阿修羅会に続いてガイア教団との戦いも終わり、東京の人々は一つの旗に集いました。
それを見計らったかのように多神連合が動き始めます。
序、平行世界の結末
体力を回復した霊夢が外に出ると、コンテナが増えていた。これは何となく理由がわかる。
かなりの数のトラックが行き交っている。半分以上は悪魔が引いているが、中にはガソリンとやらで動いているものもある。ガソリンの生産が上手く行き始めていると聞いていたが、それを実用化していると言う事なのだろう。石油から精製するらしいが、霊夢には石油にはいい思い出はない。
コンテナには、今まで人外ハンターがちまちま集めていた物資を、物量作戦で集めて来ている。
東京は今まで、悪魔に支配されている最果ての地だった。
それが確実に流れが変わったのだ。
悪魔と人間が、少なくともこの場では仲良くやれている。神々もそうだ。この光景は、多神教特有のものだという者がいるかも知れない。
だが、多様な姿の者達が。
互いに欠点を補い合って作業をしている。
それはとても素晴らしい事だと霊夢は思う。
霊夢のいた幻想郷も、よく分からない奴らが好き勝手をする世界だった。泣いている弱者だっていた。どいつもこいつも良い性格をしていた。
だが、それが大天使の軍勢に焼き払われて。
やっと上手くやれている場所だったのだと、霊夢は理解した。
失わないと分からないのだ。
大戦の前、世界では多様性を言い訳にした詐欺師が横行し、様々な利権が世界中で悪意の限りを尽くしていたとフジワラが言っていた。
耳障りがいい言葉を使って人を騙し。
やがて善良という言葉はバカの代名詞になっていったという。
それもまた、違った形での最果ての時代。
だが、それも今此処で、新しい時代が始まろうとしている。
疲れは取れた。
後は、やるべき事をやる。
今。働いているのは、戦う力がない者達。悪魔も力が強くても性格が戦闘向けではなかったり。力が弱くても賢い者だったり。
人間だってそうだ。
そういった者達が、価値が無いのか。
価値が無いと考えるような世の中は終わりだ。
そんな世の中に二度とさせないように、霊夢は戦う。
戦う価値が、ある筈だ。
全肯定と全否定の世界だと、一神教の現状の思想について霊夢は皆と同じように認識している。
だが、イエスが作り出したキリスト教は、最初は隣人愛と許しの思想だった。
ムハンマドの作り出したイスラムの思想だって、少なくとも全肯定と全否定の思想などではなかったはずだ。
それらは後の人間に歪められた。
座についた四文字の神は、最初はこんな存在では無かったのかも知れない。
神は歪むのだ。
いや、神であっても絶対などでは無いし。
人間の思念を得て歪む。
だとしたら。
やはり、そんな簡単に歪んでしまう仕組みそのものが駄目なのだろうと、霊夢は思う。
行き交う人々と悪魔を見ながら、物資の集積をぼんやり見ている。フリンが来た。手にしている槍が変わっている。
だが、とても馴染んで見える。
これこそ、フリンが手にするべきだった槍のように、霊夢は思えた。
「ぼーっとしているようだけれど、大丈夫?」
「ええ。 この世界こそ、多様性なのだろうと思ってね。 ヨナタン、貴方天使も貸し出しているのかしら」
「いや、僕の天使達ではない。 悪魔合体で天使を作り出して、それを使役している者がいるようだ。 四文字の神の絶対的な走狗としてではなく、人々の守護者として動く天使もまたいるようだね」
「はあ。 幻想郷に攻めこんできた天使にも、そんなのが少しはいればよかったのだけれどね」
複雑だ、とても。
移動しながら話す。
シェルターに戻って、これから会議と思ったのだが。この気配はクリシュナである。また来やがったか彼奴は。
ただ可能性世界が云々と言っていたから。それに関する打ち合わせなのだろう。
足を止めて、振り返る。クリシュナが外に具現化したのが分かった。
「迎えに行ってきてくれる? あたしはいざという時に備えるから」
「分かった」
「それはそうとフリン、かなり力上がってる?」
「んー、ティアマトを転化させて手持ちに入れて、力は上がったと思うけれど。 まだティアマトを十全に暴れさせるのは無理かな」
ティアマトか。
祖神の中の祖神。普通、人間が従えられる相手じゃない。
それをも従えられるとなると、或いは。
多少無理をすれば、マルドゥークもいけるか。
ミカエルは神々の系譜という観点で、マルドゥークの直系子孫と言う訳ではない。あくまで影響を辿っただけの存在だ。同じ意味で、ミトラスの直系子孫でもないだろう。
ラファエルはバアルの一柱だったことはほぼ疑いない。ウリエルについては、もとの姿に戻せば、恐らくは一神教の支配以前の姿に戻る。
それらの中で一番悪魔合体の難易度が高いのが間違いなくマルドゥークだが。
それをもし、神降ろしなしで出来るのであれば。
霊夢自身の力も上がっている。
ここのところ無理をした影響もあるだろうが、大綿津見の神降ろしだったら、もう苦にしない自信がある。
流石に天照大神は厳しいが、それも立て続けにやらないのであれば、或いは。
先に声を掛けて、クリシュナを囲む。クリシュナは明らかに力が上がっているフリンを含めた皆に囲まれて、以前ほど余裕がないようだった。
「これは参ったね。 英雄達もサムライ達も全員実力が跳ね上がっている。 これは此方としては選択肢が減ってしまったな」
「この後に及んでくだらない事を考えていたっていうならこの場で潰すわよ」
「いや、あくまで選択肢の一つだったというだけだ。 それよりも、先に君達にとって参考になる……平行世界の情報を見せておこうと思ってね。 無限炉を使うのが一番良いんだが、あれをこれ以上出力を上げる気はないんだろう」
「現時点で無限炉は東京に充分な電力を供給できている。 これ以上の出力を出す事は考えていない。 悪用される可能性があるからね」
フジワラとツギハギも来る。
クリシュナはふっと笑うと、外に出てほしいと促す。
まあいいだろう。
今の時点で、クリシュナ相手なら勝てる。此奴がヴィシュヌとしての力を全て取り戻していたら、話は違っただろうが。
弱体化しているのは、何処の神々も同じなのだ。
クリシュナが外に出ると、しばしシェルターから離れる。
国会議事堂から少し離れると、戦車が並べられていた。少しずつ修復が進んでいるが、ある程度直ったら一度市ヶ谷に集めるらしい。
更にもう少し距離を取って、其処で止まる。
この辺りには人気もない。
何体か神がいる。
太めの仏は、これは弥勒菩薩か。
元々大乗仏教で信仰対象になりやすい存在だが、大乗仏教というのは思想を兎に角簡単にする傾向がある。
「ナムアミダブツ」と唱えるだけで救われる、なんてのはその最たる例だろう。
結局のところバカにも分かる思想にするのが一番手っ取り早い。差別を助長するヒンズー教がインドで覇権を握ったのは、それが理由だったと言う事だ。仏教は多数の民を救うには、思想が難解すぎた。その反動でこういった存在が出てくるのは、仕方が無い事なのだろう。
ケツアルコアトルとショウキは以前戦ったか。
以前ケツアルコアトルはマーメイドを圧倒したことがあったが、現在やりあったらどうなるか分からない。
一瞬だけ火花が散ったが、やがて弥勒菩薩が言う。
「集まったな、英傑諸君。 我は57億年の果てに世界を巡って衆生を救う仏。 様々な世界を巡り、修行を重ねる存在」
「いや、今すぐ救ってくれよ。 阿修羅会をぶっ潰してまだなおこの状況なんだぞ」
もっともなことをいうワルター。
苦笑しながらも、弥勒菩薩は言う。
「我を作り出したのはいわゆる終末思想だ。 そう言ってくれるな。 それはそれとして、我はその世界を巡りながら様々な修行を重ねる特性を持っている。 貴殿等は、まだ座に何を据えるか悩んでいるのだろう。 ならば、我が平行世界の末路を見せておこう。 それで汝らも何かしらの案を出せるのではないのか」
「仮にそれで神々を全部消すべしなんて思想に至ったらどうするつもり?」
「その場合は仕方がない。 我はこの世界ではもはや用を得ないと言いたい所だが……そう上手く行くだろうか?」
フリンに不穏な言葉を返す弥勒菩薩。
ふむ。確かにそれもそうだ。霊夢も分かっている。
アメリカの西部開拓時代に噂話としてポールバニヤンという存在が出現した。これはあくまで西部の開拓をしていた荒くれ達が噂話の中から作り出した存在だが、そのあり方は始祖の巨人そのものなのだ。
つまり信仰なんて、どこからでもいつでも湧き出してくる。
いわゆる無神論で一度神々の存在を完全に消し去ったとする。
それはそれでいい。
だがアッシャー界とアティルト界が実在している以上、神は求められたらまた湧き出すのではないのか。
一度形を無くすアティルト界の者達も。
アッシャー界での思念を受けて、また神々としてわき上がるのではあるまいか。
それがあったから、霊夢は安易に神々を全て消すという選択肢はあまり採りたくはない。
それに幻想郷には、その選択肢を採られると死ぬ仲間や友がそれなりにいる。
事実、悪魔と人間がともにやっていけている光景を見たばかりなのである。
ドクターヘルがふんと鼻を鳴らしていた。
「問答はいい。 それでお前達はただプレゼントだけをくれると言う訳か?」
「実際問題阿修羅会を排除して、大アバドンの暴走を防いでくれたからね。 僕としては、相応の対価を渡す。 それだけだよ」
「対価ね……」
「ともかく、可能性世界を見せておこう。 我も色々な世界を渡り、敗れ去った世界もまたあったのだ」
それを認識していると言う事は。
フリンがついに撃ち倒したらしいリリスと似たように、弥勒菩薩も本当に平行世界に影響力を持っているというわけだろう。
まあいい。
霊夢も含めて、この場の全員だった遅れを取る事はない。今の戦力は其処まで高まっている。
まだ此奴らに隠し弾があったとしても、それは此方も同じ事。不穏を感じ取れば、各地に守りに配置している必殺の霊的国防兵器が動く。更にドクターヘルが改良した固定砲座レールガンが、既に自動で照準を定めているはずだ。
霊夢がフジワラを見ると、フジワラは頷いていた。
「分かった。 いいだろう。 可能性世界を見せてもらおうか」
「うむ、ではこれを見るといい」
辺りの景色が歪む。
そして、砂漠になっていた。
砂漠の中で、僕は彷徨うようにして歩く。いや、これは俯瞰の光景。僕が此処にいて、此処にいない。
何となく理解する。
これは恐らくだけれど、将門公に守られなかった東京だ。
彼方此方に悲惨なシェルターがある。
悪魔さえいない。
それらで、身を寄せ合って生きている人々は、数百人いるかどうか。それも、それらが最後の生き残りだ。
「駄目だ! 北米も中華も欧州も連絡が取れない! 核兵器を全弾撃ちあって、本当に全部の文明があらゆる人間ごと消し飛んだんだ!」
「その上神の手下どもは、もう機械に全て任せて消しに来ていやがる。 機械共は大した強さではないが、もうこちらにも戦える人間なんて……」
「プルートと名乗る機械の王を斃せればまだ可能性は……」
「あれを倒した所で、また新しい機械が送り込まれてくるだけだ。 最近では天使すらみなくなった。 天使すらも神に不要だと判断されて、全部消し去られたって話だ」
恐ろしい話が聞こえてくる。
そんな中、砂漠の中を歩いてきた男が、砂を落としながら声を掛けていた。
「他のシェルターから食糧を持ち帰ったぞ」
「流石はアキラだ!」
「助かった!」
アキラ。
聞き覚えのある名前だ。そう、三英傑の一人。フジワラとツギハギとともに、四大天使を打ち破ったという。
精悍な中年男性だが。その隣にフジワラとツギハギはいない。
食糧に群がる人々は、まるで豚の群れだ。それを見て、アキラは悲しそうにしていた。まだかろうじて戦えそうな男が聞く。
「アキラさん、もう限界だ。 放射能そのものは弱まってる。 核の直撃を受けていない場所まで逃げるべきだ。 神の機械だって、どこまでも追ってくるわけじゃないだろう」
「無駄だ。 俺はシミュレーションで見たが、発射された核弾頭の数、その着弾地点は計算され尽くしていた。 およそ人間が住んでいる全ての場所が核に焼かれるようにな。 此処は将門公が飛来する数発を食い止めてくれてそれで全滅を免れたが、他は……」
「でも、もう何も残ってない! このままだと死ぬだけだ!」
「分かっている。 俺が……プルートを倒す! 今度こそは! ケンジはいないが、奴は機械。 前回のダメージは残っている筈だ!」
決意を込めた視線。
その後ろで、顔中に十字の紋を刻んだ男が、発狂したように笑っていた。
「キヨハルさん、すっかりおかしくなっちまったぜ」
「メシアが来てくれるって未だに信じてるんだろ。 天使共が子供を繭に乗せて連れ去った後、世界を用済みだって認じたみたいなのにな。 天使すら役立たずとして消し去られたみたいなのに、人間なんかに慈悲なんか掛けるかっての」
「キヨハルさんは熱心な一神教徒だった。 騙された側だ。 そう言ってやるな」
光景が変わる。
おぞましい機械の群れ。人を殺す事だけに特化した存在。
それを片っ端から撃ち倒したアキラが、巨大な機械に銃弾を叩き込んで、ついに撃ち倒していた。
荒く呼吸をつくアキラ。
だが、其処に声が響く。
「まだ抵抗する虫がいたか。 天の国で醸成している人間どもは、完全に家畜化が済み、神の栄養として調整が終わったのに。 プルートが倒されたというのならば、もっと強力な駆除装置を送り込むとしようか」
「くっ……! 貴様が神だとしたら、信じていた者達までどうして殺した!」
「無用だったから以外に理由などない」
そして、降臨するそれ。
三つの人体がつながったようなそれは、プルートよりも更に忌まわしい存在に見えた。
「我が名はエンシェントデイ。 愚かしい旧人類を駆逐するもの。 全て無にかえるがよい」
「お前らを信じていたキヨハルさんになんと言い訳をするつもりだ、神の傀儡っ! キヨハルさんはケンジにどれだけ宥められても、神に愛があると信じ続けていたんだぞ!」
「愚かしい事を言う。 人間の愛が主観的で身勝手な事は理解できているだろう。 そんな人間が絶対の神として作り出した存在が、主観的で身勝手な愛を持たないわけがなかろう」
「自分で認めやがったな下衆野郎。 いいだろう、俺の身に代えても、貴様だけは撃ち倒す! 人間はしぶといぞ! それを天でふんぞり返っている親分に伝えやがれっ!」
場が閃光に包まれる。
どちらが勝ったのかはわからない。
分かっているのは。
あの状態では、仮にアキラが勝ったとしても、人類に未来などないということだけだった。
ぞっとして顔を上げる僕。
弥勒菩薩が、ふっと笑っていた。
他の皆も青ざめている。
霊夢ですらも、絶望というのも生ぬるい別の可能性世界を見せられて、言葉もないようだった。
「まだ始まったばかりだが、もう音を上げるつもりか」
「いや、むしろ安心した」
「何……」
ツギハギが言う。
フジワラも、それに力強く頷いていた。
年長者が余裕の表情を見せている。それが、どれだけ皆を元気づけるか、知っているのだ。
「平行世界でもアキラは私の知るアキラだ。 立派な男だ。 上に攻め上がった時と良い意味で何も違っていない。 あんな相手にも、臆さず立ち向かっていく。 人類の意地に本気で命を賭けられる男だ。 私に取って、アキラとともに戦えた事は誇りですらあるよ」
「同感だ」
ツギハギがフジワラの言葉に頷く。
それに鼻白むでもなく、弥勒菩薩は大いに頷いていた。
「そうか。 やはり強攻策は放棄して正解だったようですね。 ただこの世界の未来は、まだ観測出来ていません。 今後どうなるのか、まだまだ不確定要素が強いのだと思います」
「それはいいから、早く他の可能性世界を見せて欲しい。 何かその不確定要素を排除して、未来を作りあげるヒントがあるのかも知れない」
「絶望が深まらないと良いのですが」
「深まらねえよ」
ワルターが言う。
どうやら、こんな状態で真っ先に啖呵を切ってくれたフジワラとツギハギに感動したようだ。
だから、負けているわけにはいかないと判断したのだろう。
ワルターも、獣みたいな考えをしていた最初とはもう違う。
今では、僕が背中を預けられる立派なサムライだ。
「それでは次の平行世界を見せましょう。 観測出来る範囲では、まだまだたくさん……様々な結果になってしまう平行世界があるのです」
「覚悟はしている。 だから早く」
「……」
また、世界が切り替わる。
僕は、それを甘んじて受け入れていた。
平行世界での様々な結末。弥勒菩薩がこれを見せるのは、人間の可能性を見極めるためです。
弥勒菩薩としても人間に可能性があるのかまだ見極めたいと考えているため、多神連合に混じって行動しているのです。
基本的にこの仏様、衆生を救う存在ですからね。
真4Fみたいな行動は、本当に最後の最後までは取らないのです。