東のミカド国の民は見た。
空に多数の天使が現れ始めたのだ。
おお天使様。
そうひれ伏しているのは司祭達。いや、司祭達の中からも、人間のふりを止めるものが出始めていた。
王城の空を舞う多数の天使達。
だがそれは美しい女性などではない。
いずれもが厳しく武装していて、無機的だった。
それを見て、何だか怖いと思ったのはカジュアリティーズの民達。バイブルなんて眠いだけの話。
司祭に聞かされていて、そう思っている者も多かった。
悪魔が出る事は今や周知の事実。
キチジョージ村が焼き滅ぼされたことは既に東のミカド国の民全てが知っているし。時々悪魔化する人間がいる事も。
配られた本はまだまだ彼方此方にあって。
もしも持っている事を知られると、殺されてしまう。
悪魔は恐ろしいが。
天使は何をやっているんだ。
そういう声を上げる者も多かったのだ。勿論司祭に聞かれたら死を意味するから、あくまでひそひそ話であったのだが。
だからこそに。まるで人々を守る気が無さそうな天使達の姿を見て。東のミカド国の民は恐怖した。
それを何とも思わない様子で多数群れている天使達は。民を守る事になど、やはりなんの興味もない様子だった。
予想通りになった。
ホープはサムライ衆を集めながら、そう考えていた。
少し前にヨナタンが来たのだ。
ヨナタンだけが。
そして、今後の対応について話していった。
近々東京は光に満ち、邪悪な悪魔は力を落とす。少なくとも無辜の民を襲うような雑多な悪魔は動きが取れなくなる。
だがそれと同時に、大天使達。ガブリエルをリーダーとするかまでは分からないが。ともかく大天使達が動き出すはず。
それらは無数の天使を従え。
東京に攻めこむはずだ。
東京は、人間と同盟を結んだ二つの悪魔の大勢力。明けの明星が率いる混沌の軍勢と、クリシュナが率いる神々の軍勢。
この二つと共同で大天使どもを迎え撃つ。
ホープはサムライ衆の整備をしながら、隙をうかがって欲しい。
大攻勢を退け次第、フリンを先頭に、東京を救った英雄達が東のミカド国へ大攻勢をかける。
その時。
サムライ衆は、人々を守って欲しい。
大天使と戦う事は考えなくてもいい。
混乱が起きるはずだ。
この機に雑多な悪魔達が、人々を襲おうとするかも知れない。それらから、皆を守って欲しいと。
ホープはそれを受けた。
もはや大天使達は姿を隠してもいない。
ギャビーはまだ人間の見た目を残しているが。明らかに人間ではない大天使達が、城の中を我が物で闊歩している。
アハズヤミカド王は、玉座で無気力にそれらを見やっていた。
或いはこの人は。
最初から全て人外の存在に支配されていると言う事を、知っていたのかも知れない。
「ホープ殿」
サムライ衆を集めて、待機の指示を出した後。自室に戻る途中で、ウーゴが声を掛けて来た。
顔色が死人のそれだった。
「わ、私はどうすればいいのです。 同僚が、人間だと思っていた同僚が。 悉く大天使様で、それで」
「貴方はギャビー様に忠実に従っていたはずだ。 そのままでいればいいだろう」
「な、何も知らないからそんな事が言えるのです! き、昨日! 司祭達が呼び出されて、一斉に間引かれました! それだけじゃない! ラグジュアリーズの高官も、使えないという理由で毎日同じように! 間引かれた人間は、文字通り溶けるようにして燃やされてしまって! あ、あんなのは、人間の死に様じゃない!」
「我々が悪魔相手に、毎度同じように戦っている事、死ねば人間の尊厳など守られず下手すれば食い散らかされるどころか死人として使役される事! そんな事は貴方だって知っている筈だ!」
ホープが一喝すると。
頭は良いかも知れないが、憶病なウーゴはひいっと泣きわめいていた。
咳払いする。
いずれにしても、此奴は勝手にすればいいが。或いは何か利用できるかも知れない。
「貴方が何故抜擢されたか分かっていますかな」
「は、はあ……」
「ギャビー様に忠実で、能力が単純に高いからです。 今までと同じように振る舞えば、恐らく死ぬ事はないでしょう」
「……」
恨むような目。
溜息が漏れる。
こいつがサムライ衆にどんな風に接してきたか忘れたのか。都合がいい頭だなと毒づきたくなるが、それを飲み込む。
今は文字通り、猫の手でも借りたい状態だ。
「私が合図したら、宮中から出来るだけ人々を遠ざけるのですな。 あれだけの天使が集まっている。 恐らく、もしも東のミカド国が戦場になるとしたら、あの宮中でしょうな」
「……分かりました。 出来るだけ避難訓練をしておきます。 問題はアハズヤミカド陛下が無気力極まりない事ですね」
「陛下については貴方が説得なされよ。 陛下の仕事をしていただくのだ」
後はもう知らない。
しばしこっちを伺っていたウーゴが宮中に消える。
ホープは嘆息すると、若いサムライを呼んでいた。
既にある程度力量があるサムライは、命令を言い含めて東京に送り込んだ。悪魔と戦わせるという名目だが。
実際には大天使の軍勢との戦いに加勢させるためだ。
此処にいるのは残りカスばかり。
その中で、唯一有望なのが。
サムライになったばかりのこの若者。
ガストンだった。
別人のように成長したナバールの弟であり、ナバールが支援に長けているのと真逆に、近接戦に特化している。
問題はスタンドプレイがちょっと目立つ事で、単独で戦った方が力を発揮できるかも知れない。
ガストンは生真面目な青年で、一歩間違えば腐ったラグジュアリーズの見本のようになっていただろうが。
全うに成長したナバールの影響を受けたからだろうか。
今では真面目で、それでいて民の事も考えられる好青年になっていた。
親の悪影響を受けなかったという点で、とても理想的な事だと思う。
ホープはガストンに、牙の槍を渡す。
そう、あのフリンが使っていたものだ。ガストンはその重さに驚いていたようだ。ちなみにガストンはかなり背が高い青年であるため。槍の柄は長く調整し直している。
「これからお前は、ケガレビトの里……東京へ向かって欲しい」
「はっ! 命令とあらば」
「彼方ではナバールが活躍している。 ナバールと協力して、東京を脅かす「悪」を撃ち払ってくれ。 案内は彼に頼んである」
敬礼したのは、ホープの率いる第一小隊のサムライの一人。
何回か東京におり、一番最初にシェルターに辿りついた小隊にいたことがある。今ではホープの率いる最精鋭の一人だ。
「お前は兄と両親はどちらが正しいと思う」
「残念ながら、権力のことしか考えていない両親は、この国の恥です。 兄は身を張って民のために戦っている。 兄は私の誇りです」
「そうか。 ではいけ」
「はい!」
ガストンはいい戦士に成長した。きっと役に立つ筈だ。
後は、この国で。天使達が弱まったときのために手を打っておく。
大天使ガブリエルだかなんだか知らないが。
圧政のつけは払って貰う。
その時は、確実に近付いていた。
(続)
最後の最後でガストンが参戦します。手にするのはフリンのお古である牙の槍。フリンの相棒として、ずっと序盤を一緒に乗り切った業物です。
原作だとガストンは足手まといだとか色々言われていましたが、本作ではゲームシステムに足を引っ張られないので、ちゃんと働きます。
ただ、最後の最後での参戦になります。それは時系列上仕方がありません。ご了承ください。
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