東京に降り立ったフリン達、初のターミナル戦です。
原作だとこの程度の悪魔だったら野良の人外ハンターがどうにでもしてるだろ的なのを出してくるんですが、本作ではせっかくなので最初から飛ばしていきます。
本作のフリンは結構強いんですが、残念ながら東京に蔓延る敵は更に強いのです……
序、上野地獄絵図
上野駅に入り込んでいた悪魔を掃討する。
彼方此方にちいさな入口や、人が守れていない出口があったりして。其処から悪魔が入り込んでいる。
それだけじゃあない。
マグネタイトを利用して、悪魔が実体化しやすい。特にこう言う、人の負の思念が渦巻いている場所は顕著なのだという。
駅という所以の、奥を見せてもらった。
巨大な馬車みたいな箱が壊れて、グシャグシャになっている。それどころか、辺りには大量の人骨。
イザボーが目を背ける。
これは死んだ人の数がどれほどになるのか、見当もつかない。
連携して動いていた人外ハンターがいる。
僕達の活躍を見ていて、相伴に預かりたいと思ったのだろう。どけと視線で言うワルターを、僕は宥めた。
今は少しでも情報が欲しい。
それに、手は少しでも多い方が良いのだから。
そんな人外ハンターに話を聞くと、教えてくれた。
「これは一体何があったの?」
「動けない電車に、他の電車が突っ込んだんだ。 中に乗っていた人間や、逃げ惑う人間が閉鎖空間で丸焼きになってな。 それから悪魔が大量に湧いて、死んだ奴は動いて人を襲って。 思い出したくもない有様だった」
「この箱一杯に人が入って動いていたのか」
「そうだ。 それも数分に一回新しい電車が来ていたんだぜ。 今だともう信じられない、夢みたいなことさ」
確かに信じられない話だ。
一応東のミカド国でも、時間、分、秒の単位については教えていた。一日が二十四時間だが、それで考えると。
とんでもない速度で人々が行き交っていて。
そして此処でとんでもない事が起きたんだ。
そう思うと、慄然としてしまう。
「一体ここで何があったんだ」
「此処でというか、東京全体で大戦があったんだ。 具体的に何があったのかは、俺たち古参の人外ハンターでもよくはしらん。 だがなんでも、世界中で一斉に核兵器が発射されて、東京に降り注ごうとした所を、将門公が守ってくれたって話だ。 将門公はそのまま天蓋になっちまって、俺たちは核からは守られたが、その代わり太陽も失ったのさ」
「……」
分からない単語も多い。
だがヨナタンは考え込んでいる。
後で話を自分なりにまとめてくれるかも知れなかった。
悪魔の気配だ。
奥の方から、殆ど灰のようになっている死体が歩いて来る。無念のうめき声を発しながら。
「悪霊インフェルノよ。 地獄の劫火の中で死んでいった者達の無念がああいう姿になったのね」
「あれは銃は駄目そうだな」
「天使達に頼もう。 少しでもましな終わりを迎えられるように」
ヨナタンが言う。
天使と聞いて、人外ハンターは露骨に不快感を示すが。ヨナタンが使役する天使達が、燃え滓の死体が歩いて来る方に、光の魔術を立て続けに放ち。死体が消えていく。それを見ると、帽子を取って黙祷していた。
かなりの数が此方に来るが、どれも光に溶けて行くのを抵抗しない。
苦しい。
辛い。
いっそ殺してくれ。
そんな声が聞こえてくる。焦げた鉄の箱の有様からしても、積み重なっている膨大な人骨からしても。
此処で悲惨過ぎる事が起きたのは確かだ。
だから、僕も近寄ってくるインフェルノというのを、次々に槍で撃ち払う。光の魔術で灼かれて溶け消えるのを手伝う。
しばらくインフェルノが襲ってきたが、それも相性がいい天使達が片っ端から灼き溶かして行き。
やがて静かになっていた。
「これで彼奴らも成仏できたなら良いんだが」
「成仏?」
「ああ、無念を晴らしてあの世にいける、くらいの意味の言葉だ」
「そうか。 そうだな……」
この辺りは、後で新入りや、あまり力が強くない人外ハンターや、それに雇われた人足が来て、片付けるそうだ。
片付けると言っても。
この大量の骨、せめて葬ってやれないのか。
だが、上野駅から出て、周囲を調べてみると。上も同じだと分かる。
こういう駅には、たくさんの人が集まって。
それでたくさんそのまま死んだ。
それが、彼方此方の戦闘の形跡を見るだけで良く分かる。干涸らびたミイラを囓っている悪魔を見て、僕も牙の槍を振るって消し飛ばす。悪魔は食事をしていただけかもしれないが、ちょっと許せない。
ヨナタンの天使には、逐一浄化して貰う。
地上部分でも連戦を重ねる。
地上部分は、恐らく大量のマグネタイトがあるからだろう。大型の悪魔や、色々な動物の姿をした悪魔も多い。
とにかく、大量の悪魔を駆逐して回る。
何度か人外ハンター協会に出向いて、倒した悪魔について申告しておく。マッカをその度に貰えるが、あまり他の人外ハンターは歓迎的ではない。
天使を使ってる。
上から来たって言っているらしい。
そういう声が聞こえる。
それほど天使が嫌われていると言う事だ。
ワルターが舌打ちしたので、僕は咳払い。とにかく此処で事を荒げるべきではない。
上野の地図もバロウズに作ってもらっているが。
とにかく複雑で、人間が入れない領域が多い。
徹底的に悪魔を駆逐していくと、やがて痩せこけた人外ハンターが声を掛けて来た。
「あんた達、腕が立つみたいだね」
「うん。 でももっと強い奴を追っていてね」
「……上野に来たハンターが、誰も手出し出来なかった場所があるんだ。 それを見て行ってくれるかい」
ワルターが視線を送ってくる。
罠の臭いがする、というのだろう。
僕もそれは感じた。
ヨナタンが咳払いして、丁寧に話を聞く。また、イザボーは既にガントレットを見て、依頼を確認しているようだった。
「依頼を見ているのだけれど、失敗した人が出ている依頼は賞金が上がるようね。 慣れた人外ハンターはそれを見越して、基本的に高すぎる依頼金が懸かっている依頼は避けるようだわ。 その上野の依頼は……いや、これは各地に似たようなものがあるのね」
「不思議な奴と、強力な悪魔が守っていてね。 それでどうしても退けられないんだ」
「……僕達が此処にいても出来る事は少ない。 やれることはやってあげよう」
「確かにそれが良いかも知れないな。 情報収集もそれではかどるだろう。 ただでさえ天使を嫌ってる奴が多い状態だ」
ワルターが敢えて威圧的に言うので、人外ハンターは首をすくめる。
先にヨナタンが目配せしてくる。
確定で罠だ、というのだろう。
ヨナタンは丁寧に人の話を聞くし誰にも親切だが、それはお人好しで騙されやすい訳ではない。
悪魔との交渉をしているのを見ると、いつも恐ろしい程にシビアだし。マッカの管理ももの凄く丁寧にやっている。
醜悪な詐欺師を見抜く目はしっかり持っている、と言う事なのだろう。
他のラグジュアリーズとは本当に違うなと思う。
ともかく、言われた地点に行く。
地上のビルとか言う巨大な廃墟の一つだ。
バロウズが警告してくる。
「どうやらこの中にターミナルがあるようよ。 同時に悪魔が結界を張っているわ」
「なーるほどな。 それは誰も攻略できないわけだ」
「ターミナルがあるなら、一度東のミカド国に戻れますわ。 流石にこれではお風呂どころではありませんし、食事だってまともなものは得られませんことよ」
確かにそれはある。
だが、僕としては別の事をちょっと今考えている。
「ね、ヨナタン。 僕らの方で依頼を出して、この辺りの遺物を集めて貰うってのはどうかな。 老人とか子供とかでも、それなら出来るよね」
「うん? そうだな……僕達はそもそも遺品の価値なんて分からない。 それは可能だとは思うが」
「僕達は僕達で、上で野菜とか新鮮な肉を買ってこっちに持ち込む。 上野の人達、喜ぶと思うよ」
「……そうだね」
当然それにはお金が掛かるけれど、遺物を東のミカド国に持ち帰ればお釣りが充分出る程のお金になる。
更には、こっちに新鮮な食品を持ち込んで、その場で料理して飢えている人にそのまま食べて貰う。
横入りするような奴は僕が見ておく。
それで、かなり情報を集める事ができるはずだ。
「おいおい、慈善作業かよ」
「違う。 こういうのは立派な商売だ。 後から来るサムライ達にも、此処の人達は食事で情報を売ることが出来る。 サムライ達も容易に情報と遺物を集められる」
「確かに理屈としてはそうだが……」
「ただ、此処の人達は皆心が荒んでいてよ。 行儀良くきちんと「並んで待つ」事ができるかしら」
イザボーが懸念を口にするが。
僕としては、やってみる価値はあると思う。
それに依頼には、悪魔の質が低い肉を集めて欲しいというものも結構あった。野菜なんて野菜屑が高級品だという話で、植物悪魔の残骸を囓っている程なのだという。
悪魔の肉はマグネタイトが濃いとある程度食べられるものにはなるとバロウズも言っていたけれど。
そんなのじゃなくて、東のミカド国でちゃんと育てた本物の豚や牛のお肉の方が良いに決まっている。
カジュアリティーズはお肉はあまり頻繁に食べられないのが実情だけれども。
僕達は今サムライで、ラグジュアリーズ並みの財力がある。しかもそれで食べて行く訳でもない。
食糧と情報を交換してくれる人という認識を植え付けることに成功すれば、今後やりやすくなるのだ。
「衣食足りて礼節を知るという。 ともかく此処では衣食住全てが足りていない。 フリンが言う事はもっともだと僕も同意する」
「なる程な。 まあ俺には難しい銭勘定はわからねえから、それは皆に任せるぜ。 或いはボスに相談するのもいいかもしれねえ。 まあ、皆が考えてくれるその代わり……ちょっと此処は俺が頑張るかな」
ワルターが率先して結界に踏み込む。
まあいい。
僕も続いた。
結界の中には案の場領域があり、不自然に広い薄明るい空間に不可解な男がいた。阿修羅会だかの下っ端みたいな白い服を着ているが、どうも雰囲気がおかしい。
「此処には入るなって何度も言ったのにまた来やがったか。 おい、お前等相手の実力も分からない程度ならこんな所に来るんじゃねえ。 一度は見逃してやるから、さっさと失せな」
「……かなり強いなこの男。 あの阿修羅会だかの雑魚とは違うぞ」
「うん。 最初から全力で行こう」
ワルターは相手を侮らない。
僕もだ。
そもそも悪魔の展開する結界の中で、のうのうと生きていられる時点でまともな人間ではない。
此奴、高確率で人型になれるかなり強い悪魔とみて良いだろう。
「ちっ。 雑魚ではないか。 しゃあない、俺も仕事なんでな。 此奴を倒して見せろ。 倒せれば、此処は引いてやる」
「それはどーも。 さっさとなんでも出してきな!」
「そうさせて貰うさ。 来い、邪神太歳星君!」
男が指を鳴らすと、地面を吹き飛ばして、巨大な肉の塊が姿を見せる。全身が蠢いていて、凄まじい力をびりびり放っている。
これは確かに、誰も此処を突破出来なかった訳だ。
あの人外ハンター、仕事場を荒らされるとみて僕らを此奴にけしかけたな。だが、それもいい。
その罠を正面から喰い破ってみせれば、それだけ相手も力を認めるのだから。
「太歳星君。 道教における邪神よ。 祟り神の代表であるものの、実態は地中にある粘菌の塊が怪異として認識されたものに、伝説がつけくわえられたものと考えられているわ」
「道教と粘菌というのがよく分からないが、つまりは実際の現象が必要以上に怪異としての力を与えられていると言う訳だな」
「汚らしい悪魔ね。 焼き尽くすのが順当とみたわ!」
歯ぎしりするような音と共に、大量の触手がこっちに飛んでくる。太い上にしなやかで、凄まじい質量も兼ねている。
動きが速く、重い。
道教というのはよく分からないが、こいつは強い。
僕は最初は回避に徹し、印を切って魔術を発動。連続して強化魔術を自分に掛けていく。その間、前衛に立ったワルターが大剣を振るって苛烈に太歳星君に斬りかかる。太歳星君は暴力的な質量だけではなく、全身から真っ黒な空気みたいなのを放ち続けているが、ワルターには効きが悪いようだ。
末の子が出て来て、僕の壁になる。
「フリンさん、呪いの力です! 私を盾にして! 闇の逸話がある悪魔だったら、耐えられる筈です!」
「分かった。 もう少し力を練り上げるまで耐えて!」
「なる程、それでは此方も!」
イザボーも召喚する。悪霊インフェルノだ。
あの上野駅の地下で戦ったものの内、一体が交渉に応じたらしい。イザボーは難色を示したらしいのだが、皆を助けてくれた礼をしたいと言われたそうだ。
インフェルノは真っ黒い炎になって展開すると、立て続けに放たれる黒い波動を全て吸収する。
それを見て、明らかに太歳星君が不快そうに軋りを挙げる。
そして、インフェルノを盾に展開したヨナタンの天使達が、一斉に光の魔術を太歳星君に叩き込む。
勿論天使達はこの手の闇の魔術は完全に天敵として嫌っているようだが。それは太歳星君が光の魔術に弱いのと同じだ。
炸裂する光の魔術が、次々に太歳星君の全身を抉り取る。戦闘を重ね、転化を続けたヨナタンの天使は、質量ともに上がっていて、前は三体だったプリンシパティは五体まで増えていた。
「インフェルノの壁を使って魔術戦に徹してくれ! くれぐれも前衛に出て無駄に命を散らすな!」
「はっ! ヨナタン様!」
「回復の魔術を皆に! この黒い波動、皆の命を削ってくるようだ!」
鬱陶しいとばかりに、太歳星君が触手を振り回すが、その触手が天使達の光の魔術でところどころ抉り取られ、ワルターの大剣でぶった切られた。
更にはイザボーは攻撃にも転じ、インフェルノの壁の向こう側から、天使達と一緒に魔術戦を得意とする悪魔を召喚。一斉に飽和攻撃を仕掛ける。
太歳星君もとても強い邪神らしい意地を見せ。体を再生しつつ触手を振り回す。天使が一発で打ち砕かれ、ヨナタンの盾になったアークエンジェルが数体まとめて薙ぎ散らされる。
だがそれでも皆怯まない。
燃えさかるインフェルノを、真上から触手が叩き潰したその瞬間。
僕は、自己強化を終えていた。
「大きいの行く! さがってワルター!」
「おうっ!」
最前衛を張っていたワルターと交代。態勢を低くした僕は、一瞬だけ太歳星君の視界を潰してくれた末の子の雷撃に混じりつつ、突貫。
全速力で地面を吹っ飛ばして自分を撃ち出す。
槍の基本、突。
それを自分自身を砲弾とすることで、最大限まで火力を増強する。
どんな戦術でもそうだが、小細工をどれだけ重ねるよりも、最大級の力でねじ伏せるのが一番確実だ。
勝負まで、瞬きもかからない。
僕に気付いただろうか、太歳星君は。
強化を最大限まで掛けた僕は、文字通り破壊の鉄槌となって、太歳星君の本体を直撃し。
そのまま、粉みじんに消し飛ばしていた。
悪魔の領域が、吹っ飛ぶ勢いでの破壊が吹き荒れる。
指向性をもった破壊は、太歳星君を呼び出した存在にも勿論襲いかかったが。奴は多少顔を腕で庇ったくらいで、涼しい顔をしていた。
「見事。 これだけやれる相手なら、わしの主も認めるだろう。 ターミナルが目当てだろう? 好きに使うがいい」
「……そうさせてもらうよ」
「ではな。 ただ、他のターミナルも簡単に明け渡すわけにはいかない。 またいずれ会おう。 次はまた違う趣向の相手を用意しておく。 それと、太歳星君は信仰も伝承も失って、最大限弱体化していた。 それは理解しておいてくれ」
男が消える。
そして、領域も消え、辺りは見慣れたターミナルへと変わっていった。
僕は残心をする。
全身にたぎった力が、空に逃れていくようだ。
ヨナタンが膝をつく。天使達もかなり限界が近かったようである。一方ワルターはまだまだ余裕があるようだ。
「大丈夫かヨナタン」
「ああ、少し休めば平気だ。 あの悪魔らしき男の言葉によると、これでも最大限弱体化しているのだな」
「それにしてもとんでもありませんわねフリンの剛力」
「いや、支援魔術を重ね掛けしただけだよ。 今の技だって、基本の突き技だし」
それよりもだ。
ターミナルに登録しておく。外の場所も確認。
此処はサムライ衆に展開する必要がある。それと、此処までの案内も必要になるかも知れない。
ぱっと見、此処の場所なんてバロウズにナビされても分からないだろう。何度かあの天高い塔と此処を行き来する必要がある。
それと、守りに徹する必要があるだろうから此処には来られないだろうが、ホープ隊長と話して、此処との物資のやりとりについて話をする必要がある。サムライ衆と組織的に話をして、場合によってはその財力と予算の後押しをしてもらう必要があるだろう。
僕が知る限り、東のミカド国は、食うに困ってはいない。ラグジュアリーズが横暴をしても、それでも民が不満を爆発させないのはそれが理由だ。不満はみんな持っていても、余裕を持って食べていけるから、誰も奴らを追い出せとかは言い出さないのである。
「周辺の確認よし。 では一度戻ろう」
「まずは風呂だな」
「私は眠りたいですわね」
「僕はちょっとホープ隊長と話す」
そんな事を言いながら、一度東のミカド国に戻る。
やはりというかなんというか。
ターミナルでは空中に放り出されたので、苦笑いするしかなかった。