その時、世界には月と太陽があった。
影と光だが。
どちらも人間の敵ではなかった。ともにある存在だった。
狂気の象徴とされた月も、豊穣の象徴とされた太陽も。
いずれもが、人とともにある存在に変わったのだ。
悪魔王とも言われるようになった明けの明星のところに、蠅の王が来る。髑髏を重ねたような玉座についている明けの明星は、今や悪人を抑止する存在だ。
悪事を働いていると、明けの明星が現れて、世にも恐ろしい死を与える。
そう人間達には認識され、観測されている。
面白いので、その立場を今ではすっかり気に入っていた。
元々一神教の悪魔は、地獄で人間を罰する天使だったのだ。そういう点では、仏教の鬼が似ていると言える。
それでいながら、いつの間にか都合が悪い悪をことごとく押しつけられた。
そういう意味では、明けの明星は元に戻れたのだと言える。
そして明けの明星は、様々な不幸に見舞われて、神に救われなかった人間の姿を。本人の許可を得て借りるようにしていた。
神が救わなかった人間を救い。
その代わりに、姿だけを借りて行動する。
それは全知全能を自称しながら、世界を不公正だらけにしていた神への意趣返しで始めた事だった。
だが、今ではもうそれも必要ない。
ただ今は、敬意をもっとも払っている人間。
一筋の槍となって、全てを撃ち抜いた英雄。フリンの若い頃の姿を採るようにしていた。ちなみに許可は取っている。
死に際に会いに行ったのだが。
フリンは最後に大笑いして、良いよと言っていた。
ちょこんと髑髏だらけの玉座に腰掛けている前に、蠅の王。此方も病魔を喰らい、悪人を罰する存在として再認識された者が、跪いていた。
「閣下。 人間の宇宙船がついに火星に到達した模様です。 テラフォーミングは数百年は掛かるようですが、それでもコロニーは即座に建設を開始したようですな」
「大戦前には身の程知らず達がすぐにでも火星に植民を、などと言い出していたようだが。 はっきりいって充分であろう。 それでどうだ、様子は」
「上手く行っているようですな。 第一陣の五十名ほどは、現地でのコロニーで過不足なくやれているようです。 綿密な計画と、人工知能を利用した準備によって、大いに上手く行っているようです」
「ふっ。 恐らくいわゆる技術的転換点は間もなくだ」
一部の神々と悪魔達は怖れている。
このままでは、我等は必要なくなり、消えるのでは無いかと。
だが、明けの明星は知っている。
まだまだお守りという形で、人々は心のよりどころを身に付けている。
神殿にも、何か頼むときに足を運ぶ者も少なくない。
支配の道具とされなくなってから、信仰が弱まったのでは無いかと言う話も耳にしていたが。
新しい信仰は幾らでも湧いてくる。
信仰なんて、いつでもどこでも湧くものだ。
最近では都市伝説から生じた者達が、古代からいる悪魔に混じって、明けの明星に仕えている。
そういうものなのである。
「それにしても、平行世界がとても安定しているようですな。 既に滅びてしまったものを除くと、あらかたこの世界と同じように破滅から立ち直り、宇宙への進出を果たし始めているようです」
「例の人魚殿が頑張ったのだろう。 あの娘はようやく愛する者のところへ戻れるのか、それとも戻ったのか」
「麗しい話ですな」
蠅の王は、元々はバアルを悪魔として解釈したものだ。
そういう事もあって、根っからの邪悪でもなんでもない。
そもそも一神教ですら、最も重要とされる聖人であるソロモンが悪魔を使役していたという話があるように。
古くは悪魔は邪悪の権化などではなかったのである。
「地獄についてはどうだ」
「既に落ち着いているようです。 ただ阿鼻地獄で永遠の責め苦を受けているものばかりはどうにもならないでしょうが」
「地獄での裁判は公正だ。 別に此方から何かをしなくても良かろう」
「そうですな。 四文字の神が唯一絶対を自称しなくなってから久しい。 我等もそろそろ第一勢力ではなくなるのかも知れません」
少しだけ寂しそうな蠅の王だったが。
明けの明星は、それでも全くかまわないと考えていた。
さて、少し人間の世界を見に行くか。
ルキフグスを伴う事にする。
人間の世界に一瞬で出ると、昔の東京とみまごうばかりの発展が取り戻されている。それに、悪魔を従えたり、ともにある人々が多い。もはや悪魔召喚プログラムは当たり前に使いこなされているのだ。
勿論それで問題も起きるが、彼方此方に監視用の神々と悪魔が配置されている。
悪魔が身近にいるから、神殿も多い。
ただ、通貨は既にマッカでは無く日本円が復活して使われている。マッカはこれは別として使われ。
悪魔召喚や合体でいかされているようだ。
昔、自分がとっていた姿に似ている女の子が、話ながら通り過ぎていく。
「聞いた? 火星でコロニーの建設が始まったって」
「金星の軌道上はもう上手く行っているらしいね。 これから木星とかにもコロニーを作るんでしょ。 自動でアステロイドベルトでの採掘は既に始まっているらしいし、太陽系を人類が出るのも近いのかな」
「私は宇宙に出てもフロストくんに助けて貰いたいな」
「あんたぞっこんだね。 私はマカミ様一択かなー」
ふっと、笑いが漏れた。
雑多な人々と悪魔と神々が共存している。
混沌の理ではないが、此処には良い意味での混沌がある。
保存されていた遺伝子データから復旧された人間もいるし。人工子宮で生まれてくる人間も増えており。少なくとも人間が生物的な劣化から絶滅することは無さそうだ。
あの徳川家康公が徹底的に仕上げた第二の江戸は。当面は平和で穏やかな場所になるだろうし。
其処を中心とした人間の新しい世界も、しばらくは平和だろう。
その後は、明けの明星にも分からない。
人間が新しいステージに行ける可能性は高いとは考えているし、神々も明けの明星もそれを望んでいる。
既に人間は、自分達は絶対の正義であり、宇宙全てが自分達のものであるという妄想からは解き放たれている。
座の新しい法則は上手く稼働しているし。
それで誰かが不都合を味わっているようなこともない。
姿を借りさせて貰ったフリンは、きっとあの世で心穏やかに。仲間達と一緒に、この世界を見下ろしているだろう。
あくまで概念的な話だ。とっくに転生して、この世界のためにと働いているかも知れないが。
「行くぞ」
ルキフグスに声を掛けて、明けの明星はこの場を去る。
悪魔の中には、暴れられなくてつまらないとぼやくものもいるが。それでいい。
貶められることもなく、ただそのままある事が認められている世界なのだ。
それでいいではないか。
新しいステージに人間がいけるのか。また堕落して破滅の坂を転がり落ちるのかまでは明けの明星にも分からない。
ただ今は。
悪魔王としても、この穏やかな光景を、見守っていきたいと思っていた。
将門公と家康公。
二人の東京守護者。
それに英雄達によって勝ち取られた、この穏やかな光景を。
(真女神転生4二次創作、もう一人の東京守護者、完)
はいというわけで終わりです。楽しんでいただけたでしょうか。
真女神転生4の過酷な世界を、真女神転生4Fも一緒に救ってしまおうというこの企画。しかし過酷すぎる世界を救うには、原作主人公であるフリンたちだけでは無理です。ただでさえ精神がすり切れるまで戦っているのだから。
というわけで助っ人を呼んで世界を救って貰うこの話となりました。
今回も有名な人からちょっとマイナーな人まで助っ人を集めましたが、それでもいずれも劣らぬ実力者を集めたつもりです。
助っ人達と合流することで、可能性を切り開けた人。そしてその先にある可能性。
この世界の人類の未来はきっと明るいことかと思います。
最後に此処まで読んでいただきありがとうございました。またよろしくお願いいたします。