もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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原作では考え無しに東のミカド国に連れていってとんでもないことになった大天使達。

ついに本作では、捕まえたままだった大天使達に、「元の姿」に戻って貰う時が来ました。

それは悪魔合体を利用して、四文字の神の配下だった前の姿にする奥義。

フリン達が激戦の結果力を上げているため、悪魔合体で変化させた上で従えられます。

霊夢の激甚な負担が、これでようやく一段落します。






3、大天使達の転機

ついにその時が来る。

 

シェルターの地下に捕らえていた大天使達を、神田明神に連れていく。完全に今の時点では無力だが。

 

それもまだどうなるか分からない。

 

殺した程度では、無駄。

 

名前を奪って封印しなければならなかった。

 

それほどの相手だ。

 

今から順番に作業をして、彼等を四文字の神の配下から解放しなければならなかった。

 

神田明神には、雄々しい男性神格が加わっていた。何となく分かるが、あれが素戔嗚尊だろう。

 

この国最強の武神。

 

天照大神などを復活させたあの地点で、復活させてきたらしい。

 

月夜見という神については、今の時点では必要ないだろうと言う事で、わざわざ蘇らせはしなかったそうだ。

 

まあ霊夢の故郷にいるらしいので、此処に集めなくても良いだろうし。

 

大天使達の攻勢でもしもの事が起きた場合に備えて、一神格だけでも別に残しておくのは重要だ。

 

神々が見守る中、僕達は立ち会う。

 

その過程で、素戔嗚尊が僕に声を掛けて来た。

 

「フリンと言ったな。 実は貴殿等に頼みがある」

 

「はい。 なんなりと」

 

「霊夢という巫女が今、大天使をもとのあり方に戻すための、干渉力を遮るための結界を展開する準備に入っている。 そのまま神降ろしをして、霊夢が悪魔合体までやる予定だったのだが……今の貴殿等の実力なら、大天使のもとの神格を、悪魔合体で造り出せるかも知れない」

 

なるほど、霊夢の負担を減らす訳か。

 

腕組みしてじっと不敵な視線を送ってきているアマツミカボシ。既に傷は回復しているようだ。

 

それに対して、素戔嗚尊。雄々しい姿をした男性神格は。一瞥だけしていた。

 

「此処が日の本だということもある。 あのアマツミカボシを下して更に経験を積んだ貴殿等だったら、恐らくいけるはずだ。 ただそれでも負担が大きいはず。 イザボー。 そなたは回復に専念してくれ」

 

「む、そういえばひょっとして俺たちも?」

 

「ああ。 ワルター。 ヨナタン。 いずれも悪魔合体で、大天使達を元の姿にしてほしい。 一番強大な力を持つ炎のはフリンが担当してくれ」

 

「分かりました。 僕も既に四文字の神への愛想は尽きています。 天の座にしがみつく老いた神には、相応の報いが必要でしょう」

 

ワルターは最初からノリノリだが。

 

ヨナタンもどうやら異存は無さそうだ。

 

頷くと、素戔嗚尊は距離を取る。恐らくこれから展開される結界が。それだけ強力で危険なのだろう。

 

僕達の他には、フジワラが立ち会っている。

 

ツギハギは市ヶ谷の駐屯地で。

 

まだ最後の確認をするために、殿と秀とマーメイドは、各地の街を回っている状態だ。逃げ遅れたり、何処かに隠れ住んでいる人がいるかも知れない。それらを人外ハンターとともに探している。

 

それでも大規模な生き残りの集団はいないと判断したから、この最終作戦に出ているというわけだ。

 

霊夢が結界展開のための儀式をしている中、素戔嗚尊が耳打ちする。霊夢はそのまま作業を続行。

 

どうやら霊夢も、今の僕達をみとめてくれているらしい。

 

誇らしい話だ。

 

あれほどの達人に認められるというのは、喜んで良い事なのだろう。だが、天狗になるようでは駄目だ。

 

そんな器では。

 

伸びも止まる。

 

うおんと音がして、辺りが光に包まれる。神々の喚声。そして、僕達四人と、結界の維持者の霊夢。

 

所在なく其処にへたり込んでいる三体のもと大天使が、その場に切り取られたように残っていた。

 

結界の外の様子もある程度分かる。特に神々が即座に臨戦態勢に入ったのが分かった。それはそうだ。

 

此処からはいつ東のミカド国の大天使達が仕掛けて来てもおかしくない。

 

出来るだけ迅速に終わらせる。

 

失敗したら、此処で四大天使のうち三体を、即座に相手にしなければならなくなる可能性も高い。

 

そう、何もかも失敗が許されないのである。

 

まずは、ヨナタンから。

 

ヨナタンは、癒やす者と言われ、元はバアルの一柱であるラファエルを元に戻す。中東に割拠した様々な神々の一つ。多神教が当たり前だった其処に、神は唯一絶対という思考を、どうして持ち込んだのだろう。

 

乱世をまとめるのが目的だったのだろうか。

 

だがそれにしても、やはり其処には自己の絶対肯定と他者の絶対否定という思考がちらついて見える。

 

最初はそうではなかったのだとしても。

 

後でそうなることは、読めなかったのだろうか。

 

殿が言っていた。

 

流石に百年後のことまでは分からない。自分が死んだあと、簡単には揺らがないようにこの国を整えたと。

 

或いはだが。

 

四文字の神と歩んだ存在も。そう考えていたのかも知れない。だとすると、やはり老いた哀れな神による行動が、この世界を焼き払ったのだとしか言えないだろう。

 

もはや、同情には値しないか。

 

凄まじい光が、ヨナタンに収束していく。霊夢は結界の維持でも消耗している。考えて見れば当たり前だ。

 

其処に神降ろしをしてのこの作業も併用しようとしていたのだと思うと。

 

大酒飲みで乱暴な言動をしていても。

 

霊夢は大局のために動いている事が分かる。

 

でも、それも。

 

きっと幻想郷という場所が半壊するほどの被害を受けて。多くの仲間が死んで。それでたどり着けた結論なのだろう。

 

ヨナタンが、最後の作業を終えると。

 

名前を奪われたラファエルが、みしみしと音を立てながら変化していく。最初悲鳴が混じる。だが、それはやがて聞こえなくなり。痩せこけた体は光に包まれていく。一柱ずつ順番にやる。同時に悪魔合体すると何が起きるか分からないからだ。

 

だから今は、見ている事しか出来ない。

 

ほどなくして。

 

其処には背中に翼を持つ、天使に近いけれど、どこか違う存在がいた。多数の目が存在していて、顔は無機質ですらある。

 

「まさかこの姿を取り戻す事になるとはな。 四文字の神に従わされてから、自分が何をしていたのかを覚えておらぬ」

 

「貴方は」

 

「我が名はラビエル。 バアルの一柱にして、医療の神である。 そうか、我はラビエルに戻ったのか。 何もかも懐かしい。 四文字の神に倒されてから、千々に砕かれ再利用されたのだな」

 

ラビエルはヨナタンに頷くと、ガントレットに消える。

 

まずはこれで一柱。次だ。

 

ワルターが動く。

 

イザボーは連続して回復の魔術を霊夢に掛けているが、あまり長くはもたないだろう。回復よりも消耗が明らかに早い。

 

ワルターが事前に言われていたとおりに作業を進めると、ウリエルが苦しみ始める。バキバキと音を立ててその姿が揺らぐ。

 

悲鳴を上げつつも、背中に翼が生えるが。

 

その翼がしおれ、やがては胸が膨らみ。衣服も替わっていく。

 

ウリエルは、もともとサリエルと同一の存在だった。そう霊夢が言っていた。

 

サリエルは本来一神教における月の支配者であり、狂気と魔術の支配者でもあった。

 

だが、一神教では徐々に魔術を完全否定する方向に信仰が変遷していった。このため、サリエルはいつしかウリエルに良い要素を全て奪われ、やがてウリエルごと堕天使とされた。

 

ウリエルが堕天使から熾天使に戻ったのは、サリエルのよい部分を全て集めて作られた天使だったからに他ならない。

 

それも堕天使にされたのは、天使信仰が一神教内で活発化し。挙げ句に一神教内での派閥争いで弾圧されたからだ。

 

神学は言った者勝ちなのである。

 

そしてウリエルは、更に祖がある。

 

そも月というのは魔術と深く結びついている存在。つまりウリエルの祖は。

 

悲鳴を上げていたウリエルが、やがて立ち上がる。

 

背中から、翼は消え去っていた。

 

美しいというよりも、浅黒い肌をもった威圧的な女性だ。元は女性神格だったものを変更したのか。

 

「終わったな。 あんたは?」

 

「私は既に名を奪われたバアルの一柱。 後にギリシャにてヘカーテと呼ばれる存在となったり、他にも月と魔術に関する悪魔の祖となりしもの」

 

「そっかい。 じゃあ月の女神様でいいな」

 

「好きにするがいい。 天使などと言う忌まわしい存在から解放されて、すがすがしい気分だ」

 

それだけ言い残すと、ウリエルだった女神はワルターのガントレットに消えた。ワルターが酷く汗を掻いている。僅かに具現化させるだけでそれだけ消耗するほどの高位神格と言う事だ。

 

イザボーが急げと、視線で促してくる。

 

イザボーも凄まじい力を今では有しているが、それでも霊夢が限界近いことは分かるのだろう。

 

それにこの結界は、四文字の神の影響力を完全遮断するもの。

 

長時間の展開は、天照大神を初めとする日本神話系の神々の負担にもなる。力が戻っていない天照大神に大きな負担を掛ける訳にはいかない。

 

最後は僕だ。

 

作業開始。

 

ミカエルが、悲鳴を上げる。その体が膨れあがり、様々に変化していく。戻って行っているのだ。

 

最初その姿は、神々しい光を放ちながら、逞しい体を持つ存在へと変わっていった。だが、それすらも中途に過ぎず、更に古い形へと変わっていく。

 

熱が風に切り替わった。

 

荒々しい雄叫びを上げるそれ。

 

全身の力が根こそぎに吸い取られるかのようだ。

 

ティアマトを転化したときも酷い疲弊だったが、それ以上かも知れない。汗が流れる。一瞬でも気を許したら、意識を全て持って行かれる。だから、歯を食いしばって耐える。光が何度もほとばしり。

 

やがて、そこにいたのは。

 

逞しい体の男性神格。翼などなく、見るからに荒々しい姿だった。

 

「ほう。 俺を呼び出すとはなかなかにやるな。 天の座を追われてからというもの、ずっとアティルト界で暇をしていたのだがな」

 

「貴方の名は?」

 

「俺は……おやおや貴様、ティアマトを従えているのか! ガハハハハハ、大いに気に入ったぞ! 俺も大苦戦したあの祖神の中の祖神を従えるとは、見所がある人間だ! 良かろう、名乗ってやる。 我が名はバビロニアの主神マルドゥーク! 始祖の巨人を倒し、座に最初についた存在である!」

 

声を聞くだけで意識が飛びそうだ。

 

ミカエルの直系先祖がマルドゥークというわけではないだろう。

 

これはあくまで、悪魔合体というシステムを用いた秘奥義。

 

神の系譜を辿って、ミカエルの先祖にマルドゥークが存在する。だからその系統にある神々を辿り、合体させることで、最終的にマルドゥークへと収束させたという訳だ。

 

霊夢が喝と叫ぶと、結界が徐々に消えていく。

 

全員汗だくだ。

 

倒れそうになった霊夢を即座に側にいたアメノウズメが支える。僕も膝から崩れ落ちて。すぐに差し出されたスポーツドリンクを貰っていた。美味しいとか思う余裕が無い。ごくごくと飲み干す。

 

大悪魔と交戦した直後のような疲弊だ。

 

イザボーもガス欠のようで、へたり込んでいた。

 

フジワラ始め、周りの人達が話している。

 

「よし、これで大天使どもの戦力を大幅に削り取った! 天界の最大戦力のうち、三柱を神の影響下から解放したぞ!」

 

「次だ! 四天王寺を正常化する!」

 

「此処からは時間勝負だ! 急ぐぞ!」

 

僕達は集まって少し休む。四天王寺の方には参加できない。

 

四天王寺の方は、それほど危険な場所ではないらしい。今はとにかく、少しでも体力を取り戻さなければならない。

 

とっておきだった豚肉の燻製を懐から取り出して囓る。兎に角何を食べても美味しいが、今は貪欲に腹に入れたい。

 

人間を襲う悪魔ってこんな気持ちなんだろうか。

 

だが、それでも僕は理性を捨てる気はない。

 

霊夢は神社の境内を出ると、酒を飲み始める。ああなると危険なので近寄らないようにと周知されている。

 

酒癖が最悪というよりも。

 

酒を飲んでいる霊夢に下手に近付くと、攻撃が飛んでくるらしい。霊夢の場合素の力が力なので、下手すると死人が出かねないのだ。

 

フジワラが何人か連れて四天王寺の方に行った。

 

神田明神では、人外ハンター達が回復の魔術を使って神々の疲弊をいやしている。使っている悪魔の力が明確に以前より上がっている。

 

これも人外ハンターが勝ち戦を重ねて、質が上がったのが原因なのかも知れない。

 

此方に来たのは志村さんだ。

 

「フリンさん達、良くやってくれた。 大戦ではあの大天使達は絶望の権化だった。 それを別の神格にして、しかも従えてしまうとは。 恐れ入ったよ」

 

「霊夢の張った結界がなければ無理でした。 それよりも、志村さん、人外ハンター達の質が上がっていますね」

 

「分かったかい。 ずっと私やニッカリが訓練をしてきたんだ。 悪魔との戦いで優勢になって来たから、良質な訓練も積めるようになって来た。 新米のハンターも高確率で生き残って、今では前線に立てる実力になっている。 全て、英雄達と君達のおかげだ。 昔は……新人は、五人に一人も初陣を生き延びられないなんて言われていたのに」

 

「良かったじゃないか志村さん。 泣かなくてもいいんだぜ。 あんたが頑張ったおかげなんだからよ」

 

ワルターがそういうので、少し嬉しい。

 

もう此処にいるワルターは、悪い意味で野獣じみていた昔のワルターじゃない。

 

良い意味での侠気と強さを身に付けた、豪傑だ。

 

 

 

ニッカリがフジワラとともに指定の地点まで行くと、先に銀髪の娘が来ていた。この娘の強さは既に人外ハンターでも周知になっていて、人外ハンター達が敬礼する。殿の正体は限られた人間しか知らされていないが、ニッカリも知っている一人だ。

 

ナナシとアサヒも此処につれて来ている。

 

そして、フジワラが銀髪の娘に頷くと、指定された通りに弥勒菩薩を呼び出していた。

 

痩せた威厳在る姿になった弥勒菩薩が、すぐに姿を見せる。そして、頷くと、両手を拡げて、ゆっくりと結界を正常化させる。

 

準備は整った。

 

大天使達が四文字の神の支配から逃れた。

 

それもあって、四天王寺を正常化し、竜脈の力を活性化させるときが来たのだ。

 

ごごごと音がして。揺れる。

 

地震も随分ニッカリは経験していない。そんなもの、気にしている余裕も無かったからである。

 

地震を感じたら、悪魔の足音と思わなければならなかった。

 

だから地震だったのかさえ、分からなかった。

 

「これで、収まったのか……?」

 

「いえ、四天王寺にまだ少し異常があります。 これは毘沙門天ですね。 何かあったのかも知れません」

 

「とりあえず確認だ。 急ごう。 腕利きだけを選抜する」

 

フジワラがニッカリ、ナナシ、アサヒ。それと数名を選抜する。数名とも、悪魔と実戦を重ね、それなりの仲魔を従えている人外ハンターだ。昔だったら街でエースをやれたレベルである。

 

今では全体のレベルが上がっているので、ちょっと腕がいいくらいの人外ハンターに過ぎない。

 

それと殿も来る。

 

装甲バスを用いて移動。弥勒菩薩は、地面を滑るようにして移動してくる。やがて、毘沙門天がいる瀧黒寺に到着。渋谷の近くにある。念の為、渋谷の人外ハンターに、連れてきた人外ハンター達から警告を頼んでおく。

 

結界は消えているようだ。悪魔を出して見るが、特に問題はない。大量のマグネタイトを得続けた事もある。ニッカリもこの年になってから随分と実力が上がっていて、従えている悪魔も強くなっているのだが。

 

今までの戦いで、最前線にいられるかというと厳しい。

 

実はもうナナシの方が上だと、ニッカリは思っていた。

 

ようやく引退できるかも知れない。

 

出来ればナナシとアサヒの子供も見たいけれど。それは東京が大天使どもを退けて、全てが復興に向かってからがいいだろう。

 

そうでないと、ろくでもない事しか想像できない。

 

「ふむ、どうやら大天使どもが仕掛けを残していったようですね。 この結界だけ解除と同時に異常をきたすようになっています」

 

「つまり毘沙門天を倒せば良いのか」

 

「残念ながら。 私は竜脈と関連している結界を修復する作業があります。 毘沙門天が来ますよ。 其方は貴方方で対処を」

 

ニッカリはナナシとアサヒと頷く。

 

そして、悪魔を呼び出していた。

 

唸りながら、寺の中から出てくる毘沙門天。明らかに異常をきたしているが、それは仕方がない。

 

銀髪の子が前に出る。フジワラが、声を張り上げた。

 

「出来るだけ速攻で決めるぞ! あの子が壁を作っている間に、弱点を見極めて一気に倒すんだ!」

 

「イエッサ!」

 

飛び離れる。

 

毘沙門天は中華風の鎧を着た武人として描かれる。本来は財宝の守り神クベーラが仏教に取り込まれた存在で、武神ではなかったが。中央アジアや東南アジアを通るうちに武神としての属性がつき、中華に入った頃にはすっかり武神となっていた。中華でもっとも人気のある神であるナタタイシの父親であるという設定からも、その影響力の大きさがよく分かる。

 

毘沙門天が、躍り上がって、手にしている曲刀を銀髪の子に叩き付ける。凄まじい光が迸る。

 

一瞬で数合を撃ちあっている。いや、見える範囲だけでだ。あれはもっと速い攻防をしている。

 

衝撃波が迸り、地面がえぐれる。ひっと人外ハンターが悲鳴を上げる中、ナナシが悪魔を呼び出す。

 

「いけ! ケルベロス!」

 

躍り出たのは、白銀の獅子のような姿をした魔獣。あまりにも有名な、ギリシャ神話の冥府の門番。

 

それは火焔のブレスを毘沙門天に叩き込むが、まるで効いていない。だが、それがむしろヒントになる。

 

「火焔は駄目だ! 次!」

 

「サラスヴァティ! 支援と攻撃を!」

 

「あら、クベーラの同系統の神のようね。 これでどうかしら!」

 

日本では弁財天として知られる、インド神話のブラフマーの妻。サラスヴァティが、水の魔術を叩き込む。それで露骨に怯む毘沙門天。

 

更に銀髪の子が押し込む。だが、毘沙門天は流石に四天王筆頭。

 

僅かに距離を取ると、凄まじい火焔魔術をぶち込んでくる。サラスヴァティが防ごうとするが、防ぎきれない。

 

フジワラが前に出る。

 

「頼むよ!」

 

姿を見せたのは、なんだろう。とても美しい、水に揺らめくような神様だ。あれはなんの神様だろうか。

 

いずれにしても、その神様が張った水のベールが、毘沙門天の大火力火焔魔術を防ぎ抜く。

 

だが、あの様子だと何発でも放ってくるだろう。

 

「水を中心に攻めるんだ! 俺は前衛に……」

 

「近付きすぎるなよ。 あれに巻き込まれたら一瞬で木っ端みじんだぞ」

 

「大丈夫だよニッカリさん! もう目が慣れてきた!」

 

そうか。

 

ニッカリはどれだけの攻防が精確に行われているか分からないのに。ナナシは既に、見えていると言うわけだ。

 

ふっと笑うと、ニッカリはとっておきを出す。

 

悪魔合体を駆使して作り出した存在。出現したのは、タムリン。ケルトの伝承に出現する妖精の騎士だ。

 

このタムリンは、合体の過程で支援魔術をあらかた使えるように仕込んでいる。

 

ひたすらに、支援魔術をナナシに展開させ。

 

ニッカリ自身は走りながら、狙撃用ライフルを準備。アサヒとフジワラに守りをしてもらい。

 

自身は、狙撃地点を探し。其処に滑り込む。

 

ライフルを構える。

 

ナナシと銀髪の子だと、支援魔術込みでもまだまだ銀髪の子の方が全然上だ。だが、それでもあの毘沙門天とナナシはもうまともにやりあっている。激しいブレイクダンスを思わせる動きで剣を振るい、デザートイーグルで銃弾を叩き込む。劣勢になって来た毘沙門天は、連続して炎魔術を唱え、全体に火力投射をしてくる。このままだと、結界が壊れかねない。

 

狙撃銃、セット。

 

弾丸は霊夢に手を加えて貰った、悪魔の結界を貫く仕様のものだ。悪魔には銃弾を反射する奴も珍しく無いが、それすらこの弾丸は貫通する。

 

さて、老兵の意地、見せてやる。

 

毘沙門天が火焔の魔術を放った瞬間、銀髪の子が見えない質量体を叩き込む。毘沙門天は左手で受けるが、その時軸足になっている右足にナナシがデザートイーグルの弾丸を叩き込む。

 

この瞬間だ。

 

引き金を引く。

 

吸い寄せられるように。放たれた対物ライフルの弾が、毘沙門天のこめかみを撃ち抜いていた。

 

ぐらっと揺れる毘沙門天。

 

ナナシが、その巨大な足を、全身を旋回させるようにして蹴り抜き。

 

銀髪の子が、やはり質量体を叩き込んで、首をへし折っていた。

 

倒れ、マグネタイトに変わっていく毘沙門天。喚声が上がる。

 

ふうと息を吐くと、ニッカリは皆に合流。

 

術式の操作作業を続けながら弥勒菩薩が言う。

 

「毘沙門天の蘇生を急いでください。 結界については我が復旧します」

 

「すまほ、貸して」

 

銀髪の子が言う。それを聞いて、皆驚いていた。人外ハンターの一人が、スマホを差し出す。

 

黙々と操作する様子は手慣れている。

 

そして、程なくして、毘沙門天がまた、その場に降臨していた。

 

「四天王が頭、毘沙門天、此処に。 どうやら私は天使共の卑劣な罠にて理性を失っていたようだ。 倒してくれて助かった。 礼を言わせてくれ。 そしてすぐにこの寺の結界の守護に戻るとする」

 

「あんた、喋れたんだな」

 

「……」

 

ふっと寂しそうに銀髪の子は笑う。まあ、それくらいの言葉なら別に問題はないだろう。

 

程なくして、結界が復旧。

 

同時に、東京に明らかに今までとは違う力が満ち始めた。それは大地を隅々まで這うようにして覆っていく。

 

おおと、声が上がる。

 

渋谷から増援を連れて来た人外ハンター達が、辺りを見回している。

 

雑多な雑魚悪魔が、悲鳴を上げて消えていくのが分かる。

 

消えていくのは邪悪な奴らばかりがだ。

 

屍鬼ゾンビが、溶け消えていく。消えていく体からは光に包まれた人が昇天していき。取り憑いていた悪魔は悲鳴を上げながら崩れて行く。

 

東京の竜脈が戻り。

 

天照大神が、天の岩戸から出たのと同じように。清浄な力が戻り始めたのだ。

 

おかしな話である。

 

大天使の介入によって、東京は地獄になった。人々をあまねく慈愛で包む存在のはずなのに。

 

独善的な愛の結果とも言えるが。

 

それがついに撃ち払われたのだ。

 

「それにしてもフジワラさん、あの悪魔って……」

 

「ああ、地母神ハッグだよ。 欧州における魔女信仰の元になった神さ。 醜い老婆として描かれがちだが、それは一神教でのイメージだね。 僕が最初に連れていた妖精ナジャが転化した姿で、いざという時にだけ使う切り札だよ」

 

ナナシの問いにフジワラが応えている。

 

ニッカリはそうだったのかと思い。幼い姿だったというナジャが、あれほどの美しい姿に転化したのだなと感心したし。

 

こういった本来は荒々しさもあっただろうが美しかっただろう神々を、如何に一神教が貶めたのかで戦慄もする。

 

だが、それは世界中どこでも起きて来た事だ。

 

メジャーになった信仰は、マイナーな信仰の神々を貶め、悪魔だったり地位が低い神へとしていく。

 

こんな負の連鎖は、今回の大破壊を機に、終わらせなければならないのだとニッカリはまた強く意識していた。

 

まだ、東京は薄暗いが。

 

明らかに今までと気配が変わっている。

 

今までは深夜の山奥よりも危険な気配だった。だが今は、精々街中の夜くらいにまで変わっている。

 

雑多な人間を襲うような悪魔が神威によって抑え込まれたのだ。

 

天の岩戸が開かれたようだと思ったが、それはまさに的を射ていたと見て良い。

 

だが、それを大天使どもは黙って見ていないだろう。

 

すぐにシェルターに戻る。それからは作戦会議を経て、解散してそれぞれで動く。

 

二つの拠点。

 

シェルターと市ヶ谷に戦力を集約し、更にはターミナルに皆で登録して貰って、即座に援軍をそれぞれに送れるようにする。自力で退避できる人間は、ターミナルから退避もしてもらう。

 

守るべき人員もその二箇所に集約する。

 

そうすると、人間の時代を思い出した中年以上の世代の方がむしろきびきびと規律を保って動いた。

 

分かっているのだろう。

 

もうどこにも他に逃げる場所なんてないと。

 

シェルターの地下の工場では、弾丸を最高効率で精製している。また、シェルターではついに、ドクターヘルがレールガンのCIWSを完成させていた。破壊力はお墨付きである。

 

市ヶ谷にもドクターヘルは足を運び、直せそうな戦車と歩兵戦闘車を急いで直しに懸かっている。

 

指示を受けたドワーフと一本ダタラは弾丸の作成を急いでおり。

 

力が強いサイクロプスが、ひっくり返っている戦車を元に戻したりしていた。

 

またグレムリンが新たに多数ドクターヘルに貸し与えられており。

 

ドクターヘルの指示を受けて。戦車の内装などを修理しているようだった。

 

市ヶ谷突入作戦の時は、戦車が一両、歩兵戦闘車が一両だけだったが。

 

見る間にそれが十倍以上になっていく。

 

時間さえあれば、もっと増やせるだろう。

 

惜しいのは、戦車を使った経験のある戦士が殆どいないこと。ニッカリだって、そんなに詳しいわけじゃない。

 

二次大戦で活躍したM4シャーマンは、誰でも扱えるほど簡単な操作で兎に角強力だったのだが。

 

近代のMBTはそうもいかないのだ。

 

マニュアルをドクターヘルが発掘してくれたので、ニッカリ達に講習が行われる。限られた時間しかないが、それでもやるしかない。

 

市ヶ谷の突入作戦などではドクターヘルやその助手が操縦していたのだが。

 

今回はどちらかというと肉弾戦戦闘力に自信がない人外ハンターや、ニッカリなどの年寄りが使えるようにする。

 

対悪魔電子戦防御については、もうドクターヘルが仕込んでくれている。

 

大戦の時のように、悪魔にアクティブリンクが乗っ取られて同士討ちなんて事にはならないだろう。

 

勿論大物の大天使が相手になれば簡単には斃せないだろうが。

 

それでも、普通の天使くらいだったら、充分に戦える。

 

戦車部隊を揃えて、市ヶ谷の外で演習をする。燃料も既に量産が始まっていて、一度の会戦くらいなら充分に耐えられる筈だ。

 

大天使達は確定で市ヶ谷の縮退炉を狙って来る。

 

情報はどうしても漏れる。

 

というか、知っていてもおかしくない。

 

大天使達は、東京の人間が勝手に絶滅するのを待っていたのかも知れない。

 

四大天使の内三柱を失っても、実際には痛痒など感じていなかったのかも知れなかった。

 

「ニッカリさん」

 

「うん?」

 

準備をしていると、ナナシが声を掛けて来た。

 

錦糸町にいた頃は兎に角乾いた子だった。力に飢えていたし、野獣みたいな目をぎらつかせていた。

 

今は人間らしくなってとても安心している。

 

それに、人間らしさを保った上で、ちゃんと成長している。それもまた、親代わりとして嬉しかった。

 

「基礎を叩き込んでくれてありがとう。 今俺は、あんたが基礎を叩き込んでくれたから生きているし、此処にいる。 みんなを守るなんて大げさな事は言えないけれど、少なくとも目につく範囲の奴はどうにか守ってみせるよ」

 

「そうか。 頼りにしているぞ」

 

「もう引退するつもりなんだな」

 

「この次の戦いに勝てたらな。 それは最後の戦いになる筈だ。 大天使達の軍勢に負けたら、東京の人間は皆殺しにされ、それどころか縮退炉を用いて人間どころか東京全てが消し去られるだろう。 だが、大天使達を倒したら、東のミカド国とどうにか交流を開始して、太陽が出ている世界に出る。 その後は、もう私のやることではないよ」

 

生き残れと、ニッカリはナナシに言った。

 

ナナシは頷くと、アサヒの方に走っていった。

 

元ガイア教団の部隊も来ている。カガがまとめる事になったが、その中には暗殺者だったらしいトキという娘も混じっていた。

 

ニッカリは最悪、この戦いで死んでも良い。

 

元々敗残兵だったのだ。

 

自衛隊員だったのに、誰も守れなかった。生き残る事しか出来なかった。志村や小沢もそれは同じ。

 

志村はシェルターに。小沢は遊撃に。

 

それぞれ最後の役割で、若い人外ハンター達を守って戦う事になる。

 

さて、気合いを入れるか。

 

東京に押し寄せる大天使の軍勢を退けてから、東のミカド国の大天使達を倒し。その後に四文字の神を討ち取る。

 

ニッカリの仕事は、東京に押し寄せる大天使の軍勢を迎え撃つまで。

 

それ以降は、あの若きサムライ達と。

 

此処にいる若者達の仕事だった。








既にいっぱしの使い手になっているナナシ達。

流石に現状のフリンには勝てませんが、それでも充分過ぎる程の実力です。

原作真4Fでは、これ以上の過酷な展開が続いた結果、フリンに実力ではおいつくものの、非常に危うい状態だったのだと思います。

ダグザにそそのかされて、皆殺しの道を選んでしまう事があるほどには。




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