もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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4、知恵のリンゴ

「末の子」は、人間達に本を配って、読めない者には読み聞かせていた。

 

この東のミカド国では、日本語を魔法の言語と読んでいる。不思議な話だ。日本語を日常的に使っているのに。

 

英語を公用語にする前は、ヘブライ語を公用語にする案もあったらしいとお母様が言っていたのも聞いた。

 

あんな未完成な言語を公用語にするなんて。

 

それにだ。

 

本を読むと、みんな好奇心で目を輝かせている。

 

単純な本だけでもそうだ。

 

バイブルしか知らない。

 

そういう人ばかりだった。

 

本を読む集まりが少しずつ出来はじめている。それをサバトとお母様は名付けていた。

 

サバトというのは、元々はただの一神教とは違う信仰の祭りだった。

 

それを悪魔へ忠誠を捧げる邪悪なものとしてねじ曲げて。

 

サバトを行ったとかいう因縁をつけて、多くの人を殺すために用いられたのだとか。

 

今はサバトなんてものは存在そのものが忘れられている。

 

伝承のサバトは悪魔と性行為をしたりとみだらなものだったらしいが。

 

今のサバトは、提供された本をみんなで読んで。

 

それぞれ感想をいうだけのものだ。

 

簡単な内容の漫画でさえ、みな感動して涙を流していたり。

 

こんな面白いことがこの世にあったのかと、打ち震えていたりする。

 

本当に愚民化されているんだ。

 

それを知って、末の子は心が痛んだ。

 

「末の子。 次に行くわよ。 サムライ衆が来ているらしいわ。 お母様は問題にもしないでしょうけれど、私達は違う。 接触は避けるわよ」

 

「はい、お姉様」

 

「そろそろ仕上がりね」

 

「?」

 

今は、その言葉がわからなかった。

 

数日後。

 

遠くから、あれを見ていろとお姉様に言われる。

 

あれと言われたのは、熱心にギリシャ哲学の本を読んでいた、生真面目そうな農夫だ。素の頭は悪くなく、それですらすらと内容を頭に入れていった。

 

でも、ギリシャ哲学というのは、初期ならともかく、後期は詭弁の塊だった代物である。

 

大丈夫なのだろうかと末の子は感じていたのだが。

 

その農夫は、いきなり苦しみ出すと。

 

全身が膨れあがり、肉が木っ端みじんに吹き飛んでいた。

 

え。

 

思わず絶句する。

 

農夫を内側から吹き飛ばして現れたのは、悪魔だ。赤く燃え上がる犬。

 

地獄の番犬というとケルベロスが有名だが、あれも実は「冥界の番犬」であって、ギリシャ神話の地獄タルタロスを守るのは、ヘカトンケイレスという三兄弟の強力な神だ。

 

あの赤い燃え上がった犬は、地獄の番犬といっても北欧神話のそれ。

 

ガルムと言われている。

 

ガルムは悲鳴を上げる農民達に襲いかかると、熊より巨大な体で、見る間に襤褸ぞうきんのように引き裂き始めた。

 

お姉様がけらけら笑っている。

 

「ひ、酷い! どうしてこんな事に!」

 

「あーたそんなんだからおぼこなのよ。 此処にいるのはあの四文字の神に愚民化されて家畜化された人間よ。 ずっとずっと従順なように品種改良されて、知恵なんて一切入らないようにされていた「無垢」だと四文字の神の手下が考えているような、実際には空っぽの器。 其処に大量の知識を放り込んだら、それは悪魔にとって都合が良い器になるに決まってるじゃない。 お母様がアティルト界との通路も作った。 これから本を読んだ人間は、どんどんああなるわよ。 四文字の神の世界は、こうして根元から崩れ去るし、たかが本を読んだ程度であんなになるんだったら、それまでってことよ」

 

絶句する末の子の前で、ガルムになった農夫が、村の人間十数人を瞬く間に殺戮し、食い荒らした。

 

更に、引退後のサムライが出てくるが、それにも容赦なく襲いかかる。

 

だが、そこは腐っても元サムライだ。

 

ハンドヘルドコンピュータは返してしまっていても、それでも悪魔に教わった魔術と、蓄えた戦力は健在。

 

ガルム相手に一歩も引かず、最終的には相討ちになってともに果てていた。

 

燃える村。

 

泣いている子供。

 

弱者は死ね。それがお母様の考えだと言う事は分かっていた。だけれど、あんなちいさな子供とか、真面目に毎日を生きている人を弱者というのか。

 

それを見てケラケラ笑っているお姉様は本当に正しいのか。

 

お姉様達が、死んだ村人に集って、マグネタイトを喰い漁っている。他にもアティルト界から、雑多な悪魔が実体化し始めているようだ。

 

「おいしそう。 早く食べようよ」

 

「いらない……」

 

「そ、じゃあアンタの分も食べちゃうからね」

 

側にいたお姉様も飛んでいくと、悪魔リリムの正体を現して、人間の亡骸をそのまま貪り喰い始める。

 

マグネタイトを得るには、それが一番早いし。

 

たくさんマグネタイトを得ると強くなる。

 

泣き叫ぶ子供に襲いかかる悪魔。

 

辺りは地獄絵図。

 

だが、飛び込んできたサムライが、子供に襲いかかった悪魔を両断した。サムライは複数。怒りに燃える目をした青い隊服のサムライ達が、お姉様達も含めた悪魔を薙ぎ払い始める。

 

馬……いやあれは何かの悪魔か。

 

それに跨がって突入してきた口元に少しだけ髭を蓄えたサムライが、怒号を張り上げる。

 

「生存者の救出を優先しろ! おのれ悪魔どもめ、一匹もにがさん!」

 

お姉様が、そのサムライに瞬く間に殺された。凄まじい剣術だ。

 

だが、お姉様が殺された事よりも。

 

今起きた悲劇に末の子は大きな衝撃を受けて。その場を逃げ出してしまっていた。

 

どうして。

 

どうして本を読んだだけで。

 

何も知らない事が可哀想だと思ったのは本当だ。だけれども、本を読んだ人間を媒介に悪魔が召喚されるなんて、いくら何でもおかしい。

 

涙が出てきた。

 

お母様は弱者は死ねというけど、こんなやり方が本当に正しいのか。

 

末の子には、とてもそうだとは思えなかった。

 

 

 

(続)









二章は此処までです。楽しい読書会の筈が地獄絵図に……

なお、原作真4FのDLCに登場する設定で、天使に埋め込まれた悪魔化遺伝子というものが悪さをしている、という話があるんです。

これによると、大量の文明を一度に摂取したり、大天使から離れると悪魔化する遺伝子が、東のミカド国の民に埋め込まれているらしいですね。まあ東のミカド国の民は天使に拉致された子供の末裔らしいので、悪さがされていてもおかしくはないのですが。

いやまてそれはおかしい。

だとすると日常的に業務に関連する本を読んでいたりするラグジュアリーズはみんな悪魔化してもおかしくないし、なんなら遠出しただけで悪魔化するだろうし、東京に降りたサムライなんかみんなおだぶつじゃね……。

その辺の疑問もあるので、女神転生らしい設定でその辺りを上書きして無かった事にしております。

それはご承知おきください。




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