コミュ障少女と月の魔女   作:龍翠

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05 メンチカツ

 

 学校を出て、家に帰るまえにある商店街。よくあるアーケードの商店街で、たくさんのお店が並んでる。寂れることもなく、どのお店も元気に営業中だ。

 もっとも、この近くに大きな商業施設ってないから、寂れられたら困るんだけど。どの建物もまだまだ綺麗な商店街だし。

 

「ここが、商店街。いろんな物が買えるよ」

――へえ……。商店を集約させているんだ……。地球人は効率的ね。

「大きい町だと一つの建物にたくさんのお店が入ってたりするけど」

――地球人って限度を知らないの?

 

 いや、でもすごく便利だと思うよ。わたしは残念ながら見たこともないけど。

 たくさんのお店が並ぶ道を歩いていく。人も多くてちょっと怖いけど、話しかけてくる人はさすがにいないからそこは安心だ。

 

「ここ」

 

 そうしてたどり着いたのは、お肉屋さん。安くて美味しいという評判のお店で、お客さんも多い。わたしの目的はその端っこで作られているもの。

 

「あら。いらっしゃい」

 

 揚げ物をしていたおばさんがにっこり笑って声をかけてきた。

 

「あの……。メンチカツを一つ……」

「はい、ありがとうね」

 

 揚げたてのメンチカツが紙袋に入れられて渡されてくる。お金を支払ってから、メンチカツと小袋のソースを受け取った。

 

「これがわたしのオススメ。揚げたてのメンチカツ」

――早く! 早く食べて!

「あ、うん……」

 

 声だけなのに分かる。すごく興奮してる。

 思わず小さく笑ってしまってから、わたしはメンチカツを頬張った。

 揚げたてなだけあって、衣がざくざくとしていて食感が楽しい。噛んだところから肉汁が溢れてきて、濃厚なお肉の味がしっかりと楽しめる。ああ、すごく美味しい……。

 

――なによこれ……。

 

 リーナの反応は、なんだかちょっと怖いものだった。ちょっと低い声だ。

 

「り、リーナ……?」

――こんなに美味しいものがあるなんて……! 地球は! 日本は! ずるい!

 

 あ、ちゃんと喜んでくれてるみたい。一安心だ。

 

「美味しいでしょ?」

――すっごく美味しい! 他にも! 他にも食べたい!

「あ……。ごめん、それは無理……」

――どうして? 周りにたくさんお店があるのに。

「お金が……」

――…………。

 

 ああ、黙ってしまった。呆れられてしまったかな。そんなお金もないのか、とか。でもこればっかりは、わたしにはどうにもできない。中学生のわたしは、働くこともできないから。

 

――ごめん、なんでもない。帰りましょう。

「うん……。ごめんね」

――菜月が謝ることじゃないでしょ。

 

 リーナはすごく優しいかもしれない。

 正直、こんな意味不明な声とずっと一緒に生活しないといけないってなった時は不安しかなかったけど……。リーナと一緒なら、きっと楽しいはず。

 

――菜月、単純だって言われない?

「根暗ならさっきも言われたよ」

――あんなやつの言葉なんて忘れていいから。

 

 そう言われても、やっぱり気になるのは仕方ないと思う。

 

 

 

「ここが、わたしの家」

――…………。

 

 リーナが絶句してしまった。失礼だと思う。

 わたしの家は、商店街のすぐ近く。買い物には便利なんだけど、他に問題がいっぱいだ。

 

「ぼろいでしょ」

――ぼろいね。

 

 二階建ての木造アパート。築何年かも分からないぐらいに古い建物。わたしの部屋は二階にある。

 

「というか、リーナ、わたしの記憶を見て知ってるんじゃなかったの?」

――全部確認しているわけないでしょ。この世界について知るのに必要な知識をざっと見せてもらっただけよ。

「…………。どうしてそれで、わたしの黒歴史をピンポイントで見ちゃったの?」

――あはは。

 

 笑って済まさないでほしい。わたしにとっては本当に、思い出したくもないことだったんだから。

 階段を上って、二階の端っこへ。鍵を開けて中に入った。

 

――うわあ……。

 

 そのどん引きみたいな声は、ここで生活してるわたしに失礼だと思う。特に今日からはリーナの部屋でもあるんだから。

 部屋は、和室とキッチンが一部屋ずつ。歩くだけでぎしぎし鳴って、いつか穴が空きそうでちょっと怖い。

 キッチンには小さい食器棚があるけど、入っている食器は一人分。冷蔵庫も小さいもの。それしかないから、キッチンはわりと広く感じられる。ぎしぎし鳴るけど。

 和室は、隅に畳まれた布団と丸テーブル、それに座布団が一つだけある。壁には、わたしの予備の制服。それだけ。

 

――物が少なすぎるでしょう。

「お金、ないからね」

――…………。

 

 服を買うお金すら、わたしにはないから。だからいつも、休みの日でも、わたしはずっと制服を着てる。丈夫だから便利だ。ファッションにも悩まなくていいし。

 

――ねえ、菜月。ご両親はどうしたの?

「え? さあ……? 遊び回ってるんじゃないかな?」

 

 お父さんとお母さんは、わたしから見てもはっきり言ってろくでもない。お父さんはパチンコばかりしてるし、お母さんはホストだっけ。そういうのに貢いでる。二人とも、親戚の遺産とかをもらったとかで、お金だけは無駄にあるから。

 それなのに、わたしにはあまり使わせてくれない。こんな部屋だけ与えられて、あとは放置。月に一回、わずかな生活費を持ってきてくれるだけ。

 

――それ、日本では普通なの?

「これが普通だったら日本はもう終わりかけだと思う」

――その……保護とか……。

「正直クソみたいな親だけど、それでも親だから……」

 

 きっと、どこかに助けを求めたら、いろいろと助けてくれるんだと思う。でもそうなると、きっとあの両親は捕まるんじゃないかな。それは、ちょっと嫌だ。

 あんなのでも、一応はここまで育ててくれてるから。

 

「それに、何よりも」

――なによりも?

「どこかの施設に入って、知らない人と生活なんてできない……!」

――あー……。菜月、人と話すの苦手そうだものね……。

「短い間で理解してくれて嬉しいよ……」

 

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