もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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ついに池袋攻略の準備が整います。

今も多くの人がリアルタイムで西王母に貪り喰われる地獄絵図。

そこへまず霊夢による威力偵察が行われます。これは池袋に展開されている結界などを、専門家が調べるためでもあります。

ただそれは当然、ガイア教団と鉢会うことも意味していました。






3、池袋威力偵察

霊夢は上空から、池袋に到達。途中で悪魔に何度か仕掛けられたが、いずれも叩き落としてきた。

 

スペルカードルールという、殺し合いにならない決闘方ですませられていた昔が懐かしい。

 

狭い幻想郷で殺し合っていたら、あっと言う間に誰もいなくなる。

 

だから霊夢の友人が考え出した、誰も傷つかない決闘方、スペルカードルール。弾幕ごっことも言われたそれだが。

 

当然、侵略してきた「天の国の兵士」だとかいう天使どもは、そんなものには乗ってくれなかった。

 

凄惨な殺し合いが始まり。

 

人間も神も妖怪も、散々殺された。

 

霊夢も殺しに慣れた。妖怪を退治するのは昔からやっていたが、本当の意味での殺しに、だ。

 

今は、悪魔をなんの躊躇もなく殺せるようになっている。昔から気性は荒く手も早い方だったが。

 

それでも今は、眉一つ動かさず、状況次第で人間も殺せるようになっていた。

 

この辺りが池袋か。

 

新宿に近い地域だが、確かに凄まじい有様だ。炎で全域が覆われている。

 

着地して、周囲を確認。

 

なるほど、これは厄介だ。

 

燃えさかるこれは、普通の炎ではない。下手をすると、内部の人間は全て食い荒らされるだろう。

 

赤い服……修行僧だろうか。そんな服をきた奴らと、その使役悪魔らしいのが、不意に周囲を取り囲む。

 

動きは統率が取れていて、自己鍛錬を欠かしていないのが明らかだった。

 

「空を飛んでいたな。 何者だ」

 

「最近此方に来た博麗霊夢。 今は人外ハンターに協力しているわ」

 

「……人間か」

 

「人間よ。 人間離れしているとは良く言われるけれど」

 

赤い奴らはしばし距離を取っていたが。

 

その中から、背の高い女が進み出てくる。

 

カガと名乗る。

 

霊夢は頷くと、何者かと聞いておく。

 

そして帰ってきた答えが、ガイア教団だった。

 

そうか、此奴らが。

 

東京を三分する人間勢力の一つ。力が全て、欲望全肯定、金。そういう組織だと言う事だ。

 

霊夢もどちらかと言えば金に関してはシビアな方だが。力がある奴は何やってもいいという理屈が、如何に幻想郷を蹂躙したかは間近で見ている。

 

そういう思想には嫌悪感しかない。

 

昔の霊夢だったら違っただろうが。

 

凄惨な絶滅戦を仕掛けて来た天使共の残虐行為を散々間近で見た身としては、そういう思想には絶対同意できなかった。

 

「かなりの力の持ち主のようだな。 何をしにきた」

 

「池袋に厄介なのがいるって聞いてね。 手がようやく空いたから、実際に見に来たわけ。 これは確かに厄介だわ」

 

「そうだな。 現在此方でも、突破を図れないか調べている所だが……」

 

「それより後ろの。 出て来なさい。 さっきからしつこいんだけど。 五月蠅いようだと潰すわよ」

 

気配を消して潜んでいるつもりだろうが、こっちは潜った修羅場の数が違う。

 

諦めたか、姿を見せる子供。

 

ナナシやアサヒよりもう少し年下か。肌が異様に白く、一目で分かる。暗殺者として徹底的に訓練され、感情も何も殺して生きる存在だ。

 

手に持っている大きな鉈が、もの凄く馴染んでいる。これは実際に、もう人も殺しているだろう。

 

カガという女が眉をひそめる。

 

霊夢の嫌悪感に気付いたからかも知れない。

 

「それほどの力を持ちながら、力を貴ばないのだな」

 

「この程度の力の持ち主なんて幾らでもいる。 あたしのいた場所でもそうだったし、この東京でもね。 井戸の中のカエルの勢力争いなんか興味ないんだわ」

 

「厳しい言葉ではあるが、その通りではあるのかもな」

 

「それよりも、突破は諦めなさい」

 

霊夢が言うと、ガイア教徒達は殺気立つ。

 

それはそうだろう。

 

此奴らは典型的な脳筋だ。

 

霊夢がいた幻想郷にも武闘派の仏教徒集団がいたが、あっちの方がまだ頭を使ってクレバーに動いていた。

 

此奴らは力を貴ぶ割りに、頭を使わなさすぎる。

 

「今軽く見て回ったけれど、この池袋、現時点で三重の結界が施されているわね」

 

「三重……?」

 

「此方としても此処に巣くっている西王母は倒すべき敵だ。 詳しく教えてはくれないだろうか」

 

「……まず第一にこの炎の結界。 これはそもそも本来はこの土地の神が持っていた所有権そのものを炎にしているものよ」

 

この国の神々は多くが封印されている。やったのはあの天使とかいう連中だ。それは間違いない。

 

問題はそれで空いた領土に、外来種が居座ったことだ。

 

その外来種が西王母である。

 

西王母は霊夢も知っている。

 

霊夢が敵対していた強大な相手……月。現実の月ではなく霊的な月で、其処に住んでいたのは月夜見を初めとする日本神話の一部神格と中華系の神々だったが。その首魁である嫦娥の悪辣さは、反吐が出る程の代物だった。

 

後から詳しい話は月から離脱した連中から聞いたのだが、今の霊夢でも不快感がこみ上げてきて、冷静に対応は難しい。

 

その月が、霊夢のいた場所……幻想郷に天使共が攻めこんできた事件に関わっているのだが。

 

ともかく月は既に破綻しており、殆どの神格は月が天使共に潰された時に殺された。だが、生き延びて地球に降り立った神格もいる。

 

それらの神格の内、明確に厄介者としてタチ悪く立ち回ったのが西王母だ。

 

何処で何をやらかしているか分からないから気を付けろ。

 

そう元月の武闘派神格であり、神降ろしについて指導してくれた神は言っていたな。その危惧が当たってしまった。

 

元々西王母は道教の古い神である。本来は凶暴な獣の神で、炎を噴く極めて荒々しい神格だった。

 

それが人間達の間で理想的な女神みたいに持ち上げられて、大人しそうな神格になった訳だが。

 

一度信仰が壊れてしまえば。

 

その凶暴な本質が剥き出しになる。

 

嫦娥が滅されたというのは良かったのかも知れない。

 

嫦娥までここで好きかってしていたら、はっきり言って手に負えなかっただろう。

 

「この国の土地の力を乗っ取って作った炎の壁だから、土地の神の許しがなければ通る事は不可能よ。 土地の神はどこで何をしているやらね」

 

「むう……」

 

「確かにどの悪魔でも焼け死ぬだけだった。 水も氷も効き目がないが……」

 

「そんな魔術通じないわよ。 そういったものの最上位の存在が壁になっているんだから」

 

更にもう二つの壁。

 

これが厄介だ。

 

西王母は現時点でこの炎で包んだ池袋の住人を片っ端から食い荒らしているようだが、それは自分を恐怖させるためだ。

 

恐怖を用いて自分の力を増している。

 

東京全域で残り10万だかしかいない人間を、池袋だけとはいえ手当たり次第にだ。

 

つまり先の事なんて考える脳みそが失われてしまっている。

 

神としてただの無差別な祟り神に落ちており。

 

神格としての最悪の意味での堕落を引き起こしていると言えるだろう。

 

その堕落を用いて、自分の力を最大限に増幅する結界を展開している。これが第二の壁。東京で悪魔が自分の領域を作る時にやる奴だが、西王母はもう一枚上手だ。

 

三枚目の壁。

 

それが、陰陽五行を利用した防壁である。

 

「池袋の五箇所に奴の手下の中華系神格が配置されているわね。 中華そのものがなくなってしまった今は、どれも最悪まで堕落した存在に落ちている筈よ」

 

「その五箇所がどうかしたのか」

 

「その五箇所から同時に力が西王母に供給され、西王母からもその五箇所に力を同時供給している。 要するに西王母とこの五箇所にいる堕落した祟り神を同時に叩かないと、まず西王母は斃せない。 その前提を満たしたとしても、相手は結界内で力を極限まで増幅している状態だけれどね」

 

つまり無敵バリアの二枚重ねと言う訳だ。

 

それを聞いて、カガが呻く。

 

そもそも立ち入れないし、立ち入った所で勝ち目がない。

 

「分かったら良いから帰りなさい」

 

「貴様はどうするつもりだ」

 

「作戦を立てるために一旦戻る。 道具類も準備しないといけないし、力が落ちているとはいえ、西王母と五箇所の要所を同時攻略するとなるとそれなりの人手が必要だわ」

 

さて、話を聞くだろうか此奴ら。

 

デタラメだとか抜かし始めたら、ぶん殴るしかなくなる。

 

霊夢としても、この人数を殺さずに黙らせるのは手間だ。

 

だが、意外に。

 

カガという女は、物わかりが良かった。

 

「……どうやら、いずれにしても今すぐの攻略は不可能なようだな。 我々も引くぞ。 情報収集がいる。 炎の周囲に群れている悪魔を駆除する人員以外は、情報収集に移行せよ」

 

「承知!」

 

ガイア教徒が引いていく。

 

鉈を持った子供は、しばし霊夢を見ていたが。視線を向けると、顔を背けた。

 

「何」

 

「それだけの力があるのに、論理的だな」

 

「結界のエキスパートですからねこれでも」

 

「そうか。 何かを極めているというのは凄い事だ」

 

何だか子供らしくない奴だな。まあそれはいい。

 

カガに言われて、子供が行く。呼んだ様子からしてトキという名前らしい。

 

まあ、あのカガという女も、トキという子供も、無理に炎に突っ込まずに死ぬのは避けられるだろう。

 

問題はそれじゃない。

 

今この瞬間も。池袋に閉じ込められている人間の命が減り続けている。魂すら外に漏れてこない。

 

恐らく西王母は、魂をそのまま自分に取り込んで、輪廻の輪に返していない。

 

それは神としては最大限の命への侮辱だ。

 

元々月の都の上層部は腐りきっていると聞いていたが、敗戦から此処まで墜ちたのか、それとも最初から落ちていたのか。

 

それは霊夢には分からない。

 

ともあれ、大まかな結界の仕組みは理解した。

 

西王母と戦うのは霊夢がやるか、あるいは規格外マーメイドに任せるか。だが、五箇所の雑魚をどう始末するか。一番腕がいい人外ハンターを見繕っても、多分まとめてぶつけて一箇所を制圧するのがやっとだとみて良いだろう。

 

相手は西王母含めて切り札六枚。

 

此方は霊夢と秀とあの規格外マーメイド。

 

それにフジワラとツギハギ。最悪あの銀髪の娘にも出て貰うとしても、それでも手札が足りない。

 

ある程度調査をしていき、それで分かってきた事がある。

 

五箇所の結界を守っているのは、負の力に引きずられて堕落した五神だ。玄武白虎青龍朱雀、それに黄龍。

 

中華の方向信仰の主神にて、それぞれが様々な要素を司り、風水の重要な要素になっている存在。

 

西王母の麾下に無理矢理組み入れられ、しかも相当に弱体化しているだろうが。

 

それでもかなり手強い筈だ。

 

池袋の構造も可能な限り調べるが、最悪だ。

 

全体が西王母の胃袋になっている。

 

内部では人間がひたすらに恐怖を与えられつつ、見せつけられるようにして少しずつ食われているようだ。

 

それもひと思いになどではなく、凌遅刑のように切り刻みながら食べているようである。

 

ともかく、これは一刻も早くどうにかしないとまずい。

 

シェルターに戻る。

 

とにかく手札が足りない。それについては、報告をして、情報を共有しなければまずい。

 

 

 

シェルターに戻ると、フジワラを探す。

 

フジワラは丁度戻って来ていて、銀髪の娘に取り憑いている何者か。フジワラが殿と呼んでいる存在に、アドバイスを受けているようだった。

 

「先に視察してきたが、七班の動きが良くないな。 指定する二人は戦闘指揮から外せ。 他にやらせる仕事を見繕ってやらせろ」

 

「分かりました。 確かに子供への教育方針が厳しすぎるとは見ていて思っていましたが」

 

「その内血を見る事になる。 わしが教えたとおりに教育をさせよ。 今の言葉でいうスタンドプレイをする輩は此処にはいらん」

 

「ははっ」

 

咳払いすると、気付いておると殿は言う。

 

まあそうだろうな。

 

まず、池袋について話をしておく。かなり悪い状態だ。

 

全て丁寧に説明を終えると、フジワラは帽子を取ってため息をついていた。

 

「なる程、五箇所の結界の要地を同時に攻略しつつ、結界で強くなっている西王母を倒さないといけないと」

 

「ええ。 その上……最悪の場合、奴は蓬莱の薬を服用しているかも」

 

「蓬莱の薬?」

 

「不老不死の秘薬よ。 それも瞬間再生レベルのね」

 

絶句するフジワラ。

 

あれは確か、月の都でも嫦娥と他限られた存在しか服薬していなかった筈だが。月が滅んだときに、西王母が持ち出していたら最悪の事態になるだろう。

 

しかも奴は貪欲に毎日人を喰らっている。当然邪神になっている西王母は、魂ごと人間の恐怖を取り込んで膨れあがっている訳で、毎日更に強くなっている。

 

時間はない。

 

「そもそも池袋になんで奴が居着いたの? 外部から神でも招こうと住民がした訳?」

 

「これは少し古い話になるんだがね」

 

フジワラが寂しそうに話し始める。

 

池袋という土地は、元から不良外国人に好き放題されていた土地だったのだという。戦後の頃からそうで、ずっと地元の人間なんておらず、暮らしているのは外来種ばかりだったそうだ。

 

海外の犯罪組織やらが抗争を繰り広げる東京の果ての地。

 

他にも新大久保とか似たような土地はあったらしいが、池袋は特に酷かったというのだ。

 

「大戦の後池袋は阿修羅会が乗っ取った。 まあそれもそうで、海外からの資本がなくなった以上、犯罪組織なんかもとの自力が高い方が勝つ。 問題は、住民がそれを良いかと受け入れてしまったことだ。 そこに更に西王母がつけ込んだ。 西王母は、阿修羅会よりましな支配をしてやると住民にささやきかけたことが分かっている。 よりにもよって、文字通りの悪魔の囁きに、池袋の住民は乗ってしまったんだ」

 

バカなのか。

 

だが、そうも言えないか。

 

霊夢がいた幻想郷の人間だって、妖怪がいる事を受け入れていたし。人間の里の実際の支配者が、賢者と呼ばれる最高位妖怪である事を受け入れてしまっていた。妖怪を追い出して自治を、なんて言い出す奴はいなかった。

 

それは霊夢だって同じだ。

 

幻想郷はこういう場所だと思って。人間を明確に食うような妖怪は始末していたが、それ以外の人間を恐れされて力に変えるタイプの妖怪には寛容だった。

 

幻想郷はなんでも受け入れる。

 

その賢者の言葉だ。

 

だから、受け入れてしまったのかも知れない。

 

あの天から迫り来る、殺戮しか考えない天使の群れを。

 

「西王母は強いわ。 幸い月にいた頃ほどではないでしょうけれどね。 あたしが調べた防壁を突破してもなお力勝負になるでしょうね。 ぶつけるのは最低でもあたし達のうち二人以上が最低条件よ。 他五体も、決して弱い悪魔じゃない。 しかもそれら全て同時にダメージを与えて、西王母ごと倒すくらいの作戦行動が必要だわ」

 

「……今そんな作戦に乗ってくれる人外ハンターはそう多く無いな。 実は炎の壁の突破については、目処が立っているんだが」

 

「!」

 

「僕の方でもなんとか探してみる。 腕利きの人外ハンターだけでは駄目となると……柔軟な対応が必要になるかも知れないな」

 

柔軟な対応ね。

 

幻想郷にも小細工が好きな奴がいた。いつも訳が分からない事件を引き起こして、あの隠れ里を退屈にしないように頑張っていた。

 

だが小細工は、圧倒的な力の前には通じない。

 

それはもう、霊夢も嫌になる程思い知らされている。

 

一旦休憩。

 

池袋から漏れている凄まじい悪意を浴び続けてちょっと調子が悪い。

 

元々ろくでもない場所だった月の都の最上層にいた神格だ。ろくでもない奴なのは分かりきっていたが。

 

これを意図的に引き起こしたのだとすると、絶対に許せない。

 

月には色々と因縁があるのだが。

 

この件で終わりにしておきたかった。

 

風呂を浴びてすっきりしてから、一眠りする。とんでもない邪気を浴びて、地獄や魔界に赴いたことがある霊夢も流石に疲れた。

 

というかこの東京に満ちている邪気、地獄の最深部と遜色がない。

 

どれだけ恨みと絶望をこの土地にため込んだのか。

 

残念ながら英傑は出なかった。

 

だから、それも解消できなかった。

 

悲しい話なのかも知れない。

 

どちらかと言えば他人にあまり興味がない霊夢でも。こればかりは、他人事ではなかった。

 

一休みして食事を取っていると、忙しく動き回っていたらしいフジワラが来る。汗を掻いているのは、流石に年だからか。

 

「休憩後にすまないね。 サムライ達が新宿に行ったことを覚えているかい」

 

「ええ、それがどうかしたの」

 

「人外ハンターで彼処に出向いた人物が証言している。 都庁に住み着いたのはクエビコらしいと」

 

「!」

 

クエビコ。

 

古事記に記録がある、田の神であり知恵の神だ。一寸法師のモデルになった神格である少名毘古那神の逸話に登場する他、案山子のモデルになった神格だという話もある。

 

いずれにしても獰猛な神格ではなく、れっきとした守護神格であり。本来は人を襲うような神でもない。

 

そして恐らくは、土地と切り離されてしまっている。それで荒神として暴走しているとみてよい。

 

人を襲ったのなら祓わないといけないだろう。

 

邪神に落ちてしまったのなら、禊ぎをしなければならない。

 

いずれにしても霊夢の専門分野だ。

 

荒神に落ちた神を調伏して元に戻したことは何度もある。とにかく今回もやらなければならない。

 

より荒っぽくだが。

 

「本来は田の守護神格である知恵の神が人々を襲い喰らう悪神と化しているのなら、暴走を鎮めた後に償わせなければならない。 恐らく土地の所有権に関する神権を有している筈だし、丁度良いわ」

 

「すぐにサムライ達を追ってくれるか」

 

「問題なし。 新宿は以前案内して貰った場所だったわね」

 

「そうなる」

 

これでまず一つ問題をクリアか。

 

次の問題がある。

 

西王母に誰をぶつけるかだ。

 

霊夢と秀の二人がかりでどうにか倒せるか、という相手だ。出来れば規格外マーメイドをぶつけたいが、そうもいくまい。

 

少し考え込む霊夢に、フジワラが提案をしてくる。

 

「私とツギハギ、それに人外ハンターの精鋭。 それと、あの有能なサムライ衆。 君達。 後一枚、手札を用意できるかも知れない」

 

「あまりいい手札では無さそうね」

 

「私が現地に出向く必要があるね。 それとひょっとすると……殿。 申し訳ありませんが、手伝いをお願いするかも知れません」

 

「別にかまわん。 この娘は強いぞ。 わしが見た所、霊夢よ、そなたと実力は大して変わらぬ」

 

それは心強い話だが。

 

いずれにしても、それぞれが急ぎになるだろう。また、問題になるのは此処の守りである。

 

霊夢がバキバキに結界を張って強化はしているから、ちょっとやそっとでは破られない自信はある。

 

だがそれでも、高位悪魔が本気で破りに来たら、いずれは破られるだろう。

 

現在秀は、まだ彼方此方の街を回って、暮らしていけない人間を回収してきている。このシェルターには一万人を現時点で収容できるらしいが、更に拡大する事をフジワラは考えており、実際地獄老人がそれを始めている。

 

此処の守りは規格外マーメイドに任せるしかない。

 

「マーメイドと連携して此処の守りをよろしく。 あたしは新宿に出向いてくるわ」

 

「分かった。 それぞれ手違いがないように動こう」

 

「ええ」

 

さて、此処からだ。

 

後、今回研修も兼ねてナナシとアサヒも新宿に出向いているが、あの二人で荒神を相手にして無事に生き残れるか。

 

ちょっと急がないと、危険かも知れなかった。

 

 

 

霊夢は空間移動の技術を持っているが、それを使うには幾つかの条件が必要になるし、消耗も大きい。

 

以前で向いたときは、クエビコがそれほど暴れていなかった事もある。ただ今回は、荒神化したクエビコが新宿全域を領土に変えている可能性が高く、空間移動を弾かれる可能性も高かった。

 

それにしても、荒神にもっともなりそうもない神格が。

 

ただ、どんな神格でも荒神になる事は、霊夢自身が幻想郷で起きたもめ事の幾つかで実際に見てきている。

 

そういうわけで、空を急ぐ。

 

新宿にある、フォークみたいな形をした特徴的な建物。あれが都庁だ。

 

昔は夜中でも輝いていたらしいが、今では禍々しい邪気を放っていて、見られたものではない。

 

これでも悪魔達は人間に依存している。

 

それが現実だ。

 

人間の恐怖がなければ自我すら保てないし、実体化もマグネタイトがないと出来ない。マグネタイトは自然界にも存在するが、人間を媒介にするのがもっとも効率がいい。

 

人間を殺し尽くしたら自分達も破滅するのに。

 

それでも人間を殺す事を止められない悪魔達。

 

滑稽な事だ。

 

人間も悪魔も。

 

どうして世界がこうなったのかは、フジワラですらよく分かっていないらしいから。もう誰にも分からないのかも知れないが。

 

少なくとも飛んでいれば、この世界の異常さが良く分かる。

 

特に悪鬼調伏の類をずっと続けて来た霊夢ならなおさらだ。

 

途中で仕掛けて来る鳥やら悪霊やら、飛行する悪魔は片っ端から叩き落とす。いずれも大した奴はいないが、ただこの東京を我が物顔に飛行する大物は何体かいて、いずれ倒さなければならない相手ではあった。

 

数度の戦闘を経て、新宿に降りる。

 

昔は一日一千万を超える人間が行き来していたという世界最大の駅は、今やその規模に相応しい墓場と。

 

僅かに生き延びている人間が暮らしている、無惨な廃墟に過ぎない。

 

しかも此処はその昔から迷路に等しい場所だったらしく、そういった迷路部分に住み着いた悪魔は手に負えない状態らしい。

 

今回はまずはあのサムライ達。フリンが率いる第十六分隊だったか。それと合流しなければならないが。

 

駅の改札に降り立った瞬間。

 

全身が総毛立った。

 

今まで感じたこともないほどの強い力だ。

 

思わず振り返ると、其処には気配はなかった。代わりに此方に来るのは、明らかに場違いな女だった。

 

着ているのは学校の制服だろうか。

 

後から幻想郷に来た奴に、見せて貰った事がある。十代の人間はこういうのを着て、学校に出向いているのだと。

 

見るからに明るい雰囲気の女だ。

 

笑顔がまぶしすぎるくらいで。

 

つまり、違和感の塊である。

 

そんなのが、どうしてこの修羅の地で生きていけているのか。

 

即座に飛び退いて戦闘態勢を取る霊夢に、その女は知ったことかという雰囲気で笑いかけてくる。

 

「あら、空を飛んでくるなんて面白い人ね。 私はヒカル。 貴方は?」

 

「霊夢」

 

おかしい。

 

此奴の正体を看破できない。

 

明らかに人間ではないと勘が告げているのに、人間だとしか判断できないのだ。放っている魔力量も、身体能力も、全てが人間のものだと告げている。力なんて微塵もない。それなのに、どうして嫌な冷や汗が止まらない。

 

「時々空を飛んでいるのを見かけるけれど、どうやっているの?」

 

「能力よ。 あたしがいた土地では、「程度の能力」何て言っていたわ」

 

「そう。 面白いわ貴方」

 

「それはどうも……」

 

全力で逃げろ。

 

本能が訴えかけているのに、体が動かない。

 

これは、まずい。

 

ベヒモスなんかとは比較にならない危険を感じているが。それでも此奴からは、危険を一切感じないのだ。矛盾しているが、それが事実なのである。

 

魔界の創造主を名乗る奴と出会ったこともあるが、其奴と比べてもまるで違う異質さ。

 

一体何だこいつは。

 

「それで新宿に何をしに来たの?」

 

「ここに来た知り合いと連携して作戦をとるためよ」

 

「ああ、さっきあった人達かな。 四人組の、青い服を着た戦士達と。 その戦士達について歩いていた可愛い子達。 戦士達の中にいた綺麗な女の人には嫌われちゃったみたいなの。 男に媚びてるみたいだってね」

 

肩をすくめるヒカル。

 

霊夢としてはどうでもいい。

 

なんとなく分かってきた。此奴、観察している。それも、極めて巧妙に。自分の姿を一切明かさずに。

 

「最近人外ハンターが色々な人を積極的に助けているけれど、その切っ掛けになったのが貴方たちね。 貴方が特に基点になっている様だけれど……目的は何?」

 

「困っている人間がいるなら助ける……といいたいところだけれどね。 あたしはただ故郷が破綻するのを防ぎたいだけ。 このまま人間に滅びられると困るんだわ」

 

「へえ……」

 

「もう行くわよ」

 

違う。

 

逃げたい。

 

だが、そう強がるのが精一杯だった。

 

ふっと笑うと、ヒカルという女は手を可愛く振ってバイバイなんて言って去って行った。

 

それだけで、その場に崩れ落ちそうになる。

 

呼吸が荒くなる。

 

前に月を二体だけで圧倒した奴らと戦った時とさえ、比較にならない危険を感じた。あれは相手にしてはならない存在だ。

 

少なくとも日本系の主神達を開放して、力を十全に引き出せるようにならない限りは、勝負の土俵にすらたてないだろう。

 

それでいながら、目の前にいたあれは、危険なんて一切感じさせなかったのだ。

 

その異常な違和感と齟齬が、また悪寒を強くする。

 

なんだあいつは。

 

一体何が此処で動いている。

 

隙と見たのだろう。飛びかかってくる獣の姿をした悪魔。正体なんか知らない。即応して、全身を針で串刺しにして、更に札を叩き込んで爆散させる。立ち上がると、続けて襲いかかってくる悪魔をまとめて消し飛ばして。それでようやく腹が立ってきた。

 

悪魔達が逃げ出すが、逃がすか。

 

全部追って叩き潰す。

 

そして、怒りが収まった頃に、ようやく冷静さが戻って来ていた。

 

クエビコの気配だろう、これは。

 

この辺りを包んでいる邪気は揺らいですらいない。だとすると、あのサムライを名乗る四人組は、まだ接敵していないとみていい。あの四人は強かった。ベヒモス相手に気を引いて、生き残れるくらいには。

 

ともかくまずは合流だ。

 

現在もっとも厄介な事になっている池袋をどうにかするためには、幾つかの条件をクリアしなければならない。

 

その一つがクエビコの調伏。

 

それである以上、まずは冷静さを取り戻し。

 

神に対しての戦いをするための準備もしなければならなかった。

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