もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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時は流れ

復興は本格的に進み

そして人が、地球を離れるときが近付いて来ました。







3、未来への柱

僕は声を掛けられたので、飛行機に乗ってそれを見に行く。復興の結果飛行機「すらも」作れるようになった。

 

そういう声があるが、空を移動する時はティアマトに乗っていたので。別に空を行くのに驚きはない。

 

僕も随分年を取った。

 

全てを片付けてから、もう四十年以上。

 

ヨナタンは王様として、東のミカド国の身分制度を徐々になくしていき。既にラグジュアリーズは数を殆ど残していない。

 

悪しき身分制度が終わろうとしているのだ。

 

まだ王政は続いているが、それも数世代内には終わる事が決まっているようである。

 

ワルターは板東全域で活動していて、悪魔も悪人も許さない。

 

イザボーは様々な文化を復興して、東京から東のミカド国に持ち込み。いまではベルサイユのなんとかいう作品は、一般教養となっている。それ以外の漫画も、今は誰でも手に入れる事ができるようになり。文化は誰もが得られるようになっていた。

 

理想的な状態。

 

勿論人が増える過程で問題も起きたが、それらは殿が先手先手を打っていて、全て解決してくれた。

 

もう少し、殿はいてくれるらしい。

 

ずっと殿がいて、頼りっきりになってもまずい。

 

それに、行動範囲が拡がれば拡がるほど、もう人間がこの星でやりたい放題をしてはいけないのだと思い知らされる。

 

今も飛行機で飛んでいて、荒れ果てた土地が上から見えている。

 

昔はこの世界は青い星なんて言われていたらしいが。

 

明確に茶色い星だ。

 

星というのも、何度か高高度まで飛んでみて理解できた。

 

確かにこの世界は丸く。

 

星なのだと分かった。

 

重力と言われてもぴんと来なかったが。それも高高度に出ると体で分かった。

 

やっぱりどれだけの年になっても、自分でやってみることだ。

 

ただ流石に、僕ももう衰えた。

 

まだ若いうちに、四文字の神を座から追い落とせたのは良かったのだと思う。今では、体にガタが来ているのが明確に分かるのだから。

 

飛行機で飛んでいると、それが見えてきた。

 

無数の悪魔やドローンが群がり、建設中のそれ。

 

軌道エレベーターだ。

 

飛行機が降りる。

 

辺りには都市も何もない。

 

ただ、巨大なリソースが投じられ。ドローンと悪魔が人力の不足を補い。これだけ年月が過ぎてもまったく衰える様子がないドクターヘルが、指揮を取って作り続けている。

 

僕が出向く。

 

周囲には、僕の孫達。

 

血はつながっていない。

 

彼方此方で孤児を引き取ったのだ。やっぱり自分で子供を産む気にはなれなかった。だけれども、子供をどうしても育てる人間が足りないと言われたのもある。

 

一人くらい。僕の武術を受け継げるものが出るかも知れないと、子供は十人ほど育てた。

 

残念ながら、たくさんとった弟子にも、子供として育てた者達にも、僕を超える存在は出なかったけれども。

 

それでも、相応に悪魔と戦えるくらいには仕込んだし。

 

精神修養の重要性は体で理解させた。

 

今では、一線級で働いている子供も多い。孫達は、まだまだだけれども。

 

僕が手を上げて呼びかけると、ドクターヘルがおおと喜ぶ。相変わらず肌の色が人間のものではない。

 

「カカカ、久しぶりだのう。 すっかりババアになりおってと言いたい所だが、三十代くらいに見えるぞ」

 

「ご謙遜。 それはそうと、どうですかこれ」

 

「うむ、なんとかなりそうだ。 後二十年ほどで完成する」

 

「二十年」

 

ちょっとギリギリかも知れないな。

 

ドクターヘルが科学技術を復興し、弟子達を育成し終えて。それで、殿がこっちに移って欲しいと言ったのだ。

 

事実、東京の科学技術はドクターヘルが復興。

 

十年もした頃には、霊夢ももう役割は終わったと言って、此方には来なくなった。逆にたまに幻想郷に案内して貰って、霊夢に会いに行く。年に一度くらい。

 

既に新しい博麗の巫女が活躍しているが。霊夢はまだまだ若いままだ。時間の流れが幻想郷は違うというのも事実であるらしかった。

 

いずれにしても、後二十年は僕も生きられるか分からない。

 

ワルターは戦士としては引退して、後方からの指揮に移っている。イザボーはまだ精力的に活動しているが。流石に戦士としては無理だと言っていた。

 

ヨナタンは早めに王位を譲るらしい。

 

自分の子供ではなく、育成していた中からもっとも優れた成果を出した者に。

 

元々王家の権力を限定的なものにし、王政を終わりに向けていたヨナタンである。自分の血統……それも自分から見て可愛い子にどうしても残したいという、色々な王がやってしまった失策を、ヨナタンはおかさず済みそうだ。

 

次の王は既に賢王として知られているが、殿が厳しく仕込んでいる。

 

まだまだ予断は許さないと殿は言っていて。

 

名君であってもいずれ暴君になりかねないのかも知れなかった。

 

ただ、既に身分制度は廃止され。

 

東京から文化が流入し。

 

東京と行き来して、様々な考え方がある事を、誰もが知り始めている。この状態で、時代を逆行させる意味がない。

 

それに仮にそんな事が起きたら、人類に次は無い。

 

だから、仮に僕達がみんな死んだ後に新王がおかしくなったとしても。

 

対応できるように、手は殿が打っているようだったが。

 

「それにしても、話には聞いていたけれど、すごい高さですね」

 

「いやいや、まだまだ。 衛星軌道上はデブリだらけであるから、それらも排除しなければならないしなあ」

 

「最終的には星の海に出られるということですね」

 

「そうなる。 ただし、問題はその後じゃのう」

 

人間は。

 

座についたリリィによって、努力が報われ、客観性が担保される世界に生きるようになった。

 

エゴばかり振り回す輩は自然と排斥されるようになり。

 

どれだけの努力でも、相応に報われるのが可視化された結果、世界は明らかに居心地が良くなっている。

 

それでも、座の理想は歪む。

 

座から降りた後の四文字の神の様子は、今でも覚えている。

 

元々は、愚かしい人間のあり方を憂いて、それで苛烈な性格へと自らを律したのだ。だがそれでさえ腐敗した。

 

どれだけ気高かろうが。

 

どれだけ正しかろうが。

 

人間は自分のエゴを何処かで優先しようとする生き物だ。

 

正しい事があったとしても、自分のエゴを優先する輩はどうしても出てくる。だから古くには、絶対善と絶対悪。それが高じて、全肯定と全否定の思想が台頭するに至った訳だ。それであんな存在が座についた。

 

人間の観測は欲に裏打ちされ。

 

だからこそ、あのような事になった。

 

それを繰り返さないようにするのだとしたら。

 

ドクターヘルが言っていた、観測論に基づく座のコントロールが必須になるのかも知れないが。

 

いずれにしても、簡単な事ではないだろう。

 

「人間が進歩する可能性は、ドクターヘルから見てありますか?」

 

「厳しいだろうな。 そもそも生物は、たかが一万年程度で新種が出る存在ではない。 最低でも数十万年という時間が必要になるし、人間なんて子供を産めるようになるまで十五年以上かかる生物となればなおさらだ。 仮に今のまま人間が宇宙に出たら、宇宙を舞台にまた周囲に迷惑をかけ続けることになろうな」

 

「……」

 

ドクターヘル自身が、エゴの怪物と言える存在。

 

それは僕も、ずっと見てきて分かっている。

 

この人は、今は好機では無いから動いていないだけ。いずれ世界を自分のものにするため、動き始めるかも知れない。

 

その時、誰かが止められるだろうか。

 

ドクターヘルが咳をする。

 

舌打ちしていた。

 

「不老不死のつもりであったが、わしにも限界があるのやも知れんな。 バードス島の地下で見つけたあの薬も、多少寿命を延ばすだけのものだったのやもしれん。 いずれにしても、この軌道エレベーターは完成させる。 悔しい事があるとすれば、天使共に破壊され尽くしたあの光子力研究所だ。 彼処で見つかったジャパニウムがあればなあ。 あれはまだ殆どどう使えば良いかも分かっていなかった。 上手く行けば天使などなぎ払える兵器や、宇宙進出に使える動力になっていたかもしれんのだが」

 

「今は、手持ちの札でやれることをやるしかない」

 

「そうだ。 分かってきておるな。 ……まあいい。 軌道エレベーターを作るまではわしの体ももつだろう」

 

おかしな話だな。

 

もしもこのまま仮に軌道エレベーターが出来て。

 

ドクターヘルがそれと同時になくなったら。

 

この危険な野心家は、後の時代に科学を復興した偉人の中の偉人として知られるようになるだろう。

 

実際に歴史でも、そういった存在は他にもいたのかもしれない。

 

僕もまた、そういった歴史の不思議を今見ているのかも知れなかった。

 

いずれにしても、手伝っていく。

 

ティアマトを呼び出し、巨大な荷物を輸送する。ドクターヘルは、それを随分と喜んでくれた。

 

僕も全盛期ほどの力はないが、それでもティアマトを呼び出して使役するくらいのことは難しくは無い。

 

作業を淡々とやっていく。

 

ただ、軌道エレベーターは規模が規模だ。

 

僕とティアマトが多少働いたくらいで、ささっと出来るようなものでもなかった。

 

それでも、普通だったら半月かかる物資の輸送を、一時間で終わらせたことには意味があると思いたい。

 

此処ではかなりの数の悪魔使いが働いているが。

 

それでも、ティアマトほどの悪魔は、そうそうはいないのだ。

 

「助かったぞ。 これでだいぶ作業を前倒しに出来る。 高度が上がり始めたら、宇宙放射線対策と、大戦前にばらまかれていたデブリの排除。 後は、衛星軌道上なら現実的な太陽光発電システムの構築だな。 あれは地上に敷いても無意味な代物だったが、衛星軌道上であれば……」

 

分からない事をドクターヘルが言っているので、僕は無言で手伝う。

 

そのまま日が暮れるまで手伝ってから、後は帰る。流石にティアマトとずっと働いた事もあって疲れた。

 

もう年老いている体には、流石に厳しいか。

 

帰りの飛行機で、ティアマトと話す。

 

「フリンさん。 ドクターヘルの体ですが、やはり無理が出ているようです。 二十年はもつか分からないでしょう」

 

「元々不老不死なんてものが成立する事がおかしいからね」

 

「本来の人間の寿命はせいぜい四十年。 それを大幅に超えた状態で不老不死になったのです。 如何に神の薬を飲んだとしても、限界があったのだと思います」

 

「そっか……」

 

良かった事だとはいえない。

 

実際問題、ドクターヘルは下手をすると人間の敵になっていた存在だったのだ。

 

もしもバードス島とやらの地下に、とんでもない代物が眠っていたら。

 

破壊され尽くした光子力研究所とやらで、凄まじい兵器が開発されていたとしたら。きっと、歴史は大きく変わっていたはずだ。

 

それは恐らく悪い意味で。

 

そうならなかったことは幸運だったのだろう。

 

大戦というとてつもない不幸に比べたら、ではあるのだが。

 

飛行機は大戦前は、もの凄い数が飛び交っていたそうだが。今はほんの少しだけ。東のミカド国近くに作られた飛行場から、この「赤道」近くの軌道エレベーター建設予定地以外は、各地で人間を捜索するチームが活用しているだけだ。

 

人間を捜索するチームはリーダーがナナシであり、今ではナナシもそろそろ引退を考える年になっている。

 

ナナシとアサヒの子は四人いるのだが、それらのどれもが捜索チームとは違う仕事をしていて。

 

逆に、トキの六人いる子の末っ子が、次の捜索チームのリーダーになりそうだと言う事だ。

 

僕には関係がない。

 

僕も、そろそろサムライ衆の長を引退しようと思っている所だし。流石に腕も衰え始めた今。

 

頭がしっかりしているうちに引き継ぎを終わらせて、それで次の世代にバトンを渡しておきたかった。

 

飛行機が飛行場に到着。

 

降りると、サムライ衆が出迎えてきた。

 

ちなみに、やりとりは全て音声で記録していて、それらは若手のサムライ衆がレポートに起こす。

 

レポート作成システムもドクターヘルが作ってくれた。

 

今では音声記録から勝手にAIが作ってくれるので、昔みたいにヨナタンに頼らなくてもいいし。

 

不正も起こらない。

 

音声記録を人間の頭で記憶してレポートを作っていたときは、記憶の間違いからレポートに問題が生じることが多かったらしく。

 

こういう文明の利器はとても助かる。

 

歩きながら、軽く説明を聞く。

 

「問題は起きていないか」

 

「はっ。 小規模な悪魔の群れが確認されていたのですが、いずれもが大した事もなく、既に片付いております」

 

「どれ、日本の妖怪か。 一応念の為、邪神などがいないかどうか、周辺を調査しておくように」

 

「分かりました。 サムライ衆を手配します」

 

夕食を取る。

 

食堂のコックも、更に代替わりが進んで、今では新人がやっている。ただ、調理は機械が半分以上やっているが。

 

これはサムライ衆の数が増えたのが原因だ。

 

既に悪魔は神々とともに人間と一緒に活動している。契約次第ではメイドのような役割をこなす悪魔もいるし。逆に人間に指導をする悪魔もいる。関聖帝君は特に教師として引っ張りだこだ。

 

だからこそ、野獣と同じように活動する下級の悪魔もいる。

 

それらを退治するのが、今のサムライ衆の主な役割の中の一つだったりする。

 

食事を楽しんでいると、向かいに座るのは。

 

「久しぶりですわ」

 

「うん。 元気にしてた?」

 

そう、イザボーである。

 

すっかり老け込んでいる。だけれども、とても上品な老け方だ。今ではすっかりこの国を代表する文化人であり、次世代に文化を伝える存在だ。

 

「軌道エレベーターを見てきたよ。 ちょっと手伝っても来た」

 

「相変わらず活動的ですわね。 どうでした」

 

「ドクターヘルが衰え始めてる。 不老不死にも限界が来ているのかも知れないね」

 

「あの老人がもしもずっと生きたらと言うのは懸念事項でしたわね。 死んでほしいなんて事は間違っても思いませんけれど、摂理を大幅に超えた命が終わるのであれば、それは悪い事ではないのかも知れませんわ」

 

まあ、あの人を直に知っていればそういう答えも出る。

 

フジワラもツギハギも大往生した。

 

志村さんは満足そうに最後は畳の上でなくなったし。小沢さんは、心臓発作を起こして、病院で亡くなった。最後まで各地を走り回って、情報を伝達した人生だった。ニッカリさんはナナシとアサヒの子供が生まれたのを見て満足したのか。そのまま火が消えるように衰えて亡くなった。

 

年老いた人間が、そうして死ねるのはとても幸せな事だ。

 

僕も恐らくは、そう遠くないうちに迎えが来る。

 

それを今の僕は、怖いとは思わない。

 

子供達に何かを伝える事は出来なかったかもしれない。

 

だけれども、サムライ衆に技の限りは仕込んだ。

 

今後もサムライ衆は、護国の者として、この国とともにあるのだ。

 

「おう、揃ってるな!」

 

イザボーの隣に座ったのはワルターだ。

 

年老いてからもごついままだったワルターだが、結局各地で最前線で戦い続けていたこともある。

 

体中傷が増えていて。何というか老豪傑という雰囲気だ。

 

たまに僕もサムライ衆の訓練を頼む事がある。

 

とにかくやり方が荒っぽいのは今も変わっていなくて、訓練にワルターが呼ばれてくると、いつもサムライ衆が青ざめる。

 

軽くワルターとも話す。

 

何でもインド神話系の神々が、シヴァを蘇らせたいと言っているそうで。何度か直訴があったらしい。

 

人々が増えて。

 

観測されれば、いずれ蘇る。

 

そういう話はしているのだが。シヴァの妻であるパールバティ神などは、出来ればすぐにと泣きついてくるそうだ。

 

「参ったな。 特別扱いはできねえし。 だけど、旦那がずっといないってのも寂しいのは分かる」

 

「ただ、シヴァってかなり危険な性質の神だしね。 呼び出すのはどうしたものか」

 

「フリン、お前が悪魔合体で呼び出しておいたらどうだ」

 

「僕が?」

 

そうだと、ワルターは言う。

 

実はシヴァについては、呼び出せるか以前確認だけはした事がある。悪魔召喚プログラムの判定は可、だ。

 

ただし、一度呼び出し直すと、色々面倒だ。

 

今は霊夢が育成した巫女や神職が、各地で神殿を作って合祀や分祀、祀るのをやってくれているが。

 

神が少しずつ文句を言うようになって来ている。

 

神殿が小さいとか狭いとか。

 

しかしながら、今までは存在さえしなかったケースも多いのだ。

 

一神教の教会も少しはある。それらについても、戦前から信仰を捨てていない人が通っているらしい。

 

他人に強制しなければ、信仰はよし。

 

他人に迷惑を掛けないことも条件。

 

これらが、少しずつ。

 

神と、その影響を受けた人間によって崩れつつある。

 

ただし、八百万の神々という概念で、それをつなぎ止めてもいる。

 

世界には八百万の神々が存在しているというものだ。

 

それもあって、今の時点では。少なくとも、人々の間で信仰に関する争いは起きていないようだ。

 

「シヴァは危険な力を持つ神格だ。 いっそお前が従えておくのも良いのでは無いかと俺は思う」

 

「……流石にもう僕も年だよ。 僕が悪魔合体で作り出した後、シヴァが大人しくしているかどうか」

 

「僕からも頼みたい」

 

僕の横に座ったのはヨナタンだ。今では王様だが。

 

流石に腰を浮かせかけたが、フードを被っているヨナタンはしっと言う。昔のまま接して欲しいと。

 

周囲には近衛が数名いる。

 

それと、殿も食堂の外で、見張りになってくれているようだった。

 

「殿とも相談したんだ。 クリシュナの例を出すまでもなく、インド系の神格は強大。 マルドゥークを抑えている以上問題はないだろうけれど、それでもシヴァを従えている人間がいるのなら。 それを納得させる形で、神殿に祀る事ができるなら。 何もしないで、インド神話系の神々が悪さをするよりマシだと結論が出てね」

 

「はー。 わかったよもう。 ただ、それが出来るの巫女達に」

 

「それについては、頼もうと思ってる」

 

世代が変わった次の博麗の巫女。

 

霊夢程では無いが、かなりの凄腕であるらしい。

 

今でも幻想郷と物資の輸出入はしている。幻想郷ではまだ人間の数が回復しておらず、静かな土地で暮らしたいという人物を募って、幻想郷への移住の仲介をしている。それはそれとして、幻想郷で妖怪が人を食ったりしないように、サムライ衆を時々派遣してもいるが。

 

そういうわけで、博麗の巫女とは今も関係がある。ちなみに時間の流れが違う事もあって、霊夢も存命だが。

 

霊夢は二十歳を過ぎてから力が衰え始めているらしく、シヴァを神殿に祀る事は拒否されたそうだ。

 

「あれだけの天才だ。 流石に衰えもあるんだろうね。 ただ、その次の博麗の巫女も腕はなかなかだそうだよ。 後学のためにやらせて欲しいということだ」

 

「……」

 

次の世代の博麗の巫女か。

 

実は、その子については知っている。

 

東京を安全にした後、各地を調べていたのだ。そうしたら、冷凍睡眠というもので眠っている人々を見つけた。

 

大戦の前に、そういうもので眠りに入って災禍が終わるのを待つという思想だったらしいのだが。

 

冷凍睡眠というものは技術がまだ未成熟で、殆どの人は蘇生しなかった。

 

その中で、一人だけまともに蘇生した子供。

 

それが、その今の博麗の巫女だ。

 

霊夢が何かしら強い力を感じ取ったらしく、身よりもなかったこともあって幻想郷に引き取り。

 

今は次の世代の幻想郷の巫女として、博麗大結界の維持と、人間側からの幻想郷の管理に努めているらしい。

 

何度か話したが、素直で真面目な子だ。

 

霊夢が気性が荒くて酒ばっかり飲んでいたのとは対照的である。

 

「分かった。 ただし、霊夢も立ち会って欲しい。 それが条件」

 

「そういうだろうと思って、僕の方でもそういう書状は既に作ってある。 では、シヴァを悪魔合体で作るところからだね」

 

「殿の差し金かな。 まったく……まあ良いけどさ」

 

後は、軽く話した後、それぞれ別れる。皆にもう、それぞれの生活があるからだ。

 

僕はアキュラ王の広場……もう石像は土台から撤去されて影も形もない……に出ると。其処で、シヴァの合体を行う。

 

シヴァは悪魔合体で作り出すだけなら簡単だ。

 

誰にも扱えないだけで。

 

幸い、年老いた今の僕でも呼び出すことは可能である。そのまま、悪魔合体を続行。もの凄いスパークが走る。だけれども、大丈夫。

 

側で支えてくれる存在が、幾らでもいる。

 

かなり消耗したが、それでも成功した。

 

側に立っているのは、四本の腕、額の目。青い肌が特徴的な。インド神話の三大神の一角。

 

破壊と創造の神格、シヴァだった。

 

維持の神格であるヴィシュヌ、世界を創世する神格であるブラフマーと並ぶ三大神であるが。

 

実際のところはブラフマーやシヴァよりヴィシュヌの方が人気があり、そのため神話的な扱いは色々と複雑なのだとか。

 

ヒンズー教は多数の信仰を無理矢理一つにまとめた存在である。

 

故にシヴァも、多数の神格が混ざり合った結果なのだと言える。

 

「私を再生し呼び出すとは大した人間だ。 それだけ年老いてなお、この世界で最強のようだな」

 

「僕はフリン。 シヴァ、貴方をこれから神殿に奉じたい。 かまわないかな」

 

「かまわぬ。 体を失い、この新しい世界の美しい創造の様子をアティルト界から見ている事しか出来なかった。 この世界を破壊する時が遠い未来である事を祈るしかあるまいな」

 

「そうだね」

 

シヴァは言う。

 

シヴァは破壊とその後の創造を司る。ブラフマーの無からの創造を司るのとは少し違っている。

 

破壊の側面ばかり知られているが。

 

しかしそれは他の破壊の神も同じであり。

 

本質は慈悲にあるのだと。

 

まあ、分からないでもない。ただあまりにも原初の荒々しさが表に出すぎているが。事実、呼び出した今もびりびりと破壊的な力を感じているほどなのだから。

 

咳払いして、幾つか釘を刺しておく。

 

これからは、人が主体、神はあくまで祀られるもの。

 

神が世界を主体的に動かすのでは無い。

 

人が祈ったとき、僅かに力を貸してくれるだけでかまわない。人が悩んだときに、少しだけ背中を押してくれるだけでかまわない。

 

悪人を懲罰するのは悪魔の仕事。

 

祈った人間に、どんな加護を授けるか。それだけを考えて欲しいと。

 

シヴァは少しだけ考えた後、分かったと応えた。

 

本当に分かってはいるようだ。

 

僕も嘘をついているかはすぐに分かる。だから、それでいい。

 

シヴァをしまう。

 

多分これが、僕にとって最後の悪魔合体になると思う。でも、それで全くかまわない。

 

僕はやるべきことはやった。

 

出来れば軌道エレベーターの完成を見届けたいけれど。

 

それは出来るかどうか。

 

伸びをすると、後は自室に戻る。

 

最近は今までルーチンでやっていた訓練が出来なくなって来ている。流石に体が衰え始めているのだ。

 

こればかりは仕方がない。

 

不老の薬を飲んだドクターヘルですら、限界が来始めているのである。僕が限界が来ない筈がない。

 

眠る。

 

夢を見た。

 

全ての戦いが終わって、サムライ衆の長に就任して。

 

それで、後は、引き継ぎも終わって。

 

彼方此方で仕事があって。

 

休む暇もなかった。

 

結婚に興味は最初からなかったし、子供を産むつもりもなかった。だけれども、各地を調べていて孤児になっているような子はよく見かけた。親を探して、それで一日仕事を潰してしまったこともあった。

 

殆どはフジワラに任せたり、或いは子供を育てることを専門にしている悪魔。鬼子母神だったか。そういった存在に任せたり、一部は幻想郷に送ったっけ。

 

でも、それでもどうにもならない子を、僕が引き取った。

 

擦れている子が多くて、昔のナナシはこんなだったんだろうなと思いながら、徹底的に躾けた。

 

物心がついた頃には、それでしっかりした子になってはいた。

 

お父さんが欲しい。

 

そういう子もいたけれど、それは仕方がない。いずれそういった子も、独り立ちしていった。

 

独り立ちしていく頃には。

 

東のミカド国の身分制度がなくなり。

 

安定し。

 

東京から出た人々が、集落を幾つも作り。

 

そして、知っている人達が、一人、また一人と亡くなっていった。

 

目が覚める。

 

まだ、あの世に行くのは早いか。

 

あの世に行くとしても、地獄に行くわけでもないだろう。そうなると、秀には会えないだろうな。

 

あの人とは本気で一度武芸をぶつけ合ってみたかった。

 

転生とかまたするのだろうか。

 

それもまたよし。

 

僕もまだまだ役に立てるのなら、そうしたい。役に立てる場所に行きたい。

 

神々に祀り上げられるかも知れないが。

 

そんな事をされるくらいなら、人としてこの世界をよくしていきたい。そういう場所に、僕はいたかった。

 

起きだすと、軽く鍛練をする。

 

昔ほどの鍛練は出来ないが、それでも相応に出来る。

 

僕がこれ以上伸びないと感じたのは、30を少し過ぎた頃だったか。その頃には、身体能力の上昇も止まっていた。

 

ただ、技を練り上げることは出来た。

 

だから、頼まれて技を体系化した。今では多数のサムライ達が、僕がまとめ上げた技を使っている。

 

鍛練を終えると、サムライ衆の詰め所に出る。

 

副団長になっているガストンとナバールが、朝の挨拶をしてくる。

 

ナバールはもうかなりの年だが。それは僕も同じ。

 

ガストンも今ではすっかり老人だ。

 

次の世代をどんどん育てて行かないとな。そう思う。

 

「ガストン、今日の任務は」

 

「は。 入植先でのトラブルがあり、それを調停に向かいます。 これには三個分隊が当たります。 東京でのトラブルの調停に二個分隊。 後の分隊は、各地をパトロールします。 警備隊から派遣された人外ハンターとの連携任務になりますが、危険な悪魔が出る報告はありませんので、危険度はあまり高くは無いかと」

 

「油断はするな。 最近もまた、都市伝説が新たに作られ、それから悪魔が生じている。 どんな不可解な能力を持っていてもおかしくない。 達人だろうと油断すれば一瞬で死ぬ」

 

「分かっております。 皆、全力で任務に当たる覚悟です!」

 

頷く。

 

では、それぞれ任務に出るようにと、僕は指示を出す。

 

ナバールは今ではすっかり参謀で、昔のヨナタンみたいに作戦案をまとめたりもしてくれる。

 

昔の事を部下達に聞かれると。

 

苦笑いしながら、如何に自分がどうしようもない奴だったかをよく話しているが。

 

これは自身への戒めもあるのだろう。

 

ちなみにナバールの家は、ラグジュアリーズの撤廃に反対していたが。誰もその主張には賛同せず。ナバールとガストンの両親は、資産も失って落ちぶれた挙げ句、寂しく死んだそうだ。

 

強硬的なラグジュアリーズほど、そんな哀れな末路を辿った。

 

王政も、予定より早く終わりに出来るかもしれないと言う。

 

だとすれば良い事だと、東京の事を思い、僕はふっと笑っていた。

 

さて、行くか。

 

腰を上げる。

 

まだまだ、若い子らに何もかも任せる訳にはいかない。

 

蜻蛉切りは少し重くなったか。だが、まだ柄を短くしなくても良いだろう。

 

本多平八郎忠勝は、晩年蜻蛉切りを短くしたという話だが。僕はまだ。そこまで衰えてはいないということだ。

 

まだまだ現役よ。

 

だけれども、そろそろ引退して、後事を若い世代に託さなければならない。

 

殿がしっかり回る仕組みを作ってくれている。

 

それに内紛どころの状態ではないから、後数百年は大丈夫だろうとも、殿も言ってくれていた。

 

その間に宇宙に進出して。

 

人間が新しい段階に至れたら。きっと更に明るい未来がある。

 

以前、弥勒菩薩に見せられたような悲しい平行世界の光景ではなく。

 

希望のある未来が。来ようとしていた。








※ちょっとした話

この作品世界ではマジンガーZはそもそも構想さえされず(その前に光子力研究所が滅びた)、故に例のマジンガーに世界が観測されることすらありませんでした。

ドクターヘルが生きた平行世界の中でも、此処は極めて特異な平行世界だった。

そういうことです。

そして幸いにもというべきか不幸にもというべきか。この世界のドクターヘルは機械獣ともマジンガーZとも関わらず、ついにきれた不老不死の終わりとともに、「偉人」として終わりを迎えたのです。




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