もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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東京を離れた者達はどうなったのか。

それぞれの旅路の話です。






真の自立
序、それぞれの旅路


無数の屍が散らばる間にある座に、そのナナシだったものは座っていた。ダグザの傀儡となり、全てを獣のように破壊し尽くして。そして東京に、いや地球に新しい理を敷いた。

 

此処にナナシを案内した存在は言った。

 

人間が観測する事で理が生まれる。

 

くれぐれも人間には気を付けたまえ、と。

 

そしてナナシはそれ故に。

 

人間を動物へと変えた。

 

本能のまま食い争え。欲望を感じたら犯せ。気にくわなかったら殺せ。そうしてナナシが座についた世界にいた人間は、瞬く間に千人にまで減った。

 

それでも退屈そうに座についているナナシは、どうしても安心できなかった。

 

隣には、自分の言う事を絶対に聞く人形と化したフリン。

 

最強の剣となってどんな神からも守ると宣言したが、所詮は何もかも言うことを聞く肉人形に過ぎなかった。

 

隣には創世の女神として造り替えたアサヒ。

 

ダグザの傀儡として世界を滅ぼそうとしたナナシの前に立ちふさがって死んだ幼なじみ。

 

殺した後こうして女神として仕えさせた。

 

たまに気が向いたときにはまぐわって性欲を満たしたが。自分が望むように動いているだけだと理解出来ると、すぐに飽きた。

 

戦前の世代は何でも言う事を聞く肉人形を欲する層が男女問わずいたと聞く。

 

企業ですら「新人でありながらどんなことでもできる上に文句を一つもいわない奴隷」なんてものを大まじめに募集していたというし。

 

きっと最果ての時代のトレンドがそうだったのだろう。

 

だが、実際にそれを手に入れてみて分かった。

 

こんなものを喜んでいる奴の気が知れない。

 

早く人間を滅ぼしてしまおうか。

 

そう思っていたナナシのところに、人間が姿を見せる。それはまだ幼い子供で、必死に涙を拭い。口を引き結んで、ナイフを此方に向けていた。女の子で、服はぼろぼろ。足に至っては裸足ではないか。

 

そうか、こんな子供が生き残っていたのか。

 

ケダモノだけにしてやった人間の中で、どうしてこんなものが生き残っているのか。ましてやどうして此処至高天の座に来られたのか。

 

ふっとナナシは笑った。

 

最早神も悪魔も全て殺し尽くした。人間が滅びたら、此処も消えて無くなる。

 

観測する者がいなくなるのだ。

 

一度くらいは、ナナシをどうにかしようと挑んでくる者が来ても良かった。それが如何に非力な存在であっても。

 

立ち上がるナナシ。その前に、フリンが子供に向けて、なんら躊躇無く剣を振るう。そして、そのフリンが、瞬時に氷の像と化して、砕け散っていた。

 

「平行世界のフリンはとても強かった。 槍の技だけではなく心も強い人だった。 このフリンは殺した後に肉人形として操っているだけ。 とても弱くて悲しい」

 

「なんだ貴様」

 

其処に違和感があった。

 

マーメイド。幼い子供を守るように、側にある。

 

だが。マーメイドごときが、この空間にどうやって乗り込んで来た。そもそも人間共が殺し合っている上に、悪魔は神もろとも目につく全てを殺した。どうして生き残りがいる。

 

立て続けに、アサヒの形をした肉人形が消し飛んだ。創世の女神という設定にしていたものが。マーメイドが魔術を吹き付けただけ。それだけで、終わりだった。

 

マーメイドの力は想像以上のようだ。

 

ふっと、ナナシは笑う。

 

殺戮の限りを尽くしていたときは赤かった。今では黄金に変わった瞳を細め。上段に剣を構えた。

 

この剣で、あらゆる神々と悪魔を討ち取って来た。

 

子供に、マーメイドが頷く。子供は、剣を構え殺気を向けるナナシから、目をそらさない。恐れながらも、立ち向かう勇気をぶつけて来る。

 

「貴方なんて、怖くない!」

 

「そうか。 それで?」

 

「いなくなっちゃえ!」

 

がつんと、強烈な衝撃が来る。これは、純粋な排除の意思。ナナシは鼻で笑うことが出来ず、態勢を崩す。

 

女の子を守るようにして、マーメイドが此方に手を向ける。

 

あらゆる全てを貫き。

 

あらゆる神を殺して来たナナシが、どうしてかそれがとても怖く思えた。だけれど、どうしてだろう。

 

やっと、ずっと怖かった心が、静かになろうとしている。

 

マーメイドが、氷の杭を放つ。その火力は、四文字の神のそれよりも、遙かに上だった。耐性を貫通されるな。それを理解した。ナナシは、避けようと思えば避けられるそれを、避けなかった。いや、言い訳だろうか。もう、その力はなかったのかも知れない。

 

貫かれたナナシは、自分の終わりを悟った。

 

ナナシの体も意識も座から離れ、自分で殺した四文字の神のように、崩れて行くのが分かる。意識だけになったナナシが見るのは、女の子が座につく様子だった。

 

「ありがとう、やさしい人魚さん。 これで、みんなが優しくて、他の存在の事を思える世界にできるの?」

 

「そうね、それは貴方次第。 貴方が目を覚ましたクローン精製施設を考えると、まだ人間は立て直せる。 その人間がやっていけるかどうかは、貴方次第」

 

「いってしまうんだね」

 

「ごめんなさい。 次の世界をどうにかしないと。 ノウハウは掴んだ。 だから、きっとどうにかできる筈。 貴方のような人がまだまだたくさん苦しんでる。 行くね」

 

ナナシは意識だけになって笑っていた。

 

やっとこれで悪夢が終わる。

 

ごめんみんな。

 

会わせる顔がない仲間達にナナシは呟く。そして思う。

 

ダグザだって、こんな無様を本当に望んでいたのだろうか。でも、今負ける事ができて良かったんだとナナシは理解した。

 

宇宙が違うルールへ切り替わっていく。

 

皆殺しにしてしまった世界では、今度こそなくなる。そう、ナナシは思いたかった。

 

 

 

秀は冥府にまた辿りつく。

 

全てを終わらせて、二年ほど手伝いをした。まだ暴れる悪魔はいて、それらを排除したのだ。それも終わった。人間の中にならず者もいたが、それらも座の法則が変わったからか、以前の人類史ほど獰猛ではなくなり。狡猾でもなくなったようだった。

 

悪徳を美徳とするような人間が蔓延る世界は終わった。

 

そう判断したから、また冥府に来た。

 

閻魔は増員されているのだが。秀を見て、すぐに顔見知りの閻魔が来る。元々地獄の最高裁判官である閻魔だが。あまりにも手が足りない事もある。それに、地獄に対して大天使達は手を出さなかった。

 

それもあって、閻魔達は今も仕事をやれている。

 

「戻りました。 四季映姫殿」

 

「凄まじい活躍、地獄からも見ていました。 休暇を年単位で与えられるのですが、そのつもりはないのでしょう」

 

「ええ。 まだ数え切れない程苦しみ続け輪廻にも戻れぬ魂があるのでしょう」

 

「……はい」

 

冥府には裁判所があるが、其処にはまだまだ途方もない亡者の行列が出来ている。

 

地獄から霊夢と一緒に外に出るとき見たのだが、鬼達が死んだ顔をして行列整理をしていたのが印象的だ。

 

屈強な鬼達ですら目が死んでいた。

 

それくらい、地獄がパンクしていると言う事である。

 

すぐに地獄に向かう。

 

秀が手にしている剣は、長い事亡者や妖怪を切り続けた。更には多数の神や天使まで斬った。

 

故に今や、神剣と呼べるものにまで昇華している。

 

早速案内された場所には、怨念を拗らせた亡者が無数にいて。呻きを挙げながら、秀に向かってくる。

 

斬ってくれ。

 

この怨念を抱えていたくない。

 

そういう声もある。

 

それだけではなく、怨念そのものが形さえ為して、それが妖怪にすらなっている。そのままでは、地獄から漏れ出す者も出るかも知れない。

 

だから、斬る。

 

ひたすらに斬り続ける。刃こぼれはない。あらゆる方向から亡者が向かってくる。

 

此処にいる亡者達は。軽い地獄の者達や。或いは地獄で禊ぎを済ませて来た者達である。だから、斬るだけである程度はすぐに浄化させることが出来る。

 

刃が閃く。

 

短時間で自分に並んだ英傑達。特にフリンは、世界が変わる前に肩を並べた東国最強、本多忠勝とまるで遜色がなかった。もう少しあの槍捌きを見ておきたかったとさえ思う。剣の腕には頂きなどない。

 

秀もまだまだ、更に強くなれる。

 

巨大な亡者の塊が迫ってくる。それを一刀で斬り伏せ、左右に切り裂いて粉々に打ち砕いた。

 

光とかして、浄化されて天に昇っていく亡者。

 

あれらは浄化を経て、転生する。ただの動物になるのか、或いは。

 

人間が軌道エレベーターとやらを完成させ、宇宙に出る事を成功させれば。人間の新しい時代が来ると、殿は言っていた。

 

勿論その先にいい未来があるとは限らない。

 

もっと酷い時代が来るかも知れない。

 

ただ、それでも座の仕組みが変わった。客観性を人間を持つ事ができるようになれば。世界は少しはマシになる筈だ。

 

短時間で数千の亡者を切り伏せて。そして小休止を入れる。

 

此処は秀のための浄化施設とかしている地獄だ。自分から指定された地点に出向いて亡者を斬ることもあるが。

 

今は深い地獄ほど亡者ですし詰めらしい。

 

こういう施設を少しでも早く回したいのだろう。

 

此処の管理者をしている鬼が来たので、軽く話をする。ヨモツヘグイと言って、死者の国の食べ物を口にすると戻れなくなる伝承が世界中にはあるのだが。

 

秀は元々妖怪と人間の合いの子。

 

そのような法則は適用されない。神と人間の合いの子だったら適応されたかも知れないが。元々ダークサイドの存在であるから、意味がないのだ。実際、地獄の関係者である鬼などは、平気で地上に出てくる。

 

食事をして、軽く話をする。

 

「それにしても凄まじい戦いぶりでしたな。 我々地獄の鬼も、悲惨な労働状態でしたので、皆で気晴らし代わりに貴方たちの活躍を見て応援していましたよ。 ずっとやりたい放題していたあのタヤマとかいう奴が地獄に生きたまま墜ちる所などは、地獄のSNSで4兆回くらい再生されているとか」

 

「そうか。 私は自身の未熟を悟らされるばかりだったが」

 

「ご謙遜を。 既に剣を持たせれば、貴方の右に出る者などおりますまい」

 

「阿諛追従は人をダメにする。 それを覚えておくといいだろう」

 

鬼と離れると、次の亡者達を送り込んで貰う。雑多な妖怪と化している亡者達は、救いを求めてすがってくる。大きいのも小さいのも、人間とはとても思えない姿の者達もいる。それを片っ端から斬り伏せる。

 

これで、少しでも、早く浄化され。輪廻の輪に戻る事が出来るものが出るのなら。

 

勿論、永久に阿鼻地獄から出られない輩もいるだろう。

 

地獄では体感時間を引き延ばして、そういった魂には無限の苦痛を与えるようにしている。

 

秀が知っている範囲では西王母やタヤマがそれに当たるだろうが。

 

まあそれは自業自得だ。

 

まだまだ来る死者を、斬り続ける。疲れが出て来たら一旦切りあげ、また斬り続ける。そうして秀は、ただ亡者に落ちてしまった人々を、救済していくのだ。

 

それが、償い。

 

変わってしまった前の歴史の世界で、結局斬ることしか出来なかった自分の無力さに対する、償いだった。

 

 

 

ふっと、墓を作っていたリリィは、記憶が増えたのを感じた。

 

果ての国。

 

降り注いでいた死の雨が止み、誰一人生き残る事ができなかった最果ての土地。そこで最後まで生き残ったのは、作られた命だったリリィだった。生きていると言えるのだろうか。体の彼方此方は汚染され、既に人ではなくなっている。「穢れ」をこれ以上吸収するのも厳しい。

 

何かに自身の一部が召喚されたのは分かっていた。

 

それが別の世界であろうことも。

 

召喚されたのは多分リリィの巫女としての概念そのもの。そして、それが今、戻って来た。

 

きっと役割を果たせたんだ。

 

この果ての国ほど酷い状態ではなかったのか、もっと詰んでいる世界だったのか。それは分からない。

 

だけれども、それをきっと救えたはずだ。

 

お城の側に、たくさんある騎士達の墓。

 

穢者と呼ばれる存在となっても、まだ城を守り続けていた騎士達の最後の一人まで葬って。そしてお墓を作り続けていた。

 

お墓の作り方については、王子様に教わり。

 

最初から支えてくれた黒騎士さんにも助言を受け。

 

そして、時々穢れを吸収しすぎて傷む体を労りながら。何年も掛けて、国中に墓を作って回った。

 

もうそろそろ、終わるかな。

 

いや。途中にある村がまだだ。

 

たくさんいる、リリィを支えてくれた人達。みな、穢者になってからも、それぞれ大事な者を守ろうとしていた。

 

死者になってからは、リリィを守ってくれた。

 

一緒に戦ってくれた。

 

今は、こうして側にいてくれるのを感じるだけで、温かい気持ちになれる。

 

力仕事は別に大丈夫。

 

この体は、元々それなりに頑丈に作られていた。黒騎士さんだけが側にいた頃から、見上げるような大きさの穢者とも戦えたくらいには。

 

「召喚されていた概念が戻ったようだな」

 

「うん。 きっと、勝って帰ってきたんだと思う。 とても優しい気持ちを感じる。 召喚された先で、優しい人達に出会えたんだね」

 

「そうだといいのだがな。 次の墓を作りにいくのか」

 

「野ざらしになっている屍がまだまだあるもの。 誰かがやらなければならないことで、そうしないと可哀想だから」

 

リリィは身の丈より大きいシャベルを担ぐと、歩く。散々死線をくぐったこともある。これくらいのことは余裕だ。

 

ずっと移動に利用していた穢者と化してしまった馬は、もう既に浄化されて消えてしまった。

 

要所では再出現させ乗って移動するのだが。

 

流石にずっと具現化させていると、リリィも力の限界が来てしまう。どれだけ丈夫でも限度があるのだ。

 

雨の中、ソファに座って横になると、それで随分回復したり。

 

強力な穢者に叩きのめされて何とか逃げ帰って、横になっているとすぐに回復したり。

 

そういう回復力には、リリィは自信はある。

 

でも残念ながら、耐久力には上限がある。体力もしかり。

 

色々な人の力を借りられるとしても。

 

その力は有限なのだ。

 

移動しながら歩く。誰かに話を聞いて貰う事は多いけれど。愚痴を言いたいときはゲルロットお爺さん。

 

他愛ない話をしたいときは、お父さんのように思っている黒騎士さんと話す事が多い。

 

「そろそろ、墓造りと弔いの旅も終わるだろうな。 その後はどうするつもりだ」

 

「どうしたの? まだ墓を作る事に集中したいけれど」

 

「凝り性だからなリリィは。 穢者がまだいるのに城の尖塔の先まで調べて回ったりとかして、ひやひやさせられたぞ」

 

「うん。 でもあれは、何処かに誰か生きていないか。 誰かの生きた証でも残っていないかって、心配だったからだと思う」

 

心の中が温かい。

 

周りに支えてくれる人達がいるからだ。

 

たとえ生きていないとしても、リリィには大事な人達。

 

それに。

 

この戻って来た自分も、成し遂げられた実感が湧いてきている。きっと凄い冒険もして来たのだろう。

 

ふっと、雨が止んだ空を見上げる。今も雨は降るけれど、死の雨じゃない。少しずつ、国の端の辺りには、死の雨が止んだことを知って人々が戻り始めているようだ。まだ穢者はいるから、それらは倒して回らなければならない。悲しい事だが、仕方が無い事だ。

 

「さっきの話ね」

 

「うん?」

 

「煙の国ってところに行ってみようと思う」

 

「隣国の一つだな。 魔術が進歩しているし、以前見つけた資料には、其処から出向してきている魔術師の話もあったな」

 

そう。

 

そして、その国は、今も死の雨が降り注いでいるし。酷い状態のままだと言う事だ。この果ての国ほどではないにしても。

 

だから、何かできることがあるのなら、やっておきたい。

 

もう浄化は出来なくても。戦う力は、あるのだから。

 

「髪の毛とか肌とかね、少しずつ治り始めているの。 きっといつかは、少なくともフードを被らなくても、歩けるようになると思う」

 

「そうだな」

 

リリィは行く。

 

一生を墓守として過ごす事になるかも知れない。

 

だがそれを悲しんだり儚んだりしているつもりはないし、それで納得している。

 

リリィは皆の事が好きだ。

 

そして、この生き方に、今では誇りを持っていた。








※マーメイドの戦いについて

真4Fの悪名高い皆殺しルートなど、どう考えてもその後世界が救われそうもない世界に片っ端から介入して、ハッピーエンドになるようにしています。これは真VVナホビノ君の願いであるからです。



※秀の戦いについて

地獄で亡者を斬り怨念を断ち浄化するのが自分の仕事だと秀は考えています。

原作でも数十年年を取らずに過ごしているので、まあ普通の人とは根っこから考え方も違うのですが。それはそれとして、自分が相棒だった秀吉を初めとして、多くの者を斬った、斬ることでしか救えなかった人生に対しての贖罪でもあるわけですね。

ちなみに映姫様が来たのは、他の閻魔が忙しすぎたからです。



※リリィの戦いについて

これはそのまま、続編Ender Magnolia: Bloom in the Mistに続く流れです。

リリィさんは浄化こそ出来なくなりましたが、それでも出来る事はたくさんある。そのために、まだ歩むのです。

実際、無茶苦茶強いですからね……





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