多神連合が協力を決めたのは素晴らしいですが、これで東のミカド国に多数いる大天使の軍勢との衝突は不可避となりました。
東京全体が戦場になっては守りきれません。
人々には守りきれる場所に移って貰う必要があります。
その内一つは市ヶ谷駐屯地。これは奧に縮退炉もあるので、絶対に守りきらなければならない場所です。
大戦の時、自衛隊も悪魔討伐隊も在日米軍も此処を守りきれず、数え切れない死者を出しました。
二度は、繰り返さない。それを当時を知る誰もが思っています。
各地で移動が開始される。
小規模集落にいる人が、シェルターと市ヶ谷に移動。皆、此処がいいと言う事は殆ど無かった。
誰もが悪魔に怯えながら生きているのだ。
現在、東京をまとめた人外ハンター協会が、安全な場所を用意する。荷物などは此方で運ぶ。
安全が確保出来次第、もとの家に戻れるように取りはからう。
それらを説明して、装甲バスで次々に人々をシェルターと市ヶ谷に運び込んでいく。
シェルターと市ヶ谷では、ドクターヘルが防衛設備を整備して、一本ダタラとサイクロプス、ドワーフたちとともに、次々と防御の網を張り巡らせていた。大戦の時は市ヶ谷で虚しく骸を晒す事になった近代兵器も、次々とドクターヘルがなおし、強化している。人外ハンター達もこの状態ではまとまる。
まだ見習いの戦士達には、関聖帝君を初めとする武の逸話がある神々や先達が、急いで訓練を施していた。
恐らく上では更に数年が過ぎたな。
そう思いながら、僕は準備を手伝う。
色々な光景を見て、今殿が考えをまとめてくれている。幾つか案を出し、それに従って僕が座とやらにいる四文字の神を撃ち倒し。そして新しいルールを作る。座を壊す事も視野に入れるけれど。
ドクターヘルの話によると、人々が観測することによって形を為す可能性が高いため。破壊した所で人々がいる限りいずれは元に戻ってしまう可能性が高いと言う事だった。
各地でまだ人を襲っている悪魔がいる。
それを手分けして片付けて行く。
ルシファー麾下の精鋭悪魔達は。既に本拠地に引き上げて、大天使の軍勢との戦いの準備を始めたようだ。
それは見つけたターミナルであったベルゼバブに聞かされた。
ベルゼバブも、近々ターミナルの番人としての仕事を切り上げて、魔界に戻るのだと言う。
これで最後かも知れないなと。
最後には、太ったおじさんの姿をして現れたベルゼバブに、言われるのだった。
今回はイザボーと一緒に討伐に回る。
中華系の巨大な悪魔を撃ち倒すが、殆ど苦労はない。
霊夢は現在力を蓄えていて、最後の仕事……捕らえている大天使達をもとの存在に戻す作業と。
それに四天王寺を開放して、竜脈を元に戻す仕事。
これに向けて、鋭気を養っている。
秀とマーメイドは、それぞれが単独で各地を周り。まだ人々を襲っている悪魔を撃ち倒し。
安全地帯に集約しつつある人々を移動させるバスの群れを護衛もしていた。
バスの群れを護衛する中には、ケツアルコアトルやショウキ。弥勒菩薩の姿もあり。
更にはしぶしぶという顔をしながらも、あのテスカポリトカの姿まであるのだった。
クリシュナは拗ねたのか、姿を見せない。
ただ、あの後。
平行世界の全ての結果を見せた後、シェーシャのところに案内してくれた。シェーシャ本体はアティルト界の奧に卵の状態でいるらしいのだが。この世界に出現するための媒体としては、昔悪神を封じるために使ったと言われる要石というものを用いているようである。
最悪の場合は、これを用いて。
シェーシャをこの世界に呼び出し。
大量の人々を喰らわせて。
世界を滅ぼす力にするということだった。
クリシュナに同志として従っていた神々は、既に全てがその側を離れている。僕はそれを知って少しだけ安心した。
ケツアルコアトルにしてもショウキにしても弥勒菩薩にしても、いずれもは元々は善神なのだ。
それが「これ以外に方法がない」と強硬手段に走るのではなく。
穏健策が成功する可能性が高いと判断して行動してくれたのは、それは文字通り希望であると思う。
力で従える事がルールなんてのはそもそも間違っている。
大戦の前は、帝国主義とかいうもので、そういうルールを大まじめに動かしていた国も存在していたらしいのだが。
そんな事をしていたから大戦が起きたのかも知れない。
大きな犠牲を払ったのだ。
だったら、二度と繰り返さない。
そうしなければならない。
いずれにしても、順調だが。神田明神で、最後の難題について告げられた。
アマツミカボシ。
この国最大の邪神を黙らせる必要がある。
今の僕達なら勝てる。
だから、アマツミカボシを見つけ出し、黙らせておいて欲しい。不確定要素を、少しでも減らすために。
そう、タケミカヅチに頼まれていた。
合流した僕達四人と霊夢が赴いたのは、東京の端。天王洲シェルターの更に先だ。その先は、人工的に埋め立てた土地の上で、明確に不安定だった。土地が崩れて、海が浸食している場所が何カ所もある。
激しい戦いでこうなったのだと一目で分かる。
これは、これ以上激しい戦いをしたらどうなるか分からないな。
そう僕は思った。
念の為、最悪の場合はマーメイドを増援に寄越して欲しいとフジワラに連絡。フジワラも、それに同意してくれた。
フジワラもツギハギも、ずっと休まずに人員の誘導をしてくれている。
今度大天使が攻めてくる場合は、市ヶ谷を狙って来るのは確定だ。同時に生き残っている人間を皆殺しにしようとしてくるだろう。
だから、拠点は出来るだけ少なく絞り、戦力も絞った方が良い。
市ヶ谷の方は、ルシファー麾下の悪魔達が加勢してくれるらしい。
国会議事堂シェルターの方は、ケツアルコアトルとショウキ、弥勒菩薩他、元クリシュナの同志達が加勢してくれるようだ。
クリシュナはもくろみが外れたこともあって、拗ねて姿を消してしまったそうだが。
そのままでいると、完全に一人負けになる。
いずれは此方の味方として恩を売ろうと動くはずだ。
其処で、隙を見せなければ大丈夫だ。
現地に着く。
霊夢は疲れも取れているし、明確に力も上がっている。無理な神降ろしを続けた結果、嫌でも鍛えられたのだ。
霊夢は天才肌らしく、戦闘経験を積めばそのまま力になるし。無理をすればそれだけ成長する。
だから、前より明らかに強くなっている。
今は、それだけで心強い。
燃え尽きた街があって、その辺りに強い気配がある。幾つも。
バロウズが警告してきた。
「どうやら来客よ。 アマツミカボシではないようだわ」
「関係無いね」
「ああ。 いずれにしても人々に害を及ぼすようならぶっ潰す」
「その通りだ」
皆が悪魔を展開。僕はティアマトは出さない。ティアマトはまだまだ消耗が激しい上に、とにかく大きいので、場所を食う。
時々寂しいのかガントレットの中から話しかけてくるので、それに応じるくらいだ。
勿論要所では出て貰うことになる。
姿を見せたのは、騎士だ。
顔が骸骨で、黒い馬に乗り、そして巨大な鎌を担いでいる。霊夢が舌打ちする。
「面倒なのが出たわね。 あれは多分黙示録の四騎士の一人、ペイルライダーよ」
「黙示録の四騎士?」
「此方で見せてもらった聖書に記載があった。 世界の終わりに登場して、人々を殺戮する四文字の神の手下の天使だ。 穢れた世界を焼き払うという思想は、そもそもバイブルにも存在していたんだ。 少なくとも、一神教を信じる人間は、それを受け入れていたということだね」
「最低ですわね……」
全員が戦闘態勢を取るが。
そのペイルライダーが何やら言おうとした瞬間。背後から光の槍で串刺しにされる。驚いた。
その奇襲。
やった奴の気配は、まるで感じ取れなかった。
ぞっとするほどの気配だ。
消えていくペイルライダー。そして、其処に降り立つのは。大国主命やサルタヒコと似たような格好をした神。
ぎらついた光を身に纏い、余裕の笑みを浮かべている存在だ。
禍々しい光からして、ほぼ間違いない。
全員が飛び退く。
霊夢が、冷や汗を拭っているのが見えた。
「アマツミカボシ……!」
「ほう、正月に私を封印する儀式の気配を感じていたが、お前がそれをやっていた巫女だな。 まあ無駄な事であったな。 大正時代という頃に、私の封印は既に破られていた。 其処から一時期私はヤタガラスなる組織の強者の配下に屈していたのだが……それもその組織が滅んだ今は、自由の身というわけだ」
「なるほど、これは確かに凄い……!」
「天照大神の復活を感じたが、太陽神が常に最高位でいればいいわけでもあるまい。 私は明けの明星の神。 まがつの星の主。 この国の明けの明星こそ私である。 だったら、私が主導権を握っても良い筈だ」
これだけ状況がやっと安定したのに。
それを今更ひっくり返すつもりか。
僕は躊躇無く蜻蛉切りを構える。皆、既に戦闘態勢を整えている。幾ら力が衰えていただろうとは言え、ペイルライダーという決して雑魚では無い……むしろかなり強い悪魔を瞬殺した存在だ。
総力戦を仕掛けるしかない。
アマツミカボシの周囲に、光の槍が多数浮かび上がる。
「お前達の活躍は見ていた。 あの四文字の神を撃ち倒すのには必要な駒だ。 屈しろ。 そうすれば生かしておいてやる」
「逆よ」
「ほう」
「貴方が従いなさい。 四文字の神を倒すのに、有用な駒だと認めてあげるわ」
霊夢の啖呵に、からからと笑い始めるアマツミカボシ。笑いながらも、光の槍が次々に増えていく。
辺りがまさに朝明けに包まれるような光景だ。
僕も早起きするから、明けの明星はどうしても知っている。
それの神となれば。
今の夜しかないこの東京で、どうしてもこういう存在感を発揮するだろう。そしてそれは、そのまま力にもなる。
「だったら力尽くで従えてみろ! 行くぞ!」
ペイルライダーを倒した光の槍が、多数撃ち放たれる。僕は前に突貫。大丈夫。蜻蛉切りが一緒にいれば、何にだって勝てる。
天使達が真っ先に突進して、アマツミカボシの視界を塞ぐ。アマツミカボシは余裕のまま、天使を片っ端から撃ち抜く。最初に接近したのは、怒濤の勢いのギリメカラだが。それも槍の一発で消し飛ばされていた。
「怖れるな! 飽和攻撃を続けろ!」
「手数で私に勝てるかなあ?」
すっと手を動かすアマツミカボシ。
アマツミカボシから乱射される光の槍だけではなく、今度は空からも光の槍が降り注いで来る。
イザボーが冷気の魔術を叩き込むが、それもアマツミカボシは一喝で消し飛ばす。
だが、その時。
僕が懐に潜り込んでいた。
立て続けに槍を繰り出すが、残像を抉るだけ。
余裕の様子でアマツミカボシはその全てを回避するが、その側頭部に一撃が入る。霊夢が空間を渡って距離をゼロにすると、回し蹴りを叩き込んだのだ。
余裕をぶっこいていたアマツミカボシが、もろに吹っ飛んで。光の槍が制御を失う。立て続けに爆発する中。アマツミカボシが飛び起きる。
既に頭上にワルター。
ワルターはサティーに命じてアマツミカボシの周囲を炎で包むと。真上から大剣で一撃を叩き込む。
それを素手で受け止めると、放り投げるアマツミカボシ。
だが、横殴りに叩き付けられたのは、アナーヒターの清浄な水と。更にはティターニアの雷撃。それが炸裂して、むっとアマツミカボシが呻く。このあわせ技には、流石に無傷ではいられまいか。
躍りかかるムスペル。
だが、アマツミカボシは、光の槍でムスペルを吹き飛ばす。
あの巨体を、しかも神々も怖れる終焉の使者を。
流石にこの国最強の邪神。
僕は水平に飛ぶように走りながら、光の槍をかわしつつ、アマツミカボシに迫る。奴は速い。
だが、動きを見れば。
絶対に追いつける。
アマツミカボシが、水平射撃に切り替えようとした瞬間、霊夢が頭上に。針を雨のように降らせる。
むっと呻くアマツミカボシが針を防ぐところに、大槌をもったクベーラが突撃して、横殴りの一撃を。アマツミカボシが残像を作って移動。
だが、其処に、ナタタイシが回し蹴りを完璧なタイミングで叩き込んでいた。
地面に突っ込んだアマツミカボシに、イザボーがコンセントレイトつきで大魔術を叩き込み。
他の皆も魔術を一斉に叩き込む。
その間に、僕は支援魔術を限界までかけ、更にチャージも入れる。
かあっと吠えると、アマツミカボシが飛び出してくる。
これは本気になったな。
接近戦を挑むサルタヒコの分霊体とクベーラ。更にはワルターの呼び出した荒々しい悪魔達。
それを片手間に捌きながら、何やら詠唱している。
あれはぶっ放させるとまずいな。
僕は態勢を低くすると、好機を待つ。
好機は意外に、早く来ていた。
ヨナタンの天使達が、空中で方陣を組み直す。大火力の斉射を浴びて半減しているが、それでも。
全部の天使達がそれぞれを増幅し合って、一斉に光の大魔術を放つ。
これで一手。
アマツミカボシは回避しようと考えたようだが、霊夢が何か神降ろしをしたのを見て、一度それを止める。
そのほんの一瞬の隙に、戻って来たワルターが、大剣を叩き込む。
ガードはしたアマツミカボシ。だが威力を殺しきれない。さっきの牽制と違う本気での一撃。ドゴンともの凄い音がして、アマツミカボシが地面を砕いてめり込んでいた。ぐうっと、アマツミカボシが呻く。
同時に霊夢が、地面に着地。
そして、舞いを踊る。それで、アマツミカボシが明らかに動きを止めていた。
「こ、これは! 建葉槌命か!」
「そうよ。 貴方を黙らせた建葉槌命の舞い! 武力ではあのタケミカヅチもフツヌシも貴方を止められなかったけれど、貴方は調略に屈した!」
「お、おのれえええっ!」
鬼相を浮かべるアマツミカボシ。
だが、あの蓄えられた力を放たれたら、多分この辺り一帯が消し飛ぶ。
それにこうしている瞬間も、光の槍が辺りを乱打している。多くの仲魔は、身を張ってそれから皆を守ってくれている。
ワルターの攻撃で二手。
霊夢の攻撃で三手。
よし、今だ。
僕は、全力で突貫する。アマツミカボシが、僕を見て何か術を放とうとするが、その時。
ヨナタンの直衛になったソロネが、凄まじい勢いで、アマツミカボシに体当たり。炎の車輪の体当たりを受けて、流石にアマツミカボシも凄まじい絶叫を挙げていた。
其処に、僕は間合いに入る。
アマツミカボシに対して、叩き、払い、貫く。そう、リリスを倒した奥義を打ち込む。
この奥義、名前をまだつけていなかった。
だが、最後の貫くに、なんと反応して。しかし防ぎきれず、体に大穴を開けて吹っ飛んだアマツミカボシが、頭から地面に落ちるのを見て。ちょっと思いついていた。
アマツミカボシに、今度は天照大神を降ろした霊夢が。掌を向けている。アマツミカボシは、堪忍したらしく。
周囲から殺気が消えていた。
「ちっ。 私の負けだ。 好きにするがいい」
「ならば以降はしたがって貰うわ。 敗者になった以上、有無は言わせないわよ」
「……神社を用意してくれ」
「今は神田明神しかないわ。 数多の神々と合祀することになるけれど、戦いに勝つまではそれで我慢しなさい」
ヨナタンが、マーメイドの増援は不要とフジワラに連絡を入れている。嘆息すると、半身を起こして、アマツミカボシは僕を見た。体の傷が、もうふさがり始めている。
この辺り、流石はこの国最強の邪神だ。
それなりに消耗したようだが、マグネタイトと化して消えると言う事も無さそうである。
「そなた、凄まじい力だな。 何者だ」
「サムライのフリンだよ」
「そうか。 古くからこの国は貴族の手を離れ武士の手によって統治されてきた。 そういう意味では、この国の平穏を取り戻そうとするのがサムライであるのは自然な流れであるのかも知れぬな」
「勘違いしているようだけれど、僕が一人で勝ったわけじゃない」
アマツミカボシは強かったけれど、手数は多かったけれども。基点が一つであれば、どうしてもその戦力には限界がある。
既に今いる僕の仲間達は、それぞれが何処に出しても恥ずかしくない悪魔達を仲魔に従えているし。
自主的に協力してくれている悪魔も多い。
それに、僕だけだったら此処までの武の境地には至れなかっただろう。
僕の前世が本多平八郎忠勝という人らしいことはなんとなく分かった。だけれども、前世が何者だろうが、師匠達に恵まれて。豊富な実戦を経験して。
何よりも、苦手な分野を手伝ってくれるスペシャリスト達がいなければ、此処までの力は得られなかったのだ。
個の強さなんて知れている。
僕自身が、それは断言できる。
「ほら、この札に入りなさい。 連れていくわ」
「消耗がひどいし、言う事を聞くしか無さそうだ。 やれやれ、二十年以上掛けて怨念を吸収して力を蓄えたのに破れたか。 まあやむを得ない」
すっとアマツミカボシが霊夢の札に消えた。
霊夢が疲れたというが。
以前みたいに、神降ろしの度に倒れかけていた様子はない。やはり力が跳ね上がっているのだ。
「これで懸念事項は片付いたね」
「ええ。 素戔嗚尊を蘇らせておきたいけれど、それは後で片手間にやっておくわ。 神田明神の神々と連携しないと、大天使の軍勢を迎え撃つのは不可能でしょうしね」
「時にフリン。 あの凄い槍の技、名前かなんかあるのか」
帰路を歩きながら話す。
ちょうどワルターが聞いてくれたので、僕は話しておく。
「今までは名前つけていなかったけれど、決めた。 あの技は、星落とし」
「星落としか。 あの破壊力を考えると、妥当かもな。 リリスに続いて、アマツミカボシまで倒したのはすげえぜ」
「ありがとう。 でも、今まで僕に武芸を仕込んでくれた引退サムライの師匠達の教えが、結実しただけだよ」
僕の力だけじゃない。
それは、何度でも。僕が自身に、言い聞かせていかなければならない事だった。
シェルターに戻る。かなり賑やかになって来ている。
このシェルターだけで、既に一万人がいるらしい。更に拡張していて、地下などで使っていなかった区画などにも人々を受け入れているそうだ。
幻魔ゴエモンが見回って、問題が起きないようにしている。
戻って来た所で、ナナシとアサヒとあった。
別に平行世界でナナシと殺し合ったことについては何とも思っていない。そういう星の巡り合わせの世界もある。
ただそれだけである。
ナナシがアサヒをその世界では殺した事だって同じだ。
ナナシは力に対する渇望が強い子だったようだが。今ではすっかりその力を、周りの事にも使えるようになっている。
「うわ、またみんなボロボロだな……」
「アマツミカボシって神をやっつけてきたからね。 霊夢はこれから神田明神にいって、祀って来るみたい」
「あ、それなら私が行きます。 回復魔術掛けてこないと」
「おう、頑張ってこいや」
ナナシがアサヒにそんな事を言う。
アサヒも手を振ると、元気に駆けだしていく。
それを見送ると、ナナシが表情を改めていた。
「話には聞いているんだけれど、もう決戦が近いって」
「うん。 総力戦になると思う。 その時にはナナシにも活躍して貰うよ」
「任せろ。 関聖帝君先生に色々教わって、今まで我流で如何に無駄をしていたかよく分かった。 その上で、秀さんに稽古をつけて貰った。 あの人無茶苦茶強いな。 それでだめな所とか、毎日洗い出しが出来る。 それを見直して、更に強くなる。 だけど、強さが欲しいなと思っていた時みたいな乾きがないんだ。 今はただ、この力を建設的に使いたいなって思ってる」
ナナシはそんなに変われたんだな。表情も柔らかくなっていて、年相応になったようにすら思う。
奧から現れたトキが、一礼だけする。
ワルターが、その様子を心配していた。
「もう歩いて良いのか」
「問題ない。 柔な鍛え方はしていない」
「そうか。 次の戦いではお前も出るのか」
「……ガイア教団がなくなって、それで考える事も多かった。 だけれども、私は結局戦う以外に能がない。 出来れば生きた証でも残したいが、それも全てを片付けてからになるだろう。 考えるのはそれからでいい」
トキはカガが指揮する元ガイア教団の人員を集めた戦闘部隊に参加するそうだ。
トキは咳払いすると、僕には態度を改める。
「貴方に対して恨みは持っていません。 貴方は必要に応じて武を振るっただけ。 私もずっとガイア教団にいて、言われたまま殺すのが当たり前でした。 今では、新しい当たり前を探そうとしています。 戦いに勝つには貴方の力が必須だ。 是非、私に新しい当たり前が作れる未来をください」
「……分かった。 最大限努力するよ」
礼をして、トキは行く。
ナナシがぼやく。
「アサヒがさ、あのトキって子と話してると機嫌が悪くなるんだよな」
「それくらいは容認してあげなさい」
「え? そ、そうか。 まあよく分からないけれど、機嫌が悪くなられる理由がわからないのは気持ちが悪いけどな」
ナナシが行く。
後は、僕らも解散して、休息をしておく。
まだ各地に残った大物の駆除とか、それに避難民の護衛とか。
いつ仕事を頼まれても、おかしくはないのだから。
※アマツミカボシについて
日本神話最強の邪神です。メガテンシリーズではスピンオフのライドウVSアバドン王で登場していますね。アバドン王で語られたところによると何代か前のライドウを倒しているという逸話のある超実力派。日本神話でも負け知らずで、タケミカヅチとフツヌシを退けており、調略でやっと屈服させた存在です。
これが必殺の霊的国防兵器で登場していた場合、調略が通じないこともあって、基本的に勝ち目は非常に薄かったのです。
幸いそのままで出て来てくれたことで、調略が通じました。
この神格の場合は、むしろそのままでいて、神話上の弱点がそのままであったから対応できたのだと言えます。
ちなみに従えられた云々はライドウにやられた結果です。この世界の14代目ライドウは例の最強の世界線のライドウではありませんが、それでも苦戦の末にアマツミカボシを倒し、屈服させることに成功したのです。
ただそれもヤタガラスが大戦で壊滅した結果、野放しになってしまった訳ですね。