々に崩れていって、とても……苦痛だと、聞きました」
「そうね……」
「それなら、どうか……。あなたの手で。看取ってください」
「…………」
生き残ることは不可能。そんなことは分かってる。だから……。
私は、ゆっくりとホムンクルスに近づいた。
「言い残すことは?」
「そうですね……。せめて、最後だけでも、レフィと呼んでください」
「ん……。レフィ。あなたの旅路が良きものになることを祈っているわ」
「ふふ……。ありがとうございます、リーナ様」
そうして、私は……。
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