フジワラは元はしがない三流の記者だった。それでも、周囲の記者達のようになろうとは思っていなかった。
フジワラが記者をしていた時代、マスコミというのは腐り果てた存在だった。
スポンサーの喜ぶ記事を書く。
それだけしか存在意義がなかった。
自国の悪を暴くと言いながら。
スポンサーになっている他国の犬と成り下がる。
それがフジワラが見てきたマスコミの実像。
「記者もサラリーマンだから」などと抜かしながら、愚かしい所業に手を染めている周囲をフジワラはどうしても許せなかった。
多様性を歌いながら、自分達が作りあげたルールに従わない相手を叩きたいだけの者達。
スクールカーストで醸成された感情だけで全てを判断していい文化によって脳が腐り果てた人間によって作りあげられた社会の住人。
そういった連中に迎合すらしている記者達。
そんな連中と一緒にならないためにも、フジワラは新聞記者に見切りをつけて、フリーのライターになったし。
ネットを活動の舞台にして、ある程度の支持を集めるネット記事を書くことが出来ていた。
ただその過程で散々修羅場も潜ったし。
逆に、そんな最果ての時代でも生きているまともな人間に、あうこともあった。
だから大戦が起きたとき。
そういうまともな人間を守るために、出来る事はないかと必死に調べ。
悪魔召喚プログラムに辿りついた。
最初に呼び出した悪魔はナジャという妖精の女の子だった。
無邪気な女の子の妖精で、それでいながらませた子だった。力はそれなりに強く、最初は頼りっぱなしだった。だが、修羅場を潜っていた経験もある。やがて肩を並べて戦えるようになっていった。
激しい戦いの中で、徐々に仲間と仲魔を増やしていった。アキラとツギハギといつの間にか組むようになった。
荒事ではツギハギが一枚抜けていたし。
アキラはリーダーシップに優れていた。
フジワラはネゴシエートに特化していった。
おかしな話で、悪魔とのネゴシエートは、むしろ人間のそれより楽なくらいだった。それくらい、人間の世界は伏魔殿と化していたのだろう。自分の感情だけが全ての価値基準になっているような肥大化した自尊心の塊と接するくらいだったら、まだ残忍な悪魔の方が話が分かる。
それが現実だったのだ。
ナジャはもう手元にいない。
死んだのでもいらなくなったのでもない。
今は転化して、別の悪魔になったのだ。
滅多に見せないフジワラの切り札だ。
今は、呼び出すときでもない。
ただ、たまに呼び出して、愚痴を聞いて貰う事はある。
あの三人と殿、地獄老人が現れて、事態が決定的に変わってからは、それも減ってきた。失われた活力が、戻りつつある。
地獄老人が復旧してくれた通信網を使って、伝手を辿る。時には悪魔に対して言づても頼む。
そして、何回かそういう複雑な経路でアポを取り付けて。
最終的に、フジワラはある場所で会合を持つ事に成功していた。
場所は上野の廃墟の一角。
上野では急激に悪魔の掃討が進み、亡くなった人々の埋葬などが始まっているが。
地上部分は悲惨な状態で、多くの建物が倒壊したままだ。
その中で、奇跡的に残っている喫茶店がある。
手持ちにいる、シェルターを守らせているのとは別のシルキーと、数体のゴブリンを呼び出す。正確にはホブゴブリンだ。ゴブリンには様々な類種があるが、家の手伝いをするいわゆるハウスメイド系の者もいる。それがホブゴブリンで、シルキーと性質はとても似ている。
急いで喫茶店の内部を片付けさせる。
コーヒー豆などは、まあインスタントではあるが、シェルターから持ち出した。
アポを取り付けた客が来る頃には、喫茶は形に出来ていた。
アポを取り付けたのは、妖怪じみた老婆二人だ。
ガイア教団の幹部二人である。
古くからガイア教団の幹部をしていたらしい強力な超能力者だ。
ちなみにガイア教団は、東京の混乱の中で、予想されていた大暴れをせずに。むしろ独自の動きをし、悪魔との交戦を選んだ。
今の時点では、正面から戦う理由がない。
人外ハンターの中には、ガイア教団に入信しているものすらいる。
そういう伝手を辿って、この二人。
ミイとケイを呼び出したのだ。
ミイとケイは座ったまま浮いて移動して、店に入ってくる。もうこの時点で人間離れしすぎている。
「おや、雰囲気のいい喫茶じゃないか」
「今の時代に、こんな場所があったとはねえ」
「急ごしらえですがね。 本格的な喫茶なら、純喫茶フロリダに来ていただいてもいいのですよ」
「キッヒッヒ。 流石に其処に行く度胸はないよ。 こちとら非力なババアさね」
何が非力なものか。びりびりと凄まじい力を今でも放っている癖に。
今日は無表情で無口な子供を二人は連れている。
ガイア教団では欲望を全肯定する癖に、子供が生まれてくるとだいたいは惰弱だといってすぐに悪魔のエサにしてしまうらしいが。
この子供は孤児だったのを拾われたのか。
イカレた環境で生き延びたのか。
いずれにしても、まともな子供ではないだろう。気配からして悪魔ではなさそうだが。
「ご注文は」
「ブラックで」
ミイとケイは揃って言う。子供にも聞くが、困惑した様子で老婆達を見る。
そもそも、嗜好品としての飲み物など知らないのかも知れない。
ミルクティーを出そうかというが、ミイとケイはストレートにしろという。
なるほどな。
甘みなんてものを覚えさせると、惰弱になるとでも考えているのか。其処で、二人には分からないように、僅かに砂糖を入れて出す。
これで飲みやすいはずだ。
軽く一服して貰ってから、本題に入る。
「池袋の件で話があります」
「ああ、聞いているよ。 西王母が厄介な結界を張っているというあれだろ」
「うちの血の気が多い連中が何故引いたんだと五月蠅くてねえ」
「ならば丁度いい。 貴方方と思想では相容れませんが、敵は共通だ。 共闘の申し入れをしたい」
ほうと、ミイの方が言う。
ケイは面白そうに様子を見ていた。
「西王母自身には、うちの食客が最低でも二人がかりで当たるのが絶対だという話を受けています。 ただうちのシェルターの守りもある。 全ての戦力を出し尽くす訳にもいかない状態でしてね」
「それでうちか。 それでどうすればええんや」
口調が変わったな。
これは、恐らくはこっちを試すつもりだ。
フジワラはふっと笑う。
「まず此方であの炎の結界を解除します。 それについては、そう時間をおかずに出来るでしょう」
「それで?」
「食客の一人と最近この辺りに現れたサムライという手練れ四人で西王母に当たります。 これについては私から頼むつもりです。 同時に西王母を無敵化している五つの結界の要所に手練れを当てる。 此方としても精鋭を用意しますが、どう考えても手が足りない。 其処で其方からも精鋭を出していただきたい」
「ふむ、どうするケイ?」
二人が黙り込む。
テレパシーか何かで会話しているのかも知れない。
その間、ふーふーしながら子供は紅茶を飲んでいた。
初めて飲むのだろう。
困惑しながら、それでもフジワラに警戒を解いていない。
「わかった、ええよええよ。 ただし此方でも、西王母にうちの精鋭であるカガを当てさせる」
「他の場所の制圧に戦力が足りますか」
「たりるわ。 うちらをなめないでもらえんか?」
「ならばそれでもかまいませんが」
詳しい話については、メールで送って欲しい。
そう告げてから、メールアドレスを交換する。
ミイとケイはそれぞれ昔は大流行していた猫のキャラクターでとても可愛らしくデコレーションしたスマホを持っていて、ちょっとフジワラも驚かされたが。まあ考えて見れば、このキャラクターが流行っていた頃は、この二人もまだ若かったのかもしれない。この二人については、謎が多くてよく分からないのだ。
「トキ、いくで」
「はい」
「じゃあそっちでも戦力を集めや。 腑抜けた雑魚集めて来たら、しばいたるさかいな」
「此方こそ、期待していますよ」
一瞬だけ火花が散るが、それでも高笑いしながらバケモン二人は出ていった。トキという子も大概だが、あの化け物に比べればひな鳥だ。
シルキーとホブゴブリン達に片付けを終わらせると、フジワラはシェルターに戻る。
さて、此処からは殿と一緒に戦略を練ることになる。
クエビコの調伏を霊夢が……あのサムライ達も向かっている筈だが、ともかく終わらせたら、続いて大規模な作戦開始だ。
今は人間同士で争っている場合では無い。
出来るだけ、無意味な死者は減らさなければならなかった。
(続)
フジワラさんの過去の話。こういう細かい所の補完は、今後もやっていく予定です。
それはそれとして、フジワラさんらしい人脈を生かした共同戦線の提案。いわゆる悪い大人としての仕事ですね。
此処でガイア教団との連携を公式に行う事で、池袋で起きる惨劇の被害が変わってくる事になります。
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