色々ありましたが、ついにフリン達は永田町へ本格的に進出開始。
上野駅での地盤を確保したと判断したためです。
そして永田町に出向く途中。
巨怪を目にすることになります。
序、永田町へ
此処と上とでは時間の流れが違う。それについては、ほぼ確定だろうという事が幾つかの事で検証できた。
ヨナタンの提案で、時間を測りながら移動したのだ。
時間を計るのには砂時計を最初利用したが。上野駅で時計を譲って貰ったのだ。バロウズが確認したが悪魔に汚染されている事もなく、手につける事ができるとても小型でコンパクトなものだが。今は誰も使っていないのだと、寂しそうに譲ってくれた老人は言っていた。
僕がつけると多分壊してしまうので、ヨナタンに預ける。
バロウズに調整して貰って、時間をそれで確認したのだ。
永田町に向かう途中、何度も悪魔と戦い。その度に周囲を掃討して。とにかく人間に対する危害を為す悪魔を倒し。話が分かる悪魔がいる場合はどんどん仲魔にして戦力を拡充。ただ、一度で進むのは厳しい。
遺物がある建物は途中にもたくさんあり、何度かに分けて運び出す必要もあった。
この東京の方が明らかに人が困窮している。だから、まずは人外ハンター協会に持ち込んで、それで必要としているものは譲ってマッカに換えてもらった。パソコンに関しては譲って貰うことにしたのだが。パソコンと言っても部品から何から色々あって、中には本くらいの大きさのものもあって驚かされた。バロウズがいうには、ガントレットも広義ではパソコンになるらしくて、それで驚かされたものだ。
ともかく得られたもののうち、東のミカド国に有用なものはターミナルを用いて運び込む。
他のサムライの分隊も何度か行き来しながら、情報を集めているようで。何回か情報交換をしながら、行動範囲を拡げていく。
その過程でターミナルに戻って何回か検証をした結果、どうやら東のミカド国と東京では、時間の流れの速度が六十倍程度違っている事がはっきりした。
六十倍と聞いて、イザボーが思わず声を上げていたほどだ。
ワルターは意外と平気そうである。
「時間が六十倍違うと言っても、俺等が六十倍の速さで年を取る訳じゃねえ。 別になんともおもわねえよ」
「ワルターはその辺りドライだね。 ヨナタンやイザボーは?」
「僕は元々サムライとして好きに振る舞うようにと言われている。 家の方は気にしなくていい。 更に僕に何かあった場合でも、跡継ぎは別にいる」
「私はもともと変わり者で、家族も跡取りとしては期待しておりませんでしてよ」
僕はもう家族もいない。イサカル兄は多少心配だが、あっちはあっちで別の人生を送っている。
僕が関与する話でもない。
とりあえず、分かった事はホープ隊長に話をしておく。それで僕達は、東京に戻って、とにかく永田町という方に向かう。
人外ハンターの本部があるというのが其方にあるシェルターらしいのだ。
東京には幾つかの勢力があり、その中でもっとも話が通じそうなのが人外ハンター協会だというし。
まずは本部に話をしにいくのが一番早いだろう。
道中では悪魔が強くなる一方だが。
途中で、四角い鉄の箱とすれ違った。馬に乗った悪魔が引いていたが、首がなかったように思う。
「なんだろあれ」
「そういえばああいう鉄の箱がたくさんあるな」
「あれは自動車というものよ。 元は自走する機能を持っていて、人々が足代わりに使っていたの。 現在ではその機能が失われてしまって、馬代わりの悪魔が引いて走っているわ」
「なるほど、此方での馬車に相当するものか」
ヨナタンは理解が早い。
頭が硬いかというとそういう事もない。
しばらく移動していると、背が高い建物が増えてきた。半ば崩れてしまっているものも多い。
悪魔がたくさん彷徨いているが、全部が敵意を持っている訳ではない。
そういった建物の影で、細々と暮らしている人もいるようだ。
声を掛けるが、自衛はどうにか出来ているらしい。
食糧も最近は供給を受けているとかで。近々武器を手に、悪魔を狩りに出かけるのだと言っていた。
かなり遠出をしていて、そろそろ今日は野宿を考えなければならないタイミングか。
そう思っていたとき。
ドンと、激しい爆発音がした。
戦闘の音だ。
巨大な建物が倒壊しながら、崩れ落ちてくる。悪魔が逃げ散っているのが分かった。僕も距離を取るが、それにしても本当に山みたいな建物だ。
「どうみても戦闘ですわね」
「一体何がやりあっているんだ?」
「あれだね」
僕が指さしたのは、翼のある悪魔。それと、もう片方は空を飛んでいる人間か。
悪魔に魔術を教わって飛べるようになるサムライがいるという話は聞くが、そういうものだろうか。
翼のある悪魔については、バロウズが解析してくれる。
「堕天使フルーレティよ。 三体の地獄の支配者に使える六体の大悪魔の一人で、中将の地位にあるらしいわ。 雹を扱う悪魔で、暑い土地に住んでいるという伝承があるわ」
「雹を使うのに暑い土地に住んでいるのか!?」
「つくづく悪魔ってのはよく分からない連中だな……」
「夜に力を増す悪魔と言う伝承もあるわよ。 東京ではかなり手強い悪魔となるでしょうね」
それはどうだろう。
六十倍の計算をするならば、今は多分昼だ。
飛んでいる人間が、飛ばしているのは針か。猛攻で追い込んでいるようだが、空を自在に飛ぶ力を使って、フルーレティも応戦しているようだ。
まあ、手助けするのは人間で良いだろう。
それに、あの調子で暴れると、この辺りに住んでいる人間が酷い目にあう可能性も高い。何よりも、どうみても人間に友好的な悪魔とも思えない。
自己強化の魔術を重ね掛けする。
それを見て、ワルターが口笛を吹いた。
「手助けか。 槍で串刺しか」
「いや、し損じて牙の槍がなくなっちゃうと困るからね。 だから、これを使う」
側に落ちている、建物の破片。
この破片も、石のようで違う。ずっと重いし、中になんだか骨みたいな金属が入っている。
だが、質量があるという時点でそれが武器になる。
末の子を喚び出す。
末の子は雷の魔術を鍛えていて、それを使って線を延ばす。
弓なんかに添えるものに近い。
射撃するとき、目安にするためのものだ。
僕はしばらく戦闘を確認。数手先まで読む。
フルーレティは高空を常に維持していて、更にはもう少し低い所にかなりの数の悪魔がいる。
あれは恐らくだが、フルーレティのおこぼれに預かろうとしている連中だろう。空飛んでいる人がやられたら、寄って集って八つ裂きにされてしまうとみて良い。
「フルーレティの動きを僕が止める。 あの火力からして、飛んでいる人がフルーレティは倒してくれると思う。 問題は他の悪魔達だね。 一斉に来るとみて良い」
「上等だ。 全部畳んでやるぜ」
「その通りだ。 僕としてもこの辺りの人々の安全を少しでも確保したい」
「相当な数がいますわ。 後を考えると、大暴れ、では困りますわよ」
しっかりイザボーが釘を刺すのを聞きつつ。
僕は踏み込んで、全力で建物の欠片を投擲していた。
よし、狙い通り。
フルーレティは飛んでいる人が放った針、だろうか。それを魔術の壁で防いでいたが。そこに僕が投擲した欠片が、音の速度を超えながら直撃。本来なら此処までの速度は出ないが、悪魔との戦いで力が上がっている所に、何倍も強化の魔術で補助を入れている。しかも強化魔術にも慣れてきていて、制御も出来るようになってきている。それで、直撃を入れられた。
完全に態勢を崩した所を、飛んでいる人が放った光の魔術らしいものの直撃を受けて爆散。
墜落していくフルーレティの残骸に、更に飛んでいる人が踵落としを叩き込んで、文字通りのとどめ。
他人事のように、荒っぽいなあと、頭を完全に粉砕され、マグネタイトになって消滅するフルーレティを遠目に見ながら思う。
同時に、わっと多数の悪魔が飛来する。飛んでいる人は低空に切り替える。この様子だと、下にも仲間がいるらしい。
良いだろう。
あの人、相当な使い手だ。多分人外ハンターでも屈指の使い手ではないのだろうか。だとすれば、連携出来れば話が早い。
飛んでくる悪魔は、どれも翼持つ者で、鳥だったり堕天使だったり。だが、フルーレティほどの者はいないようである。牙の槍を手に取る。強化魔術は消えていない。既にヨナタンとイザボーは、悪魔を展開し終えている。僕も悪魔を展開。
対空砲火、開始。
一斉に射撃を開始する僕達の悪魔。火焔、冷気、烈風、雷撃。光と、連続して、それぞれが叩き付けられる。一つや二つを防げても、その全ては無理だ。立て続けに統率を取れた射撃が飛んでくるのに対し、雑多な悪魔は算を乱す。
其処へ多分飛んでいた人の仲間か仲魔か分からないが、とんでもない冷気の竜巻が襲いかかる。範囲といい火力といい桁違いだ。
一瞬で粉々に砕ける悪魔が多数。
口笛を吹く。
此処まで凍り付きそうな火力だ。あの悪魔達、むしろいいように誘き寄せられたのではあるまいか。
それでも弾幕を抜けて肉薄してくる悪魔達を、僕とワルターが前衛に立ち。大型の悪魔達も壁になって迎え撃つ。
また、ヨナタンもパワーという悪魔を前に並べる。
中級三位の天使であり、プリンシパティが更に転化した天使だ。
戦闘を担当している天使であるらしく、その分悪魔の影響を受けて悪に落ちやすいのだとか。
ちなみにパワーというのだが、「力」天使ではなく「能」天使であるらしい。「力」天使はパワーの上位のヴァーチャーが該当するのだとか。ちょっとこの辺りは、どうしてなのかよく分からない。
魔法の言語への翻訳は、時々おかしな事になるのだが。理由を知っている有識者に聞きたいものだ。
「よし、行ってこい!」
「任せよ」
ワルターが呼び出したそれは、鬼やナーガよりも更に大きい。
四つ足の巨大な獣で、鼻が長くて、色がとても白い。
聖獣アイラーヴァタというらしい。
象という動物が神の乗り物となった存在らしいのだが。象なんて生物知らない。多分東京にいる人達も、殆どがそうだろう。それもあって、かなり弱体化しているそうだ。
ただ。それでも巨大な図体である。
文字通り寄ってくる雑魚を蹴散らして、踏み砕く巨大な象に、明らかに雑魚が怯む。
更に高所からの狙撃が加わる。あれは定点に誰かが陣取っているようだ。
悪魔達はフルーレティとの戦いで弱った所を大軍で押し包みに来たんだろう。だが、今の展開はそうじゃ無い。
逆に誘いこまれた挙げ句に、蹂躙されつつあるのだ。
目端が利く悪魔は、土下座して助けてと頼んでくる。僕は適当に取り押さえさせつつ、抵抗する悪魔を牙の槍で次々刺し貫く。
一つ目の巨大な人型がうなりを上げて突貫してきたが、その分かりやすい弱点。目を、跳躍しつつ抉り。更にはそこを支点に半回転しつつ、首を後ろから刎ね飛ばした。着地と同時に倒れる一つ目の巨人。
邪鬼サイクロプスというそうだ。
そうか、としか言えない。マグネタイトになって消えていく巨人を見送るだけだ。
これで一段落か。そう思うが、ぞくりと背筋に悪寒。
どうもそうはいかないらしい。
地面が揺れる。
何処かから声が響いた。威厳がある男性の声だ。
「一度散開! 地下から強いのが来る!」
「ひっ、待ってくれ! しにた……」
地面に倒れて動けず悲鳴を上げた悪魔を、十体以上ばくんと食べながら、それが姿を見せる。
巨大な、なんだあれ。
ずんぐりとした巨体だ。それはガツガツと悪魔の残骸を貪りながら、体を地面から引きずり出す。
随分と丸っこくて巨大な悪魔。アイラーヴァタよりも更に大きい。丸っこい体だが愛嬌はなく、筋肉質で、いかにも獰猛というのが一目で分かる。
「妖獣ベヒモスよ。 カバという生物が元になっている、一神教における災いの獣の一つね」
「随分でかいな……」
「理由があってこの国では知名度が高かったの。 だからとても手強いと思うわ。 最悪撤退も視野に入れて」
「いや、これは逃がしてくれそうにないね」
二本足で立ち上がると、凄まじい雄叫びを上げるベヒモス。
そして、巨大な二本の牙が生えた口を大開きすると、辺りの空気ごと膨大なマグネタイトを吸い込んでいく。それで吸い込まれてしまう雑魚悪魔も多く。それをばくんと食べ、むっしゃむっしゃとかみ砕き、豪快に咀嚼するベヒモス。
これは、大量の悪魔の気配に釣られて出て来たんだ。
だとすれば、此処にある漂っているマグネタイトと、それにエサ……僕達のことだけれども。
食べ尽くすまで暴れるだろうし。
暴れ出したら止まらないだろう。
「それでどうする?」
「向こうの人達と連携する。 とにかく目と足を狙って集中攻撃。 攻撃は擦るだけでも即死だと思うから、気を付けて!」
「よし……ひりついて来やがったぜ!」
ワルターが好戦的な笑みを浮かべる。
僕は少し離れるようにハンドサイン。
ベヒモスが地面に、前足を叩き付けると同時に、地面が激しく揺動していた。
霊夢は新たに現れたベヒモスを見て舌打ちしていた。
フルーレティは実際の所、実体がない悪魔だ。ソロモン72柱の一角であるフラウロスが祖であるとされる説もあるほどで、どこかしらの神が貶められて一神教で堕天使扱いされた形跡もない。その割りにベルゼバブの直近の部下で一緒に住んでいるなどと言う、大物ぶった設定がされている。
だから倒すのは逆に面倒だった。
半端に知名度があり、それで弱点もないからである。
奴との戦いで付近の雑魚を引き寄せて、秀とマーメイドと連携して、付近の人間に害為す雑魚悪魔をまとめて始末するつもりだったのだが。
こんな大物が釣れるとは想定外だ。
奴が前足を地面に叩き付けると同時に、激しい地震じみた破壊が辺りを襲う。ただでさえ脆くなっているビルが複数倒壊する。
だが此奴は地下に潜んでいたわけで。
いずれは倒さなければならなかったのだと、自分に言い聞かせ直す。そして、手札を切ることにした。
ベヒモスは、一神教の聖典では最終的に食糧となる。終末に海の巨大悪魔であるレヴィアタンと相争って倒れた所を、人々の糧となるのだ。
つまりその弱点は水。
しかも海水だ。
だが、規格外マーメイドの力を持ってしても、あの巨体を一撃とはいかないだろう。
ベヒモスが空に向けて吠え猛る。
それだけで、周囲の人外ハンターは腰砕けになる。
耳につけている通信装置から、指示が来る。指示は殿からのものだ。
さっきも殿の一喝で、多少は冷静になれた。
昔だったら即時撤退を選んでいただろう。
魔界に足を運んだこともある霊夢だ。
こういった巨大悪魔の戦闘能力については、嫌になる程知っているのである。
「ベヒモスとやらを調べた。 どうやら海の巨獣と相討ちになる定めのようだな」
「ええ。 でも一神教の重要な悪魔であり、七つの大罪の一角であるレヴィアタンを神降ろしは出来ないわよ」
「日本神話の海の神格は」
「……素戔嗚尊は無理ね。 残念だけれど封印されていて、力を出し切れないわ」
素戔嗚尊は日本神話の三貴神とよばれる最重要神格の一角。典型的な暴風神であるが、そもそも海を任された存在であるため、元は海の神としての性質も持っている。
他にも海幸彦など海に関わる神格はいるが、少し非力すぎる。降ろしてもベヒモスには対抗できないだろう。上位の海神だと大綿津見神が存在するが、これは残念ながら素戔嗚尊同様封印されてしまっている。
かといってベヒモスを海に陽動するのは無理だ。
途中にある集落やビルを根こそぎにされるし。
どれだけの人的被害が出るか分からない。
此処で、なおかつ速攻でこの巨体を仕留めるしかない。
その時、ベヒモスの目に、立て続けに魔術が炸裂。鬱陶しそうに体を振るベヒモス。ぼろぼろと土塊が体から落ち、それから悪魔が生じている。
さっき、フルーレティに痛撃を入れた連中か。
「マーメイドと相談しろ。 大きめの海の魔術を使えるか、それを確認して、必要なら膳立てしろ」
「ええ、それしかなさそうね。 時間を向こうに稼いで貰いましょうか。 志村さん、小沢さん、聞いている? 人外ハンターは下げて。 巻き込まれるだけよ」
「分かった! 武運を祈る!」
更に立て続けにベヒモスに魔術が叩き込まれるが、巨体が巨体だ。四つ足なのに、背中までの高さが二十メートルはある。あんなもの、まともに暴れられたら怪獣映画より悲惨な事になる。
当然、殆ど魔術も効いていない。
だが、意識がそっちに向く。
着地。
マーメイドが地面から顔を出す。秀もこっちに来ていた。
「集合。 作戦を決めるわよ」
「流石にあんなに大きいと、冷気の魔術でも倒し切れるかどうか……」
「話を聞いていたと思うけれど、海の魔術で力をそぐわ」
「それにしても何かしらの媒体がないと……」
秀が挙手する。
手持ちがあるというのだ。
海に関わる妖怪が複数手持ちにいるという。そうなると。
むしろ呼び出すのは山幸彦か。
「あっちに四人くらいいるわ。 とても強いけれど、ベヒモスには足止めくらいにしかならないと思う」
「マーメイド、あんたは海を呼び出す大魔術を準備。 あたしと秀で、それを増幅するためのお膳立てをする。 いける?」
「膳立ての次第かな」
「よし、やるわよ!」
祝詞を唱え始める。地面に降りたっての、全力詠唱だ。
あいつは流石に今の霊夢でも単騎では斃せない。
日本神話系の神々が封印されていなければ、大綿津見神の力を利用して、一気に押し流すことも出来たかもしれないが。それも今の状態では出来ないのだから、仕方がない。
ベヒモスが、白い象の悪魔を蹴散らしているのが見えた。
向こうも必死に大量の魔術で視界を封じつつ、散開してベヒモスを翻弄しているが、時間の問題だ。
ドローンが来る。
地獄老人が作ったものだろう。
「通信は任せろ。 あっちに声を届けてやるわい」
頷く。
連携戦だ。
あの巨大悪魔を、此処でぶちのめす。
倒せば伝承通り、膨大な食糧に変換できるかも知れない。そうすれば、むしろ得になるかもしれなかった。