コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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48 おわり

 

   ・・・・・

 

 そうして気付けば、私はホムンクルスの前に立っていた。

 菜月は……大丈夫。ちゃんと私の中にいる。でもやっぱり、このやり方は今回だけにしておこう。無理矢理入れ替わっているような気がする。少し悪い影響があるかもしれない。

 それよりも、だ。

 

「待たせたわね」

 

 ホムンクルスへと言うと、やつは泣きそうな笑顔になっていた。

 

「リーナ様……。ありがとうございます」

「私の気持ちは分かっているでしょ。礼はいらないから、用件を済ませなさい」

 

 菜月からは冷たすぎるなんて言われるかもしれないけど……。正直、長い時間話したいとも思わない。

 ホムンクルスは小さく頷くと、右手をそっと胸に当てて言った。

 

「リーナ様。あなたが研究にばかり没頭して、顔を見せてくれなくなって……。本当に、寂しい日々でした」

「…………」

「私は、延命なんて望んでいなかったのに。少しでも、主であるあなたと一緒にいたいと、思っていたから……」

「まあ……。でしょうね……」

 

 あの時の私は、あとでいくらでも、ゆっくり話せるからと思っていた。二人で不老不死になったら、ゆっくりと、長い時間を過ごしていけると思っていたから。

 でも結果は、これだ。親友の最後の瞬間ですら、私は看取ることができなかった。その時にはもう、指名手配されていたから。

 私と親しいレフィの側にも追っ手がいるはずで……。だから、会うことができなくなって……。

 いや、言い訳だ。何を言っても、あの子の最後を見ていない事実は変わらないのだから。

 だから、せめて。あの子の最後の絶望と、呪いを聞いておきたい。

 内心で身構える私に、ホムンクルスが続ける。

 

「でも……」

「ん?」

「最後まであなたを心配していました」

 

 思わず目を見開く私に、ホムンクルスが続ける。

 

「私のための研究だったことは知っていたから。むしろそのせいで、指名手配されたことに、罪悪感すら覚えていました」

「それは……!」

 

 それは、私が勝手にやったことだ。だから、レフィが気にする必要なんて……。

 

「リーナ様。あなたのこれからの生が、良きものになることを……。星の彼方から、願っています」

「…………」

「これが、レフィの記憶に最後に残っていたものです」

「そう……」

 

 レフィらしい、かな……。もっと恨み辛みを吐き出してほしかったのに、結局私は、最後の最後まで親友に心配されていたらしい。

 

「これを伝えられたのなら……。私が短い生を受けた意味もあったでしょうか」

 

 そう言って、ホムンクルスが笑う。

 私は……。情けないなあ。助けたいと思ってしまった。目の前のこいつはレフィじゃないけど、レフィの記憶は確かに持っているみたいだから。

 

――ねえ、リーナ……。

「ごめん」

 

 助けたいと願ってしまう。願ってしまうけど、私でもどうすることもできない。

 これは、ホムンクルスの構造上の問題だから。

 

「ホムンクルスの研究が禁忌になっているのは、ちゃんと理由があるの。あまりにも命を軽視しすぎているから。命を作っておいて、三年生きることができればいい方。あまりにも道徳に反しているから禁忌となったのよ」

「はい。繋ぎ止めることも不可能ではないけど……」

「莫大なコストがかかる」

 

 しかも月で作る特製の魔石が必要だ。このダンジョンに手に入るような魔石じゃなくて、もっと高純度の、魔力そのもののような魔石。月ですら作成にはとても長い時間がかかるもの。ホムンクルスの維持に使わせてもらえるはずがない。

 それこそ。こいつが最初に言っていた取り引きでもしない限り。

 

「言っておくけど……。奪いに行く、はなしよ。月には私以上の魔法使いなんて普通にいるんだから。絶対に、だめ」

――ん……。わかった。

 

 だから……。私は、ホムンクルスを切り捨てる。

 

「恨んでくれてもいいわよ」

「まさか。もともとないはずの命ですから」

 

 でも、とホムンクルスが続ける。

 

「ホムンクルスの最後は、体が徐々に崩れていって、とても……苦痛だと、聞きました」

「そうね……」

「それなら、どうか……。あなたの手で。看取ってください」

「…………」

 

 生き残ることは不可能。そんなことは分かってる。だから……。

 私は、ゆっくりとホムンクルスに近づいた。

 

「言い残すことは?」

「そうですね……。せめて、最後だけでも、レフィと呼んでください」

「ん……。レフィ。あなたの旅路が良きものになることを祈っているわ」

「ふふ……。ありがとうございます、リーナ様」

 

 そうして、私は……。

 

   ・・・・・

 

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