女神転生シリーズでも良く登場するベヒモス。でかいつよいかたいと、男のロマンの見本みたいな悪魔ですが、実際の所元は99%ただのカバです。まあそんなものです世の中。
ただこのベヒモス、イスラム教での名前があまりにも日本で有名なこともあり、日本では妙に別の意味で知られている悪魔ではありますね。
ちなみに自分もかなり好きな悪魔です。
何しろでかくてつよくてかたいので、敵として出すととても栄えるんですよね。
今回はそんなベヒモスと、ついにフリン達と英雄達が共同して戦う事になります。
これ以上強化魔術は掛けられない。僕は走り回りながら、隙を見てベヒモスの口や目に、瓦礫を叩き込む。
目に直撃しても、それでも鬱陶しがるだけ。瞼に当たってしまうと、痛みすら与えられないようだ。
ベヒモスは動きがそれほど早くないように見えるが、大きさが大きさだ。一歩歩くだけで、こっちに余裕で追いついてくる。
大きく息を吸い込むベヒモス。
まずい。
「全員、瓦礫とかを盾に!」
あわてて皆、散開して逃げ込む。
ベヒモスが、凄まじい雄叫びを上げるが、それはもはや空気による暴力だった。
台風なんて鼻で笑うような風が、辺りを文字通り蹂躙する。吹っ飛ばされる瓦礫。崩れる巨大な建物。
さっき細々と生きていた人達を見た。
進ませると、絶対に巻き込まれる。
要領よく逃げてくれているといいのだが。
「其処の四人、聞こえるか!」
耳がおかしくなりそうだが。
空を飛んでいる何かから声がする。さっきの威厳ある男性のものではなく、なんだか性格が悪そうな老人のものだ。
「足止めを頼む!」
「……足止めで、どうにかなるのかよ」
「なる!」
「ほう、面白い。 人間の浅知恵で我が輩をどうにかできるというのであればやってみよ」
ベヒモスが喋る。
まあ、喋ってもおかしくは無いか。
また空気を吸い込み始める。僕はその喉に向けて、また瓦礫を叩き込む。殆ど打撃にはならないが。
本命は違う。
鬱陶しそうに首を振るって瓦礫を弾き返した瞬間。
隙を突いて、ヨナタンの天使達が一斉に襲いかかっていた。
先頭に立ったパワー達が勇ましく槍を構えて躍りかかる。目を突き刺され、流石に五月蠅そうにしたベヒモスが、二本足で立ち上がると、腕を振るって天使達を瞬時に粉みじんにする。
同時に僕とワルターで奴の足に仕掛ける。僕が右側。ワルターが左側。
それぞれ渾身の一撃を叩き込むが、多少皮膚を抉る程度だ。
そのまま、全力で跳び離れる。
前足を振り下ろしに懸かるベヒモスだが、その時僕の魔術戦部隊の悪魔と、イザボーの悪魔達が、一斉に足下へ冷気の魔術を叩き込む。続けて火焔の魔術。ベヒモスは軽い軽いと笑っていたのだが。
次の瞬間、態勢を崩していた。
僕も知っている。
急に熱いものを冷ますと壊れる。
しかもベヒモスが、散々踏んだり蹴ったりした地面だ。しかも穴から這い出してきたのである。
この辺りの地面は脆くなって滅茶苦茶。
そこに渾身の熱魔術と冷気魔術をぶち込めばどうなるか。
その上、大量の水分もあって、ベヒモスの無理な二足での立ち上がりは、滑るという結果に到達したのだ。
横倒しになったベヒモスが、巨大な建物に倒れかかるようにして倒れ。その上に、今まで良くもやってくれたなといわんばかりに、建物の残骸が降り注ぐ。それを五月蠅そうに腕で払うが。
僕は渾身の突撃技を使い、足につけた傷に更に一撃を叩き込む。
皮膚を割いて、確実に肉まで通る。
だが、ベヒモスの尻尾が、僕をはたく。ワルターが飛び出してきて大剣を盾にして庇うが、二人まとめて吹っ飛ばされていた。
「フリン! ワルター!」
「プリンシパティ! 回復魔術を!」
吹っ飛んだ先が、幸運にも柔らかい地面だった。ワルターは少し離れて、頭から上半身地面に突き刺さっていた。
僕は骨が何本か折れて激痛が走る中、ワルターを地面から引っ張り出す。
二体だけ生き延びていたヨナタンのプリンシパティ達が、回復魔術を全力で掛けてくれる。
それでも激痛が酷い。ワルターは目を回していて、意識が戻らない。
それに、大剣は折れてしまっていた。それだけですんだのだから、マシだろうか。牙の槍も、今のでかなり傷んだ。一度鍛冶屋に持っていかないと駄目だろう。
「おのれ羽虫どもが……!」
ベヒモスが瓦礫を押しのけながら体を起こす。右後ろ足に僕が穿った傷が再生しているのが見える。
あの巨体で再生能力か。歯を噛みながら、ワルターを担いで走る。天使達はその間も回復魔術を掛けてくれているが、間に合うか。
後ろから、激高したベヒモスが追ってくる。
降り立った末の子が、雷撃魔術を必死に叩きこんでくれるが、目くらましにしかならない。いや、目くらまし。
僕は敢えて声を張り上げる。
「図体だけのうすらバカ! こっちだよ!」
「巫山戯るな小虫の分際で! 貴様など喰らおうとも思わん! 踏みつぶしてくれるわ!」
ハンドサインを出す。そのまま僕は走る。
完全に怒りに目が眩んだベヒモスは走るが、そのまま、自分が開けた大穴に、真正面から突っ込んでいた。
巨体だけあって質量も凄まじい。
右前足を突っ込んで顔面から地面に突っ込み、それで顔がぐしゃりと凄まじい音を立てていた。
血がこっちまで飛んでくる。
あれは痛いと、イザボーが戦慄しながら言う。
そして、その時。
時間稼ぎが、意味を為したようだった。
巨大な黒い影が、ベヒモスに覆い被さる。
いや、まて。
辺りがいつの間に、大水に浸されている。
しかもこれ、塩水か。
「な、なんだ貴様っ! お、おのれええっ!」
「海坊主か。 海の妖怪としては最大級の一角。 従えているのは流石だわ」
「長くは呼び出せない。 急げ」
「分かっているわよ。 山幸彦、しおみちのたまの力を全力に!」
更に塩水が溢れ、ベヒモスを包み込む。あの巨大な黒い影が、暴れるベヒモスを抑え込んでいるが。
生きているかのように海水がベヒモスに絡みつき。それでベヒモスは恐怖の声を上げていた。
「う、海が何故こんな所に来る! よせ、離れろ!」
「耳を塞いで!」
澄んだ声。鈴を鳴らすようなという表現が相応しい、だが何処か憂いを秘めた声。
僕もあわてて耳を塞ぐ。
同時に、振り払われた黒い影。
ベヒモスが暴れようとするが、その時にはその全身を、海が覆い尽くし。それどころか、完全に凍結させていた。
悲鳴さえ上がらず、ベヒモスの全身が硬直する。
こっちまで、真冬のような冷気が吹き付けてくる凄まじさだ。
まだもがこうとしているベヒモスだが、その目が白く凍り付くのが分かった。
死んだ。
恐らく、海そのものが奴にとっての弱点だったのだ。ただ、辺りの塩水がいつの間にか消えている。
ベヒモスと相討ちになって、かき消えたと見て良かった。
凍り付いた巨体が、どしんと凄まじい地響きとともに倒れる。
「冷凍肉、1丁上がりか」
「解体はそっちでやりなさいよ。 人間とか食べてそうだし、あたしはいらない」
「どうせ悪魔肉だ。 冷凍しておいて、非常用に使う程度で良かろうよ」
空にある機械と、空を飛んでいた女が話している。
僕は疲れ果てて、ワルターを降ろすと、へたり込んでしまった。生き残った魔術班の悪魔が、回復に切り替えてくれるが。今の体調だと、すぐには動きたくは無い。
こっちに来る三人。一人は悪魔だ。
紅白の……なんだろう。不思議な衣服を着た女。飛んでいたのは彼女だ。一目で分かるが、歴戦も歴戦の猛者だ。
もう一人は、黒い髪の美しい武人の女だ。口をへの字に結んでいなければ、多少は愛嬌があるかも知れない。
不思議な鎧を着ていて、なんだか丸い紋みたいなのが書かれていた。
最後の一体はマーメイドか。
僕も時々見かけた人魚だ。
だが、何度か見かけた人魚とは力が桁外れどころではないことが分かった。最後の大魔術、多分この二人のお膳立てがあったとは言え、それでも文字通り驚天の技だったと言えるだろう。
「その格好、少し前に上野に現れたっていう侍を称する集団かしら」
「ああ。 僕達は東のミカド国より来たサムライ衆だ。 彼女が僕達のリーダーのフリン。 僕はヨナタン、其方の気絶しているのがワルター。 彼女がイザボーだ」
「あたしは博麗霊夢。 そっちの子は、正式には違うらしいけれど秀と呼んでいるわ。 其処のマーメイドは途中から手を貸してくれているけれど、ちょっと素性は分からない。 なにか目的があって此処に来ているらしいわ」
「よろしく」
ヨナタンが好意的に話を進めてくれていて助かる。
僕は挙手する。
ちょっとフラフラだ。
「ごめん。 霊夢さん。 貴方がリーダーだよね」
「霊夢でいいわよ。 見た所同年代みたいだし」
「ありがとう、お言葉に甘えさせて貰うね。 ちょっと色々フラフラなんだ。 休めるところ、ある?」
「こっちで引き受けよう。 どうせサムライとやらとは、一度接触しておきたかったんだろう?」
空にある機械から、老人の声。
色々と不可解な事だらけだが。
まあ、どうにかこの場は収まりそうで良かった。それだけしか、今はちょっと余裕が無くて考えられなかった。
鉄の箱が悪魔に引かれてやってくる。それも一台じゃない。それに、巨大な体格の悪魔達が冷凍肉を切り分けて乗せている。
元々ベヒモスは最終的に食べられる、という逸話があったらしいので、肉も残ったのだろう。
ある意味哀れな最期とも言えるが。
ただ、あいつの暴れ回った後と、放置した場合の被害を考えると、あまり同情は出来なかった。
鉄の箱の一つに乗せて貰って、移動する。
ワルターはもう目を覚ましていて、不甲斐ないところを見せちまったと苦笑い。まあみなボロボロだったのだ。
僕だってへたり込んでいたし、他の人の事は言えない。
鉄の車には霊夢という人も乗って来ていたので、軽く話す。
「その紅白の服はなんなんだ。 頭に赤い頭巾も着けているようだが」
「これは千早と言ってね。 巫女が着る服よ。 ただしあたしのは趣味で色々改造しているけれど」
「どれもこれも聞いた事がない単語だな……」
「普通に日本語を理解出来ているのに、会話が通じないのも不思議な気分ね。 東のミカド国だったかしら? この上にあると聞くけれど、一体どんな文化があるの?」
霊夢という人はやはりこっちを警戒している。今の時点では、向こうの方が二段くらいは力が上だ。
ただ此方としても、色々と話はしておきたい。
ヨナタンが東のミカド国について説明する。身分制度や王政だという話を聞くと。霊夢ははっと鼻で笑っていた。
まあ、僕としてもなんでラグジュアリーズが偉そうにしているのかは色々疑問がある。
ただこっちはこっちで、そもそも国家とかそういうものさえ無さそうだが。
「此方としても聞かせてほしい。 今向かっている国会議事堂というのは一体なんなのだ」
「其方で言う所の一番偉い人達が、話し合いでものごとを決めていた場所、らしいわよ。 大戦やらで機能しなくなって、今は中は空っぽ。 その下にある避難所として作られたシェルターが、あたし達の本拠ってわけ」
「避難所か。 大戦というものは、それほどに凄まじかったのだな」
「あたしは最近来たばかりだからなんとも言えないわね。 こっちとしても、故郷の平穏がかかっているから、もたついてはいられないのだけれど。 流石にこの惨状を放置はしていられないわ」
霊夢という人は、幻想郷という更に別の場所から来たらしい。
そこも天使やらロウ勢力を名乗る存在に攻撃されたと聞いて、ワルターが興味を示す。
「東京はかなり前に滅茶苦茶にされたみたいだが、そっちは大丈夫だったのか」
「大丈夫じゃないわよ。 今のあたしよりも数段強い奴や、あたしが此奴が死ぬわけがないって思っていた奴が大勢殺されたわ。 激しい戦いの中、必死に何とか生き延びて、相手が根負けして引いてくれたからどうにか一段落。 その後態勢を整えて、状況を確認しにあたしは出て来た、て訳。 昔はこういうのを「異変解決」なんて言って遊び半分にやっていたのだけれど、今回はそれどころじゃない殺し合いね」
「どこでも悪行を行っているんだな天使ってのは」
「しかし僕が従えている天使は秩序に忠実で、虐殺者とは遠い。 一体何が起きているのだろう」
ワルターが茶化すが、ヨナタンは冷静に応じる。
僕としても、何も法が無い世界なんぞクソ喰らえだとは思う。そんな場所では、多分人間なんかまともに生きられないだろう。
天使は秩序、法をとにかく大事にするべきだという話を時々ヨナタンとしている。それについては、実の所僕もある程度は同意できる。
問題はその法と秩序の内容だ。
例えばラグジュアリーズとカジュアリティーズの身分を作り、それで無意味な格差を作る東のミカド国の今の状況。
ラグジュアリーズは血統だけで優秀と勘違いし、カジュアリティーズからは本を取りあげ、何も教えない。
それを正しい秩序と法とか言われたら、僕としては賛同できない。
他にも幾つか話を聞く。
だが、此処についての詳しい話は、シェルターにいる人の方が詳しいと言われて、そうかと思った。
まあ、そうなのだろう。
話を聞く限り、霊夢という人も比較的最近此方に来た新参だ。それならば、歴史の生き証人に話を聞くべきだろう。
がたんと鉄の箱が何度も揺れる。
むかしはこういう鉄の箱が、揺れることもなく、たくさん走っていたらしいと聞くと。どれだけ荒廃したのだと、戦慄してしまう。
しばしして。
鉄の箱が止まっていた。
促されて降りると、そこには不可思議な建物があった。あれが国会議事堂らしいと聞かされる。
鉄の門があって、それがしっかり閉じられている。
現在内部は何度か悪魔を掃討したらしく、空っぽだそうだ。様子を見ながら、少しずつ残されている物資などを運び出しているらしい。
大きな鉄の箱がある。
あれは、なんだろう。
筒みたいなのがついている。
「物々しい鉄の箱だな」
「戦車というらしいわよ。 東京がこんなになる前は、陸上での戦いで最強だった存在らしいわ。 あたしの故郷でも存在は知られていたらしいけれど、それも悪魔には歯が立たなかった。 機械に詳しいお爺さんがいてね。 それが直して強くしようと考えているらしいけれど、現状はただの箱ね」
「戦車というとチャリオットのように使うのだろうか」
「いや、そっちの方があたしには分からないわね」
微妙に話が通じない。
霊夢という人が、衛士らしい人外ハンターに話をつける。そして、此処からはその人に案内して欲しいと言う事だった。
まだまだ彼方此方を回らないといけないらしい。
ベヒモスと戦った後なのにか。しかもその直前には、フルーレティともやりあっていたのに。
「まだこのくらいなら平気よ。 それにあいつらが此処を狙って来たから迎撃に出ていただけで、本当だったら戻る予定もなかったわ」
「タフだな」
「どうも。 ただこっちも戦いには慣れているのでね」
霊夢と別れて、案内される先は、あのエレベーターだ。ただしずっと小さい。
内部に入ると、降りる高さも、スカイツリーとは比較にならない程少ないようだった。
降りて、内部に入ると、光景が変わる。
辺りがとてつもなく清潔なのだと分かる。
どちらかというと、ずっと封じられていたターミナルに近いかもしれない。行き交っている人もいるが。
皆他の場所とは違う、清潔な衣服を着ていた。
「此方だ。 来て欲しい」
「一番偉い人の所に案内してくれるの?」
「いや、そこまでフジワラさんもフットワークが軽くはない。 まずは其方の話を詳しく聞かせてくれ」
「さっきも話しただろ」
ワルターが不満そうにいうが、イザボーが咳払い。
ヨナタンが応じると言うと、人外ハンターはやはり多少警戒しながらも頷いていた。
「あんたらは本当に天使じゃないんだよな」
「僕は手持ちとして天使を従えているが、あくまで手持ちとしてだ。 れっきとした人間だよ」
「わたくしも何回か合体材料としては使いましたけれども、それ以上でも以下でもありませんわ」
ヨナタンに対して、イザボーは天使の扱いがドライだ。
ヨナタンは天使について色々と思うところがあるらしく、とにかく増やして大事に育てている。
戦場では自爆特攻上等の戦い方をする天使達だが。
ヨナタンはそれを強要していない。
むしろとても丁寧に、礼をもって接していて。
それで天使も思うところがあるのだろう。
最近は何も言われなくても、ヨナタンに献身的に動いている様だった。
部屋に通される。
丸いテーブルと椅子が並んでいるが、テーブルも椅子も素材が分からない。椅子に座ると反発があって、思わず立ち上がってしまった。
椅子も座るとクルクル回るので、イザボーが困惑しながら立ち上がっている。ヨナタンは椅子を回しながら、こう言う仕組みなのかと感心していた。
ワルターはちょっと居心地が悪そうだ。
元々ガタイが大きいので、椅子が小さいらしい。大きめの椅子を人外ハンターが用意してくれて。それでやっと落ち着いていた。
「これはご機嫌だぜ。 基本木の椅子しかないもんな俺等の所だと」
「ああ。 この椅子は骨格に金属を使っているらしいが、しかしそれ以外の材料はなんだ……?」
「皮みたいだけれど、多分違うね。 生き物っぽくない」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは、下働きみたいな格好をした女性の悪魔だ。妖精シルキーとバロウズが教えてくれる。
丁寧に料理を出してくれるが、とても新鮮な野菜を中心に、僕らがみても美味しそうな品である。
一応毒にもある程度耐性がある僕から食べる。
何しろ農家の出である。
痛みかけの食べ物はどうしても口にするし、毒については口に入れてみれば分かる。
ちょっと違和感があるが、毒ではないと思う。
野菜については見た事もないものもあるが、充分にみずみずしくて美味しいと思った。皆にそれを告げて、食べさせて貰う。
東京の人達が食べている地獄のような食べ物は既に見ている。
あの地獄みたいな食べ物でも、ワルターは興味深そうに食べていたが、僕でもあまり美味しくは無いと思ったし。ヨナタンは拒否。イザボーは見るだけで気分が悪くなりそうな顔をしていた。
だが、それでも無駄にはしていなかった。
そんな食べ物でも、食べる事ができない人すらいる。
それが今の東京だと分かっているからだ。
今出されている食べ物は、まるで別物だ。僕の表情で察したか、皆も食べ始める。
まあ、そういう状態だから、警戒と同時に、向こうも興味を持っていると見た。
それに聞いていた話通りだ。
上野の人外ハンター協会でも言っていたが、新鮮な食べ物が出回り始めているらしいというのは聞いている。
出所は此処だろう。
確かに美味しいし新鮮だ。ちょっと味に違和感はあるけれど。
「この肉は何の肉だろう」
「豚でも牛でもないね。 鶏とも違う。 シルキー、これは何?」
「私にも詳しい仕組みは分からないのだけれど、機械が全て自動で作っているらしいわ」
「機械が……文明の桁が違いますわ」
絶句気味にイザボーが言う。
しばし美味しい料理をいただいた後、待つ。
トイレについても案内して貰ったが、全自動で汚物を流してくれる上に、とても清潔だった。
水もここは潤沢に使えているらしい。
その途中で、軽く見るが。
子供が、悪魔に指導を受けて、戦い方を習っていたり。お爺さんが本を読み聞かせて、勉強をさせていたりしていた。
他にも色々な仕事を、それぞれ分担してやっているようだ。
カジュアリティーズより組織化されているんじゃないかあれは。
そうとさえ思う。
部屋に戻って、少し待つと。
やがて、もう少しで引退だろう人外ハンターの戦士が来る。
志村と名乗ったので、此方も名乗る。
志村と言う人は、数体の悪魔を連れていたが。いずれもかなりの強者だ。ただし、どれも志村の手持ちには見えない。
「サムライとはいうが、名前は洋風なんだな」
「洋風?」
「君達の話を聞く限り、公用語と魔法の言語というのがあるんだろう。 そして実際に聞く限り、その公用語というのは英語と本来は言われているものだ。 魔法の言語は日本語と言われている」
「よく分からない話だな。 生まれつき使っているから、なんともおもわねえ」
僕もそれについてはワルターと同感だ。
それから幾つか互いに質疑をする。
志村の話によると、此処の一番偉い人はフジワラというらしいのだが。今はちょっと所用で出ていて、二日ほど戻らないという。
池袋という土地で危険な悪魔が暴れていて、それの威力偵察らしい。
手伝おうかというと、志村に提案される。
「我々としても、まだ君達を信用できる状態にはない。 それで、一つ今手が足りなくて解決できていない問題をどうにかしてほしいんだ」
「ああ、信用を得ろって事だね」
「そうなる。 東京の政治の中心だったのがここ国会議事堂だが、行政の中心だった東京都庁というものがある」
この辺りは土地としては「霞ヶ関」となるらしい。永田町は、その一角であるそうだ。
都庁というのは新宿という場所にあるそうで。その新宿は、大戦の前には世界でもっとも人間が行き来する駅だったらしい。
上野駅とも比較にならない規模だったとか。
「今新宿都庁に厄介な悪魔が住み着いていてね。 人を襲い喰らう危険な奴だ。 此方としても対処したいんだが、手が足りていない。 救うべき人を各地から救助するだけで手一杯なんだ。 霊夢さんらも各地のもっと厄介な大物なんかに対処するので手一杯の状態でね」
「分かった。 片付けてくるよ」
「助かる。 人外ハンターを何度も退けている相手だ。 くれぐれも気を付けて欲しい」
もう一つ、片付けて欲しいものがあるらしい。
此処のすぐ隣にちいさなシェルターがあるのだが。その中にターミナルがあるという。勿論悪魔も陣取っているそうだ。
そうか、それは片付けておきたいところだ。
行き来も楽になるし、一度報告のために東のミカド国に戻ることも出来るだろう。
新宿の場所をバロウズに登録。
それで、僕は腰を上げていた。
ターミナルにいる悪魔となると、弱い訳がない。
皆頷く。
太歳星君ほどの相手かは分からないが、それでも油断はとても出来なかった。
ついに出会うフリン達と英雄達。
状況が状況ですので、いきなり互いに腹の内を見せる訳にもいきません。
しかしこの両者の共闘が。
この地獄を終わらせる、鍵になるのです。
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