「砂漠の東京」の次は「爆炎の東京」。
どちらの可能性世界でも、本作ではアキラさんが対応した場合の話を扱っています。
元々どちらの世界も、原作でフリン達が介入する意味があまり感じられないんですよね。小細工したところで詰んでますので。
ホワイトマンが絶望させるために送り込んだのかも知れませんが。
何処もかしこも燃えさかっていた。
そしてどこもかしこも血の臭いが満ちていた。
其処で歩いていたのは、血まみれの男だ。いや、そうじゃない。人間と悪魔が融合したとしか思えない存在。
そして何処か卑屈な言動を見せる輩だった。
「アキラ、どうだ。 勝てそうなのか」
「なんとかやるしかねえだろ。 せっかく天使共を叩き潰したっていうのに、こんな状態だ。 悪魔人間も家畜人間も減る一方。 少しでも状態を良くするには、東京を統一するしかねえし」
「アンタに出来るのかよ」
「ハハハ、そうだな。 でもやるしかねえんだよ。 皆、腹を括ってくれ。 どうせ負けたら皆殺し。 そんなルールで、これ以上無駄に死者を出すわけにはいかないんだ」
其処は強いて言うなら、爆炎の東京、だろうか。
燃えさかっている東京全域。
彼方此方に散らばっているのは、大天使らしいものの残骸。
そう、残骸だ。
何となく分かる。
此処では恐らく、三英傑以上の化け物が出た。そして、攻め寄せた天使達を皆殺しにしたのだ。
完膚無きまでに。
東京が滅ぼされた……いや東京どころか世界全部が焼き滅ぼされたことに代わりはないのだろう。
後は東京だけ。
そう考えて攻め寄せた大天使達は、完膚無きまでに叩き潰されて、逃げる暇もなく滅ぼされたのだ。
街の様子が見えてくる。
純粋な人間などいない。
悪魔と融合した悪魔人間が支配者になっていて、それらは悪魔となんら変わりない存在となっていた。
それもどちらかというと堕天使の中でも残虐な連中とか、妖獣だとかの獣同然の連中とかと同じようにすら見える。
街と言うより巣。
そして家畜人間。
それは赤玉の製造所で見たような、頭に筒が直に突き刺されていて、感情もなく死んだ目をしている存在達だった。
話が聞こえてくる。
それで分かってくる。
この世界では、そうそうに人間が悪魔と合体することを選んだのだ。戦う意思がある存在は、そうした。
アキラだけでは無い。
戦う意思がある存在は皆そうなったようで。それで天使達は度肝を抜かれ。その戦闘力に右往左往しているうちに皆殺しにされたようだった。
だが悪魔はエサを必要とする。
人間の恐怖というエサを。
だから誰かが考えたのだ。
戦う意思が無い人間は、家畜にすべしと。
そうして、戦えない者は全てが家畜人間とされた。
家畜人間はその感情を脳みそごと悪魔人間に吸い出され、そして消耗品として消費されていく。
死んだらそのままエサにされる。
それがこの東京の仕組みだ。
狂っているとしかいえない。末世にも程がある。それでも、この東京は大天使達を撃ち払った。
全てを滅ぼしていく大天使達を、撃ち払ったのは事実なのである。
その代償があまりにも大きすぎたということだ。
「新宿御苑にあった繭のことを覚えているか」
「ああ。 俺の姉が彼処に閉じ込められていたんだ。 ケンジの奴が、大天使達をブッ殺して、繭も壊した。 そうしたら、中にいた子供はみんな腐って溶けちまった。 腐って溶けた俺の姉を見て、俺は悪魔人間になる事を決めたんだ」
「大天使どもが死んでせいせいした。 後はこの混乱てか、群雄割拠をどうにかしねえとな」
「ああ……」
そんな話が聞こえてきている。
悪魔人間達は凄まじい闘争本能に支配されてしまい。大天使を倒した後は、音頭を取って最前線で戦ったケンジという人間が「東京王」を名乗って全てを放棄してしまった事もある。
誰も彼もが強い奴が支配者にと動き出して。
グループに分かれ、殺し合い始めたのだ。
今では幾つかのグループに分かれて、それで殺し合っている。アキラのグループは生き残ったグループの中では弱小だが、それでもアキラ自身は強かった。
アキラは出向く。
アキラが来たぞ。
そう叫んで、悪魔人間達が出てくる。中には使い物にならなくなった家畜人間を今まで喰らっていたのか、口が朱に染まっている者もいた。いずれも原色の肌色をしていて、悪魔そのものになり果てていた。
アキラは狡猾な策も交えて、悪魔人間を打ち倒して行く。
リーダーをしている奴を巧妙に引っ張り出すと、それを一騎打ちで傷つきながらも撃ち倒す。
そして、また街を一つ手に入れる。
手に入れた街にはアキラの手下達が入って、悪魔人間を皆殺しにする。そして家畜人間を全て確保する。
まるで蟻かなにかだ。
大天使を撃ち倒した代償が大きすぎて、もはや人間は人間ではなくなっていた。
アキラが舐められているのは、家畜人間への態度が優しすぎるから。
家畜人間を大事にしろ。殺すな壊すな。潰れそうになっているのは、もうそれ以上吸うな。
子供が家畜人間の間に生まれた場合、それは家畜人間にも悪魔人間にもするな。子供は大事にしろ。
悪魔人間になるのは、俺たちの世代で終わりにする。
アキラがそう宣言したから、アキラの下にはあまり悪魔人間が集わなかった。誰もが奪え殺せ喰らえと好きにさせる悪魔人間の下に行ったからだ。だがアキラは強かった。そういう人間である事を放り捨てた連中を、次々と実力で下していったのだ。どこか卑屈にさえ見えるのに。
やがて最大の勢力を下したアキラは、皆に宣言する。
「今では、東京王を名乗るケンジが、むしろ東京を苦しめている元凶になっている。 俺たちは悪魔人間になり、家畜人間を苦しめて生きている。 だが、人間だった時のことを思い出せ」
「俺はスクールカーストで下位にいた。 学校出てからも、ずっと会社で搾取され続けていた。 それから抜けられたんだ。 悪魔人間になって、むしろ良かったよ」
そんな風に返す悪魔人間もいる。
そうだそうだと、同意の声が上がる。
大戦の前は、最果ての時代だったんだ。
志村さんがそう言ったのを僕はこの光景を見ながら思い出す。
アキラはそうだなと、否定しない。
だけれどもと、言った。
「そんな酷い時代を繰り返してはいけない。 俺たちが、この悪しき輪廻を断つんだ。 幸い悪魔王になったケンジは、天使共のボスもブッ殺してくれた。 四文字の神とかいう奴だ。 だけど、それでケンジは理性も何も無くしちまった。 俺はそうはならない。 昔、俺はケンジと一緒に戦った。 だから、楽にしてやるのは、俺でなければならないんだ」
分かったよと、悪魔人間達は従う。
いずれにしてもアキラに従って勝ち残れたのだ。
アキラの言葉にも一理はあると思ったのだろう。
身分なんか作って、搾取する構造が如何に醜いか。それはこの光景を見ていれば、僕にだって理解出来る。
同じ人間だというのに、何故に身分なんて作っているのか。
例えば、社会で地位を作るのはいいだろう。
だが、それは社会的契約と言う奴で。地位が高いからその人間が偉いとか、その人間の血統が優れているとか、そういう話では無い。
それはヨナタンが言っていたご落胤の偽造や。
イザボーの家のろくでもない実情を聞いて、僕も知っている事。
この世界を見て。
身分制なんてものの愚かしさを、目に焼き付けなければならない。そう僕は感じていた。
やがて、アキラが東京王に挑む。
もとはケンジという人間だった東京王は、顔だけの存在になっていた。もはや其処には、人の面影など形しか存在しなかった。
「ケンジ、待たせたな。 お前、誰よりも優しかったよな。 悪魔人間になるのなんて、一番嫌だったよな。 こんな世界を見て、悲しいよな」
「ア……キ……ラ……」
「今、楽にしてやる」
「ウウ……」
呻くケンジに、アキラは襲いかかる。
其処で、光景が途切れていた。
もとの世界に戻ってくる。
マーメイドが一番悲しそうだった。
たくさんの世界を見て回ってきたというのだ。それは、悲しむのもそうだろう。
秀が言う。
「戦国の世を後の時代では格好良いなどとかんがえていたようだが、実態は今のに似ている。 乱取りなどと言ってな、逃げ遅れた人間を奴卑(奴隷の事)にして売り払っていた。 それくらいしないと、戦争で利益が出なかった。 そんな事を誰もがやっていた。 だから、戦国を終わらせなければならなかった」
「そうよ。 わしはだから終わらせた」
殿もそれに同意する。
僕は戦国の世というのを知らない。
だけれども、あの爆炎に包まれた東京というのを見た後だと、それもまた仕方がないのだろうなと思った。
あらゆる手段で、あんな無法は終わらせなければならない。
その結果、全てを失ってしまったのが、あのケンジという存在だったんだ。
そう思うと、悲しかった。
弥勒菩薩は言う。
「休憩を入れるか」
「いや、問題ない。 次を」
「分かった……」
また、世界が切り替わる。
いや、これは今までとは違う。この世界に極めて近いようだった。
歩いているのは、背の高い青年。
これは、僕か。
僕は絶望しているようだった。
悪魔と合体したワルターと天使と融合したヨナタンを手に掛けた。凶行を止めようとしたイザボーも。霧が掛かった森。そこを、背の高い男性である僕が、絶望して歩いていた。
知らない森。いや、ここは覚えがある。
キチジョージ村だ。
その跡地。
そうか、別の世界でもキチジョージ村は滅びるのか。
それに、何となく分かった。
このキチジョージ村では、イサカル兄ちゃんは助からなかった。悪魔になってしまって。僕はそれにとどめを刺した。
どうしようもない絶望が伝わってくる。
僕は頭を抱えて、ぶつぶつ呟きながら歩いている。
混沌の理に捕らわれ、あろう事かガイア教団に味方しようとしたワルターを殺した。
破綻している東京を見て、絶対の正義が必要だと考え。大天使達にそそのかされ、その御輿になろうとしたヨナタンも殺した。
それをみて、もうついていけないと、哀しみの目を向けてきたイザボーも、狂気のまま刺し殺した。
後は東のミカド国に乱入して、大天使達を皆殺しにし。
そればかりか、民までも。
激情のまま、あらゆる全てを殺し尽くした。東のミカド国は全て更地になり、今では悪魔達が屍を囓っている。
誰もヒルズの地下から救い出せなかった。
暴走した無限炉から溢れたブラックホールが地下で肥大化し始めている。
終わりだすべて。
そう思った僕の前に、四つの影が現れる。
「だから以前言っただろう」
「この世界は四文字の神だけではない。 神々の気まぐれで弄ばれている存在であるのだと」
「それで滅ぼされる世界なのだ」
「いっそ、今楽にしてしまおう。 どれだけ待っても、この世界には希望などないのだ」
それぞれの姿は、この世界の僕の印象に残った人間の姿をしていた。一人はイザボーに似ていた。
この世界の僕は、イザボーと恋仲だったのかも知れない。
僕は血だらけになった手を見せる。
「みんな殺したよ。 人間性のままに振る舞ったら、何もかも許せなかった。 何もできなかった。 だから自分が一番許せない」
「我々もそうだった」
「何が座だ。 何が座の理だ。 悪しき輪廻で全て弄んでいるだけではないか」
「今やこの世界最強の存在は君だ。 君が願えば、この世界は終わる」
止めるんだ。
僕はそう叫ぼうとしたが、あくまで見ているだけだ。
この世界には、英雄なんて来てくれなかった。
ワルターもヨナタンもイザボーも、今の僕達よりもずっと弱かった。だから、出来なかったのだ。
可能性があった。
だけれども、それをすり潰してしまった。
すり切れてしまった。
人間の可能性は有限なんだ。
分かっている。生物である以上、無限の可能性なんて持っているはずがない。そしてそれは神々でさえ同じ。
だから四文字の神は腐り果てた。
そういうことだったのだろう。
この世界の僕は、選んでしまった。世界の終わりを。弄ばれている世界を終わらせることを。
あとは、ふつりと消えた。
何もかもが、最初から存在などしていなかったように。
ただ、この世界にはもう僕しか存在していなかった。生きている人間は、僕だけだったのだ。
だから、どの道この未来が来ていたのかも知れない。
そう思うと、やるせなかった。
再び、もとの世界に戻ってくる。
誰も何も言わない。
あれが別平行世界の僕だと、誰もが理解していただろう。それでも、何も言わなかった。責めなかった。
僕も、あんな状態ではと。そうとしか思えなかった。
「次を見せて」
「いいだろう。 これだけの強い心を醸成したのは自制か。 いずれにしても、生半可な精神力ではないな」
「……」
弥勒菩薩の言葉は煽っているのではなく、単純に褒めているのだと分かった。
だけれども、僕だって全て受け入れられているわけじゃない。別の世界が消し飛んだ。それはただの事実。
そしてこれは、色々な世界で似たような結末があった。
そういうことなのだろう。
また別の世界。
其処でも僕は男性だった。やはりヨナタンにもワルターにも裏切られた。それが原因で心に隙が出来て。
クリシュナに乗っ取られた。
クリシュナは、僕を神殺しに使うつもりのようだった。四文字の神を殺すために。
そして、あらゆる無茶苦茶をやった。
巨大な蛇が、東京を食い荒らしまくっている。その残虐さは、文字通り「鏖殺」としかいえないものだ。
機械的に人間を栄養にしている。その蛇の目には、何も映っていない。
僕達が悉く人間を止めてしまったその後の世界では、下の世代が頑張っていた。ナナシ達だ。
だが、ナナシもまた目がおかしい。
一目で分かった。
あれは取り憑かれている。取り憑いているのは、ダグザか。
ダグザとクリシュナの代理戦争が始まる。ナナシは元々強かった力への渇望を刺激されて。まさに野獣のようになっていたし。
僕は全てに対する絶望から体を乗っ取られて、操り人形と化していた。
僕が勝った世界では。
ナナシ達を屈服させて、それで結局四文字の神に挑んだ。頭だけがある神。そんな存在だった。
それが神性の表れなのだろう。
激しい戦いの後、クリシュナは神を打倒した。だが、それで満足してしまったようで。後は宇宙を全部造り替えるのだと。人形と化した僕を操りながら言うのだった。
ナナシが勝った世界も見せられる。
ナナシは僕を倒すや否や、他の皆も手当たり次第に殺戮の欲求に従って殺して行った。アサヒも。ナバールも。一緒に戦ってきた仲魔すらも。
ダグザに取り憑かれたナナシの戦闘力は異常で、最高神としてのダグザの力を最大限引き出す媒体と化していた。
そして立ちふさがるあらゆる全てを引き裂きながら進み、神をも殺した。
だがその赤く染まった目と、周囲に人形と化したもと仲間を従えている有様は。まさに悪魔の王。
吠え猛るナナシ。
神の座につくと、宇宙が……正確にはこの星だそうだが。それが粉々に砕けて、再構築されていく。
ダグザは陶酔した声で、手を拡げていた。
これで、個からの解放が為される。
新しい世界が作られるのだと。
ナナシはそのまま、狂気の笑みを浮かべて、世界が滅びていく様子。死屍累々と散らばっているあらゆるものの屍を見続けていた。
これは、ナナシには見せられないな。
僕としても、ナナシに対して悪印象は別に抱かない。
これは神の代理戦争に使われただけ。
それもこの世界のナナシは、まだ見習いの内に堕天使アドラメレクに殺されかけてそれでダグザに憑依されており。
責めるのも無理というものだ。
今のナナシよりも遙かに凶暴なあの表情。
明らかにダグザの影響。
やはりダグザは、条件が揃うと際限なく凶暴で残忍になる存在だった、と見て良いだろう。
僕はため息をつく。
でも、次、と告げる。
皆、僕を見る。
クリシュナですら、驚いていた。
「驚く事はないよ。 ダグザが条件次第では危険な神格になる存在だってのは、既に会って知っているからね。 それにこの平行世界では、僕は可能性を使い果たしたんだ。 人間の可能性は有限で、育てる限度がある。 だから個人に出来る事には限界がどうしてもあるんだ」
これは、引退サムライに武芸を教わっていたときにも聞かされた。
天才と言われた引退サムライは、若い頃は自分の可能性に限界なんてないと信じていたらしい。
だが、ある時ふと限界に気付いてしまった。
今までは一目で覚えられた技なのに。
いつの間にか、どれだけ剣を振るっても進歩しなくなっていた。
歴史上最強の存在だろうと、最強という天井にぶつかってしまうのだ。そしてそれは何も、人間に限った話じゃない。
これらの平行世界の光景を見ていて確信した。
四文字の神は。
恐らくは才能を使い果たしてしまったのだ。
人間の思念の影響を受けている時点で、唯一絶対でも無敵でもなんでもない。その存在には限度がある。
唯一絶対という設定だって、人間が思う唯一絶対にすぎない。
四文字の神が座につくまでは別に無敵でもなんでもなかったのは明らかすぎる程だし。幾つかの平行世界では破れてさえいる。
それで絶対でも最強でもないことは明らかだ。
或いは昔のバアルもそうだったのかも知れない。
実際に僕が遭遇したバアルは、ダグザに一方的に叩きのめされて、泣き言を言いながら消えていく情けない姿だったが。
それも座についていた頃は。いや、座についた頃は。
輝かしい力を持って君臨する、歴史の主役と言える存在だったのかも知れないのだから。
「フリンとやら。 そなたは平行世界の自身がクリシュナ殿に乗っ取られる姿を見ても、怒りや恐れを感じないのか」
「感じないね」
「ほう……」
「その世界では、英雄達がいなかった。 多分僕達だけで全て……阿修羅会もリリスも、他の強大な悪魔も倒さなければならなかった。 それで僕達は、成長の可能性を全て潰してしまったんだ。 ワルターは力の思想に走る事になったし、ヨナタンは絶対の正義を求めて大天使どもに籠絡されてしまった。 イザボーは僕が最大の危険分子と判断して、無謀な戦いを挑んで殺された。 それだけだったんだよ」
見事と、弥勒菩薩は言う。
そして、大きく息を吐くと、見る間に痩せていった。
それはわかりやすさだけを重視した、ただ「仏教徒を増やす」だけの事に特化した姿だった今までとは違う。
見るからに聖者と分かる、威厳のある姿だった。
「我はまずは仏教に民を誘うために、その理想も思想も関係無く、わかりやすさだけを重視した側面で今まではいた。 だが、それでは民は最終的に食い物にされるだけだ。 本来の仏教は、客観の元、あらゆる認識の不完全性を説き、過剰な修行が毒にしかならない事を説く思想。 誰もが大日如来の光の元に愛を注がれ、誰もが釈迦如来の理想の下に悟りに至る事が出来る思想。 カーストを作り出し、現世では何をやっても報われないとしたヒンズーの思想とは真逆の、全てを救う思想だ。 本来は、一神教もそうだったはずなのだがな」
「随分と言ってくれるな弥勒菩薩よ」
そのヒンズーの主神格であるクリシュナが、流石に不快そうにしたが。
だがその時、ケツアルコアトルとショウキもまた動いていた。
クリシュナをあからさまに牽制している。
「あれだけのものを見てもなおも心折れぬ様子。 私は太陽神として、この若き戦士と、英雄達に希望を見た。 他の可能性世界のように対立する意味がない」
「同感だ。 我も厄災からの守護神として、この者には光を見る。 そなたも本来は、悪しきカースト制度などというものを快く思っていなかったのではないのか?」
「……っ」
クリシュナが呻く。
バロウズが告げてきた。
クリシュナは元々はヴィシュヌではなかった。インド神話も神々の合一が激しい思想であり、あらゆる神を「だれだれの化身」として取り込んでいった経緯があるという。
様々な雑多な民族の神を、シヴァやヴィシュヌの化身として取り込んでいった。
その過程で、社会をバカでも分かるように回す思想としてカースト制度を作り出し。カースト制度の上の人間は、生まれながらにして偉いという理屈を定着させた。それは、思考停止で社会を動かすという点で。
四文字の神の思想と何も代わりはしないのだ。
「さ、見せてよ。 どんな悲惨な平行世界だって、僕は諦めないよ。 投げないよ。 それに、此処にいるのは僕だけじゃない。 僕は思いつかなくても、誰かがまともな新しいルールを思いついてくれるかも知れない」
「……失敗だったか」
クリシュナが呻く。
クリシュナは穏健策に移行したのだろうが、それでもどこかで人間を徹底的に侮っていた。
あの恐ろしい蛇の悪魔。シェーシャといったか。それで世界を破壊し尽くす事もまだ考えていたのかもしれない。
だがこの時。
同志達に離反されたことで、それも全て過去の話となった。
痩せて威厳ある姿になった弥勒菩薩が、他の可能性世界を順番に見せてくれる。
僕はそれらを目に焼き付けて、そして。皆もそれを見て、決して諦めない事に、勇気を貰っていた。
※平行世界について
この話で明らかにしましたが、本作は原作世界の平行世界です。フリンが女の子なのも別世界の可能性と言う事ですね。
勿論真4Fルートも、あの悪名高い皆殺しルートの並行世界線もあります。
ただそれを見ても、英雄達は誰も絶望しなかったし。
何より可能性をすり潰されなかったフリン達もまた絶望しなかった。
だから多神連合は協力を決めました。
こうも輝かしい可能性があるのだと知ったからです。
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