対クエビコ戦です。
元々クエビコは田の神で知恵の神。原作真4だとしばき倒すか荒神の状態のまま認めるかの二択で、ちょっともやる内容でした。
本作では結界術に加えて、神道系の術のスペシャリストでもある霊夢がいます。
そのため、第三の選択肢が出てくる事になります。
新宿で霊夢と合流する。本来はとてもフランクな人だというのは分かっていたが。遅いとも言われなかった。
むしろもう良いのか、という顔をされた。
ちなみに志村はナナシとアサヒ、それにあのおばさんだけではなく他にも数人、困窮している人を連れて行ったそうだ。
それでいい。
シェルターの規模はどんどん拡大しているらしく、清潔な衣類などまでどんどん周辺の都市などで出回るようになっているそうだ。
阿修羅会はとにかく自分に逆らえないようにと言う行動ばかり優先して、ひたすら人々から戦う力を取りあげることばかりしていたし。インフラを破壊して、一緒に立ち向かってくる事を妨げていた。
こんな状態だというのに。
本当に愚かしい連中で、聞いているだけで苛立ちが募るが。
ともかく今は、見極めなければいけない。
霊夢という人も、心底からはまだ人外ハンターを信頼していないようだ。
実際悪辣な人外ハンターがいるのも僕は既に見ている。
上野で僕らをはめようとした連中とかだ。
阿修羅会に協力する人外ハンターまでいるらしいし。
この荒れ果てた土地では、人の心だって腐る。
だったら、仕方がないのかも知れない。
ただ、だからこそ。
僕らが手本を示さなければならないのだろうが。
霊夢についていって、元は食事をする店だったらしい場所に出向く。今では食事なんて出てこないが。
テーブルと椅子はあった。
ヨナタンが呼び出した天使達が、即座に細々と働いて、すぐに椅子もテーブルも新品同様にぴかぴかにする。
天使達をあまり良く思っていないワルターも、ひゅうと口笛を吹いていた。
「やるなあそいつら」
「椅子はちょっと傷んでいるかも知れないから、あまり勢いよく座っては駄目よ」
「ああ、分かってるぜ」
それで座り、軽く話をする。
上品なデザインの椅子だが、確かにワルターの体重を支えるのは厳しそうだ。新品だったらそれでも良かったのかも知れないが。
「ではあたしから。 都庁に現在巣くっている悪魔は、国津神クエビコ。 この国……こうなる前は日本と言われていたのだけれどね。 日本の古い神様よ」
「国津神?」
「この国には、最初に大地に降り立った神々と、その後にそれを征服した神々が存在していてね。 最初に降り立った神々が、大国主命を筆頭とする国津神。 そしてそれを後から征服した存在を、天照大神を主とする天津神と呼ぶわ。 とはいっても完全な侵略者というわけでもなくて、血はつながっているし、なんなら後から更に混血したりもしているけれどね」
なるほど。
貴族制にたとえて霊夢が話してくれる。
それによると、先走って軍を率いて貴族が土地を平定。その土地を勝手に自分の領土だと言い始めた。
だがその土地の存在を発見したのは王様。王様は軍を出して、貴族を平定した。
その王様が天津神。
貴族が国津神。
だいたいこういう関係であるらしい。
「実際にはその国津神の更に前にも、各地で発生した神々がいたりするのだけれども、まあそれはいいわ。 今回の相手は国津神よ。 クエビコという存在は田と知恵の神様に当たるわ」
「ちょっと待って欲しい。 僕も貴方が来る前に此処で調査をしていたのだが、獰猛で人を喰らう恐ろしい悪魔だと言う話だったぞ」
「うん。 神というのはね、信仰を失ってよりどころである土地も汚されると、暴走する事があるの。 今のクエビコはそれ。 そうなった神を、荒神と呼ぶわ。 これを調伏するのが今回の目的」
「ブッ殺しちまえば早いんじゃねえか?」
乱暴な提案をワルターがするが、そうもいかないらしい。
現在、もっとも酷い状態になっている都市が池袋らしい。それも東のミカド国で聞いた地名だが、それは今はいい。
池袋は現在、複数の守りで固められていて。
その一番外側の守りを崩すのに、クエビコを正常化させて、土地の支配権を取り返す必要があるそうだ。
「本来の土地の所有者がクエビコよ。 この地に侵略を仕掛けた天使達が最初にやったのは、この国の神々を封印して黙らせること。 多くの神々が封印されて、残りも土地を追われた。 だからクエビコだけではなく、封印されなかった神々もみな荒神と化している可能性が高いわね」
「厄介だね。 それで僕達はどうすればいい?」
「話は既に集めてあるけれど、阿修羅会のネゴシエーターが今そのクエビコの所に向かったらしいわ。 どうせ上手く行かないでしょうけれど。 そいつを追い払って、更にはあたしが儀式をするまで護衛をよろしく。 会話が成立するレベルの荒神もいるけれど、暴走状態にある神を元に戻すには、相応に手順が必要なの。 本来あたしみたいな神職は専門家なのだけれど、此処に攻め寄せた天使達は神職を片っ端から皆殺しにしたらしいわ」
そうか、酷い話だ。
ヨナタンが連れている天使達とは随分違う。
咳払いすると、イザボーが言う。
「此方でも新宿の情報を集めていましたけれど、都庁前の辺りには、地霊という悪魔がたくさんいるそうですわ」
「あり得ない話じゃないわね」
地霊というのは、大地に根ざした悪魔達。
それこそ大地にわく力そのものといった弱者から、大地に根ざした神に近い存在まで様々だとバロウズに聞いている。
いずれにしても、其処まで獰猛な悪魔じゃないし。
クエビコを従えれば、それで大人しくなるだろうとも。
幾つか作戦を練った後、出撃する。
さて、此処からだ。
阿修羅会が此処でクエビコを先に従えたりしたら、それはかなり面倒な事になるだろうが。
此処でも失敗したら、更にその名は地に落ちることになる。
こっちを伺っている阿修羅会のはまだいるが。仕掛けて来る気は無さそうである。
では、出撃する。
僕を先頭に、都庁に続く出口へ急ぐ。
入口から出ると、大きな建物が林立している。ここらから、使える遺物がまだ見つかるらしい。
そうなると、新宿の人々とそれなりに良い関係を構築できれば、東のミカド国と良好な関係に発展させられるかも知れない。
ただ、入口を出ると、もう悪魔が彷徨いている。
片付けながら進む事になるが、明らかに少しずつ質が上がっている。今後、もっと強い悪魔も出るんだろうな。
そう思うと、あまり気分は良くなかった。
バロウズに案内してもらいながら、数度の戦闘を切り抜ける。幸い苦戦するような強力なのはいない。
手当たり次第に始末しながら先へ。
やがて。特徴的な形状の都庁が見えてきた。
この辺りは元々広場として作られていたらしいが。天を行くような道は、彼方此方が崩れてしまっている。
こう行く、と僕は視線を動かして、都庁までの道を割り出すが。
まったとイザボーが言う。
「フリン。 あの、言っておきますけれど。 空を飛べる霊夢や、貴方の真似は誰もが出来るわけではありませんわよ?」
「イザボーもだいぶ身体能力上がってると思うけれど」
「いや、それでも無理ですわ!」
「同感だぜ……」
ワルターがげんなりした様子でいうので、僕もちょっと溜息。
分かった。そうなると、少しずつ道を開くしかない。
ヨナタンが確か、階段を作れるような悪魔を呼び出せたと思うが。ヨナタンに聞くと、頷いていた。
「アーシーズだね。 ちょっと待っていて」
「おお、最初の試練で使った彼奴か。 イザボー、お前も鳥を呼べばいいじゃねえか」
「飛んでいる最中は無防備でしてよ。 奈落と此処では訳が違いますわ」
「奈落?」
ヨナタンが作業をしている間、僕が説明をしておく。
其処を通って、東京に来たのだと。
ドーム状に天井があって、その上に暮らしている。そう聞くと、霊夢は腕組みして小首を捻った。
「この土地を破滅から守ったのは将門公という土地の守護者だけれども。 それにはいろいろと不可解な事が多いわね」
「どういうこと?」
「将門公は、どちらかというと東京というよりも関東全域の守護者よ。 この辺りを板東なんていうんだけれども、板東武者の祖なんて言われていたりしてね。 祟り神としても名高いけれども、それはそれとして守護者としても知られているわ」
その将門公という人は、そんなに偉いのか。
感心するが、霊夢の不審が気になる。
この人、バロウズより悪魔や神に詳しいかも知れない。
それに見ていて分かるが、勘が恐ろしく鋭いらしく、殆ど汚物を踏んだりしない。
それが違和感を覚えているとなると。
何かまだあるのかも知れない。
「階段できたぞ」
「待った。 その辺りが床が脆くなってる。 下側から補強した方が良いわ」
「そうか、分かった。 すぐに対処する」
「やれやれ、間近に見えているのに、行くだけで一苦労だぜ」
ワルターの愚痴ももっともだ。
なお地霊という悪魔は、こっちをこっそり見ている連中だろう。
結構強そうなのもいるようだが。
それでも霊夢の実力を肌で感じているのか。
そもそも戦闘が性質的に好きではないのか。
こっちに仕掛けて来る様子はない。
まあ、襲ってこないのなら、こっちからどうこうするつもりもないが。
階段を上がって、更に先に。
道が途切れているので、それもアーシーズを使って塞いでおく。ワルターが楽でいいなと言うが。
アーシーズに回復魔術を掛けている天使達は複雑そうな顔だ。
最初にパワーになった天使が、ヴァーチャーになった今は、天使達の司令塔をしているようである。
試しに話を聞いてみる。
「東京を焼き払ったって話、本当?」
「いえ、天使と言っても天の国に億といます。 それも様々な世界に出払っている事も多く、殆どのものは普段は霊的な状態のまま、呼び出されては使役されるだけなのです」
「そうなんだ……」
「ヨナタン様は、我々を道具としてではなく、ともに戦う仲魔として扱ってくれています。 それだけで忠義を尽くすのは充分です。 ただ、大天使や神に指示をされれば、迫害に荷担するのは仕方がないのかもしれません。 逆らう事は選択肢にありませんので……」
古くには逆らった天使達が多くいたが。
それらは皆堕天使になってしまった。
ヴァーチャーは悲しそうにそういう。
そうか。
いずれにしても、天使と言っても色々か。
道が出来たので、行く。
都庁は間近だ。
都庁に入る。血の臭いだこれは。中は凄まじい有様で、領域になっている。
荒神になっているだろうという話だったが。奧にいるのは、巨大な土塊といった感じの恐ろしい悪魔だ。あれがクエビコだろう。口は凶暴な牙だらけで、とても田の神様には見えない。
知恵の神様だとも思えなかった。
阿修羅会の下っ端らしいのが、クエビコに話をしている。側には、雇われたらしい護衛の人外ハンターもいたが、巨大なクエビコに恐れを成してしまっているのが一目でわかった。
「だから、赤玉だったら差し上げますって。 それで手を打ちましょうよ」
「黙れ! そのようなおぞましいもの、口に出来るか!」
「とはいっても手当たり次第に人食べてたら、いずれヤバイのが来ますよ。 あんたも元神様かも知れませんが、それでもいずれは殺されますって」
「元神だと! 今でも我は神だ! この土地は元は我のもの! 我の場所で何をしようと勝手だ! 人間も外来種の悪魔も、全てくろうてやるわ!」
平行線だな。
ただ、クエビコの言い分は神のものとはとても思えないが。
土地の所有権がクエビコにあるというのは、百歩譲ってまあいいだろう。
だが、その土地にいる人間を手当たり次第に食うだと。田の神様が。田を作る民がいなくなれば。田なんかあっと言う間に役に立たなくなる。
米作りの大変さは、比較的傾斜が緩い村にいる人から僕だって聞いている。僕の村は畑が主体だったけれど、米作りは奥が深くて、とてもではないが素人が手を出せる代物ではない。
呆れ果てた阿修羅会の男が、人外ハンターをけしかけようとするが。
二人組の人外ハンターは、ぶるぶる震えるばかりだ。
「どうしたんですか貴方たち。 友人を殺されたって話だったじゃないですか。 敵討ちのために備えて来たんでしょう」
「こ、ここ、こんなにでかいなんて聞いてない!」
「勝てる訳がねえよ!」
「さがっていなさい」
霊夢の声。
それだけで雰囲気が変わる。
阿修羅会の奴がやっとこっちに気付いたらしく、何か言おうとしたが。クエビコが手を振るって。
それでふっとんで、壁に叩き付けられて。ずるずると落ちた。
即死はしていないか。
遁走する人外ハンターにワルターが一喝。
「外も悪魔だらけだ! 俺たちがどうにかするから、そこにいろ!」
「ひっ!」
「な、なんなんだよお前等!」
「サムライだよ」
僕が前に出る。
既に打ち合わせは済んでいる。霊夢がまずは問答を仕掛ける。
それで実力行使に出て来たら、僕らが時間を稼ぐ。
悪魔も総力で展開。多数の天使を見て、クエビコが怒りの声を上げていた。
「貴様等、侵略者の手先か!」
「それはただ使役しているだけの天使よ。 それよりも。 あたしを見なさい。 何か思うところは」
「! 微かに感じるぞ。 その力、常世思金神様! 貴様眷属か何かか!」
「直接会っていたそのオモイカネは、うちでは八意永琳と名乗っていたけれどね。 まあそれはいい。 知恵の神、田の神である貴方が、そのような荒神と化し、田を作り貴方を案山子として祀る人々を喰らうなどという凶行を働いていて、一体どの面を下げて神を名乗る! 今の貴方は土地神でも守護神でもなんでもない! ただの凶暴な猛獣以下の悪魔よ!」
悲鳴を上げるクエビコ。
凄まじい力だ。
ぼこぼことわき上がってくる、人型。土の塊。
これは恐らく、クエビコに食われてしまった人々の慣れの果てだろう。
うめき声を上げて襲いかかってくるそれらを、必死に退ける。かなり一体ずつが強い。流石に元々の土地の所有者だ。
眷属でもこれだけ強いと言う事か。
それもこれらの人型は、食われてしまった元人だ。
歯を食いしばって、牙の槍で振るって、貫き、叩き、薙ぐ。
霊夢は更に問答を投げかける。
「選びなさい。 もとの土地神に戻り、この地の人々を真に守護する存在へ戻るか! それとも此処で塵も残さず滅びるか!」
「わ、わしは……こ、このような姿に……されたのだ!」
「それは貴方がされた事! あたしは貴方の意思を聞いている!」
「ぎゃあああああああっ!」
言葉のやりとりだけだが、それだけでとんでもない魔力が飛び交っているのが分かる。霊夢も声の調子からして、かなり消耗しているようだ。
なるほど、守れといわれる訳だ。
人を食う悪魔と化した神を元に戻すのは、こうも大変なのか。
飛びかかってきた数体の人型を、牙の槍を振り回して、まとめて薙ぎ散らす。しかし、粉々に砕いても、人型はすぐに元に戻って迫ってくる。
歯を食いしばる。
長くは保たないぞ、これ。
吹き付けてくる魔力が、全身の力を吸い取るかのようだ。体調が明らかに悪くなっている。
いや、隣を見ると、ワルターは平気。
そうなると、これは恐らくだが、呪詛に近いものだろう。
「ヨナタン、天使は下げて! 消耗するだけだよ!」
「くっ、すまない!」
「これは呪いそのものだね。 多分あの太歳星君と同じだ!」
「仕方がありませんわね。 天使と共闘させるのは気が引けるので控えていたのですけれど。 いきなさい、堕天使ハルパス!」
イザボーが呼び出したのは、変な帽子を被った黒い鳥の悪魔……いや今言われていたと言う事は、堕天使なのか。
それが多数、前列に飛び出して、壁になる。壁になったハルパスは、それぞれが魔術を放って、土塊を防ぐ。
しかしどう見ても非力だ。壁にしかならないだろう。
頭を抱えているクエビコは、唸りながら訴える。
「わ、わしは、なんということを。 わしは、神に戻りたい……」
「ならば受け入れなさい。 其処、寝ていろ!」
いつの間にか意識を取り戻したらしい阿修羅会の男が、銃を霊夢に向けていた。
僕は足下の瓦礫を蹴り上げると、そのまま回し蹴りで阿修羅会の男に叩き付ける。腹部に直撃。
白目を剥いて動かなくなる。
大小を漏らしている様子からして、あれは完全に気絶した。気絶する前にダンと音がしたが、多分手にしている銃だろう。
後で取りあげておくか。ちなみに弾丸は霊夢に弾かれていた。弾丸くらいだったら、弾くのも余裕なのだろう。
まだ土塊が来る。
それよりも、吹き付けてくる呪いの力が凄まじい。
ワルターは全然平気なようで、いつもより生き生きと大暴れしている。ヨナタンは少数連れている天使以外の悪魔を呼び出すと、支援を指示し、自身は回復魔術を僕らに後ろから掛ける事に専念。
霊夢を一瞥だけする。
何か舞い始めている。
神楽舞をすると言っていたっけ。多分それだ。とにかく守りきれ。
凄まじい呪いが、頭を抱えているクエビコから、更に勢いを増しながら吹き付けるが、それに従って土塊が減る。
代わりに入口辺りで、悪魔がこわごわ此方を伺っている。
完全に腰を抜かしている人外ハンターに僕は叫ぶ。
「後ろを守って! 壁を作るだけでいいから!」
「わ、分かった!」
「ちくしょう、やってやらあっ!」
人外ハンター二人が、なんかよく分からない弱そうな悪魔を出して、入口付近を固めさせる。
それを見て、こっちを伺っていた悪魔が引っ込む。
置物だけでもいいから、悪魔がいると言うのが大きい。
それで横やりを防げる。
絶叫とともに、大量の嘆きや悲鳴が溢れてきた。多分クエビコに食われた人の……いや、分からない。
ともかく、凄まじい数の死が、側にあるのが分かった。
僕の中に、何か記憶が流れ込んでくる。
見た事もない広さの、黄金の沃野。
これ全部が稲穂なのか。
「流石は関東だ。 これほどの広さの土地、そうそうはない。 いい加減な政のせいでこの辺りの開発は未完成だ。 やりがいがあるぞ」
「全ては任せるぞ〇〇。 此処をこの国の礎とする」
「ははっ! お任せくださいませ、殿!」
そういう隣の奴、誰だ。いや、知ってる。知ってるはずなのに、分からない。
何故か、イザボーに被って見える気がする。僕の視界は高い。やはり、僕はこの記憶の世界では、とても背が高いのか。
はっと気付く。
たんと、澄んだ音。
それと同時に、クエビコの全身が淡く光り始める。膨大な呪いが、霧散し始めていた。
ぱんと、鋭い音。
そして何やら聞いたことのない呪文らしいもの。悪魔がやる呪文詠唱とも、だいぶ違っている。
今のは、足を踏みならした音と、手を叩いた音だろう。
やがて、クエビコは縮んでいく。
最後に残ったのは、体が崩れた土塊という雰囲気の存在だった。それは涙を流しながら、頭を下げる。
「大いなる力を持つ巫女よ。 すまなかった。 膨大な邪気と侵略者の奸計に飲まれて、わしは荒神となってしまっていた。 そればかりか、暴に身を任せ、これほど多くのわしを支えわしが救うべき民を手に……」
「邪気は祓った。 後は人々を救いなさい。 それに……今も貴方達の土地で好き勝手をしている邪悪がいる。 其奴を倒すための手札が必要よ」
「分かった。 わしはこの地に集った地霊達を導き、この地に暮らしている人々を守るために力を使おう。 土地の所有権はそなたに引き渡す。 感じるぞ。 これは中華の神格であるな。 後から押しかけておいて、全てを食い荒らすつもりか。 一度は聖神と化しながら、邪悪にまた墜ち果てた獣神か。 分かった。 わしの力を持って、討ち果たしてくれ。 せめてもの償いだ、土地の全権を渡す。 わしの代わりに、この地の人々を守ってくれ」
クエビコが手を叩くと、すっと辺りの邪気が消えていく。悲鳴を上げるハルパスを、あわててイザボーが引っ込めていた。
僕も残心をする。
クエビコが消える。きっと土地と一体化したのだろう。
ワルターは、周囲を見ながらぼやいていた。
「どっちかが勝つしかないし、クエビコの言い分も一理あるとすら思ったんだが、こういう解決法もあったんだな」
「ああ。 僕もクエビコを撃ち払うしかないと思っていた。 色々な知識が集まれば、出来る事も増える。 知識を持った他者を使えるだの使えないだの、ラグジュアリーズが偉ぶって言っているのが恥ずかしい」
ヨナタンも同意していた。
いずれにしても消耗が極めて激しい。それは霊夢も同じようだった。
霊夢が地面に落ちていた札を手に取る。
そして、引き上げると言う。
ワルターがてきぱきと阿修羅会のアホを縛り上げて、武装も解除。持っている武器は、かなり強そうな品だ。
捨てておくかとワルターがいうが、それだと多分野良悪魔に食べられてしまうだろう。
おろおろしている人外ハンターだったが、片方が手を上げていた。
「お、俺がそれは担いでいきます。 どうせそれしか役に立てないから」
「頼むわよ」
「へ、へいっ!」
霊夢の声に、すくみ上がる二人。
とりあえず都庁の内部は既に清浄な空間だ。これだと、人が暮らす拠点にも変えられるかもしれない。
更には、外に多数の悪魔が集まっていた。
さっきまで、此方を伺っていた地霊達だ。大小様々なのがいるが、その中の一体。鎧姿の大男が来ると、膝を突いていた。
「苦しんでいたクエビコ様をお救いいただき感謝する。 この地に集った地霊を代表して、礼を申し上げる」
「任せるわ、フリン」
「うん。 じゃ、この地をクエビコさんと一緒に守って。 それで、困っている人々を助けてあげて」
「承知。 クエビコ様もそれを望んでいるようだ。 ならば我等も、人とともに此処を守ろうぞ」
これでいい。
人が増えてきたらまた軋轢が起きるかも知れないが、今はそれはない。それを考えるのは、また後だ。
新宿に戻る途中の悪魔は、かなり数を減らしていた。荒神から元に戻ったクエビコの影響力が及んでいるのだ。
悪霊や怨霊の類もまとめて浄化されたようである。
霊夢が志村をスマホというので呼んでいる。多分だけれども、あの阿修羅会のアホを引き渡しておくのだろう。
それに、人外ハンター二人は、何があったか皆に話すと約束してくれた。状況を見れば何があったか明らかだ。阿修羅会の奴らは数人がこっちを見ていたが、舌打ちして引き揚げて行った。
阿修羅会は悪魔を手なづけるのに失敗。それどころか、また影響力を大きく失う事になった。
一度戻る事を霊夢に告げる。霊夢も国会議事堂シェルターに戻るらしい。
咳払いとともに告げられる。
「池袋で大規模作戦が行われる。 貴方たちも、是非来てくれると助かる」
「勿論確実に行くぜ。 一度休憩してから出向くが、其方での時間でいえばすぐだ。 先に国会議事堂についているかもな」
「いや、あたしもターミナルには登録しているし、空間も跳べるから。 とりあえずあのアホを志村が引き取るのを見届けてから戻るわ。 それと」
赤玉だったか。
阿修羅会が持っていたものを、霊夢が光の術か何かで焼き尽くす。
怨念が消えるのが分かった。やはりそれは、おぞましい品だったのだろう。
クエビコはそれを食う事を選ばなかった。もしも赤玉を平気で口にするような奴だったら、霊夢はもっと荒っぽくクエビコに対応していたのかも知れない。
先に上がらせて貰う。
新宿での激戦は、僕も思うところがたくさんあった。悪魔にも、話が分かる奴らがたくさんいる。
あのキチジョージ村を焼き尽くしたリリスだかと同じような奴らばかりではない。それは分かっていたのだが、更に強く思い知らされていた。