もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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本作の幻想郷に襲来し、壊滅にまで追い込んだ大天使アブディエル。真5では大天使達のリーダーを務めていた武闘派ですね。

本作の現段階でのアブディエルは人間の絶対数が減った結果信仰の絶対量が減りかなり弱体化しているため、結果として現在の霊夢であればどうにか戦える相手になっています。

それでも決して弱い相手ではありません。

真5でも信念がある武人でしたが、それは本作でも変わっていないのです。






1、幻想郷侵攻の理由

数に物を言わせて攻めてきていた天使達が、凄まじい対空砲火で抉り取られていく。美しかった方陣が穴だらけになっていく。

 

それだけじゃない。

 

空中で炸裂する爆弾は、盾を構えているパワー達を容赦なく打ち砕いていく。その有様を見て、天使達も流石に動揺しているのが見て取れた。

 

熱狂的な攻撃を続けている兵器部隊。

 

だが、弾も生産したり、各地の軍基地を悪魔の領域から解放して集めて来たりしていても、限度がある。

 

何より、高位の天使には通用しないだろう。

 

パワー達が全く怖れる様子がなく出てくる。弾を受けても耐え抜く奴がいる。

 

恐らく近衛の精鋭部隊だ。

 

ヨナタンの天使部隊も、転化していないパワーもどんどん強くはなっていっていた。今見えているように、歴戦を重ねて同じパワーでも個体に戦力差が出てくる。そして近衛の部隊の中央には、冷静に剣を構えて不動の姿勢を取っている大天使。

 

霊夢が言う所のアブディエルが、泰然と構えていた。

 

それで天使達も算を乱していない。

 

それに、大天使はアブディエルだけではないようだった。

 

強力な魔術障壁で、対空砲火を防ぎながら、前に出てくる大天使がいる。それに対して、ドクターヘルは無視しろと指示。

 

弾の無駄だと言う。

 

弾は効く相手にだけ撃てと。

 

弾が飛んでこないのを見て、こっちに迫ってくる大天使。

 

バロウズが解説してくれる。

 

「大天使ハニエルよ。 七大天使の一角で、愛を司るとされているわ」

 

「任せるわよ。 あたしは力を温存する」

 

「おっけい!」

 

既にそのハニエルと近衛の天使達が、地上近くまで来ている。人外ハンターが悪魔を出しているが、ハニエルはすっと手をかざすだけで、雑魚悪魔は消滅させてしまうようである。

 

なるほど、流石に強いな。

 

他にも何体かの大天使が、市ヶ谷に降り立った。しかし、即座にワルターが斬りかかる。秀も、何か魔術を放とうとした大天使に斬りかかり、それを大天使が光の剣で受け止めていた。

 

激しい立ち回りが始まる。

 

手持ちの悪魔を展開しつつ、格闘戦を開始する人外ハンター達。対空砲火を守れ、そういう声が響いている中。

 

殿が、ハニエルに突進。

 

殿の、銀髪の子の姿を見て、ハニエルは笑おうとしたが。直後に不可視の質量体を受けて、ぐっと呻いていた。

 

ハニエルは六つの翼に顔と手だけという異形だが、その手には大きな剣が握られている。

 

いや、あれは。

 

多数の剣が出現すると、一斉に銀髪の子に襲いかかる。殺意が凄まじい。愛の天使とはなんだったのか。

 

激しい戦いが行われる中、僕は右左に近衛の天使達を切り伏せながら、ハニエルに迫る。

 

数体のパワーが壁を作ろうとするが、蜻蛉切りが唸り、立て続けに倒す。まだ飛ばしすぎるなよ。ワルターが、大天使相手に押し気味に戦いながら叫ぶ。僕も分かっていると帰す。

 

乱戦が始まる。

 

対空砲火で相当数が削られたとは言え、くさびとなって打ち込まれた大天使と精鋭部隊が、地上に橋頭堡を確保。

 

それを基軸に、天使達がどんどん降りてくる。

 

出来るだけ急いで大天使達を倒さないと、かなり危ないか。

 

そう思った瞬間。マーメイドが叫んだ。

 

「皆、耳を塞いで!」

 

「!」

 

飛び離れ。蜻蛉切りを地面に突き刺すと、耳を塞ぐ。

 

同時に、氷の竜巻が辺りを蹂躙していた。天使達が凍り付いて、空中で砕けてしまう。方陣がまるごと氷砕けるのを見て、人外ハンター達が歓声を上げる。だが、巻き込まれて、もがいている人外ハンターもいる。耳を塞がなかったというより、塞ぐ余裕がなかったのだろう。

 

天使達が動揺する中、皆が攻勢に出る。

 

今まで黙っていた戦車部隊が、攻撃を開始。小沢さんもレールガンを使って、大天使を狙撃。

 

大天使は翼でそれを防ごうとして失敗。

 

翼を吹っ飛ばされ。

 

隙が出来たところを、至近に迫っていたナナシが顔面に剣を突き刺し。数発のデザートイーグルの弾を撃ち込んで倒していた。

 

おおと喚声が上がる。

 

もう充分にいっぱしの戦士だ。

 

秀も相対していた大天使を撃ち倒したようだ。大天使が倒れ始めるのを見て、天使達が動揺しているのが分かる。

 

無理をせず、負傷者はさがるように指示する小沢さん。

 

僕は前衛に出ると、殿と激しい戦闘を繰り広げているハニエルに迫る。ハニエルは殿の援護をしようと迫る誰かの手持ちの仲魔を片手間に蹴散らしながら、殿に多数の剣を浴びせかけていた。

 

「相応の神聖なる力を持っているようですが、ならば何故我等に楯突く。 身の程を知るといいだろう」

 

「……」

 

殿が反撃に出る。

 

ハニエルの剣を立て続けに叩き落とすと、跳躍。翼もないのに空中で更に跳躍しつつ、高度を稼いでから質量体で叩き潰しに行く。ハニエルが翼を盾にしてそれを防ぎつつ、多数の剣で串刺しにしようとするが。

 

その時、僕が至近に出る。

 

雄叫びを上げて、僕が貫を叩き込むと、ハニエルは剣で防ごうとして。それで気付いたのだろう。

 

あわてて翼も使って、一撃を止めていた。

 

だが翼も貫いた蜻蛉切りは、ハニエルを串刺しにまではいかなかったが。それでも痛打を入れていた。

 

着地した殿は、蜻蛉切りを見て、目を細めると。僕と連携してハニエルに当たる。ハニエルは今まで殿相手に押し気味に戦っていたが、舌打ちして更に剣を増やす。体の傷も並行して治そうとしているようだが。

 

気付いているだろうか。

 

周囲の天使部隊はあらかた始末されてしまっている事に。

 

秀とマーメイドが大暴れしているのが要因だが、人外ハンターの手持ち達だって負けてはいない。

 

ワルターと戦っていた大天使は、横から飛んできたイザボーの大火力魔術で焼き払われ消滅。

 

既に打ち込まれたくさびはなくなり、人間側は態勢を立て直しつつある。

 

それに気付いたハニエルがあわてた様子で離れようとするが、ヨナタンの天使部隊が殺到。

 

それを見て味方と判断したのか、一瞬油断したハニエルだが。

 

一糸乱れぬ連携で、全身をパワー達の槍で串刺しにされ。凄まじい形相を浮かべていた。

 

「なっ! お、おのれ! 天の軍勢をたぶらかし、あまつさえ我等大天使に手を上げようというのか!」

 

「何が大天使か。 勝手にケガレビトなんてレッテルを貼り人々を殺戮したお前達は、堕天使と何も変わらない! 愛の大天使だっていうなら、人々を愛で救って見せろ!」

 

「堕落した人間に与える愛など持ち合わせていない! 貴様等は家畜以下の存在だ」

 

「……もう口を開かないで」

 

銀髪の子の声だ。

 

これは、ガチギレしたな。

 

この子は東京の民の醜さに怒りを覚え、力を貸すのを拒否した。それは殿に聞いていた。だが、その原因でもあった阿修羅会が倒れ。

 

更には原因を作った一つである大天使が目の前にいる。

 

もう、戦わない理由はないというわけだ。

 

ヨナタンの天使部隊がハニエルから離れる。

 

ハニエルが大魔術を放とうとするが、その前に殿が前に躍り出る。そして、ハニエルが辺り全部を超火力の魔術で焼き払おうとした瞬間。

 

音が消えていた。

 

体右半分をごっそり抉り取られたハニエルが、凄まじい鬼相を浮かべている。

 

一瞬だけ見えた。

 

おぞましい姿の異形が。

 

巨大な腕を振り下ろし、ハニエルを叩き潰したのだ。

 

それでも死にきれないハニエルに、殿が猛攻を続けて仕掛ける。ハニエルは最後のあがきに多数の剣を振るって抵抗するが、それも殿は全てくぐり抜け、或いは光の壁で適切に防いでいた。

 

「お、おのれ、おのれええっ!」

 

更に横一文字に切り裂かれたハニエルが、絶叫を挙げながら消滅していく。

 

上空の天使部隊が明らかに動揺するのが分かった。其処に、地上に攻めてきた精鋭を撃破したことで、対空砲火が再び動き出し、一斉に射撃開始。算を乱した天使達が、方陣を崩す。

 

大天使アブディエルが動く。

 

ドミニオンやソロネで構成された近衛を連れて、まっすぐ此方に突っ込んでくる。

 

恐れを知らぬ勇気。

 

信念に支えられた強さ。

 

それは分かるが。

 

それが向けられる相手は、ろくに抵抗も出来ない人々だ。穢れているという大天使達の主観で、東京の民はまた鏖殺の危機に瀕している。

 

させてたまるか。

 

ティアマトを呼び出す。それを見て、アブディエルが流石に顔色を変える。ただ僕も余裕があるわけじゃない。力が上がっていると言っても、それでも限度がある。

 

だが、ブレス一発だったら問題は無い。

 

ティアマトが、空に向けてそれでも加減しながらブレスを叩き込む。全力で放ったら、天蓋を撃ち抜いてしまう。

 

天蓋の先には東のミカド国の民がいる。

 

そんな破壊を許すわけにはいかない。

 

ブレスは拡散しながら、多数の天使達をまとめて薙ぎ払う。方陣が一つ、光に飲まれて文字通り消滅した。アブディエルは攻撃を回避したが。

 

其処に横殴りに蹴りを叩き込んだのは霊夢だ。市ヶ谷駐屯地の外に、アブディエルが叩き落とされる。

 

霊夢が突っ込む。

 

後続にはまだまだ大天使が控えているようだ。

 

ティアマトに一度戻って貰うと、僕はアナーヒターとムスペル、それにクベーラを召喚する。

 

サルタヒコも出す。

 

皆も、それぞれ戦闘で主力にしている悪魔を出現させた。アブディエルがいなくなったことで、算を乱している天使もいるが。それはそれとして、まだまだ大天使がいて。それが指揮する近衛とともに降りてくる。

 

しかもこれが東のミカド国の総力かというと違うだろう。

 

反転攻勢を入れるためには。

 

此処で大きな被害を出すわけにはいかないのだ。

 

 

 

霊夢は幻想郷で、何処か油断していたのだと思う。

 

地獄の女神や復讐の仙霊も幻想郷に好意的だった。

 

外の神々だって、そうそうは手を出せないはずだ。そう思っていた時に。あの月の都が滅ぼされたと聞かされた。

 

それをやったのは天使達だとも。

 

月の都から、昔の戦いで幻想郷の強者を圧倒した姉妹の神と、月夜見が逃れてきた。奴隷階級の玉兎も僅かに連れていた。いずれにしても敗残兵だった。その後を追って、天使の部隊が来た。

 

最初はいつものように追い返せると思っていた。

 

天使というなら、人間には危害も加えないだろうと。

 

だが、違った。

 

天使達は人間も容赦なく殺戮し始め、人里は文字通り炎に包まれた。最強格の妖怪が、文字通り微塵に砕かれ殺されるのを見た。鬼だろうが手も足も出なかった。

 

幻想郷の支配者層である賢者達は非常事態宣言を出し、総力戦を開始。

 

地獄の女神と復讐の仙霊も駆けつけて、それで戦いを始めたが。瞬く間に霊夢の知り合いは殺され減っていき。

 

平穏だった幻想郷は、全てが焼き滅ぼされ。穏やかな性格の者だろうと、容赦なく殺されていった。

 

霊夢の悪友も、知人も。

 

ばたばたとなぎ倒されていった。

 

その中心にいたのは、あの金色の天使だ。

 

あいつの力は非常に強大だった。

 

幻想郷ではそれぞれの能力を自慢する傾向があり、話を聞くだけなら何でも斃せそうな能力を持っている者もいる。

 

時間を止めたり何でも破壊したり。

 

だが、そういった能力は基本的に格上には通用しない。

 

アブディエルにはあらゆる能力が通じず。格闘戦も魔術戦もまるで意味を為さず。ただ懸かるだけ殺されていくだけ。

 

あの復讐の仙霊ですら斬り伏せられるのを見て、霊夢は戦慄した。復讐の仙霊純狐は即死すら免れたが、今も幻想郷で生死の狭間にいる。

 

激しい戦いの中でそれでも天使達に大きな被害を与え、一度撤退には追い込んだが。

 

命を落としたもの。

 

手足を失ったもの。

 

そういった者達で、滅茶苦茶にされた幻想郷は溢れていた。

 

今、神降ろしの力も借りて、アブディエルと戦えるだけの力を得ている。霊夢は降り立つと、不意を突かれただけだという風情で立ち上がってくる浅黒い肌の大天使に歩み寄る。アブディエルはふっと鼻を鳴らしていた。

 

「随分と怨念が篭もった攻撃だな。 何処かで会ったか?」

 

「幻想郷をどうして襲った。 最後にそれだけは聞かせて」

 

「冥土の土産というやつか。 いいだろう。 中華系の神格の拠点である月の都を滅ぼす計画は以前から存在していた。 我等の主以外の神などいらぬ。 ケガレビトを一掃する過程で、その計画は並行で進められた。 既に地上の退廃と汚染は取り返しがつかない所まで進んでいたからな。 月の都を他の大天使とともに滅ぼし、首魁の嫦娥を捕獲した。 奴からまだ地上に邪魔な連中がいると聞いたのだ。 幻想郷という隠れ里に潜んでいる連中がいるとな。 その後嫦娥は隙を突いて逃げ出した挙げ句に、幻想郷で私が倒した仙霊とやらに殺されたそうだが、それはどうでも良かった」

 

それでか。

 

嫦娥が情報の出所だというのは知らなかった。

 

西王母といい嫦娥といい。

 

本当に迷惑な連中だ。

 

霊夢の怒りのボルテージが上がっていく。元々霊夢は非常に好戦的な性格だと自分を分析しているが。

 

この怒りは許される筈だ。

 

アブディエルは言う。

 

「幻想郷とやらにも足を運んでみたが、他と同じであったな。 腐敗した人間と、それに寄生するデーモンども。 そんな場所に存在価値などない。 全て焼き払い、王道楽土の礎とする。 ただそれだけの理由だ。 私が撤退したとでも思っているのか? 四大天使が東京で遅れを取ったから、態勢を立て直すべしと言う指示が入っただけだ。 お前があの焼け野原の生き残りだというのなら、この場で殺し、その後幻想郷とやらも焼き払うだけのことだ」

 

「そう。 あんたは神話では信念のある武人だと言う事だったのにね。 見境なく何もかも殺し尽くすのが武人のあり方だと思っているのかしら」

 

「救うべき民は東のミカド国に確保している。 時の流れを変え、千五百年をかけて穢れから解放した民がな」

 

「もういい。 あんたは此処で殺す。 冥土の土産ですって? 地獄に落ちるのはあんたの方よ」

 

瞬時に間を詰める。

 

此奴は特に変わった能力を持ってはいない。単に強い。それだけだ。だから能力なんて効かなかった。

 

スペルカードルールに慣れ。

 

格上に通用しない能力を自慢していた幻想郷の人妖が薙ぎ払われたのは。現役で最大の信仰を受けている四文字の神とその手下の天使達が圧倒的最強だったから。だが、それも今は違う。

 

霊夢自身が使っている力は、自身で磨き上げたもの。

 

それにこの国の神の支援を加える。

 

前は絶望的な差だったが。

 

今度は堕落したのは、アブディエルら大天使達の方だ。

 

剣筋は流石に鋭い。間合いに入るなり放ってきた横薙ぎの斬撃は。前だったら回避など出来なかっただろう。

 

だが紙一重でかわしつつ、格闘戦に持ち込む。

 

蹴りを叩き込むと、驚いたようにアブディエルはそれを鎧で受けようとしたが、一撃の重さは相手に届く。

 

吹っ飛んだアブディエルに、追撃の針を叩き込み。走りながら、次の神降ろし。アブディエルは針を全て剣で叩き落とすと、上空に出ようとするが、出来ずにぐっと呻いていた。

 

八十禍津日神。

 

大天使にとっては猛毒に等しい、あの必殺の霊的国防兵器の一角。アブディエルは顔を上げると、辺りを呪いの力で包んだ霊夢に突貫してくる。此奴は最初から本気で来ている。油断もしないし侮りもしない。

 

武人としては立派なのだろう。

 

だが、その武器が向けられるのは。四文字の神にとって邪魔な存在全て。そんなものは、許される武じゃない。

 

即座に切り替える。八十禍津日神で弱体化しても、アブディエルはまるで怖れない。剣が擦る。数度の斬撃で、髪が散り、何度か浅い傷を受ける。それでも、かわせない程じゃない。

 

今の霊夢では、複数同時の神を降ろすのは出来なくはないが、高位の神を降ろすのは無理だ。

 

アブディエルがどんどん弱って行っていても、それでも魂を絞り尽くすように向かってくる。

 

殺された仲間や友人の顔がどんどん浮かんでくる。

 

もうこれ以上。

 

此奴の剣に、誰かを斬らせない。

 

「ぐっ! お、おのれっ!」

 

アブディエルが呻くが、それでも泣き言は言わない。流石に第二次侵攻作戦での先鋒を任されているだけはある。霊夢は鋭く首を狩りに来た斬撃をかがんでかわすと、相手の腹に手を当てる。

 

さがろうとするよりも先に踏み込んで、衝撃を叩き込む。

 

それも、八十禍津日神の力を借りての、穢れを多分に含んだ衝撃だ。

 

吹っ飛んだアブディエル。神を切り替える。

 

荒くなってきている呼吸。

 

霊夢もかなり消耗している。アブディエルが立ち上がる。全身が浅黒い肌をしているアブディエルだが。

 

それが穢れによって黒ずみ始めていた。

 

「これほどに力の差が縮んでいたとは……!」

 

「田舎の隠れ里に潜んでいた人妖に神々では、人間が栄えていた時代のあんたには手も足もでなかった。 あまりにも強大な信仰を受けていたものね。 だけれどあんた達は世界を斬り捨てた。 信仰を一本化して、更には信仰の量まで減らした。 だから単純に力を増したあたしにも勝ち目が出て来た。 墓穴を掘ったわね大天使ども! それにアブディエル! あんたをブッ倒し……いや殺して、その背後でふんぞり返っている四文字の神も撃ち倒す!」

 

「させはしない。 貴様の力は危険だ。 何があっても、この私が討ち取る!」

 

翼を拡げると、力を充溢させ始める。なるほど、決死の一撃というわけだ。

 

地獄の女神と復讐の仙霊を同時に相手にしていた大天使が、此処まで霊夢一人に追い詰められるとは。それは霊夢が強くなった以上に、アブディエルが弱体化したのだ。だが、それを可とは思わない。

 

霊夢もまた、此奴の全力を正面から受け止め。

 

そして叩き潰す。

 

死んでいった皆の為にも。

 

世界中の人間が此奴らに殺された。

 

その事は、今は霊夢の頭の中にはない。

 

勿論、普段はある。

 

だけれども、今は。

 

ただ一人の復讐の鬼として、此奴は討ち取らなければならなかった。

 

大上段に構えるアブディエル。

 

霊夢も神降ろし。一気に全身の力を吸い取られるようだが、降ろすのはこの神格以外にあり得ない。

 

突貫してくるアブディエル。

 

霊夢はすっと正眼に構える。大弊を昔は使っていたが、今は素手での戦闘が主体だ。神降ろしを体術に混ぜて戦う戦闘スタイルに変えたからだ。勿論アブディエルも、もう霊夢を侮っていない。

 

正中線を割りに来る。

 

どんな時代も、剣術は最終的に合理性に収束していく。

 

アブディエルは色々な天使と組み手を行い、合理的で近代的な剣術を会得し、身に付けていったのだろう。

 

霊夢はそれが分かる。

 

だから、最高の切り札を切った。

 

交錯する。

 

一瞬のなかの一瞬、刹那の間に、三手の攻防があった。

 

正中線を割りに来た大上段からの唐竹を、手に出現させた草薙の剣で斜め上からの横払いに弾く。それを更に横薙ぎに切り替えてきた一撃を、抑え込むように地面に叩き込む。そして、大きく態勢を崩したアブディエルの胸に。

 

今、横から草薙の剣を突き刺し入れていた。

 

降ろした神は、いうまでもない。

 

日本武尊だ。

 

血を吐くアブディエル。その体が、マグネタイトに変わって消えていく。羽が舞い散っていく。

 

「神は絶対。 私は常に神の剣である。 私の忠義を切り裂く事は、誰にも出来ぬ」

 

「それは狂信よ。 貴方自身が狂信を持つ事は勝手にすればいい。 だがそれが数多の命を焼き払い奪った事を、今貴方は報いとして受ける」

 

「報いなど受けようとかまわん。 今は天の国の大きな禍になった貴様を討ち取れなかったことが……心残り……」

 

ばちゅんと音を立てて、アブディエルが消えた。

 

呼吸を整える霊夢。全身への負担が大きい。

 

ふらつきながらも、一度シェルターへ戻る。帰路、天使が複数来たので身構えたが、ヨナタンの天使部隊だった。

 

「霊夢様、護衛させていただきます」

 

「余計な事を」

 

「肩をお貸しします」

 

「無用」

 

霊夢は誰にも顔を見せたくなかった。

 

幻想郷が馬鹿騒ぎを出来ていた最後の日をどうしても思い出してしまう。考えて見れば、外から来た別に最強でもなんでもない超能力者一人に潰されかける程度の場所だったのだ。畜生界みたいな高位とは言え鬼一体に叩き潰される程度の存在や。神々の中でもそれほど強くもない月程度に勝てなかった幻想郷だった。

 

最強の神の尖兵に襲われたら。それは蹂躙されるのは避けられない運命だったのかもしれない。

 

あの侵攻を受けた日。

 

どうにか大きすぎる犠牲の末に侵攻を追い返した日の事が今日のことのように思い出される。

 

それに仇はまだ取れていない。

 

四文字の神を討ち取るまでは。

 

泣くわけにもいかなかった。







※大天使による幻想郷侵攻

本作では大天使達に幻想郷が侵攻され壊滅していますが、今回の話で明かされたとおりの事が起きました。具体的に説明すると以下のような流れです。

縮退炉完成が切っ掛けになり、大天使達が各地の渋々従っていた神々を抹殺開始。当然月の都もその対象に。月も総力で迎え撃つも、元々純狐さん一人も武力では退けられない程度の勢力です。ひとたまりもなく陥落し、殆どの月人と玉兎は殺されました。

この時西王母(単独行動で東京に襲来)や綿月姉妹に月夜見(ただし月夜見は重傷)を含む一部の月人が逃げ出したのですが、逃げ遅れて捕獲されたのが嫦娥です。純狐さんの仇のヒキガエルですね。

こいつが幻想郷に逃げ込む計画があったことを大天使達の拷問で吐きました。なお、その後嫦娥は隙を突いて逃げ出すことには成功しましたが、逃げ出した所を純狐さんに捕まって殺されています。

大天使達は各地の神々を皆殺しにし、核兵器で地球を更地にしている過程でしたが、一部隊……アブディエルが率いる部隊を場所が判明した幻想郷に向かわせ。博麗大結界を実力で突破した大天使達は、幻想郷に侵入。

幻想郷側も即時で対応。ヘカTと純狐さん、(月から逃げ込んできた)綿月姉妹などの増援を加え、幻想郷の各勢力に加え龍神を含む賢者達全員も前線に出る幻想郷の総力で迎撃するも、圧倒的な戦力差に幻想郷側は壊滅に追い込まれました。一方東京で四大天使が破れた事をアブディエルは知り、多少は被害が出ていたこともあり撤退を決断。

その後、外の状況確認のために霊夢が(戦力補充のために)地獄を経てから東京に出向いた。こういう流れです。

幻想郷は残念ながら、世界で最大の信仰を集めている大天使達の力の前にはあまりにも無力だったのです。

(※具体的に誰が命を落とした、という話は角が立ちますので控えさせていただきます)






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