もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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もはや言葉は必要ありません。

この世界を崩壊させた元凶を座から引きずり降ろす。

それだけです。







3、絶対は絶対ではなくなり

神だったものが吠える。

 

それは一瞬で強化魔術をかき消してくるが。かまわない。なんどでも掛け直すだけだ。そして、突貫する。

 

空から降り注いで来るのは、おぞましい光だ。

 

ヨナタンの天使部隊が壁になる。光を浴びて塩になってしまう。だが、その瞬間で、前に出る。

 

蜻蛉切りを叩き込む。

 

貫を浴びせても、それでも多少傷がつくくらいか。

 

それでも、傷はつく。

 

ヤギの頭に、立て続けに攻撃を入れていく。多数の首が生え、動物の特徴を得ているおぞましい姿。

 

それだけたくさんの神を否定し。

 

今、その報いを受けているのだ。

 

「往生際が悪いぜ爺さん!」

 

ワルターが、交代して前衛に出る。ワルターの悪魔達が、荒っぽい攻撃を仕掛ける中、僕は闇の中を走る。

 

ぐおんと唸ったのは、蛇の頭。頭上から、リリィを狙いに行くが。

 

それに横から、角のある蛇が突貫。

 

体に食いつき、蛇がうなりながら苦しんでいるのが分かった。其処に、秀が一刀を叩き込む。

 

火花を散らしながら。上から切り裂きに行く。

 

上空に躍り出た霊夢が、ばっと光を放つ。

 

恐らくは、天照大神を神降ろししたのだ。

 

先ほどまであれほど光に包まれていたというのに、四文字の神は明らかにそれを受けて苦しんでいる。

 

其処にリリィが、極太の光を叩き込み。神だった存在の体が揺れる。マーメイドが、冷気の渦を叩き込む。

 

悲鳴を上げながらも、体を再生させる四文字の神。

 

全身に鱗が生じる。

 

今度は魚か。確か、魚に対しても否定的なことを一神教では述べているのだったっけ。魚、美味しいのに。

 

感謝して、海の幸は食べなければならないだろうに。

 

巨大な手を振り下ろしてくる四文字の神。それだけで、悪魔達が叩き潰される。

 

尻尾が振るわれる。

 

文字通り、なぎ倒される悪魔達。

 

その中で、ギリメカラとクベーラがそれを受け止めて、必死に時間を稼ぐ。

 

神だったものの背中に蝙蝠の翼が生える。

 

膨れあがる。

 

どんどん逆流してくる涜神が、その体を滅茶苦茶に弄んでいる。

 

「他の神々にして来た事が、全て帰ってきているのじゃなあ」

 

「じいさん、もっとさがってろ!」

 

「いや、そうもいかんようだ」

 

レールガンを取りだすドクターヘル。そして、のけいと叫ぶと、それをぶっ放す。

 

レールガンの弾丸が、神だったものに突き刺さる。

 

全身に穴が開いていく。それも、塞がる気配がない。

 

悲鳴を上げながら、四文字の神が腕を振り回す。

 

それもたくさんの腕を。

 

がっと、ティアマトが前に出て。組み付く。あまり時間は稼げないだろう。一斉に攻撃を仕掛けていくしかない。

 

ワルターが大剣を振り下ろし。ヨナタンが、一斉に天使部隊に突撃を指示。イザボーがコンセントレイトからの大魔術を叩き込む。

 

走りながら、秀が大砲を叩き込み、霊夢は神降ろしで剛力神を降ろすと、体術を立て続けに叩き込む。

 

リリィが打ち込んだ質量体が、神だったものの頭の一つを打ち砕く。

 

だが、再生するよりも。新しく変化が生じている。

 

コレは、斃せるのか。

 

いや、違う。

 

「効いてる! 斃せる!」

 

「その通りだ!」

 

僕は突貫すると、巨大な毛むくじゃらの神だったものの足に、連続して槍技をありったけ叩き込む。

 

足が砕けて、骨が露出。態勢を崩した神だったものが、地面に押し倒される。其処に、ティアマトがブレスを叩き込む。炸裂するブレスが、神だったものを引き裂き、打ち砕く。だが、それでもまだ再生する。

 

触手が生えてきた。

 

あれは蛸のものか。

 

確か烏賊や蛸もあまり良く描いていないのだったっけ。美味しいのに。それで無理矢理体を起こすと、最早隠せていない牛の角を振るいながら、神だった者が吠える。

 

「人など我のエサに過ぎぬ! 跪け愚民共!」

 

「馬脚を現すとはこのことですわね」

 

「ああ。 こんな存在をどうして人々は崇めてしまったのだろうな」

 

「何も考えなくていいからだろ。 ずっと言っていた話だ」

 

秀が突貫。振り下ろされた腕を紙一重で回避すると、手首から両断していた。腕から鮮血をぶちまけながら、のけぞる神だったもの。

 

そこに、ティアマトが体当たりを仕掛ける。動きを封じたところに、魔術戦部隊が一斉に火力を叩き込み、近接戦組が仕掛ける。

 

その中で、躍り出たのがダグザである。

 

心底楽しそうに笑いながら、四文字の神の全身に拳を叩き込む。まあ、それを対価に契約したのだ。

 

拳の威力は凄まじく、明確に苦痛の悲鳴を上げる神だったもの。

 

「唯一絶対などと言う化けの皮を剥がしてしまえば、結局貴様も俺と同じ原始信仰神格ではないか! それを後の人間共が色々と設定を付け足して、偉そうな存在に仕立てたから無理が出る! 今の貴様の姿、見せてやる!」

 

拳を全力で叩き込むダグザ。

 

僕はとっさに気を利かせて、アナーヒターに水鏡を作らせる。霊夢も、光の術を使って、それが四文字の神だったものに見えるようにする。

 

絶叫する神だったもの。

 

それでも再生しつつ、立ち上がってくる。

 

流石だな。

 

サタンより更に上というのは聞いていたが、それでもなおも圧倒的。だが、斃せる。そう、斃せるのだ。

 

そう言い聞かせて、前に出る。

 

無数の魔術が降り注いで来る。其処に、スルトが躍り出て、炎の剣を突き立てる。全身を内側から焼かれて、神だったものが喚く。

 

手を振るって、スルトを弾き飛ばそうとする。

 

だが、させるか。

 

僕はスルトが気を引いてくれている間に、神の体を駆け上がりつつ、蜻蛉切りで滅多切りにしていく。

 

もがく神だったもの。

 

その、角の生えた頭至近に到達。

 

間近で見て、理解する。

 

目尻の深い皺。

 

顔中から失われている生気。

 

やはり、老いているんだ。

 

神でさえ老いる。これは様々な神話でも示されている真実。一神教の神だけその宿痾から解放される訳がない。

 

僕に、両目から光を放って来ようとする神。

 

だが、其処に横殴りに叩き付けられたのが、マーメイドの氷の杭。叩き込まれたそれが、神だったものを揺るがせ。

 

僕は神だったものの顔を蹴り、頭上に。

 

一文字に、その顔を、斬り下げていた。

 

「ぎぎゃあああああああっ!」

 

「痛いんだね。 完全な存在の筈が」

 

「お、おのれ、おのれええええっ!」

 

振り回される手。

 

だが。その手の直撃を受ける寸前。ヨナタンの天使が、僕を抱えて飛び離れる。

 

天使ですら、神だったものの醜態には眉をひそめている。まあ、そうだろうな。そして、顔についた傷は消えていない。

 

再び、上空から仕掛ける。

 

秒間数十の魔術を展開してくる神だったものだが、それも全て周りが防ぎ、徐々に押し返しつつある。

 

僕はもう一撃、神だったものの頭に槍を突き入れる。噴き出る血しぶき。もがいて、僕を振り払う神だったもの。

 

着地。滑りながら、態勢を整える。

 

クベーラが壁になって、飛んでくる魔術を防ぐ。ティターニアが回復の術を、アナーヒターが水の壁を展開してくれる。

 

スルトが凄まじい巨大な蛇を掴んで、だが逆に振り回された。しかしながら地面に叩き付けられながらも、スルトは炎の剣で蛇を串刺しに。

 

既に体にも炎の剣を受けている四文字の神が、喚きながらその苦痛から逃れようとする。着地したのは霊夢だ。

 

流石に疲弊が酷そうである。

 

「もうそろそろ斃せそうね」

 

「うん」

 

そう。

 

そうやって考える事で、明確にダメージを与えられている。

 

アティルト界が切り離されている間は違っただろう。

 

だが、今アティルト界で、至近で観測をぶつけている。だったら、観測でなり立つこの世界の住人。

 

それこそ、それで致命打を受けるのだ。

 

実際にドクターヘルがそれを観測し、立証してくれた。だったら、もうオカルトはオカルトじゃない。

 

理屈で対処できる現象だ。

 

「大技行くわよ。 貴方も、リリスを倒した技を」

 

「おっけい……!」

 

霊夢が魔法の言葉……日本語で詠唱を開始。僕は集中。ワルターとヨナタン、秀が前衛で激しい攻防を行い。

 

秀が鋭い大太刀を振るって、次々痛打を入れている。

 

天使達は神だったものが降り注がせてくる光から皆を守り、献身的に砕けて消えていく。それを無駄にしないと、神々や悪魔が、四文字の神だったものへと猛攻を叩き込んでいる。もうそう長くは保たない。

 

ちっと舌打ちしたドクターヘル。どうやらレールガンの弾が切れたらしい。

 

だが、サイクロプスを呼び出し、すごくでっかいレールガンを取りだす。何処にしまってたんだあんなの。

 

それを見て、明らかに神だったものが怯む。

 

そして、好機と判断した僕は、前衛に躍り出ていた。

 

神が吠える。

 

退け。

 

その言葉だけで、皆が吹っ飛ばされる。だが、僕はクベーラが壁になってくれたから、凌ぎきる。

 

完全に疲弊している神だったものは、全身から大量の血を噴き出し、汗も噴き出しながら、立っているのがやっとの有様だ。

 

もう少しで斃せる。

 

そう観測し続けたのが聞いて来ている。

 

何がアティルト界か。

 

偉そうな名前がついているが。此処は所詮人間が観測した世界。人間の前には、世界の主役だった生物が観測していただけの場所。偉くもなんともない。上位次元といいながら、その実態は下位次元。

 

外の世界に依存する世界どころか、世界ですらない。

 

世界の下敷きになっている、ただの狭間そのもの。

 

走る。

 

蜻蛉切り、今までありがとう。

 

そして、跳ぶ。

 

神だったものが全ての頭を向けて。一斉に僕を排斥する言葉を放とうとする。だが、ティアマトがその瞬間。神だったものに、ブレスを叩き込んでいた。神だったものが、ありったけの壁を展開する。

 

流石に座についているだけのことはある。

 

だが。

 

ティアマトのブレスが、壁を貫通する。そして、神だったものに直撃。悲鳴を上げながら、その体が溶け。

 

頭が吹っ飛んで落ちていく。角が生えた頭が。

 

其処からも、体が再生しようとしている。

 

だが、僕が既に前に出る。

 

そして、まずは叩き。

 

着地と同時に薙ぎ。

 

完全に動きが止まっているところに、貫く。

 

奥義、星落とし。今までで最高の一撃。完全に入る。

 

悲鳴を上げながら、渾身の一撃に吹っ飛ぶ角在る頭。其処に、天から光が降り注いでいた。

 

霊夢の神降ろし。

 

恐らくは、今の神だった者に対して特攻となる、清浄なる光。天照大神の渾身の光の一撃。

 

顔が溶けて行く。

 

四文字の神の顔が、砕けて行く。

 

いやだいやだ。

 

そう喚く様子は、もはや自分が誰だったか分からなくなった老人が、暴れているようですらあった。

 

僕はため息をつくと、突貫。

 

必死に触手を伸ばそうとする神だったものが、更に粉々に潰れていく中。

 

僕は、槍技の基本にして奥義。

 

貫を叩き込んでいた。

 

 

 

領域が砕ける。

 

同時に、神だったものの顔が完全に崩壊。悲鳴を上げながら、粒子となって消えていった。

 

へたり込む。

 

流石に限界だ。

 

皆、同じくらいダメージを受けている。苦笑い。苦笑いが帰って来る。

 

それでも、回復役の悪魔達が、回復術を掛けてくれる。座は、あれか。空になんだか浮かんでいるけれど。

 

少なくとも椅子ではないわけだ。

 

「私が知っている座とは形が違うわ」

 

「やはり、平行世界でもだいぶ違うんだね」

 

マーメイドに、僕はそう返す。

 

やがて、座と言われるものが降りて来た。球体だったが、やがてそれが椅子にと変わっていく。

 

これは分かりやすい座だ。

 

そして、此処で何をするかは、既に決めていた。

 

頷くと、リリィが進む。

 

元々無理をしてこの世界に召喚されていたのだ。その体は、この世界のものではないし。

 

そもそも本人が来ている訳でもない。

 

だけれども。僕は忘れない。

 

殿のよりしろとして奮戦してくれただけじゃない。

 

皆の最前衛で、常に恐ろしい悪魔と激戦を繰り広げてくれた。

 

霊夢に、リリィが手をさしのべる。頷くと、霊夢が手を採る。恐らくだけれども、殿を引き渡したのだ。

 

リリィは文字通り世界を救った存在。そして今まで、神とされた亡霊……殿のことだが。その存在と融合もしていた。

 

擬似的にナホビノとやらと同一の条件は満たしている。

 

だから、消える前にやっておくのだ。

 

「リリィ!」

 

皆から声が掛かる。

 

ふっと、優しい笑みを浮かべるリリィ。

 

「果ての国で、私は皆を埋葬することしか出来なかった。 皆の魂を背負って、これ以上世界が破綻しないようにするのが精一杯だった。 終わった後に残ったのは、滅びの雨が止んだ世界一大きなお墓だった。 でも、この世界は救えたよ。 だから、きっともとの私にも力になる。 もとの私に、新しい力を与えられる」

 

座につくとき。

 

既にリリィの姿は消え始めていた。

 

無理のある現界をしたのだ。

 

それはこうなるのも当然。実際に、もう長くはもたないと、既に会議で話をしてくれていたのである。

 

「ありがとう、みんな」

 

「此方こそ有難う!」

 

「あんた、凄かったぜ!」

 

「忘れませんわ!」

 

皆で手を振る。座に、リリィが理を刻む。

 

一つは、誰もの努力が公正に報われること。

 

そしてもう一つは。

 

人間が、常に客観を持つ事。

 

そして、座についた存在が、座と一体化しながら消える。これで、恐らくだが。人間が、この世界を出るまでは間に合うはずだ。

 

殿は言っていた。

 

世界にはもう資源が足りないと。

 

ドクターヘルもそれは言っていた。

 

同じように人間が世界で発展するのは最早不可能だ。人間はこの世界……地球をあまりにも痛めつけすぎた。

 

だから、星の海に出るしか活路は無い。

 

それをこれから全力で行う。

 

この星の観測者はいずれ人間から次の存在に切り替わるだろう。その観測者にとって都合がいい存在に。

 

だからこそ。

 

努力が報われる、に意味がある。

 

マーメイドが、皆に言う。

 

胸に手を当てて。

 

「これで私も役割を果たせた。 平行世界を救いに行くわ」

 

「あんた、平行世界を飛ぶ事で無茶苦茶消耗するんだろ。 大丈夫なのか?」

 

「平気よ。 あくまで強力な次元の壁が存在していたから消耗しただけ。 これから赴く先の平行世界は、弥勒菩薩に見せられた終わってしまったここととても近い世界達。 その中で、まだ望みがある世界を、これから救っていくわ。 戦力もノウハウもある。 きっと上手く行くわ」

 

「帰って、大事な人に会えるといいね」

 

ふっと寂しそうに笑うと、マーメイドは恐らくこの至高天の仕組みを使ったのだろう。空間を転移したのか、消えていった。

 

霊夢が頭を掻きながら言う。

 

「あたしが使う空間転移とは次元違いだわ。 流石に平行世界にまでは跳びようがないわね」

 

「あんたも帰るのか?」

 

「いや、すぐには帰れないわ。 まず戻ったら将門公と話をしないと。 それに、神社仏閣、それに他の神々の神殿を復興して、分祀をしないとね。 後はやり方を出来る人に教えて、やれるようにしていかないといけない。 まあ一度二度幻想郷には戻るけれど、しばらくは此方にいることになりそうだわ」

 

ワルターに、霊夢がしんどそうにいう。

 

戦闘よりも魔術的、或いは神学的な支援で本当に骨を折ってくれたのだ。しんどそうにする権利くらいはあるだろう。

 

秀は、無言のまま、じっと遠くを見ていたが。

 

やがて言った。

 

「私はある程度落ち着いたら地獄に戻る」

 

「また地獄で亡者を斬り続けるのか」

 

「そうなる。 これほどまでに亡者で地獄が溢れてしまっている。 無念と罪を私が斬り、転生を促してやるのが役割だ。 閻魔が過労死しかねないような状態が続いている。 私がいかなければならないさ」

 

後は、殿とドクターヘルか。

 

殿はこれから、悪魔合体で肉体を作って現界するという。まあそれが妥当だろう。当面は殿がいないと厳しい。

 

ドクターヘルは皆と相談しながら、科学技術を復興。

 

特に「軌道エレベーター」というものを作るべく全力を注ぐそうである。

 

簡単に言うと、今まで人類はロケットというもので大気圏外に出る以外にこの世界を出る手段を持たず、それはとんでもなくハードルが高かったらしい。

 

だが軌道エレベーターを用いると、それとは比較にならないほど簡単に人類を大勢宇宙へ運べるのだとか。

 

今までは素材の強度などの問題、更には土地の所有者の利権調整などもあって上手く行かないのが確定の事業だったのだが。

 

それもこの状態だ。

 

利権もなにも、人がいない。

 

更には悪魔や神々も支援してくれる。

 

それならば、軌道エレベーターの作成は、不可能ではなくなっているはずだ。

 

それと。

 

倒れている存在は、明らかに年老いた、弱々しい神だった。

 

おそるおそる此方を見上げてくる老人に、イザボーが呼び出したガブリエルが跪いていた。

 

「主よ。 これからは唯一絶対ではありませんが、私は常に側にいます。 これからは他の神々とともに、人とのあり方を模索していきましょう」

 

「わ、私は……座で、不公正を排除したかったのだ」

 

皆冷たい目を向けているが。

 

最終的に四文字の神を座から蹴り落としたら、他の神々と同列にする事は既に決めてある。

 

座の法則は決まった。

 

そして座につく「最高神」など作らない事も決めた。

 

後は、座を監視するように、神々と悪魔が相互に振る舞って貰えば良い。

 

だが、どんな新しい理でも、いずれ劣化する。

 

だからそれまでには、この星を出る事を、人類は果たさなければならない。僕も人類の一人として、この星を食い潰した害虫で終わるのはいやだった。

 

「座から離れて、それで分かる。 あまりにも不公正な世界、暴力がまかり通る人間達の仕組み。 自分は正しいと考え、他を排除する愚かしい思考をする「知的生命体」。 私を信仰した者達の薄汚い野心に既に気付いていた私は、だから絶対の存在として、あまねく全てに公正でありたかった。 ただそれだけだったのだ」

 

「ああ、それは分かったぜ。 だがアンタは老いた」

 

ワルターの言葉に、神だった者は俯く。

 

最初はそういう強い信念があったのだろう。だがその絶対足る自分を保とうとした姿勢は、やがて傲慢へと変わっていった。

 

愚かな話だ。

 

七つの大罪最大の罪とされる傲慢を、神そのものが背負ってしまったのだから。

 

「分かっている。 私も此処まで至高天に流れ込む人間の思考が独善的で邪悪なことまでは予想できなかったのだ。 私が短時間で変わっていく事に眉をひそめていた者達もいた。 あの明けの明星もそうだった。 私は……これからは絶対の神などとは名乗らぬ。 公正の神に戻る。 それだけは、あり方を守らなければならぬ」

 

「他の神々と仲良くやろうという姿勢は敬意をもてます。 今まで座についておかした罪を償ってください。 それが貴方が神としてするべき事です」

 

ヨナタンも、多少当たりが柔らかくなった。神はすまない、すまないと涙をこぼしていた。

 

だがこの神を此処まで腐らせてしまったのは人間だ。

 

やはり人間は一刻も早く、この座とかいう代物から自立しなければならないだろう。それは、僕も良く理解した。

 

「帰ろう」

 

皆が頷く。

 

マーメイドとリリィはいなくなった。だが殿はこれから悪魔合体で肉を得て手伝ってくれる。

 

霊夢と秀もしばらく力を貸してくれる。

 

ドクターヘルは監視しないと危ないが、すぐに悪さをするようなこともないだろう。

 

今は、まず。

 

東京に凱旋して。

 

東京の人達が太陽を受けられるように。恐らく今のメンバーが集まってやれる、最後の仕事をしなければならなかった。

 

至高天の出口はすぐ側にあった。

 

そう観測したからだ。

 

どうやら、帰路は苦労せず済みそうだった。

 

 

 

至高天の出口では、あのヒカルという女が待っていた。分かっている。明けの明星である。

 

そして、ヒカルには混沌勢力勢の悪魔達が傅いている。

 

もう正体を隠す気はないということだ。

 

多神連合の神々は、穏やかな姿になったように心なしか感じる。座の仕組みが変わった結果だろうか。

 

クリシュナはまだ不服そうではあるのだが。

 

それでも他の神々は。

 

特に悪神ではない存在達は、ずっと神々しく。それでいて、都合がいい信仰対象ではなくなっているように僕には思えた。

 

俯いていた四文字の神を連れ出す。

 

それを見て、明けの明星は、全てを察したようだった。

 

「短時間で変わり果てた貴方を見て、私は悲しかった。 だが、独善的で権力欲に塗れた人間達の思念を受けて変質した貴方は、座から離れることで、本来の存在に戻る事ができたのだな」

 

「済まなかったなルシフェル。 今はルシファーと名乗っていたか。 そなたは私を最も愛していた存在であったのにな。 だからこそに堕天したのであろうに」

 

「今は謝ることよりも、世界を歪めて多くの存在を苦しめたことを反省し、今後償う事を考えて欲しい。 公正の神となり、他の神々と同列となった今の貴方を殺すつもりはない。 今後は公正を司り、自制と自律を司る神の一柱として、仕事を果たして欲しい」

 

「分かった。 そうさせて貰おう」

 

ガブリエルが付き添って、四文字の神を連れていく。

 

勿論怒りの視線を向ける神や悪魔もいたが。

 

既にリリィとマーメイドは去った。

 

それを告げて、至高天への入口を閉じて貰う。頷くと、座にあった神々はその作業をしてくれた。

 

すぐに閉じる。

 

元々下位次元への道だ。

 

何が高位次元か。

 

神々そのものが、観測で生じた人間の思念の産物だったのだ。だったら、人間に依存しているのが神々の方。

 

神々に依存しているのが人間ではない。

 

都合がいい利己的な行動を担保する思想的存在として、神々を作り出したのが人間である以上。

 

やはりドクターヘルが説明してくれた通り、それは観測の産物であるし。

 

人間の方が上だった。

 

神々が人間より上だという愚かしい考えを、支配と金のために広めていった結果。神々が不必要なほど力を増した。

 

神々は無言で側にいて。

 

本当に困ったとき、助けてくれる。困り果てて悩んでいるとき、最後の一押しをしてくれる。

 

それくらいの存在で、本来は良い筈なのだ。

 

全てが終わり、新しい座の仕組みが動き出したこと。

 

そして全肯定と全否定の法則が。努力と客観性の法則へ変わったこと。

 

今までも、過剰な修行を強いてしまうような思想など、努力を悪用する思想はあった。

 

其処に客観性が加わった事で、今後はそれを抑止できる。

 

勿論座は絶対などではなく。

 

どんどん歪んでいくことは分かっている。

 

だが、それは恐らくだが、人類が宇宙に出て、本当の意味での「知的生命体」に昇華したとき。

 

悪しき歴史は終わりを告げるだろう。

 

いずれにしても都合が良いときだけ人間は動物の一種だ等と抜かして蛮行を正当化し。

 

それでいながら自分に都合良く法を作って正義を主張するような愚かしい人間の本質は、今日から変わるし。

 

宇宙に出た頃には、もう少しはマシにしなければならない。

 

それが、この苛烈な時代を生き延びた。

 

皆の責任だ。

 

明けの明星が音頭を取る。

 

「我々は魔界に戻る。 今後我々の役割は、罪を犯して何ら反省せぬ人間に闇から懲罰を与える事だ」

 

「はっ!」

 

「これでやっと、本来の役割に集中できますな」

 

「ああ。 仏教では鬼は地獄の獄卒だったと聞いている。 我々も本来はそういった存在だった筈だ。 今後は天使とも連携していく必要が生じるだろう。 だが、それが正しいあり方である」

 

明けの明星は最後に此方を見ると。

 

本来の体の持ち主だったらしい女の素の表情と動作で、ありがとうと言った。

 

僕は、それを無言で受けるだけだった。

 

明けの明星は、混沌の思想を持ちながらも、その思想なりに人を守ってくれた。悪魔らしいところもあったが、明けの明星が暴走する悪魔達からかなりの人を助けてくれたのも事実なのだ。

 

明けの明星は、何処かでずっと神に諌言して果たせなかった頃の自分を捨てていなかったのかも知れない。

 

だとすれば、それがもとの姿に戻る事ができたのは、とてもよい事だったのだ。

 

神々も戻っていく。

 

これから神々はそれぞれがそれぞれにあった人々の守護を行う。結果としてただ寄り添うだけの存在になる。

 

人がこの世界から離れ。

 

むしろ食い荒らした地球という星を、元に戻すほどの技術と文明を手に入れた頃には、神々と悪魔が、観測の範囲の中で殺し合うような時代は終わるはずだ。

 

完全に滅した悪魔や神々が。アティルト界でやがて再生していくかも知れない。本来在るべき姿で。

 

霊夢が促す。

 

殿の声は、しばらくは霊夢にしか聞こえないようだ。

 

「銀座に向かうわよ」

 

「分かった。 行こう」

 

「将門公に、最後の伺いを立てなければならないな」

 

「やれやれ。 まだ面倒な仕事があるではないか」

 

ドクターヘルも流石に疲れたのか、珍しくぼやく。エネルギッシュな老人にも、限界はあるらしい。

 

フジワラに連絡を入れておく。

 

ミッションオールオーバー。確か、最後にそういうのだったか。

 

そう告げると。

 

通信の向こうで、歓喜の声が聞こえていた。









※四文字の神の末路について

これについては意味があります。というのも、四文字の神は信仰として存在しているため、ブッ殺してもどうせ復活するからです。

「唯一絶対」ではなくし、他の神々と同じにする。

それが最大の罰になるわけですね。

地獄に落としても良かったのですが、座から降りた事の方がより哀れになり罰になる。そう判断しての行動です。自分から座を降りたマルドゥークなどと違って、座から降ろされた神々の惨めさはバアルを例に出すまでもないことですので。

そして、座に新しい法則が刻まれたことにより。

愚かしい全肯定と全否定の理は、世界から取り払われたのです。




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