もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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少しでも助けられる人を助けて回る凡人代表志村さん。

志村さんと一緒に活動する事で、ナナシくんは原作より早く実戦を経験し、確実に成長して行っています。

勿論阿修羅会も黙っておらず、色々と妨害を仕掛けて来るわけですが……






3、地獄砂漠

志村が装甲バスをデュラハンに引かせて戻る。また孤立集落にいた人達を回収してきたのだ。

 

道中で襲われたが、全て撃退してきている。今回は秀が護衛についてくれていたが、いなくても大丈夫だったかも知れない。

 

とにかく、今はできることからやっていくしかない。

 

今の人外ハンターの戦力では、霊夢等超絶の使い手が加わってくれたとしても、手数が足りない。

 

池袋などの悲惨な状態になっている土地は存在していて、それを救助しなければならないことは分かっているが。

 

そもそも力が全てという理屈で動くようになってしまっているこの東京では、現在の戦力では強大な手持ちを多数抱えている阿修羅会の動向がどうしても重要になってくる。連中に隙を見せたら、また此処を奪還される。

 

池袋で非道の限りを尽くしている道教神格である西王母は、凄まじい力を持っていることが分かっており。

 

もし倒すなら、霊夢と秀、あの規格外マーメイドが全員出ないと厳しいだろう。

 

このシェルターにも時々まだ大物が仕掛けて来る状態だ。

 

人外ハンターを今フジワラが必死にまとめてくれているが。それでも手が足りていないのである。

 

バスから栄養失調の者達を運び出す。意識レベルが低く、完全に医師としての役割と使命を取り戻した者達が、急いで運び出している。

 

志村は人外ハンター達とともに警護を続行。

 

こうしている間にも、上では隙あらばという状況で、鳥の悪魔が旋回しているのだ。志村も気が抜けない。

 

側にいるナナシは、だいぶ周囲を見ることが出来るようになって来ている。

 

目つきの悪さは相変わらずだが、シェルターでの支援で生活レベルが抜群に向上したことを理解しているし。文明が戻る事、文明を支えるには多数の人間の手が必要であること、スペシャリストは必ずしも強い訳ではない事、更に言えば最初からいる訳でもない事。それらをどうにか理解出来たらしい。

 

最初は文句ばかり言っていたが、今は周囲を警戒する目に油断もなく、仕事へのモチベーションも高い。

 

アサヒもそれは同じで。

 

ナナシをたしなめていたばかりのナナシだったが、最近では積極的に戦闘訓練を受けており。

 

回復魔術による支援ばかりではなく、銃撃の練習をしていて。銃撃だけならナナシより上手いかもしれない。

 

要救助者をシェルターに運び入れ終わる。

 

そうすると、入れ替わりに地獄老人が出て来た。

 

そしてスマホを、何かの悪役みたいに爪が鋭く伸びている手で操作して、それで一本ダタラとドワーフを呼び出す。

 

サイクロプスは消耗が大きいので、いつも呼び出す訳ではないようだ。

 

少しずつ、稼働出来る車などを増やしてくれている。

 

この装甲バスも、細かくメンテナンスをしてくれているのでとても助かっている。

 

「よし、お前等、チャート通りにメンテナンスをしろ」

 

「う、うぉ、うわかったああ! ドク! や、やるぞぉおおっ!」

 

「やれやれ、騒がしいのう」

 

金切り声を張り上げる一本ダタラと、職人らしい堅実な仕事を見せるドワーフ。だが、どっちも良い腕をしている。

 

志村には手伝えることはないので、側で警戒するだけだが。

 

地獄老人が見せてみろと、話しかけてくる。

 

M16についてだ。

 

この銃とも長いつきあいだ。もっと高級で新しい性能の高いアサルトもあったのだけれども、大戦で基地が次々と潰されて、今では数が出回っていたこう言う銃を用いるしかない。

 

カラシニコフが国内にあったら、使われていただろうな。

 

そうとさえ志村は思う。

 

国産のアサルトは性能は良かったのだが、数が足りず、結局一部の人外ハンターが今は使っているだけだ。

 

殆どの人外ハンターは、量産品で、火力が足りない中悪魔とやりあうしかないのである。

 

「痛みが激しいな。 整備してやるから貸せ」

 

「分かりました。 ジャックランタン。 一寸法師。 周囲を警戒してくれ」

 

「分かったホ!」

 

ジャックランタンと一寸法師が、それぞれ展開して周囲を警戒する。

 

手慣れた様子で銃を分解して、ドワーフたちに説明しながら、細かい調整をして見せる老人。

 

20世紀初頭の生まれだとか言う話だが。

 

だとしたら、本当に人間なのか疑わしい。

 

「よし、これでいい。 応急処置だが直しておいた」

 

「ありがとうございます」

 

「ただこれでは大物の悪魔には目くらましにしかなるまい。 そっちのスナイパーライフルも貸せ」

 

その通りだ。

 

この老人は、大戦の時以来眠っていたようだが。そうなると、悪魔の正体も古くから知っていたのだろうか。

 

てきぱきと手直しして、ドワーフに銃の構造を教え込んでいる老人。勿論志村も銃の分解や組み立ては散々訓練したが、その本職である志村ですら舌を巻くほどの腕前だ。戦士ではないだろうが、それにしても凄まじい。

 

「よし、これでいい。 弾に関してはそろそろ量産の体制が整うから、心配しなくてもいいぞ。 問題は銃だが、まだ旋盤その他の精度がたりん。 こやつ等に教え込んではいるんだが、戦争ばかり一万年やっていた種族の経験値には此奴らではまだ及ばないようでな」

 

からからと笑う老人。

 

興味が出て来たので、聞いてみる。

 

「貴方はどうして、シェルターの地下に」

 

「行く所がなくなってな」

 

「……」

 

老人は、ナチに所属していたらしい。

 

二次大戦に負けた後は、それは行く所なんかなかっただろう。ナチにいた学者の中には、米国に雇われて大きな成果を上げた者もいる。だが、そればかりではなかったということである。

 

「昔の話だ。 地中海にバードスというちいさな島があった」

 

「聞いたことがない島ですね」

 

「そうだろうな。 だが、その島の地下に古代文明……現在の文明の祖となった偉大な文明の痕跡が眠っているという説が出て来たのだ。 わしは何名かの同士とともにそれを探しに行った。 色々と金が掛かるからな、ダーティーな手段も使って金を集めた」

 

片手間にバスの修理を確認しながら老人は言う。

 

一本ダタラ達の手際は完璧で、チャートさえ作ってやれば殆ど瑕疵なく作業をやれるようだ。

 

この様子だと、歩兵戦闘車や戦車も復旧出来るかもしれない。

 

ただ、国内運用を想定していた10式と違って、東京で少数が悪魔を相手に戦ってくれたM1エイブラムスは、道路が死んでいる今の東京では、拠点防衛以外では活躍出来ないかも知れないし。

 

拠点防衛に限定しても、流石に高位の悪魔には歯が立たない。

 

「わしは島に入って、見た。 そこには何もなかった。 正確には、徹底的に破壊尽くされて、何も残されていなかったのだ」

 

「徹底的に……」

 

「ごく最近の破壊跡だった。 ただ、一つだけ残されていたものがあってな。 それが不死の薬よ。 アムリタだのアンブロシアだの言われている、な」

 

こっそりそれを飲んだ地獄老人は、老人のまま不死になってしまったそうだ。

 

ただ、それで資金も尽きた。

 

出来る事もなくなった。

 

一本ダタラ達が、手を振る。嬉しそうである。

 

「ドク! で、できたあ!」

 

「よしよし、少し休んでおれ。 後はわしが少し確認する。 志村、灯りを持て」

 

「はい」

 

鉄の檻と化しているバスだ。内部は真っ暗である。

 

整備の時は灯りも外してしまう。復旧させるまでは、こうしてランタンを使うしかないのだ。

 

「わしはナチで人間がくだらん優性思想に捕らわれて、散々バカをやるのを見てきた。 それを間近にいるときは気付けなくてな。 わしもそれで色々考えたのだ。 だから古代文明の力次第では、それを用いて人間に鉄槌をくれてやろうと思っていた。 しかし古代文明が破壊尽くされた後をみると、世界征服どころではなくなってなあ」

 

「世界征服ですか」

 

「そうすれば人間を手際良く分からせられよう?」

 

「はあ」

 

いきなり話が胡散臭くなった。

 

細かい所まで地獄老人はチェックして行く。手際の速さが熟練工も舌を巻くレベルである。

 

「後に残ったのは老いたままの不死の体と、借金だけよ。 それでまあいろいろとあってな。 今度は昔の知り合いが日本の富士山麓で見つけた新元素を知った。 ところがなあ」

 

「富士山麓というと謎の爆発事故ですか。 大戦の前に起きた」

 

「そうだ。 光子力研究所と言われていた研究所が、丸ごと吹き飛ばされてしまった。 わしは命からがら逃げ出したが、その時見た。 天使共の姿をな。 何となく悟った。 バードスの地下も、此奴らがやったのだと」

 

天使、か。

 

天使に対していいイメージを抱いている大戦経験者は少ないだろう。

 

大戦時、空から君臨した天使は、人間に対して殺戮の限りを尽くした。悪魔が多少手心を加えていた節があるのに、天使の方は容赦というものを知らず。皆殺しにしていくばかりだった。

 

塩の柱に換えられてしまった人間は大勢いる。

 

フジワラ達三人は、そんな天使の軍勢をばったばったとなぎ倒し、多くの人を救った英雄なのだ。

 

この老人の言葉が本当なら、天使はもっと前。

 

大戦の前から、世界で暗躍していたのかも知れない。

 

「よし、良いだろう。 乱暴に使う事を想定はしているが、必要以上に乱暴に使うなよ。 工具などは製造できるようになって来たが、精度が高い工具になる程製造は難しいからな」

 

「ありがとうございます。 それで……一つよろしいですか」

 

「なんだ」

 

「まだ世界征服については考えているんですか」

 

場合によっては。

 

此処で倒さなければいけないかも知れない。

 

一瞬だけ空気がひりついたが、ふっと笑ったのは地獄老人だ。

 

「いま生きている十万だかの人間を支配して、世界征服もあるものか。 この事態を招いた神だかなんだか知らんが、其奴をぶん殴ってからだ全てはな。 それに今の時点では、わしはただの技術屋としてしか役に立てん。 物資がもっとあれば、悪魔と戦える鉄の巨獣を作れるかも知れぬがな……」

 

「分かりました。 それでは今後もお世話になります」

 

「うむ」

 

シェルターに戻っていく地獄老人。

 

志村は灯りがついたバスの中で嘆息すると、外に出て、人外ハンター達に合図する。すぐに次の任務だ。一応これから行く集落の地理は知っているが、それでも今どうなっているか分からないからである。

 

阿修羅会が立て続けにしくじって大きな被害を出しているという話は既に拡がり始めている。

 

暮らしていけない人間を、人外ハンターが新たに見つけた安全な拠点で匿っているという話も。

 

阿修羅会に連れて行かれた人間が、一人として帰ってこない話は誰もが知っている。

 

だからこそ、一気に流れは変わってきているのだが。

 

その分、阿修羅会も行動が先鋭化してきている。

 

各地で人外ハンターとの小競り合いが起きているし。いつ仕掛けて来てもおかしくはないだろう。

 

重火器だって連中は持っている。

 

勿論、大物悪魔には無力だが。

 

点呼して、整列する人員を確認する。今回はアサヒが残りでナナシだけ来る。とにかく実戦を経験したいと言う事で、最前線に配置してくれと五月蠅いのだ。一方でアサヒは実力不足を正確に理解していて、今は修練の時だと割切っているらしい。

 

「近場の集落に十三人ほどが隠れている。 人外ハンターと一緒に行動していたちいさな集団だが、その人外ハンターから連絡があった。 阿修羅会がどうも狙って来ているようだとな」

 

「また戦いになりそうですか」

 

「別にいいだろ。 彼奴らだって、人外ハンターとやりあったら死ぬのも当然だって思っているだろうし」

 

「ナナシ。 そう好戦的になるな」

 

ナナシが言うと、明らかにたしなめるような目で先輩ハンター達が言う。

 

生意気なナナシだが、腕はいい。既にそこそこに出来る悪魔も従えていて、これは有望な若手だという声も上がって来ていた。

 

だからこそだろう。その凶猛な本性を危惧する者も多いのだ。

 

「フジワラは、武装解除して人々にして来た事を全て公開し、その上で心を入れ替えて戦うのであれば共闘もやむなしと考えているようだが。 あのタヤマが上にいるうちは、それも無理だろうな」

 

「ガイア教団が動きを見せないのも不気味ですね」

 

「彼奴らも何を考えているのかわからん。 子供が生まれても、健康そうに見えなかったら悪魔の餌にするようなことを平気でやっていると聞くし、今の東京でそんな事をしていて良い訳がないと分からないのだろうかな」

 

強い子になりそうなんてのは主観に過ぎない。同じような事をやっていたスパルタがやがて滅びたのは、もう何千年も前なのに。

 

ともかく、行く道のミーティングを終えると、秀が来る。

 

無言でバスの上にひらりと乗ると、そこで座ってそのまま黙り込む。まあ、いてくれるだけで充分だ。

 

ミーティングも終わっているので、バスを出す。

 

やがて、このバスもエンジンで動かせるようになるかも知れない。移動しながら、左右を常に確認する。

 

小物の悪魔もいるが、五月蠅いようなら威嚇射撃で追い払う。

 

川があるが、それも幾つかの橋が作られ始めている。橋は一時期、阿修羅会が殆ど落としてしまった。

 

連中の考えそうなことだ。

 

今は復旧が始まっていて。それを渡ってバスで急ぐ。

 

「何も仕掛けてこねえな」

 

「油断するな。 歴戦の悪魔ハンターが、油断した一瞬で倒されたことなんか珍しくもない」

 

「分かってる。 あんたの経験と力は充分に信頼してる」

 

とにかく斜に構えたナナシだが、志村の事は信頼してくれているようで助かる。ともかく警戒を続けて、進む。

 

砂漠に出る。

 

昔は東京砂漠なんて言い方をした時代があったらしい。人の心に著しく欠ける土地、という意味でだったらしいが。

 

それが文字通りになってしまっている。

 

砂漠なんて普通に出来るものでもなく、これが悪魔の仕業なのかどうかはよく分かっていない。

 

いずれにしても、デュラハンが力強く引いてバスが進む。警戒は怠らない。

 

しばしして。

 

バラックが集まる集落に着く。

 

手を振っているのは、知っている人外ハンターだ。

 

だが、即座に秀が銃……火縄銃を構えると、狙撃していた。ドンと凄まじい音。あの火縄銃、本当になんなのか。

 

狙撃されたのは、バラックの上空だ。

 

それで、撃ち抜かれた何かが、凄まじい悲鳴を上げていた。

 

「時間を稼ぐ。 一人でも助けろ」

 

「停車、展開! 半数はバスを守れ! 残りは俺に続け! GOGOGO!」

 

秀が飛び出し、何かと戦いはじめる。半透明だが、確かに凄まじい質量で、辺りを薙ぎ払っている。

 

バラックが吹っ飛ぶ。

 

上がる悲鳴。

 

その中、志村は人外ハンターとともに、救助するべき人々に向かう。

 

飛び出した悪魔、妖樹ザックームが、半透明の何かに薙ぎ払われるのが分かった。赤い塵になって消し飛ぶザックーム。植物の悪魔はタフなことが多く、イスラム教で地獄に生えている植物であるザックームも強力な幹で打撃を受け止めるタフな悪魔なのだが、それが一瞬で。

 

相手はかなりの大物だ。

 

一寸法師が手を振って来る。バラックに潰されている老人。助け出し、抱えて、志村は走る。バイタル確認はバスにいる医療従事者に頼む。

 

此処を守っていた人外ハンターが、必死に銃撃をしているが、なんだあれは。透明な何かは、ずっと獲物を待っていたとしか思えない。

 

「くそっ! あんな奴、見た事もない!」

 

「後誰が残っている!」

 

「あのバラックに……」

 

飛び出した秀が、何かを叩き斬る、そのバラックを直撃しようとしていたそれ……透明だった触手が、ばっさり両断され。吹っ飛び。

 

その存在が、姿を見せていた。

 

巨大な仮面のような顔。それの目から、蛇のような触手が生えている。全身から滴る黒い液体。

 

ぞくりとする。

 

あれはなんだ。

 

ナナシが勇敢に飛び出すと、バラックの中で腰を抜かしていた女の子を助け出し、担いで走る。

 

もう一人いた更に幼い子を、志村も抱えて飛ぶ。振るわれた触手が、一瞬遅れてそのバラックを叩き潰す。

 

牽制射撃をしながら、この集落に雇われていた人外ハンターが殿軍になる。必死にスマホを操作して、ナナシが相手の正体を割り出していた。

 

「邪神ラフム。 バビロニア……ってどこだ。 とにかくそこの邪神らしい」

 

「最悪だ。 最古の神話の神格だ。 古代神格は例外なく手強い。 ラフムは確か、バビロニア神話の創世神でもあるティアマトが、神々を罰するために作り出した怪物の筈だ」

 

「そんなヤバイ奴なのかよ!」

 

「とにかく走れ!」

 

吹っ飛ばされたのは、殿軍をしていた人外ハンターだ。エサとして釣り出される要因になった責任を取ったのだとしても。

 

いや、秀が触手を寸前に斬り払い。

 

更には、ジャックランタンがありったけの火焔魔術を叩きこんで、触手の勢いを弱めていた。

 

バスに救助者を詰め込む。

 

志村は戻ると、倒れている人外ハンターに肩を貸す。秀が次々に触手を切りおとしているが、再生速度が早い。全てを打ち払えていないが、しかし。

 

あれは、足手まといがいるから、全力を出せていない。

 

それが分かるから、距離を取ることを躊躇なく選択できる。

 

「要救助者、全員確保!」

 

「待っておくれ、じいさまの位牌が」

 

「分かっている! 彼奴を片付けるまで待ってくれ」

 

「斃せるのかい、あんな恐ろしい悪魔を」

 

斃せる。

 

秀の実力は見てきている。彼奴くらいだったら、何とかしてくれるという安心感がある。それよりも、だ。

 

周囲への警戒を呼びかける。

 

志村自身は、バスの上に上がって、急いでクリアリング。砂丘の向こうで、何かが光る。

 

まあ阿修羅会だろうと思っていたから、手口は読めていた。即座にスナイパーライフルに切り替える。

 

腰を落として、速射。

 

撃ち抜くのに成功。

 

だが、ほぼ同時に、何かが撃ち出される。

 

あれは、FGM-172 SRAW。通称ロッキード・マーティンプレデター。

 

誘導式対戦車ミサイルだ。

 

あんな強力な兵器がまだ現存していて、しかも阿修羅会の手に渡っていたのか。在日米軍の倉庫辺りから漁ったのだろうが、使い手が最低限の訓練を受けた軍人程度に手だれていたら終わっていた。

 

ミサイルが飛ぶ。狙いは明らかに秀だ。

 

「弾幕!」

 

「くそっ! まにあわねえ!」

 

その時、一寸法師が飛び出す。

 

なんの躊躇もなくプレデターに突貫し。相討ちになって炸裂していた。大型の悪魔ならともかく、一寸法師ではひとたまりもない。

 

奥歯を噛む。

 

更に狙撃。

 

砂丘の影にいた観測手らしい奴を撃ち抜く。ぎゃっと悲鳴を上げて、砂丘の向こうで倒れるのが分かった。

 

「たかがエサを守るためにくだらぬ死に方をするものよ」

 

「黙れ」

 

ラフムの煽りに、ぞっとするほど低い声で秀が返す。

 

触手を斬っても斬っても再生しているが、ラフムが嘲笑いながら、更に触手を増やして滅多打ちに懸かるが。

 

次の瞬間。

 

どっと、もの凄い魔力が押し寄せてきた。

 

違う、姿が。

 

秀の姿が一瞬にして変じていた。燃え上がる人のような、怒りそのもののような姿。あれは何かの魔神か。元々地獄帰りと言っていたが、人とは思えない。ともかくその姿になると、巨大な腕を振るって、秀はラフムの触手をまとめて掴み、ラフムごと振り回して地面に叩き付けていた。

 

更に力任せに触手を引っこ抜きつつ、中空から拳を叩き込む。引きちぎられる触手が、凄まじい力を物語る音とともに爆ぜた。

 

更に叩き込まれた拳でラフムの仮面が砕け、凄まじい絶叫が上がった。

 

魔の存在と化した秀は、仮面の目と口に手を突っ込むと、左右に引き裂き始める。砕けた仮面から、大量の黒い血が溢れる。

 

ラフムが、一瞬にして破滅に陥りつつある事に気付き、わめき散らす。

 

「お、おのれ! その姿、貴様どこかの神か!」

 

「黙れ外道。 滅びろ」

 

「ま、まて、余はただ食事をしに来ただけ……ぎゃあああああああっ!」

 

引きちぎられたラフムが、膨大な黒い血を砂漠にまき散らしながら。やがてマグネタイトに変わって消えていく。

 

しかも、明らかに秀はラフムの残滓を異形の姿の腕で切り裂いていた。

 

恐らくあれは、もう復活も許されないだろう。

 

秀の姿が、陣羽織姿の女に戻る。

 

刀を収める秀。

 

視線で促される。

 

頷くと、志村は老人を連れて、バラックに。安全確保を確認しつつ、持ち出すべきものを持ち出すように、要救助者に告げた。

 

「あんた悪魔だったんだな」

 

凄まじい強さでラフムを瞬殺した秀に、デリカシーの欠片もなくナナシが聞く。アサヒがいたらたしなめていただろう。

 

秀は答えないかと思ったが、ナナシに返事をしていた。

 

「違う。 いや、お前達の定義でいうと、悪魔に分類は……いやされないな。 正確には私は半分だけ悪魔だ」

 

「悪魔と人間の子なのか」

 

「そういうことだ。 あの姿は反撃と最後の一撃に特化していてな。 持続時間もそれほど長くない。 相手の大技を受けるのにも適しているから、あの瞬間は化身をした。 それだけだ」

 

一瞬だけ存在を切り替える事で、大技をそちらの存在で受けて。本体へのダメージを踏み倒せる、というわけか。

 

一寸法師は後で再生してやらないと。

 

そう思いながらも、志村はクリアリングをすませる。念の為に調べたが、バラックに爆弾などは仕掛けられていなかった。

 

位牌などの私物を持ちだして貰う猶予はある。

 

激しい戦いが行われ、しかもあんな凶悪な邪神が殺されたのを、近場の悪魔達は見ていただろう。

 

それをやった奴がいるのだ。

 

怖がって近付いては来ない。

 

「私物の回収、完了!」

 

「撤収する」

 

「なあ志村のおっさん。 これ、先回りされて待ち伏せされてるよな」

 

「ああ、分かっている。 かなりの人数を受け入れているからな。 内通者がいてもおかしくはないだろう」

 

だが、それを責めるのも厳しい。

 

この時代だ。

 

少しのマッカや食糧のために他人を簡単に売る奴は幾らでも出てくる。

 

内通者は後で確かめるとして、今は少しでも早く要救助者を回収し、シェルターに戻る必要がある。

 

まだ意識が戻らない人外ハンターも、しっかりした治療を施してやりたい。

 

雇われただけなのに、しっかり責務を果たしたのだ。

 

ラフムの接近に気付けてはいなかったが、それでも即座に体を張って撤退支援を決断できただけ、立派である。

 

ラフムは、あれは秀がいなければこの場の総掛かりでも斃せなかった。

 

それを思うと上出来過ぎるくらいだ。

 

シェルターに戻る。

 

秀も消耗している筈だが、それでも流石にこれ以上仕掛けて来る余裕は阿修羅会にもないだろう。

 

まずは確実に救助者をシェルターに。

 

全てはそれからだ。

 

 

 

シェルターに戻ると、外で誰かを何人かで取り押さえていた。まだ若い男だ。悔しそうに歯を噛んで、縛り上げられている所だった。

 

急いで救助者を運び入れてもらう。

 

若い男は銃口を突きつけられて、じっと黙っていた。

 

「何かあったのか」

 

「要救助者に混じってシェルターに侵入していました。 怪しい動きをしていたので、目をつけていたのですが。 電波が届く地点で、阿修羅会に連絡をしていたので」

 

「ブッ殺してやる! 俺の家族はな、お前等に赤玉に変えられたんだよ!」

 

「待て」

 

冷えた声。

 

秀のものだと分かって、人外ハンター達が一斉に身を引く。縛られたままの青年は身動きできていない。

 

灰褐色の髪。

 

外国人か、それとも血が混じっているのか。

 

黙りこくっている青年に、秀がゆっくりと話しかける。

 

「お前、混じっているな」

 

「何の話ですか?」

 

人外ハンターは分からないようだったが、志村にはぴんと来た。

 

秀のさっきの姿を見た、と言う事もある。

 

秀は人外ハンター達に、この青年のボディチェックを指示。スマホを初めとして、全ての道具を取りあげさせた。

 

その後で、秀が調べる。

 

服の中に紙とかが仕込まれている。一度裸にまでひんむいて調べているが。若い男の裸を見ても何も思わないようだ。服も下着もよく見ると上物である。この時点で阿修羅会のそれなりの地位の人間だと分かる。

 

まあ、長い時間を生きているのだとしたら。

 

いちいちそんなものに今更興味など覚えないだろうが。

 

下着だけ戻してやると、口を開けろという秀。

 

そっぽを向く青年の顔を掴むと、鼻をつまむ。抵抗する青年だが、息ができなくなって口を開けた瞬間に、さっとその中も確認し。何かを取りだしていた。

 

悔しそうに俯く青年だが。

 

秀との実力差は分かっているのだろう。

 

銃口に囲まれていながらも、何も吐かなかったのは立派だ。

 

「恐らく悪魔化の能力を持っている。 それもかなり強いぞ。 悪魔に監視させ、尋問をしておけ」

 

「貴方が強いと言う程ですか。 ならば拘束できている今のうちに殺してしまった方がいいのでは?」

 

「この毛並みの良さ、身に付けている上物の衣服、此奴は恐らく阿修羅会のそれなりの立場にいる存在か、その子息だ。 悪魔と人間の合いの子となると、姿を変じてまた侵入してくる可能性も高い。 確か霊夢殿が作ってくれた結界があったな。 其処に放り込んで、食事と排泄の面倒だけはみてやれ。 トイレに行かせると其処で悪さをする可能性があるから、おまるを用意してやれ」

 

「分かりました」

 

志村がフォローを入れる。

 

悔しそうに俯く青年に、志村が聞く。

 

「名前くらいはいいだろう。 お前の名前は」

 

「……ハレルヤ」

 

「神に感謝する言葉、か。 この東京にてそんな名前を持っていると言う事は、余程親は皮肉屋なのか、それとも高位の天使かなにかか?」

 

「……」

 

気が弱そうな青年だが、それでもこれだけ大それた事をしたのは評価できる。

 

志村は自分でも名乗ると、ハレルヤをつれて行かせる。

 

休憩から戻って来たらしい霊夢にも、事情は告げておく。絶対に脱出出来ない結界を張っておくと、霊夢は約束してくれた。

 

近々、フジワラが阿修羅会と会合をするという。

 

とにかくここのところ阿修羅会側が大損害を出している事もある。更には、阿修羅会の下っ端を多数捕縛している。ついでに下っ端だけではなく、重要な立場にいるあのハレルヤも今捕縛した。

 

此奴らと、一種の人質交換をする。阿修羅会に掴まっている……特に子供や、人外ハンターを開放させる予定だ。それに加えてフジワラの話術である程度情報を引き出せるかも知れない。

 

だから殺さなかった。

 

あの青年は、多くの人間が死ぬ可能性を作った。スパイとしては、全うに活動したのだ。

 

狙撃手が戦場で捕まったらまず間違いなく殺されるのと同様、本来だったら殺されてもおかしくない状況である。

 

それでも、更に人を助けるために。

 

今は、危険もある彼奴は、生かしておかなければならなかった。

 

それにだ。

 

東京の人間は、十万程度しか生き残っていないのだ。

 

今はたとえ阿修羅会であっても。交戦中であったり、排除の必要がない人間に関しては。

 

無意味に殺すべきではないのかも知れなかった。








ハレルヤくん早めに登場です。

彼もまた、色々なフラグが折れた結果、大きな流れの渦に巻き込まれていくことになります。




※地獄老人について

今回の話で明確に示しましたが、この人こそスーパーロボットと言われる系統のロボットアニメの悪の大ボスの元祖、マジンガーZの敵組織首領、ドクターヘルです。なんと1902年生まれ。現在ですら120歳超えですね(笑)。真女神転生4の時代にはいったいおいくつなのか。肌の色とか色々人間とは思えませんが、きちんと人間です。

本作のドクターヘルはバードス島の地下を先にロウ勢力が焼き払ってしまったこともあり、古代ミケーネの文明の力を手に入れられず、機械獣軍団を作りあげる事も、愉快で楽しい部下達も集める事ができませんでした。不老不死にはなりましたが、老人になってからという……。ちなみにミケーネを焼き払ったのはウリエルと麾下の軍団です(割りとどうでもいい小ネタ)。

その後色々あってダーティーワークで活動資金を稼いでくれていたブロッケン(この世界では人間のままだったので……)を犯罪組織のどーでもいい抗争で失ってしまい。資金源もなくして困り果てた挙げ句、最終的にはその技術力を買われて昔の同志のいる光子力研究所に出向いたのですが、そこもロウ勢力に焼き払われてしまいました。ジャパニウムはロウ勢力からするとあまりに危険な力だったのです。この事件は富士の樹海一帯を焼き払った大事故として認識されています。ちなみにこれをやったのはラファエルと麾下の軍団です(これも割とどうでもいい小ネタ)

最終的に例のモノを作る為に日本政府に協力する事になったドクターヘルですが、大戦に結果としてもろに巻き込まれることになり、シェルターの地下で眠りにつくことを選択しました。

今の時点では、世界征服など考えられる状態では無いということもあって協力してくれていますが。

神をぶちのめした後、どうなるかは……まだわかりません。



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