もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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圧制者と化していた大天使達は倒れました。

真4のカオスルートだと、自由とは名ばかりの地獄絵図に変わる東のミカド国を見る事が出来ますが……あの時ホープ隊長の言葉を聞いて、かなり苦しい思いをしたのは自分です。

本作ではあんな自由と無法の取り違えはさせません。

東のミカド国は、ついに人間牧場から生まれ変わるのです。







3、神のための牧場は人の国へ

少し休憩を入れてから、奈落を行く。

 

戻る事も考えたのだが、上ではこうしている間も天使達が復活している可能性がある。出来るだけ進んだ方が良い。

 

殿がそう提案。

 

実際、上でターミナルを復旧すれば、それで大丈夫だろうと思う。戻る事はいつでも出来るだろうし。

 

奈落には殆ど悪魔はいない。

 

雑多なのはいるが、仕掛けて来る様子もない。

 

天使の大軍勢が通るときに、それこそ箒で払うようにして、まとめて駆逐してしまったのだろう。

 

「随分静かになったもんだな」

 

「そうですわね。 最初に来た時は毎度命がけでしたのに」

 

「それはそうと、話しておこうと思う」

 

不意にドクターヘルが言う。

 

ドクターヘルは、メタトロンと霊夢とマーメイドの戦いに横から支援しただけではなく、あの領域について観測してデータを取っていたという。

 

それで、ある程度の仮説が出たそうだ。

 

「アティルト界とやらの正体が分かったと思う。 まだ検証用の材料が多少ほしい所ではあるがな」

 

「科学でこの不可解な現象を解き明かせそうと言う事か」

 

「まあそうなるな。 ただ至高天とやらに向かうのなら、理屈が分かっただけでは難しかろうがな」

 

そうか、それは心強い。

 

僕は素直にそう思った。

 

休憩を入れても、完璧に休めたわけじゃない。ガブリエルはやはり強かった。皆相手にしたのは、手強かった。

 

手持ちの悪魔達も消耗している。

 

ましてや上では、三大天使のもとの存在を召喚して、ばかげた「ディストピア」を終わらせなければならないのだ。

 

その時の為の打ち合わせは既に終わらせてある。

 

それに、である。

 

人々が悪魔化するようなばかげた状況も終わらせる必要がある。

 

リリスはあれを自由か何かの結果だと考えていたようだが。あんなものが、自由であってたまるか。

 

入口近く。

 

虎皮を纏った太ったおっさんが不意に姿を見せる。手にしている杖には、髑髏があしらわれていた。虎については象と同じく虎を原型とした悪魔に何度か遭遇して知った。

 

一目で分かる。

 

これは、恐らくだが。

 

ベルゼバブの真の姿と見て良いだろう。ふっと、牙だらけの口で笑うベルゼバブ。

 

「おかげさまで大天使共の結界は消えた。 此処まで来る事ができたよ」

 

「ここに来て何をするつもり?」

 

「心配しなくても、あの御方は人間共を無為に殺すなと仰せだ。 リリスがやったアティルト界との半融合を解除しに来ただけだ。 それはもう終わった。 人間が本を読んだだけで悪魔になる事はなくなった」

 

「……」

 

悪魔との契約はリスクが大きい。

 

それは分かっている。

 

ましてや此奴は、ターミナルで僕らを弄んでいた奴だ。警戒しない訳がない。

 

ベルゼバブは僕の警戒を悟ったか、からからと笑う。

 

「心配するな。 我々は契約に縛られる存在で、上からの命令にも従わなければならないのでな。 嘘はつくが。 ただ、今回の場合、我等の主である明けの明星が人間に無闇に害を為すなとご命じで、更には強硬派はお前達が既に倒してしまっただろう。 だから、大丈夫だ。 わしはこれで帰る。 次に会うときが、戦場では無い事を祈るよ。 メタトロンとサンダルフォンを同時に相手にして倒す相手と、わしもやり合いたくはないのでね」

 

「そう。 それじゃ、またいつか」

 

「悪魔合体をしてくれれば、呼び出しには応じるぞ」

 

「考えておくよ」

 

笑いながらベルゼバブが消える。

 

もう、東のミカド国は、すぐに上だった。

 

 

 

アキュラ王の広場に出る。霊夢がまぶしそうに目を細めていた。

 

太陽光は久しぶりだ。

 

そして、アキュラ王の像は、既に壊されてしまっていた。多分だけれども、大天使達がやらせたのだろう。

 

すぐに周囲を警戒。

 

だが、もうこれといった大天使の気配はない。メタトロンとサンダルフォンが出て来た時点で、総力戦を挑んできていたのだ。此処にいる居残りは、雑魚ばかりと言う事なのだろう。

 

ただ、それでも四文字の神の影響力は強大な筈だ。

 

天使が神の軛を脱するのは難しいだろう。

 

歩いて来るのは、ホープ隊長だ。

 

僕はそれを見て、蜻蛉切りを降ろしていた。

 

「城内は制圧した。 天使達が大混乱に陥ってな。 居残りの我々でも、そう難しくはなかった」

 

「分かりました。 状況をお願いします」

 

「ああ。 大天使達が奈落に集って消えた前後くらいから、弾圧が始まってな。 本を持つ人間を、天使達が見境なく殺し始めたのだ。 カジュアリティーズもラグジュアリティーズも容赦なしだった。 だが、それが突如止まり、天使達が右往左往し始めた。 其処で我等が、天使達を手分けして排除した」

 

一部の天使達は、無辜の民を殺すのかと、他の天使と対立したという。

 

そういう天使達は、ホープ隊長に協力して、民を守ってくれたという。

 

そうか。

 

大天使達が倒れたことで、軛から外れた者もいたんだな。

 

そう思うと、少しだけ安心できた。

 

ともかく、城内を確認。

 

大天使の中にも、降伏を選んだ者はいた。分厚い本を手にしている、威厳のある男性の大天使だった。

 

ラジエルという存在らしい。

 

ラジエルは穏健派の天使達をまとめると、これ以上の争いを望まない旨を告げてくる。ヨナタンが前に出て、降伏を受け入れると言うと。

 

ラジエルは頷いて、膝を折っていた。

 

最悪の事態である、天使達が東のミカド国を火の海に包むような事態は避けられたが。それでもかなりの被害が出たようだ。

 

今サムライ衆が東のミカド国の各地に散って、被害状態を確認してくれているらしいが。少なくはないだろうことは僕にも分かる。

 

ともかく、ターミナルを確認。

 

大丈夫だ、使える。

 

霊夢達にも登録して貰い、一度向こうに……東京に戻って貰う。僕らは此処でやる事がある。

 

すぐに戻って来た皆。

 

だが時計を見て、不思議そうに殿が言う。

 

「あまり時間が経過しておらんな」

 

「此方と東京で、時間の経過に差が無くなってきていると言うことですか?」

 

「そうなるのだろうな。 まあ、休憩はしっかりしてきた。 では、手はず通りにやるぞ」

 

「はい!」

 

王宮に出向く。

 

王座は空。

 

アハズヤミカド王は、天使達に本を持つ者を全て殺せと命令を出すように迫られて、拒否。

 

つれて行かれてしまったという。姿は見えず。恐らくは殺されてしまったのだろうと言う事だ。

 

元々いてもいなくても変わらなかった無気力王だ。

 

そして国政を事実上回していたのはガブリエルである。

 

右往左往していたラグジュアリーズの要人達が、こわごわ此方を伺っている。それらを、ヨナタンが一喝していた。

 

「そなた達、要人を集めよ! 今すぐにだ!」

 

「は、はいっ!」

 

「私は王家の血を引く存在、ヨナタン! これよりこの国をまとめる! すぐにその準備をせよ!」

 

さっと散る要人達。

 

本当に飼い慣らされていたんだなと呆れる。

 

殿が指示を出して、ヨナタンが順番にやる事を決めていく。まずこの国の法については、一旦は保留。

 

こんな酷い法はそうそう見ないと殿は呆れていたのだが。

 

それもいきなり変えると大混乱が起きる。

 

まずは混乱を収束するところからだ。

 

サムライ衆を派遣して、各地で天使がやった殺戮。湧いてきている雑魚悪魔の駆逐をさせる。

 

要人達は被害をまとめ、そして物資の供与を即座に行うように手配する。

 

凄まじい手際で、驚かされる。

 

実際には地下で散々打ち合わせした上で、殿がヨナタンに色々仕込んでいたようだが、それでも舌を巻かされる。

 

霊夢が袖を引く。

 

「此処は任せて大丈夫でしょうね。 あんたはこっちを手伝って」

 

「分かった」

 

「俺も行くぜ。 立ったまま見てるのはしょうにあわねえ」

 

「わたくしも」

 

ヨナタンと殿が混乱の収束を計るのは、既に決まっていたことだ。後は任せて、僕隊は別にやる事をやる。それだけである。

 

まずはウーゴを見つける。

 

ウーゴは既にホープ隊長が抑えていた。ぶるぶる震えるウーゴは、まるで小動物である。粛正されなかった司祭達とともに、教会の奧で縮こまっていた。

 

「な、何が起こったのですか! 天使達がいきなりいなくなって、それで……」

 

「ヨナタンが王位についたから、その手伝いに行って」

 

「へ……」

 

「今は一人でも手が必要だから。 一応あんたは、この国でも有数の知識人でしょ。 下に行けばタダのアマチュアでもね。 だから今は力がいる。 死にたくなかったら、新王に力を見せるべきじゃないのかな」

 

そう僕がいうと、呆れたようにホープ隊長がこっちを見たが。僕はそれに対して、苦笑いで返す。

 

あわててウーゴが謁見の間に向かう。司祭達もそれに続いた。

 

「あのご落胤とか言うの、ただの噂ではないのか」

 

「それは今は混乱を避けるために言わない事で」

 

「そうだな。 アハズヤミカド王には子孫もいなかったし、他に王族もいない。 天使達が気にくわない人間を片っ端から排除していたからな。 実際問題、誰かが王にならなければ、地獄のような混乱が始まっていただろう」

 

「それでウーゴは何をしていたんですかアレは」

 

呆れ気味にホープ隊長が、この国を脱出する準備をしていたようだと教えてくれる。それは確かにちょっと擁護できないか。

 

確かに大天使達が倒れたことで、この国が大混乱になるのは多少目端が利けばわかる事だ。

 

それにしても逃げるとは。

 

何処に逃げるというのか。

 

どうせ今や、人間の領域は東京にしかないというのに。

 

「ホープ隊長も立ち会ってください。 ちょっと休憩してから、この国の悪辣な支配者の影響を排除します」

 

「ほう」

 

「天使共の後ろにいる四文字の神。 その影響力を排除して、誰でも本を読めて、学問を出来る場所にします」

 

「それは痛快だな。 ついでにカジュアリティーズとラグジュアリーズとか言うどうしようもない制度も廃止してくれるか」

 

頷く。

 

だが、殿によると、それは時間を掛けながらやっていくことだそうだ。

 

まあそれでいいだろう。

 

さて、一旦僕らは周囲を確認。

 

混乱に乗じて悪さをしようとする悪魔がいないかを確認した後、隊舎で休む事にする。念の為暗殺に備えて悪魔は展開しておくが。

 

ガブリエルの支配に何もかも依存していた国だ。

 

柱がごっそりなくなった今。

 

混乱する者はいても。

 

そんな風に動けるものなどいなかったし。

 

いたとしても、不穏分子としてガブリエルに消されてしまっていたのだった。

 

一眠りして、食堂に。

 

食堂はガラガラだったが、料理人はいた。何年も年を取ったが、既に料理人として風格が出ているし。

 

料理の腕も上がっていた。

 

霊夢やドクターヘル、殿も食卓を囲む。秀はあまりそういうのは好きではないらしく。ヨナタンが供与した隊舎で一人で食べるらしい。

 

まあ、食事を一人でするのが好きな人はいる。

 

何も皆で食事をするのを強要しなくても良いだろう。

 

他にもサムライはいるにはいるが、殆どがベテランばかり。新米は、ホープ隊長に怒鳴られて、巡回をすることで必死に心を落ち着けているようだった。

 

「それでヨナタン、予定通りやれそう?」

 

「今の時点では問題なくね。 ただこの国では、神が在ることが当たり前だった。 天使の存在は周知の事実だったし、結局家畜として飼い慣らされていた事は変わらない。 一世代や二世代で、それはどうにもできないだろうね」

 

「千五百年ですものね」

 

「それと、例の調査も終わっておる」

 

殿が咳払い。

 

例の調査。

 

それは、天蓋の一部撤去についてだ。

 

天蓋は将門公の体の一部。無為に傷つければ、世にも恐ろしい将門公の怒りを買うことになるだろうし。

 

考え無しに撤去したら、膨大な土砂が東京に降り注ぎ。

 

東のミカド国の民も、崩落に巻き込まれて多くが倒れる事になる。

 

かといって、将門公に空でも飛んで貰って、別の場所に東のミカド国を移動させるのも無理がある。

 

だから、穴を開ける必要があるのだ。

 

東京の人達には太陽が必要だ。

 

出来ればそのまま外に出られるとなおいい。だから、出来れば裾に、活用していない土地がないか、調べていたのだが。

 

丁度良い場所があるらしい。東の果ての辺りは、崩しても特に誰も被害を受けることはないそうだ。

 

霊夢が付け加える。

 

「今の皆の実力であれば、将門公に伺いを立てることは可能よ。 問題は将門公がいいというかどうかだけれどね」

 

「先にやる事があるね」

 

「ああ、その通りだ」

 

僕が指摘。

 

そう、それをやるにしても。

 

先にやるのは、四文字の神を撃ち倒す事。

 

ふいにマーメイドが床から浮かんで来た。それを見て、ベテランのサムライが驚いている。

 

一応、此方の仲魔だと紹介はしておく。

 

しかし、ホープ隊長を初めとして、知っている人達はみんな数年分年を取っている。それが、東京との時間の流れの差を感じさせる。

 

殿が咳払い。

 

もっとも重要な話を始める。

 

そう、四文字の神を倒すには。そもそも至高天とやらにいかなければならないのである。

 

「それでドクターヘル。 アティルト界についてだが」

 

「ああ、観測データを分析した結果、ほぼ結論出来た。 アティルト界というものは、どうやら観測によって生じている世界のようだな。 一般的に精神世界などと言われるものに近いが、そんな上等なものではない。 ただ情報が集まって出来ただけの、電子が行き交っているだけのむしろ下位の世界よ」

 

「んーと?」

 

「ごめん。 僕もまったく分からない」

 

ヨナタンが素直に認めるので、ドクターヘルがからからと笑う。

 

そして本を出してきた。

 

量子力学とある。

 

「実際に物理的に観測されている現象なのだがな。 世界には観測が影響を及ぼすという性質がある。 光の挙動などで観測されている事実なのだが、ともかくその世界……生息範囲というべきかな。 最も影響力を持つ生物が、観測することによって、世界に実際に影響が出る、ということだ」

 

「そんなの、神だの天使だのがいるし、今更じゃねえの」

 

「そんなものは今までわしらが生きてきた世界でも、ごくごく例外を除いて空想の産物であったわ。 少なくとも気楽に観測出来るものではなかった。 これだけ悪魔や天使が現れて、それでやっと観測の範囲内に入ったというのが正しかろうよ」

 

ワルターに対して、殿が付け加える。

 

なる程と僕も納得。

 

殿の時代は、悪魔だの何だのは実際に姿を見せなかったわけだ。秀のいた戦国時代は、また話が別だったのだろうが。

 

「続けるぞ。 どうやらアティルト界というのは、人間が観測する範囲での出来事が影響を与えている、磁場の流れの事であるようだ。 だから人間の神話の生物がいる。 そういう点では普遍的無意識なんて言われたものに近いともいえるのだが。 まあともかくとして、人間は観測した。 その結果、神が後から作り出された。 それが事実と言う所であろうな」

 

ドクターヘルがそう結論。

 

なるほど。

 

実際には神が人間を作り出したのではない。人間が神を作り出したという事実があるわけだ。

 

ドクターヘルは、更に色々と話してくれる。

 

元々神が人間やら世界やらを作ったのだったら、バビロニア神話の神格が最古なのはあまりにもおかしい。

 

此処一万年の歴史で神々が「座」とやらを争っているのもおかしい。

 

なんだったらもっと前から存在する神がいて、それが圧倒的な力を持っていてもおかしくはないし。

 

人間なんかが想像もできない奇っ怪な姿をした神々や悪魔が多数蠢いていても不思議ではない。

 

だが、現世にマグネタイトを媒介して現れる悪魔は、どれも人間の神話や伝承に現れる存在ばかり。

 

それどころか、ネットミームなどと言われた創作妖怪までも出現が確認されているのだという。

 

だとすれば、悪魔や神が人間を作り出したのではない。

 

人間が悪魔や神を作り出したのだ。

 

その力がどこから来たのか。それをもっとも論理的に説明できるのが、量子力学の一説。

 

観測によって世界に変化が生じるというものであるらしかった。

 

「この量子力学というのは難しい学問でな。 だが、アティルト界が実際に確認出来れば、これを一気に進展させることが出来る。 そうなれば、人間に有害なだけの神を殺す事は不可能ではない」

 

「もの凄い話ね。 あたしが足を運んだ月の都は、或いはそういうアティルト界の産物だったから、穢れを極端に嫌っていたのかしら」

 

「仮説しか立てられんがな。 ただ観測した数多のデータが、この理論が正しい事を裏付けている。 そして、至高天に入る方法もな」

 

幾つか説明を受ける。

 

なるほどと、理解できた。ドクターヘルは色々な場所で教鞭を執っていたらしく、説明はとても分かりやすかった。

 

では、後はやるだけだ。

 

まずは、この国を四文字の神の奴隷から解放する。

 

それを第一歩にしなければならないが。

 

食事を終える。こっちの食事も東京ほど複雑ではないが。やっぱり素朴でとてもおいしい。

 

おなか一杯、力もまんたんになったところで、外にでる。

 

壊されてしまったアキュラ像を見て、ツギハギとフジワラはどう思うのだろうとちょっと思ったが。

 

だが、アキラはこんな像を喜ぶ人間だとは、平行世界の結末を見た今はとても思えない。

 

こんな像を喜ぶアホでは少なくともなかっただろう。考えて見れば、こんな立像を喜ぶような人間はまともな精神の持ち主ではない。

 

とりあえず、アキュラ王についてはまた敬意を示す方法を考えるとして、この立像の残骸は撤去することを皆で合意して決める。誰もそれには反対しなかった。

 

ホープ隊長と、要人、司祭、それにサムライ衆の主力を集めて貰う。ウーゴも怯えていたが。きちんと来た。

 

では。此処で、呼び出す。

 

召喚するのは、当然決まっている。

 

まずはラビエル。

 

召喚されたバアルの一柱は、目を細めて日が注ぐ地を見ていた。それを見て、さっと皆が傅く。

 

これから守護者となる存在だ。

 

バアルが邪悪な存在だとしたのは、あくまで一神教。バアルはただ神々だった存在にすぎないのである。

 

別に民に害する存在でもない。

 

一神教が対抗存在としたから貶めただけ。

 

今では東のミカド国のバイブルにもその他の書物にも、バアルのバの字もない。だったら、皮肉な話ではあるが、民はバアルを悪魔と認識しないのである。

 

ただ、ダグザに叩きのめされていたバアルは此処にはいらないかも知れない。

 

あれは完全に拗らせているだけの可哀想な老神だ。

 

ラビエルは、何も言わない。

 

医療の神だ。

 

此処にいて、なんら損はないだろう。

 

続けて、月の女神を呼び出す。

 

月の女神も、同じようにして太陽を目を細めて見つめていた。それだけで、東のミカド国は安心する。

 

優しい姿の女神ではないが。

 

魔術の神だし。魔術が使えるのは周知の事実。

 

だから、それでいい。

 

それに、霊夢の話によると、とんでもなく強大な女神が知り合いにいるらしいのだが。それの先祖となる存在であるらしい。

 

その女神が霊夢の故郷を守ってくれた外来の神の一柱。

 

あのアブディエル……東京についこの間襲来した時とは比較にならない力の状態のアブディエルと必死に戦ってくれた存在であるらしいし。

 

その先祖となれば、とても心強い。

 

魔術だからと言って悪という事もない。

 

東のミカド国では、悪魔に対応するのにも。医療にも。魔術は使われていたのだから。それを危険な事に使わないように、法整備などは必要だろうが。

 

そして最後に、マルドゥークを召喚する。

 

偉大なる暴風神が降り立ったのを見て、人々は威に打たれる。

 

マルドゥークは良くも悪くも子供がそのまま大人になったような神格で。良く言えば天真爛漫。悪く言えば我が儘である。

 

ただ力は本物だ。

 

暴風の圧倒的な破壊力を身に宿してはいるが。

 

しっかり祀れば、しっかり守ってくれる典型的な神様。

 

恐らく、日本神話系の神々と同じように、今後は祀り方を霊夢に指導して貰う必要があるだろう。

 

それに古代神格は生け贄を要求する場合が多かったらしいとも僕は聞いている。

 

それはどうにか避けた方が良い。

 

マルドゥークがどうしても生け贄を欲しいというのであれば、何かしらの工夫をしなければならないだろう。

 

日本の神々も、「お供え」という普通の食事などを喜ぶという話がある。

 

そういう形に、軟着陸させれば最高だろう。

 

「太陽に照らされた豊かな土地だ。 余が以降は此処を守護しよう」

 

「おお、神が!」

 

「お言葉を!」

 

「ふっ、秘匿されるばかりが神ではない。 余は加護をくれてやるが、だが相応の信仰をせよ。 四文字の神はそなた等に隷属と信仰心を求める割りに、そなた等には自分が定めた独善的な法しか与えなかったであろう。 余は単純に可能な限りの加護をそなた等にくれてやる。 代わりに信仰だけをすればいい。 後の事は、余を蘇らせた者達に相談するように」

 

マルドゥークが消える。

 

ふうと僕はため息をついた。

 

もの凄く消耗するかと思ったのだが、思ったより全然楽だった。力が上がっているのである。

 

ウーゴが早速、どうすればいいのかと聞いてくる。

 

霊夢が相談に乗る。

 

教会を壊したりする必要はないらしい。マルドゥークと僕が知らない間に色々話していたそうで。

 

様々な神像を作って、それに感謝すればいいそうだ。

 

感謝の形はそれぞれでいいらしい。

 

食べ物がろくにないのに、無理に食べ物を備えたりはしなくて良いそうだし。

 

ましてや人間を生け贄とかは必要ないそうだ。

 

ただ、本来のマルドゥークは古代神格で、当然生け贄などを欲していた側面もあるそうなので。

 

これらは、悪魔合体と。それをマルドゥークが座を降りた結果、性質が変質した可能性が高いと言う。

 

或いはだが。

 

僕の影響を受けているのかもしれない、ということだった。

 

「バイブルは別に捨てなくてもかまわないわ。 ただ、本の一つとして以降は扱うように。 神様なんてものはね、祈ればそれに応えてくれる程度のものであればいいし、大げさな設定なんて必要ない。 ただ人々を見守り、人々はそれに答える程度の存在であればいいし、極端な理不尽を起こさなければそれでいいのよ。 国は基本的に人間が回すものだと心得なさい」

 

「わ、分かりました……」

 

「後は任せるわ」

 

ヨナタンが前に出ると、さっと皆が跪く。

 

既にヨナタンは、王としての振る舞いを始めている。最初に命令を出したのは、事前に調査していた無人地帯について。

 

これから穴を開ける。

 

東京とつなげるという話だった。

 

「今までケガレビトの里と言われていた場所は、僕……オホン、私自身が見てきた。 あそこはケガレビトの里などではなく、東京と言われる文明が残された人々が暮らす場所だ。 前は愚かな王が悪辣の限りを尽くしていたが、それも討ち取った。 今は人々が新たな旅立ちに出ようとしている。 我等は彼等と手を取り合い、未来に進む事を模索しなければならない。 それには……あと一つ、大きな問題を片付けなければならない」

 

「あと一つとは」

 

「唯一絶対の神を名乗り、この国を家畜牧場として扱っていた存在。 四文字の神の討滅だ。 既にその存在の手下達の本性を、皆はみているはずだ。 本来は天使達は、あのように愚かな存在ではなかった。 神の悪い影響を受け、ただ人々を管理するだけの存在となってしまった。 僕は天使すらも解放したい。 その戦いを終えた時、この国は真に独立を果たせる」

 

とはいっても。

 

順番を踏まないとダメだと、殿は言っていた。

 

殿は近年の人間の歴史を確認して、特に「第三諸国」という場所に、無理矢理に先進的すぎる政治制度を持ち込んだ結果をたくさん見ているという。

 

少しずつ順番に国を変えていかなければならない。

 

人間は時代を経て、身分制度という愚かしいものを克服した。

 

殿が言うには、殿の時代最初に天下統一を果たした英雄は賤民とされていた存在の出だったそうだし。

 

その他の英雄達も出自が怪しい者ばかりで、「名家」なんて何の役にも立たなかったそうだ。

 

例外も当然いたが。それも名家に頼ったのではなく、実力でのし上がった者ばかり。

 

だから家系図づくりなんてものが流行った。

 

血筋の優位性なんて、その程度のものだったということである。

 

だが、いきなり全部の民を公平に、選挙制度で国を回そうなんて事をやっても上手くはいかない。

 

何段階かに分けて国を変えていく必要がある。

 

そういう話だった。

 

それに、である。

 

東京の人々が太陽の下に出て、また世界に拡がり始めれば。東京の人達は再び国を作り、25年前まではそれで動かしていた近代的な仕組みで国を回す。それに加わっていくという手もある。

 

逆に、東京の人達が、東のミカド国に加わりたいと思うかも知れない。

 

最終的には、国をまとめてしまうのが良いだろうと殿は言っていた。

 

僕もそれには同意だ。

 

あわせても110万程度しか人間はいないのである。

 

だったら阿修羅会みたいなばかげた事をしていないで、皆で協力してやっていくのが一番だろう。

 

そこに神々や悪魔も加わっていく。

 

決して人間が最強でも絶対でもないと分かれば、今まで見たいな愚かしい思想を持つ者だって減るはず。

 

いなくはならないだろう。

 

だが、それは人間が克服していかなければならないのだ。

 

後はヨナタンに任せて、幾つか話をする。

 

「それでドクターヘル、座とやらにどうやって辿りつく」

 

「まずは至高天とやら……アティルト界の深部であろうが、そこに直にいかなければならないであろうな。 そこまでは、神々の力で行けるはずだ」

 

「天照大神に素戔嗚尊が揃った今なら、行けるかもしれないわね。 それにあの元三大天使達は「鍵」と融合している。 その力を借りれば、なおさらね」

 

「おう。 それでここからが問題なんじゃがな。 座とやらは、仮に四文字の神とやらを蹴り落として、更には粉々に砕いても何度でも再生しよう。 観測する事によって生じる存在であれば、どうしてもそれは生まれ来る。 何かしらの手段で、固定してしまうのが良いだろうな」

 

ナホビノとやらがいればいいのだけれど。

 

そうも行かない。

 

問題は其処からだ。

 

その時、リリィが喋る。秀以上に喋る事がない子だ。

 

「手はあります」

 

「ふむ、聞かせてくれ」

 

「私は元々この世界にはあり得ない存在。 いずれ消えます。 もとの世界の私と一緒になると言ってもいい。 ですが、この世界にいたという事自体が力になる。 私が四文字の神という人を倒した後、マーメイドさんの見た一番良い世界というのを、座に無理矢理固定します。 世界から世界を渡る時の力を、それで固定する事が可能な筈です」

 

「努力が全て報われる世界か。 ふむ、わしとしては願ってもない」

 

カカカとドクターヘルが笑う。

 

またこの老人は悪巧みをして。だが、咳払いする殿。

 

「だとすれば、以降は取り憑き先を考えなければなるまいな。 まだヨナタンを独り立ちさせるには早い。 それと……フリン、ワルター、イザボー」

 

「はい」

 

「おう」

 

「何でしょう」

 

殿は咳払いした。二つ、必要だという。まず、英雄としての事績はヨナタンに収束する。ヨナタンがあらかた悪魔を倒したと言うことにするようにと。これは、英雄が多いと禍の種になるからだと。

 

ワルターは苦笑する。相応に良い思いが出来るならそれでかまわないと。

 

僕も別に、ヨナタンが王様になって、東のミカド国をしっかり回してくれるなら、それでいい。イザボーも権力には興味が無さそうだ。

 

「それと見ていて理解は出来たが、フリンもイザボーも男としてのヨナタンには気がないな。 二人ともヨナタンとは別の人生を送れ。 ヨナタンの国の重役になるのはいいが」

 

「僕はそもそも誰かと子供作る気もないかなあ」

 

「わたくしも別にヨナタンが相手でなくてもかまいませんわ」

 

これも恐らくは、前者と同じ理由なのだろう。殿は頷くと、それでいいと言った。

 

さて、此処からだ。

 

至高天とやらに殴り込んで、傲慢な神を叩きのめす最後の戦いが始まる。リリィとは別れるかも知れない。いや、秀や霊夢だってそれぞれに居場所があるし、マーメイドは多分別の世界に飛ぶのだろう。

 

別れは近付いている。

 

だが、それは在るべき形での別れ。理不尽な別れではない。それでいいのだと、僕は思うのだった。

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