もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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余談ですが。

今回の話で浄化作業をしたのは、DSJ以降登場するようになったあの女神です。

結構高位の悪魔なんですが、いつも決まってレベルは低めなんですよね……

本作での彼女は、フリンの手持ちにはなってくれましたが、消耗がでかすぎるので当面は戦線に本格的には出て来ません。悪しからず。





2、汚濁の川

コレは酷いな。そう呟いてしまう。

 

志村は上野駅への斥候に出てくれていたニッカリから話は聞いていたが。現在上野駅に向かう途中にある川が悪魔の縄張り争いに巻き込まれている話を聞き、ナナシとアサヒ、他数名を連れて偵察に来ていた。

 

不忍池とそれにつながる川がおぞましい程汚れているのを見て、それで口を塞いでいた。

 

汚水を好む悪魔もいる。

 

そういう悪魔が、この辺りを制圧したのは間違いなかった。

 

今回は霊夢も秀も来ていない。

 

代わりに、地獄老人が来ている。

 

制圧用の重機関銃を改造して、それが使えるかどうか試しに来たのだ。米軍がうち捨てていった重機関銃の幾つかは、既に弾がなくて使える状態になかったのだが。シェルター地下で弾を生産出来るようになり。

 

更に地獄老人が性能を改造してくれたおかげで、雑魚悪魔だったら充分に打ち倒せるようになった。

 

問題は弾がまだそれでも足りない事だ。

 

弾を生産出来ると言っても、それでも無限に作れる訳ではない。

 

数日前に霊夢がすぐ近場にある悪魔の縄張りとかしている拠点を奪還してきてくれた。そこからかなりの物資を回収出来たのだが、それでもまだ足りない。

 

やはり東京を行き来するためのインフラを開放するのが先だ。

 

それもあって偵察しに来てこれである。

 

アサヒは真っ青になって口を塞いでいる。

 

幾ら汚れきった地下街で生きてきたといっても、これは簡単に許容できる臭いでもないだろう。

 

「酷い有様だな」

 

「それでどうするんだ志村のおっさん。 悪魔を片っ端から倒せばいいのか。 その機関銃ってのでズドドドってやるのか」

 

「ナナシよ。 こいつはあくまで試作品でな。 何にでも効く便利兵器ではないんだがな」

 

「そうかよ。 意外と不便なんだな」

 

ナナシは地獄老人を気味が悪いと公言してはばからない。

 

どうも根本的にあわないようだ。

 

ただ、さっきその機関銃で、今までは苦戦が必須だった大型悪魔のオルトロスが、手も足も出せずに蜂の巣にされるのをみて、おおと感心もしていた。

 

まだ信じ切れないが。

 

作るものは認めている。

 

そんな感じだろう。

 

ともかくだ。一つずつやっていくしかない。

 

悪魔を呼び出す。

 

水辺だったら此奴が良いか。

 

妖精ケルピーを呼び出す。

 

乗ろうと考えると非常に危険だが、手持ちの悪魔として考えるなら得に問題はない。バスを引く時に使うし、この間の天王洲シェルター救出作戦でも、大変に役立ってくれた。

 

志村も手持ちに一体持っている。

 

最悪の場合の足として使うためだ。ただ扱いが難しいので、乗ろうとして手足を食い千切られたり、水に引きずり込まれる事も覚悟しなければならないが。

 

水辺にケルピーが近付くと、別のケルピーが姿を見せる。

 

そして人間の言葉で話し出していた。

 

「おや人間に飼われているお仲間かい。 どうしたね」

 

「この川の有様はどうしたのさ。 酷い臭いじゃないかね」

 

「ああ、上野の不忍池にピアレイとかいう悪魔が住み着いてね。 それが怨念と汚れをため込んでさ。 此処まで垂れ流しているんだよ。 何回かやっつけにいったんだけど、返り討ちにあって仲間が随分食われちまった。 ただ……」

 

「どうしたんだい」

 

どうもピアレイの様子が変だという。

 

ついさっき、凄まじい悲鳴が上がって、気配が消えたらしいのだ。

 

志村は話を聞きながら、状況を分析する。

 

上野近辺には幾つか水場があるが、どれもあまり水の状態が良くない。しかも悪魔が住み着いているから、迂闊に水を汲みにも行けない状態だ。

 

「志村のおっさん、ピアレイってなんだ」

 

「スコットランドの伝承に登場する邪悪な水の魔だ。 悪霊とも悪魔ともいわれ、毛むくじゃらで得体が知れないとされている」

 

「危険さでいうとあいつらも変わらないんじゃないのか」

 

「そうだな。 ケルピーも人食いの伝承があるし、積極的に人を襲う。 だが、不用意に近付いたりしなければ問題ないし、使役すればこの間の天王洲作戦のように役立ってもくれる」

 

そんなものかと、ナナシがぼやく。

 

程なくして、ケルピーが騒ぎ出した。

 

粉々に吹っ飛んだピアレイの体を、わっしょいわっしょいと弄んで遊んでいる。凄まじい殺され方だ。

 

一体何に遭遇したのか。

 

「どうしたんだいあれ」

 

「仲魔の一人が人間に依頼を出して、ピアレイを倒してくれたらこの川を渡らせてあげるよと言ったんだ。 そうしたら本当に倒してくれたようでね。 あっと、今汚水を海まで通すって言ってる。 酷い臭いが来るから気をつけな」

 

「それは大変」

 

ケルピーが、大量に。数十はいるだろうか。

 

それらが水から上がる。

 

どっと汚水が流れてきた。

 

ヘドロとか、公害で汚染された水とか、そういう感じじゃない。明らかにもっと危険な、触るだけで命が奪われそうな汚染がされているのが分かる。

 

だが、汚水も流れきってしまえば普通の水だ。

 

東京にどこからか流れ込んでいる水は、大本はとても正常な水なのである。

 

今回もバスを持って来たのだが、バスに避難するように皆に志村は指示。

 

志村自身も耐えがたい臭いだったので、バスに隠れてしばらく様子見。

 

だが、それで妙な事が起きる。

 

もっと時間が掛かるだろうなと思っていたのだが、水がまるで波紋が拡がるように綺麗になっていくのだ。

 

なんだあれは。

 

思わず息を呑む。

 

更には、その美しい水が、一気に波濤となって流れ出す。どっと激しい流れが起きて、川の下流までその水が流れていく。

 

ごうごうと氾濫していた水は、川の底が見えるほどに美しい。

 

こんな水を見るのは久方ぶりだ。

 

いや、シェルターの中で浄水設備によって綺麗にされている水はあれくらい綺麗か。それでも、あんな規模ではない。

 

「凄い女神様が水を綺麗にしてくださった!」

 

「水が美しい! 良い香りまでする!」

 

「なんだか浄化される……」

 

本当にケルピーが数体、浄化されて消えていく。

 

それも浄化されて消滅することを嫌がっていない。

 

思わず息を呑む。

 

凄まじい光景だ。

 

「ふむ、水を綺麗にする悪魔でも降臨したのか? それにしても凄まじい効果だが……」

 

「志村のおっさん、なんかしらねえか」

 

「いや。 水を綺麗にする悪魔は幾らか覚えがあるが、この規模となると……どこかの神格かもしれないな」

 

「まあよい。 とりあえずさっさと渡れ。 上野の要救助者を助けに行くのだろう」

 

地獄老人に促されたので行く。

 

途中、空から襲いかかってきた鳥の悪魔がいたのだが。機関銃が火を噴き、たちまちに蜂の巣にしてしまった。

 

弾に限りはあるが、凄まじい火力である。

 

一方で、陸上で道をふさいでくる相手には、自力で対処しろと視線で促してくる。

 

幸いこの辺りは、たまにうろついている危険な悪魔を除くと、そこまで強力な悪魔は徘徊していない。

 

バスは上野駅まで到着。

 

現地の人外ハンターと合流。既に決めてある人員を搬送して貰う。同時にナナシ達には、上野駅の内部に。

 

まだ雑魚悪魔が少数いる。

 

それを対処して貰った。

 

だが、思った以上に少ない。

 

少し前にニッカリに遠征して貰った時には、かなりの数がいるという話だったのだが。

 

それに、見慣れない奴らがいる。

 

青い服を着ていて、随分と統率が取れている。

 

「不思議な格好の奴らだな」

 

「よく分からないが、上から来たらしい」

 

「あれがか」

 

「ああ。 あいつらとは違う、同じ格好をしていた最初に来た四人組は恐ろしく腕が立ってな。 上野にいた濡れ女やマンティコアを次々に倒してくれた。 ターミナルも今は開放されて、好きに使えるようになっている状態だ」

 

それはすごい。

 

上野にいるのは場違いと言う程濡れ女は手強かったし、マンティコアも狡猾で危険な悪魔だった。

 

それに、確か僅かだけ聞かされている情報だと、ターミナルには確か太歳星君を従えている危険な悪魔がいた筈。

 

それを退けたと言う事は、確かにその強さは生半可な人外ハンターより上だろう。

 

衰弱していたり、栄養失調だったり。老人だったり、妊婦だったり。

 

上野では暮らしていけない人達を、順番に引き取る。

 

つれて来ている医療従事者には、すぐに手当てを開始して貰う。意識レベルが低い人もいて、出来るだけ急いで戻るべきだ。

 

ナナシに遠隔で通信を取る。

 

スマホを渡しているので、問題は無い。

 

「ナナシ、其方はどうだ」

 

「問題ねえ。 俺だけでも充分なくらいだ」

 

「くれぐれも油断だけはするなよ。 どんなベテランでも、一瞬の油断で死ぬ」

 

「分かってる。 アサヒ、後ろだ!」

 

ざざっと雑音が混じって、戦闘音。

 

大丈夫か。

 

少ししてから、また通信が入る。今度はアサヒからだった。

 

「ごめんなさい志村さん。 少し油断してしまって。 でも、なんとか切り抜けられたよ」

 

「そうか。 俺たちは一旦要救助者を搬送する。 お前達は上野の人外ハンターと連携して、駅の内部にいる悪魔を可能な限り駆除してくれ。 勿論仲魔にしてしまってもかまわないぞ」

 

「うん。 少しでも戦力を充実させておくね」

 

「その意気だ」

 

ターミナルの様子も少し気になる。

 

実はシェルター内にもターミナルはあるのだが。厳重に封印されていて使えないのである。

 

フジワラも封印されていて使えないと言っていたので、何かしらの権限が必要になるのかもしれない。

 

帰路を急ぐ。

 

あの川は、とても水が綺麗になっていて、人外ハンターだけではなく、比較的危険度が低い悪魔も様子を見に来ていた。

 

マーメイドが数体泳いでいるのが見える。

 

とはいっても、シェルターを守ってくれている規格外マーメイドと違って、基本的には危険な面も大きい悪魔だ。

 

それに本来は下位の悪魔。

 

わざわざ仲魔にする意味もない。

 

シェルターに戻る。

 

すぐに医療関係者が要救助者を搬送していく中、地獄老人が、シェルターから出て来たフジワラと話をする。

 

「リストにあった内、これらの悪魔には効果を確認できたな。 これを量産して、弾も揃えれば、雑魚相手に苦戦する事は……拠点防衛という観点ではなくなるだろう」

 

「ありがたい。 次は歩兵戦闘車の修復ですか」

 

「それはかまわないが、問題は燃料だな。 流石に原子炉を積むわけにもいかんし、ガソリンなんぞ手に入らん。 いっそエイブラムスと同じく、ジェット燃料を使えるガスタービンエンジンでも積むか?」

 

「いや、それこそ危険すぎます。 あれは堅牢なエイブラムスだから許される話であって……」

 

ああだこうだと話している内に、補給、更には人員の搬送が終わる。

 

まだ上野には要救助者が残っている。

 

後何往復かしないといけないだろう。

 

それにだ。

 

少し前に、スパイが入り込んだばかりである。

 

しばらくは要救助者にも気を配らなければならない。悪魔が化けている、なんてケースも想定しなければならないのだ。

 

小沢が率いる別のチームが、霊夢が開放してくれた前線基地から、どんどん物資をシェルターに運び込んでくれている。

 

既に放棄された基地には意味はない。

 

物資を阿修羅会辺りに漁られる前に、さっさと集約するべきだろう。

 

今の時点では難攻不落のこの国会議事堂シェルターだが、それも絶対などとは言い切れないのだ。

 

小沢が加わり、手が開いている時はニッカリも手伝ってくれるようになってくれたことで、更に手数が増えた。

 

だが、それでもやはり高位悪魔と出くわしてしまったらひとたまりもない。

 

比較的安全な範囲内でしか、動けないのも事実だった。

 

それからは、単純に上野との往復をする。

 

上野では、また青い服のサムライというのを見かけた。

 

最初の四人組と言われていた者達は段違いに強かったようだが、今見かけた者達は標準的な人外ハンターくらいの使い手だ。

 

まあ、上野辺りならなんとかやっていけるだろう。

 

三度の往復で、上野で生きているのだけで必死の状態の人達はどうにか救助を終えた。

 

ナナシとアサヒ、他数名の人外ハンターも回収。

 

軽く話を聞く。

 

「なんだか先に来たサムライとかいう連中が、悪魔を片っ端からぶちのめしてくれていたらしくてな。 駅の構内とか、前は悪魔だらけだったらしいのに、すっかり綺麗になってたぜ」

 

「そうか。 いずれにしても安全圏が増えるのは良い事だ」

 

「上野にいる人達、これで少しは楽になるかな」

 

「駅の構内からは悪魔を追い出せても、上野駅にいる大量の悪魔を片付けるのはすぐには無理だろう。 非戦闘員を守れる態勢は出来たがそれだけだし、大物の悪魔が出て来た場合には、どうにもならない。 いずれにしても、守りを固めなければならないだろうな」

 

バスで引き上げる。

 

帰路にも悪魔に襲われたが、地獄老人の機関銃が対空では火を噴いて片付けてくれたし。陸の悪魔は、バスを引いているデュラハンと志村の手持ちで撃退出来る範囲内だった。

 

途中でカタキラウワが出たので、片付けて肉は回収しておく。あまり質が良い肉ではないが、加工して保存食にしておけば、いずれ役立つ可能性もある。

 

シェルターで生産している新鮮な野菜などで感覚が麻痺しているが。

 

この事態を引き起こしたような連中は誰かも分かっていないし。

 

アドラメレクと同格の悪魔に霊夢や秀、あの規格外マーメイドがいないとき襲われたら、シェルターは落ちる。

 

そういった時の事も考えて、志村等大人は動かなければならない。

 

シェルターに到着。

 

丁度良いと、歩哨の人外ハンターに声を掛けられた。

 

「志村さん、これからタヤマとフジワラさんが話すそうです。 貴方も立ち会って貰えませんか」

 

「此処でか」

 

「わしがテレビ会議のシステムを復旧したからな。 それでやるのよ」

 

「……分かりました。 それであれば良いでしょう」

 

銀髪の娘についているあの存在。

 

あの存在は、自分の存在を表に出すなと言っている。

 

今の時点では、まだ表に出るべきではないという事らしい。悪魔相手でも、出来るだけ姿は知られない方がいいという事らしい。

 

シェルターの奥に。

 

霊夢と秀は既にいた。

 

規格外マーメイドは奥にあるビオトープの調整をしていたようだが、それが終わったので来てくれる。

 

地獄老人が機器の調整をして、それを興味深そうに銀髪の娘が見ていた。

 

孫でも見ているかのように。あの肌の色も恐ろしくて、爪とか伸びている悪魔より悪魔みたいな姿をしている地獄老人も、銀髪の娘には態度が優しい。

 

「どれ、調整の仕方を教えてやろう」

 

こくりと頷く銀髪の娘。

 

てきぱきと言われたとおり動いている様子を、地獄老人は目を細めて指導している。こうしていると、ただのいいお爺さんだが。

 

この老人が昔はナチにいて。

 

ナチを抜けた後にも世界征服とか企んでいたことは、志村も知っているし。フジワラにも一応報告はしてある。

 

今は味方をしてくれているが。

 

いつどうなるか分からないから、目を離さないように。そうフジワラからも注意を受けていた。

 

銀髪の娘とは無関係に、憑いている存在は、フジワラと話している。

 

「事前に打ち合わせしたとおり、奴らに手札は明かすな。 可能な限り助けられるだけの人間と人質交換を成立させろ」

 

「分かっております」

 

「さて問題はどれだけ助けられるか、だな。 わしの方でも支援はするから、可能な限り連中の内情を引きずり出せ」

 

「はっ」

 

フジワラとこの存在では、完全に主従が成立している。

 

まだ正体は確証が持てないが、現時点ではその正体はほぼ確定だろうと志村も思っている。

 

そう考えると、

 

素直に従うのも無理はないか。

 

実際、記録に残っている以上の能力だ。今やるべき事を確実に指示し、的確に次へとつなげていく。

 

戦術家としても戦略家としても政略家としても超一流。

 

それが分かるから、志村としても人外ハンターに来てくれた事を感謝するしかない。

 

ほどなくして、時間が来る。

 

テレビ会議のモニタに映るのはフジワラだけに調整してある。会議が行われる部屋の守りは秀が担当。

 

霊的な結界も、霊夢ががっちり張ってくれた。

 

志村も軍人として、出来るだけの守りを固める。

 

できるだけ早く、この軍人としての知恵と技術を後続に引き継ぎたい。

 

ナナシはどちらかというと軍人としては不向きだ。

 

だとすると、アサヒだろうか。

 

いずれにしても、生き残ってしまった者の義務として、やれることはやらなければならないし。

 

引き継げるものは引き継がなければならないのだ。

 

「通信つながるぞ」

 

「よし」

 

ちなみに既に復旧している大型モニタに、相手側の映像は出る。かといって、向こうに見えているのはフジワラだけだ。

 

映像出た。

 

高級スーツに身を包んだ、強面のサングラスの男。

 

誰でも知っている、阿修羅会の総元締め。

 

タヤマだ。

 

元はただのチンピラに過ぎなかった男が、運が良かっただけで必殺の霊的国防兵器を手に入れてしまい。

 

それで東京の悪辣な支配者と化した。

 

その事実そのものが。

 

今の東京が、実力主義で動いている場所などではないことを示している。

 

「久しぶりだなタヤマ。 まだタワマンなんて戦前ですら不便と言われていた場所に固執しているのか」

 

「ああ、そうだな。 これが金持ちのステータスで、支配者のシンボルだからな。 其方こそ、いい趣味の喫茶店から、穴蔵に移ったそうじゃないか」

 

「穴蔵は穴蔵でも、此処は全てが揃っていて快適だ。 私だけではなく、守るべき者達にとってもね。 それに喫茶店はツギハギが守ってくれている。 コーヒーならいつでも飲みに戻れるのでね」

 

早速毒のある応酬。

 

タヤマは今の時点で、表情一つ変えていない。

 

後ろにいる長身の男は、若頭のアベ。サラリーマンのような立ち姿だが、屈強で、目つきがカタギのそれではない。

 

一見理性的だが、阿修羅会の内部では最も怖れられている男だ。

 

とにかく腕が立つのである。

 

現在事実上阿修羅会のナンバーツーであり、タヤマなんかより頭が切れるのではないかという噂もある。

 

霊夢が奴を見て、小首を傾げる。

 

何か気付いたのかも知れない。

 

「うちの若い衆を随分殺ってくれたな。 この報復はさせて貰うぞ」

 

「我々が殺したという証拠は? 悪魔だらけのこの東京で?」

 

「俺たちは悪魔には襲われない!」

 

「それは嘘だな。 このシェルターを守っていた君の手下は、堕天使アドラメレクに食い荒らされた」

 

そう事実を指摘するフジワラ。

 

ぐっと呻くタヤマ。

 

阿修羅会が、悪魔を大人しくさせている等と放言しているタヤマである。赤玉はそのために必要だとか抜かしているが。

 

はっきりいって、そんなことは大嘘だ。今でも大量の悪魔が東京を闊歩し、こうしている間にも人が襲われているのだ。

 

「……さて、本題に入ろうか。 人外ハンターやこのシェルターを襲い、それで返り討ちにした君の手下の内、生かして捕らえたものが十九人いる。 その中にはスパイとして潜り込んだものが四人。 彼等の記憶は消させて貰った。 それが出来る手持ちの悪魔がいるのでね」

 

「交渉が出来る立場だと思っているのか」

 

「出来るさ。 もしも交渉を突っぱねたら、その時は君は手下を見捨てたと人外ハンター全員で喧伝する。 そうなればただでさえ刹那的にしか生きられない阿修羅会の構成員は、君をどう思うかな? 君のために命まで張ったスパイまで見捨てられたのだとすれば、ね」

 

タヤマの額に青筋が浮かぶ。

 

アベが何やら耳打ちをして、それで酒らしいものを飲み干していた。タヤマはふうと息を吐くと、言う。

 

「条件とはなんだ。 言って見ろ」

 

「人質交換と行こう。 君達が連れ去った人間を帰して貰う。 全員と言いたい所だが、君達が非人道的な方法で人間を加工していることは此方でも掴んでいる。 まだ無事な人間全員を開放して貰おう」

 

「全員だと確かめる術なぞ其方にはないが」

 

「此方は記憶を調べる魔術を使える悪魔が幾らでも手持ちにいるんでね」

 

「そうだったな。 ……此方も少しでも部下を失いたくはない。 分かった。 この辺りで手打ちにしよう。 此方としても、簡単にそのシェルターを潰せないことは理解した。 一旦、攻撃をやめる。 その代わり、そっちも此方に対する攻撃は控えろ。 それが最低条件だ」

 

勝手な事をほざく。

 

東京のインフラを独占して、人々の行き来を妨げ、団結すれば立ち向かえる悪魔にも逆らえないようにし。

 

挙げ句の果てに武器やスマホまで取りあげて。

 

至近にいたら頭を撃ち抜いてやる所だ。

 

「いいだろう。 人質交換が終わり、人質が無事に此方のシェルターに戻るまでは少なくとも休戦を約束する。 ただし君達が各地の道を封鎖したり、人々をさらうのを続けるのであれば、此方としても相応に対応する」

 

「あのなあ。 お前が言う通り悪魔全てを抑えるのは確かにできていないかもしれん。 だがはっきりいうが、赤玉がなくなれば、もっと被害は拡大する! 俺が、役立たずどもを犠牲にして、都民を守っているんだ!」

 

「お前の主観の役立たずなんて言葉など、何の意味がある! 未来を作る幼子や、知識を未来に渡す老人、病を治せば働ける者や、戦えなくても技術を持つ者! お前の東京では、そういう人々が殺され続け! それで未来がなくなっている! お前の寝言は全てが詭弁だ!」

 

珍しくフジワラが激しい言葉でタヤマを面罵する。

 

タヤマとフジワラでは、フジワラの方が実力が上だ。フジワラが本気になった場合、必殺の霊的国防兵器を繰り出さない限り、阿修羅会は全滅する。天の軍勢とやりあった三人のうちの一人であるフジワラ。もう一人のツギハギ。その戦力は圧倒的で、阿修羅会のチンピラなんて雑兵に等しい。

 

それも霊的国防兵器は阿修羅会の最重要拠点を守っているため、戦いには繰り出せないのだ。

 

「……人質交換だ。 日時場所は此方で指定する」

 

「おのれ。 いつまでも好き放題出来るとは思うなよ」

 

「それは此方の台詞だ。 少しでも舐めた真似をして見ろ。 そのタワマンを、私が粉々に消し飛ばしてやるからな」

 

フジワラの強力な手持ちの何体かは、実際にそれが出来る。

 

通信を切る。

 

霊夢が最初に言う。

 

「あのタヤマという男はただの小物ね。 問題はあのアベという男だわ」

 

「同感だ。 あれはただ者では無いぞ」

 

「私の方でも奴には注意している。 内偵はしているのだが、どうにも正体が分からない。 阿修羅会の古参幹部というわけでもなく、上位団体からの出向者でもないようだ。 ともかく、注意すべきなのは事実だろう」

 

志村が指示を受ける。

 

人質交換についてだ。

 

咳払いする霊夢。

 

以前捕獲したハレルヤという青年だ。あいつには、ちょっと注意した方がいいということだった。

 

「あいつ、恐らく高位悪魔と人間の合いの子よ。 実力もかなり高いとみて良いわ」

 

「それは厄介ですね……」

 

秀と同じ合いの子についての発言だが、高位悪魔と来たか。

 

人間と悪魔の合いの子は、幾らか例があるらしい。ただしかし高位の悪魔が相手となると、危険度も増す。

 

以降は最大限まで警戒度を上げなければならないだろう。

 

「一応結界で身動きは封じたし、記憶も出来るだけ飛ばしておいたけれど、シェルターの何処まで入り込まれているかも、記憶を完全に消せたかも分からない。 手持ちの悪魔も全て回収しておいたけれど、それでも油断しないで」

 

「そろそろわしが陣頭指揮を執る頃合いかもな。 もしもわしの存在が阿修羅会にばれた場合は、次の段階に入る」

 

銀髪の娘についている存在が言う。

 

明確な戦略を示してくれるのは助かる。

 

すぐに全員で動き出す。

 

相手は阿修羅会。今になってもまだ反社として生きている連中。油断だけは。してはならない相手だ。

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