メガテンシリーズは一神教を中心として扱っている作品ですが、実は四文字の神と戦えるタイトルはそれほど多くはありませんね。
本作では真4をベースにしていますが、真4Fも扱っていますので、当然ラスボスは四文字の神となります。
ちなみにYHVHとかYHWHとか表記する四文字の神ですが、どう発音するかは今も分かっていません。
ヘブライ語で母音を表記しないからですね。
階段を上がる。消耗が大きい。既に輜重は尽き掛けている。階段は果てしなく長い。神々だったら飛んでいけるのかも知れないが。
二度目の休憩。最悪の場合、一度引き返すことを想定しなければならない。判断をするのは殿だ。
殿を見る。
殿が憑いているリリィは、首を横に振るのだった。
「リリィも感じているようだが、この先にいる存在は弱ってきておる。 立て続けに分霊を失ったから、であろうな」
「……」
ツァバトの後。
エロヒムという神霊が現れた。
これはまるで燃えさかる火の玉だった。太陽神としての四文字の神の姿。そういうものであったらしい。
勿論手強い相手だった。
だが、それはあくまで手強いの範囲内だった。
やはり存在の矛盾を指摘すると、脆く崩れて行く。そして、最終的には撃ち倒されたのだった。
シェキナーという神霊も姿を見せた。
それは巨大な三つの顔が合わさっているような姿をしていた。
神殿に神がある状態を表すもの。
そういう意味で。四文字の神の分霊としてはもっとも強大な存在であったらしい。
だが。その姿が極めて女性的である事を僕は見抜いた。
それは恐らくだが、四文字の神に取り込まれた女神信仰の慣れの果てだったのだ。
唯一絶対の神というものを作りあげていく過程で。
一神教は、その材料になった神々をより強く否定したのかも知れない。何しろ、それらが残っていたら唯一絶対ではなくなるのだ。
だから、この古い時代の人々が「精神世界」とでも想像するような場所に実際に足を踏み入れてみれば。
その姿は滑稽で。
歪んでいて。
崩れていて。
そして、年老いていたのだろう。
ドクターヘルが、残りの物資が限界だと分かりきったことを告げる。ただ、とも言う。
「戻るのであれば、簡単であろうよ。 此処は人間の観測が決める世界だ。 すぐ後ろに退路があるとでも考えれば、すぐにもどれよう」
「でも、それは四文字の神に態勢を立て直すチャンスを作ってしまうよね」
「そう。 で、殿は前に進むべきというのであるな」
「そうだ。 此処で決着を付ける。 疾きこと風のごとし。 わしがもっとも尊敬した軍略家であり、わしの軍略の師の一人、武田信玄も好んだ言葉だ。 元は孫子の兵法の一節であるがな」
ただその言葉も、状況次第だとか。
殿の息子はそれを取り違え、早すぎる進軍をした結果、多くの兵士を脱落させるという醜態を演じたとか。
あれは軍才がなかった。
殿が嘆く。ドクターヘルは、じっと聞いていた。
「ひょっとすると、殿は分霊体を敢えて呼び出すように思念していたのか」
「そうよ。 各個撃破せねば斃せぬと考えたのでな」
「確かに戦略的には正しいが、おかげでもう後がないぞ」
「分かっておる。 ……ただ、これで終わりだ。 最後の戦いになるだろうな。 皆、気合を入れてくれ」
殿の言葉に、身が引き締まる。
後ろには、大勢の人達がいる。
人間はもう東京と東のミカド国にしかいない。正確には霊夢の故郷の幻想郷にもいるらしいが、数は僅かだろう。
戦いは終わりか。
殿はそういうが、この後四文字の神をしとめても、まだまだ先にやる事は幾らでも残っている。
楽隠居とはいかないだろう。
特にホープ隊長は僕を後継者に望んでいたようだ。
人をまとめるのはあまり得意じゃないけれども。
今後は、今までとは違う苦労がある可能性も高い。
まあその時はその時。
やれることをやっていくしかないだろうが。
それでも、殿が言う通り。
この先の戦いが、恐らく今までで最強の。それもぶっちぎりの実力を持つ相手との戦いになる。
何人生き残れるだろうか。
それはもう、仕方がないが。
だがそれでも、やるしかない。そして、生き残って、人々の命運をつなぐしかないのである。
人間は、大戦の前には破綻寸前のところにいた。
ドクターヘルだけではない。
フジワラも志村さんも、生き残りは皆同じ事を証言していた。最果ての時代に生きていたのである。
大戦の後はあの阿修羅会のせいで、さらなるどん底を経験する事になったが。
だが、だからこそ。
その先に、未来を作らなければならないのだ。
「事前に決めたとおり、最初は相手の矛盾を徹底的に突くわよ」
「ああ」
「僕もバイブルの問題点は頭に入れている。 任せてくれ」
「それにしても。 唯一絶対の神の分霊体は、どれもとても議論に弱かったですわね。 本当に全肯定と全否定に染まりきっている感じでしたわ」
僕もイザボーの言葉に同感だ。
実際問題、支配の道具として最適だから、人間によって使われてきた神、という要素がとても強いのだろう。
だとすると、この先にいる四文字の神も。
ある意味、もっとも悪辣な存在……。人々を救済しようと考えた者達の思想を横からかっさらい、支配と権力確保の道具にした連中の、被害者なのかも知れなかった。
階段を行く。
一際気配が強くなってくる。
光も。
多数の天の使いが舞っているように見える。
だがそれは、ただの光の粒子。
今まで散々倒して来た天使達は、もう姿を見せることは無い。それはそうだろう。全て敵対的な天使は倒してしまったのだから。
階段を上がる。
巨大な広間に出た。領域に入ったな。そう感じ取る。
周囲に、黄金の人面が大量に浮かび上がってきた。凄まじい数だ。これ全てが、唯一絶対の存在だというのか。
いや、違うな。
これは、完全性と、支配に都合がいい。その両者を兼ね備えた姿だ。だから唯一絶対の筈なのに、たくさんたくさんいる。
その全てが、各地で人間を支配するために用いられた側面。
人間は屁理屈を考える時に、最も頭が回ると聞いている。それを示すような、浅ましい姿だと言える。
「跪け」
「断る!」
一斉に皆が叫ぶ。此処では思念が力になる。敬虔な一神教徒がいれば、ひとたまりもなく平伏してしまっていただろう。
だが、そもそも大天使達の行動もある。
既に四文字の神を、漠然とした絶対神としてしか人間は認識していない。抵抗してこない家畜から搾取する以外の事を、出来なくなっている。
だから、反抗されれば、それだけで四文字の神はダメージを受ける。
悪魔はそれ相応に対応に苦慮する相手だろう。
だが四文字の神の理からとっくに外れているマーメイドは問題が無さそうだし。
異界から来ているリリィもまた、ダメージを受けている様子はなかった。
「貴方に問う!」
霊夢が先陣を切る。
最初から殴るのでは無意味だ。此処は精神世界と言われていたような場所に一番近い空間。
だからまずは、相手を否定する事で弱体化させる。
「バイブルでは貴方をひたすら唯一絶対の存在として崇め、その全てを聖職者達は肯定してきた! だが実際はどうなのかしら。 貴方は様々なミスをし、世界に悪魔をのさばらせ、それどころか貴方を純粋に信じてきた人々を救うどころか天使達に鏖殺までさせた! 世界の人間達が腐敗していたのは事実だろうけれどね。 だったら腐敗しないようにそもそもし、手を打てば良かったはず! 愛で世界を満たすと口にしながら、あんたの信者達はただ盲目的にあんたを信仰することだけを求められ、聖典に書かれている事を何もかも鵜呑みにすることだけを強いられた! 貴方はただの絶対的な独裁者よ! 神々にとっても、人間にとってもね! 他の神の像を崇めることを嫌悪する癖に、自身を崇めることを強制する! 街中に自分の像を建てさせるような愚かな独裁者と貴方の何処が違うのかしら!?」
最初っから飛ばしてるな。
霊夢の凄まじい糾弾に、明確に四文字の神はダメージを受けている。一目で分かるほど、呻きながら身をよじっている。多数の顔が。それで消し飛んでいた。
光あれ。
そう声が響くと、凄まじい圧力が掛かる。
だが、それをはねのけたのは、リリィだった。それだけじゃない。マーメイドも壁を作る。
リリィが次に言う。
「私の世界は滅びに瀕していた。 でも、誰もが必死に周りの誰かを助けようと、最後の最後まであがいた。 人を人ではなくしてしまう恐ろしい力を一人で引き受けて、皆を助けようとしたお母さんも、人々を恨んでなんかいなかった。 道具として作り出されて、不幸な目に会った私の姉妹達だって、誰も恨んで何ていなかったよ。 貴方は違う。 世界の滅びの中でも、気高く最後まであがいた人達と違い過ぎる。 たくさんたくさん人を殺して、言う事だけ聞く人を残して。 そんな行動を認めている時点で、貴方は私の故郷を滅ぼした死の雨と同じ。 貴方のような存在は、私は絶対に認めない」
リリィは滅びた故郷の全ての人々を弔った。
ただ一人生き残った彼女がやらなければならなかった。
それは殿に聞いた。
死者となった仲間達が、ずっと側にいつもいてくれた。だが、召喚元のリリィは、体を既に彼方此方異形に蝕まれ。この姿より数年加齢しているという。長くはないのかも知れない。
ただ、それでも分かる。
今の言葉を聞く限り。
確固たる信念。最後まで戦い抜く心。それに、何も恨んでいない。誰をも心から弔った。
僕が知る限り、最高の聖人。
それが、リリィという子の真実だと思う。
勿論それでも雑念やら弱い部分やらはあるだろう。
だが、少なくとも。
四文字の神を利用して、権力の担保と蓄財を行い、それでいながら聖者を自称していたような宗教家達を、どれだけでも否定する権利がある。
それもまた、確かだ。
そんな連中をのさばらせていた、自称絶対の神も。
また、多数の顔が消し飛ぶ。
明らかに苦しんでいる四文字の神。
更に、秀が出る。
「私の叔父は世界を不幸にしたが、それも最後は全て責任を取って地獄に自ら向かったよ。 最初は善意からだった。 人々と共にあろうとしていた。 貴様はどうだ。 最初は善意からだったのかもしれないな。 だが今の貴様は、自分でこの世界をこうした責任など取ろうとなどしていまい。 それどころか、大天使達に全ての責任を押しつけ、良い所だけ貪ろうとしている。 貴様は最悪の盗賊だ」
これはまた強烈な言葉だ。
盗賊と一刀両断された四文字の神が、悲鳴を上げながらもがく。
また顔が消えていく。
無数にあった顔が、どんどんなくなっていく。
「我は絶対! 絶対のものの声を聞け!」
感情が無かった声に、少しずつ感情が戻っていく。
分かっている。
今までは仮面をつけていただけだ。
無数の顔が、一斉に火力を投射してくる。だがそれらは、マーメイドが今までにないほどの凄まじい氷壁を作り出して、防ぎ切ってしまう。だが、長くは保たないだろう。分かっている。
続いて、ドクターヘルが言う。
「欧州も中東も、貴様はずっとエサ場にしていたな。 貴様を否定しようと考えていた者もいたが、いずれもを潰して信仰心を得るためのエサ場にして来た。 その結果がどうだ。 狂信者があふれかえるだけだったではないか。 今やそれらの全てが存在していない。 お前はただエサを食い尽くすだけの豚に過ぎんのう」
おお。
一神教文化圏の人間からの痛烈な言葉だ。
それにこの人だって、あまり褒められた人生を送っていないはずだが。ただ、それをいう資格はあるのだろう。
ナチというものについては僕も調べた。
それも結局、神を人種に置き換えただけで、全肯定全否定の理に基づくものだった。それどころじゃない。
そもそもとして、人間を「優秀」「劣等」と人間の主観で分別して。後者を片っ端から殺戮した時点で。
ナチとこの四文字の神は同列だと言う事だ。
凄まじい悲鳴を上げて、四文字の神が更に減っていく。
顔が次々に砕けて、奥に見えてきた。
一つの顔が。
それは一際大きくて、強烈な気配を放っている。あれが恐らく、四文字の神の本体なのだろう。
まだだ。
今度は、殿が出る。
彼奴にダメージを与えられるのは、人間だ。マーメイドは残念ながら同じ精神世界の住人である。
今は肉の体を得て具現化しているだけ。
だから、人間が。
例え幽霊であっても。
否定しなければならないのだ。
「わしは戦国の世に来た宣教師どもを見ているがな。 どいつもこいつも信者を増やして、そこで権力を如何に得るかを考えている連中ばかりであったわ。 奴らが何を持って権力者に売り込んだか。 戦争の知識、金、武器。 いずれも愛とはまったく無縁のものであったのう。 これだったら、各地の土地を耕し、人々に基礎的な知識を教え込み、ともにあった仏教の方がまだましであったかもな。 もっとも仏教も腐敗が酷かったのは同じだが、はっきりいってそもそも腐敗以前に金と暴力と支配しか考えていなかった宣教師どもよりはまだマシだ。 元からそうではなかったとでもいうつもりか? ユダヤ教の時点で、貴様の思想は全否定と全肯定であったろうが! 貴様の思想は、人間をバカに落として初めてなり立つものだ! そんな思想を有り難く掲げさせる時点で、貴様は最初から破綻していたのだ!」
「お、おのれ、おのれええええっ!」
殿も痛烈だな。
僕はちょっと困惑しながら、政治家としての殿の痛烈な弾劾を聞いていた。まあ、戦国を勝ち残り。
戦乱を終わらせた存在だからこそ。
一神教に対する痛烈な言葉も許されるのだろう。
殿については、後で調べた。
一神教については、結局弾圧をして、国の中で信仰を許さなかったらしい。
でもそれは、当時日本に来ていた一神教……イエズス会というそうだが。それらがあまりにも蛮行を重ねたというのも理由としてあるそうだ。
イエズス会は各地で信者を増やして金を得て権力を得ることを目的に動いていた。もとの思想がどうだったかは兎も角、そうしていた連中が多すぎた。実際、一神教に傾倒して、邪悪の限りを尽くした権力者もいたらしい。
それであれば、弾圧は。あまり褒められた事では無いが、やむを得なかったのかも知れない。
四文字の神の顔が砕けて行く。
ワルターが前に出る。
「俺は漁師町でろくでなしの両親の下で育ってな。 洟垂れのガキの頃から網引いて喧嘩して、それでイキリ散らかした挙げ句に、師匠になってくれた老サムライにぼこぼこにされて、弟子入りしたんだ。 その時教わった武芸が今の俺の依って立つものになってる。 俺は愛なんぞあんたから貰った覚えはない。 それに俺を立派に育ててくれた師匠は、最後は孤独の中で、病気を得て死んでいった。 愛だの公平だの。 少なくとも自然の中にあんたは感じなかったよ」
そうか。
ワルターも苦労してきたんだな。
イザボーも前に出る。
「大天使達と戦って分かりましたけれど、あなたのはただの独善ですわ。 結局のところ、信仰というのはバカに分かりやすくする事が一番信者を増やすのに良いのかも知れない。 同じリズムを繰り返した音楽などを用いたり、美しい神像を作り出したり、踊ったりとね。 そういう点では、貴方は他の神と何一つ代わりなどしない! それが貴方は、唯一絶対の神? 他の神々と何も差などありませんわ」
はっきり言うな、イザボーも。
まあそうだろうな。
そもそもイザボーは、漫画を愛する事で多様性を見てきたのだ。
それで結論出来るのは、多様性の中に唯一の真実なんてないと言う事であったらしい。
明らかに非人道的な行為の中にこそ解放があったり。
どれだけ善行を重ねても報われないこともある。
多様性というのはそういうものだ。
だが、最初から決まった善と決められている悪に分けられ。それで全てが決まっている世界よりも、どれだけマシだろう。
マーメイドの隣にいたナホビノという存在の作りあげた、努力が報われる世界というのはとても素晴らしい。
今まで、誰もそれを考えなかった。
修行をすれば強くなれるという思想を考えたものはいた。
だがそれは、ただ体を壊すような無茶をして、それで神々に忠誠を示すというものにすぎなかった。
それは結局のところ。神に対する狂信でしかない。
自律自尊でもなんでもないのだ。
まだ神の顔が多数砕ける。もう、あれほどあった顔が、殆ど残っていない。
前に出るヨナタン。
ヨナタンも、痛烈な弾劾を始めた。
「僕の人生は、常に周囲からの愚かしい視線を浴び続け、父の権力のエサになる事を求められるものだった。 司祭達の腐敗も間近で見てきた。 逆に、僕を真人間に育ててくれたのは、バイブルなどロクに知らない年老いた夫婦の使用人達だった。 老夫婦は言っていたよ。 ずっと差別されてきて、司祭からもゴミでも見るようにみられていたってね。 彼等に愛をどうして注がなかった! 彼等は子供達からも見捨てられた! 僕を真人間にしてくれた、あれほどいい人達だったのに! 顔が醜かったと言うのが原因か? そんな事であれほどむごい運命を強いるのが絶対神だというのなら、お前を僕は許さない!」
そうか。
ヨナタンの家の複雑な事情は聞いていた。
だからこそ、その言葉の意味がわかる。
ヨナタンは実の両親なんて、親だと思っていなかったんだな。だからこそ、逆にあれほど立派な志と自制の精神を持つに至っていた。
其処には、バイブルなんて関係無い。
ましてや、それを神の愛だのと、横から手柄をかっさらおうとするような詭弁など、許されてはいけないはずだ。
マーメイドが展開する壁が、砕かれる。
即座に回復の魔術をコノハナサクヤビメが使い始めるが、そろそろとどめを刺さないとまずいか。
僕が最後に出る。
「四文字の神! あんたを間近で見て確信したよ! そうだとは分かっていたけれどね! あんたは年老いた神の一柱! 絶対でも最高でもなんでもない! 最初はそうだったのかも知れない。 最初は気高かったかも知れない。 ケダモノ同然だった人々を律しようとして、苛烈な思想を決めたのかも知れない! だがあんたはそうして得られるようになったエサ(信仰)を貪るだけの豚と化した! それは結局のところ、アンタが腐敗した聖職者と同じである事を意味しているだけだろ! さっさと座から降りろ、老神! あんたはとっくに衰えきった、絶対でも万能でも全能でもない、ただの世界の病だ!」
致命的な亀裂が、空間に走る。
いつの間にか、顔は一つだけになっていた。その顔も、傷だらけになっている。
皆、悪魔を展開する。
顔が、苦痛に呻いていた。
「我は、唯一、絶対、至尊……!」
「壊れたようですわね」
「あ、あああああああ、うああああああああああああああ!」
見える。
領域が壊れた。光で満ちていた領域が粉々に。逆に、闇が押し寄せてくる。召喚したティアマトが、ばっと翼を拡げて皆を守る。殺到してくる闇は、あれは。
ドクターヘルが言う。
「なるほどな……」
「何が起きてるんだよ!」
「涜神の効果がありすぎたようじゃのう。 そもそも四文字の神は、絶対だのなんだの言いながら、バイブルでは明確に人格を持つ存在として描写されておる。 人格がある以上、その存在はどうしても人間に近い。 それが他の人格神を否定し涜神すると言う事は、最終的に自分に全部返ってくるということよ」
カカカと、ドクターヘルが笑う中。
闇の中、顔が歪んで、崩れて。そして膨れあがる。
無数の獣が、顔に生えてくる。
それは狐だったり蛇だったり、或いは豚だったり。
何となく分かる。バイブルでは罪を示す動物を指定しているとか聞く。それに何より、である。
禿頭だった頭に、角が生え始めている。
それはそうだろう。
霊夢が言っていた。
四文字の神は、牛の神の系譜。蛇の神の系統と同じくらいの勢力を持つ、牛の神の系譜に属しているのだと。
闇が、収まった。
苦しみながら悶えているそれは、もはや神々しさなどかけらも無い。あらゆる悪魔を合体させて、そして其処に降臨させたような姿だった。
領域も、闇に満ちている。
あれこそが、完全に闇に落ちた。
いや、今まで他の神にしてきた報いを受けた、四文字の神の姿。それもまた、仕方がないのだろう。
苦しみ悶えるその姿を、冷静にドクターヘルが分析していた。
「七つの大罪を代表する生物が全て融合した姿に、牛の神の系譜と。哀れだが、もとはあんな程度の存在だということが露呈しただけだな。 ……サタンを凌ぐ力を持つようだが、今なら手が届くだろう」
「さがっていてドクターヘル」
「おう、だが次にこう言う事があったとき対応できるように、データを採らせて貰うぞ。 カカカ、神などといっても、所詮は人間が観測した末に生じただけの存在。 絶対でも唯一でもなんでもなかったな」
皆が展開した悪魔に、神だったものが吠え猛る。
最後の相手だ。
僕は蜻蛉切りを構えると、先陣を切る。
「僕はサムライ衆の一人、フリン! 本性を現した四文字の神! 今、その存在を座から引きずり降ろす!」
「おのれ、おのれ下賤のものどもめ! 許されると思うなよ!」
わめき散らす老神に、一斉に皆が躍りかかっていた。
※観測について
真4Fでもやっていましたが、量子力学に基づいた科学的な神の殺し方です。
観測する事によって神が存在するのであれば、当然観測によって神は変質する。
真4Fでは間近からダイレクトに涜神を行う事で、四文字の神が異形の姿に変化していましたが。もしも観測されることで生じる精神生命体が神なのだとすれば、どんな鉛玉より効くでしょうね。
本作では至高天という観測の究極集約地点でそれを行っているのです。
文字通りそれは神には致命打になります。