最後のバスに乗って、志村は撤収する。天王洲のシェルターは、救助者が減って中の人間の密度が減るに従って豪快に洗浄を開始。
後は時間を見て地獄老人が来て、それで内部を復旧するそうだ。
今でこそ駄目になってしまっているが、電力などを復旧させれば、またシェルターとして復興できる。
東京がいつまでこんな調子か分からないのだ。
少しでも「人間の勢力圏」として活用出来る場所は、増やしておくべきである。そのフジワラの判断は正しいと思う。
シェルターの入口を厳重に封印。
残念ながら助けられなかった19人の遺体は、その場で火葬し。敬礼して見送った。
救助が遅れていたら、こんな程度では済まなかっただろう。しかし逆に言えば、19人も助けられなかったのだ。
今の東京で19人は、決して少なくない。
帰り道、ナナシがぼやく。
「臭いし汚いし、散々だったぜ。 これで少しは状態が良くなるといいんだけどな」
「ナナシ、そんなこと……」
「まあ俺たちも錦糸町にいたときは似たようなもんだったか」
「はあ……」
良くも悪くも、ナナシは東京が終わってから産まれた子だ。
だからこういう考えなのは仕方がない。
志村はしばらく休憩に徹する。国会議事堂シェルターはまだ戦闘が続いているかも知れない。
今のうちに休んでおかなければならないだろう。
バスが川を上がる。
そうすると、巨大な、蛇の下半身と人間の女性の上半身を持つ悪魔が、バスを覗き込んできた。
龍神ガンガーだ。
凄まじい力を感じる。
これは確かに、悪魔が水中で仕掛けてこない訳だ。
「これで護衛は終わりかえ」
「はい。 感謝いたします」
「ええぞよええぞよ。 分かっておるな。 我に感謝をさせよ。 我に助けられた事を伝え、信仰させよ」
「そうさせます」
敬礼すると、ガンガーは頷き、川の中に戻っていった。度肝を抜かれている様子のナナシとアサヒに咳払い。
偉そうなことを言っていても、ナナシもまだ駆け出しだ。あんな大物にはとても勝てない。
国会議事堂前は、凄まじい戦闘の跡が残っていて。息を呑むほどだった。
最後の人員を収容。
フジワラが待っていた。流石にちょっと服がぼろぼろで。伊達男が台無しである。
霊夢の姿がない。秀は腕組みして、シェルター入り口で背中を預けていたが。
「まさか」
「いや、そんなことはないよ。 雑魚ばかりの相手になってから、一度さがって貰った。 大物を相手に、豊富な悪魔知識を元に大立ち回りをずっとしていたからね。 今頃ぐっすりだろう」
「先にお休みかよ」
「彼女のおかげで、大物堕天使六体、魔王二体、邪神三体が倒された。 いずれも阿修羅会の強力な手駒だった悪魔達だ。 これだけで、僕達はとても有利になったんだよ」
文句を言うナナシに、諭すようにフジワラが言う。
事実今挙げられた阿修羅会の手駒達は、手練れの人外ハンターが束になって、多数の死者を出すことを覚悟しなければならない相手だったのだ。それを連戦で倒しきってくれた。
阿修羅会が自棄になって霊的国防兵器を繰り出して来る可能性は低い。あれは要所の守りについていることが分かっている。
阿修羅会の機動戦力はかなり削り取られたとみて良いだろう。
これからが。
反撃の時だ。
ただ、気になる事もある。
シェルターの中で、フジワラと話す。
「今回の件、意図的に情報がリークされたように思います」
「だろうね。 襲撃があまりにも大規模すぎる。 此方の戦力が彼方の想定以上だった事もあるだろうし、それで撃退は出来たが……」
「阿修羅会は手段を選ばない連中でしたが、800人もの人間を使ってこのような」
「ああ、許されない事だ」
阿修羅会のボスであるタヤマは、自分なりのやり方で東京を守っているなどとうそぶいているそうだが。
それが大嘘なのが今回の件でもよく分かる。
連中にとって大事なのは東京でも、そこで暮らす人でもない。
自分達だけだ。
それに阿修羅会には、大物の悪魔が後ろ盾になっているという噂もある。あの堕天使の長、大魔王とも言われるルシファーの可能性すらあると囁かれているが。それについては志村は懐疑的だ。
ルシファーの目撃例は今までに何度か人外ハンターの間で存在しているのだが。いずれもが悪魔に無差別殺戮をたしなめさせるものだったそうだ。
人間が滅びたら、我々はいずれも姿すらも失うぞ。
そうたしなめられて、街を攻め滅ぼす勢いだった悪魔が引いていった。そういう場面が今までに何度かあったらしい。
ただし、人間に友好的と言う訳でもないだろう。
堕天使の中でも、アドラメレクみたいなのが野放しになっていたのだから。
「人材の育成を急ぐべきです。 人外ハンター協会の制御を離れ、在野になっている人材を、出来るだけ取り込む努力を開始しましょう」
「そうだな。 それと装備の充実もだ。 各地で領域を作っている悪魔の退治と、軍用物資の回収。 それに、各地で縄張りを作っている者の内、悪辣な悪魔の撃破を急ごう。 それで皆我々の味方になる。 全員が、とまではいかないだろうがな」
衣食足りて礼節を知る、だ。
そうフジワラに言われて、志村は頷く。
10万いるかいないかの東京の民だ。これ以上無法で死なせる訳にはいかない。
阿修羅会の影響を削ぎつつ、有害な悪魔はどんどん駆逐していかなければならないだろう。
出来れば今悲惨な事になっている池袋の攻略を急ぎたいところだが、あそこにいる西王母は生半可な戦力で対応できる相手ではない。
今まで動きを見せないガイア教団の事も気になる。
彼方は彼方で相容れない悪魔と独自に交戦しているようだが。文字通り身を削るようにして、殉教するかのように戦闘要員を使い捨てているとも聞く。
それではいずれ、東京の民が尽きてしまうだろう。
少しずつ希望が出て来ている。
それを絶やしてはいけない。
志村は、自分が戦えなくなる前にはと。そうナナシやアサヒの事を思う。
二人とも有望な若者だ。
あの若者達を、荒みきった考えから開放し。
未来を託せるように、少しでも残った時間を使わなければならなかった。
(続)
四章は此処までです。どうしようもない現実に押し潰されていた人外ハンター達が、少しずつ希望を取り戻しつつあります。
若き力を育てられる環境。
明日への命をつなげる場所。
今まで闇しかなかった彼等に、光が差し始めたのです。モチベーションが上がるのも当然でしょう。
そして天王洲で奴が復活するフラグもこれにて砕け散りました。ま、あんなものは粉みじんに砕けた方がいいのです。
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