無事にクエビコの調伏に成功。ここまではまず完璧な内容です。
問題は此処から。
あまりにも池袋に住まう西王母は、強力無比だと言う事です。
顔役、フジワラさんの出番です。
可能な限りの手札を集める事になります。被害を減らすために。
フジワラは腕利きのハンター達に声を掛けていたが、やがて連絡がある。霊夢からだった。
新宿で荒神と化していたクエビコの調伏に成功。
クエビコから池袋の土地の所有権(神の及ぶ力)を受け取り、クエビコは浄化。以降は人々を守る神と代わり、クエビコの力に引き寄せられて集まっていた地霊達も、クエビコの言う通り人々を守る存在へと転化した。
ほぼ完璧に近い結果だ。
クエビコを倒すか、それとも共存するしかないかと思っていたのだフジワラも。
それがクエビコを浄化して、人々を守る善神であり知恵の神である存在にと戻したというのは凄まじい。
悪魔と共存とはいうが、実際の所悪魔と戦いながら生きるか、悪魔の言う事を聞いて犠牲を出すか。
今までの東京はそれが当たり前で。
誰もがそれで妥協して諦めてしまっていた。
第三の道が示されたのだ。
だが、それでも共存が無理な相手はいるだろう。
池袋の西王母は、霊夢の話を聞く限りそもそもわざと今回の残虐行為に手を染めている可能性が高い。
それである以上、倒さなければならない相手だった。
まずは霊夢に戻って来て貰う。
志村等の腕利きの人外ハンターにも集まって貰う。
問題はサムライ衆だが、あの四人組の実力を霊夢に判断してもらう必要がある。どれくらいやれるか。
それが課題だ。
それに、もう一つ問題がある。
池袋は、西王母に乗っ取られる前は阿修羅会が制圧していた。
西王母を倒すと、奴らがまたしゃしゃり出てくる可能性がある。
阿修羅会の介入を防ぐ必要がある。
ただでさえ池袋の人間は他力本願が身についてしまっている。それについても、現実的な対策が必要になる。
殿に頼んで、対策を練るか、
幾つかの思考を練っている内に、霊夢が戻って来た。
かなり疲れているようで、シェルターに戻るなり酒、と一言である。タチが悪いモラハラ夫みたいだが。
元々酒が好きなようで、苛烈な戦いの後はだいたい飲んでいるのも知っている。
地下のプラントでは酒は最低限しか造れておらず、霊夢が蟒蛇同然に呑む事もあって、それについて不満の声が人外ハンターから上がっているのも事実だ。
重要な設備の方が、酒なんかより優先度が高い。
医療用アルコールは生産しているが、残念ながらあれは飲むと有毒だ。
「何、酒ないの」
「我慢せい。 わしだって飲んでおらんわ」
「はー、仕方がないわね。 とりあえず風呂入って一眠りしてくるわ。 起きるまで起こさないで」
「知るか」
フジワラが出向くと、霊夢は地獄老人とそんなやりとりをしていた。いずれにしても暴論を言い放つと、個室に消える。
一応幾つかある個室の一つ。それを霊夢は堂々と占拠しているが。
あれだけの戦果を上げているのだ。誰も文句は言えない。
そして戦闘力が高い分、一度眠ると起きるまで結構時間が掛かる。
ただ、それに対して不満をいう人間はいなかった。
霊夢がどれだけ強力な悪魔を倒してくれているか、シェルターの人間だったら誰でも知っているからである。
あの蟒蛇だけが欠点で。
それはどうにかして目をつぶるべき事だった。
地獄老人が鼻を鳴らす。
「今は嗜好品なんぞ作っている場合ではないでな。 少しずつ作り出す品の精度を上げていて、もう少しでマザーボードくらいなら作れるようになる。 後は小型化するために、今までのノウハウを知りたいところだがなあ」
「情報の閲覧は許可していますが、厳しいですか」
「厳しいな。 殆どインターネットそのものが潰れていて、ネット上に上がっていた情報はほぼ閲覧出来る状態にない。 データサーバなんかろくにいきておらんだろうしな。 物理的なマニュアルなんぞ手に入る状態にない。 わしはだいたいの科学技術は頭に入れているが、色々な会社が秘伝にしていたような技術までは再現はできん。 ましてや職人芸でやっていたような技術の再現となるとな」
「それだけで充分です。 とにかく出来る事から順番にお願いいたします」
「ああ、そうさせてもらうよ。 悪魔との戦いとなると、流石にまだわしが役に立てる段階ではないからな。 弾だけは供給が絶えぬようにしてやるから、それでどうにかしてくれ」
まあ、地獄老人が色々と危ない思想の持ち主である事は分かっているのだが。
今の時点では、フジワラに不利益をする理由がない。
だから、好きにやっていて貰うしかない。
ただ、気になる事もある。
地獄老人は日本政府に呼ばれて、大戦前の幾つかの大型プロジェクトに関わっていたらしいのだ。
もしそれが本当だとすると。
大戦の原因を、知っているかも知れない。
ただ、本人に聞いても今は藪蛇だろう。
もう少し時を待つしかなかった。
フジワラ自身はそれから順番に連絡を入れて、そして腕利きの人外ハンターを合計八名、シェルターに招聘する。
流石に信頼性が低い人外ハンターを内部に入れる訳にはいかない。
現在国会議事堂内が完全に空になっているので、其処で会議を行うことにする。
今回呼んだのは、それぞれが東京で実績を上げている凄腕で、相応のレベルの悪魔を従えている使い手達だ。
ただこんな荒んだ世の中である。
いずれもが、あまり良い評判がない。
阿修羅会とつながっているという噂の奴もいる。それでも、今は力を借りなければならないのである。
先に集まって貰って、そして秀と一緒に検分する。
秀の力量はフジワラより段違いで上だ。更に的確に相手を分析出来るはず。
秀にも、池袋攻略戦の内容については既に展開してある。
それもあって、話はすぐに伝わるので、助かる。
「あの二人は戦闘力が話ほどではないな。 恐らく今回の件ではつれて行かない方が良いだろう」
「ふむ。 仕事面では、それなりに強い悪魔を倒している実績があるのですがね」
「本当に倒しているのか疑問だ。 それとも、極端に運が良いのかも知れない。 彼方の二人はなかなかの使い手だ。 合計戦力を分けると、これで丁度良いくらいになるだろうな」
3対5で秀が分ける。
それぞれの班分けには、強いと秀が言ったものが入れられている。
一人は長い髪を三つ編みにしてぶら下げている、眼帯をつけた男。背負っているのはやたらごつい銃だ。
ライフルの野田と言われる男で、かなりの高位悪魔を従えている事で知られている。何回かフジワラも連携して戦ったが、腕に問題は無い。
もう一人は中肉中背の、一見ひ弱そうな女だ。帽子を深く被って、サングラスにマスクで人相を隠している。
だが、この業界であの女を知らない奴はモグリとまで言われている危険な女で、リッパー鹿目と言われている。
鹿目という名字はとても珍しいらしく、何なら本名ではないらしいのだが。
単純に剣の腕がもの凄く立つのだ。二度戦闘をともにした事があるが、腕が六本ある悪魔と互角以上にわたりあい、剣術で圧倒していた。
本人は極めて人見知りで怖がりなのだが、戦闘力の凄まじさで知られ渡っているのと。下手に手とか出すと、一瞬で腕ごと持って行かれる事もある。
今も、他の七人はあからさまに距離を置いていた。
あまり強さがないと秀が論じた二人もあわせて、他の六人もそれなりに実績を上げている人外ハンターであり。
現在フジワラが呼び出せるメンバーとは違って、フリーランスだが。
今の東京では状況次第で動くフリーランスの人外ハンターの方が強い。
なお、秀の振り分けはリッパー鹿目の方に二人である。つまり秀の見た所、リッパー鹿目の方が格上と言う訳だ。
また、戦闘力に問題があるといわれた二人も、それぞれ別に入れられている。となると、実際には2対4で分けたいのかも知れない。
しばし考えた後、フジワラは采配をする。
「ならばその二人は遊撃として、戦況を見ながら不利になっている班に入れてはどうでしょうかな」
「……それで問題ないだろう。 ただ、池袋に行った霊夢の見たてだと、かなり厳しい戦いになるだろうが」
まあ、それは分かっている。
フジワラの方で、まずは八人の人外ハンターに話をつけに行く。
彼等もフジワラとは全員が面識があり、純喫茶フロリダで話をしたこともある。具体的な秀の見たてについて話はせず、当日での打ち合わせ、班分けを話す。
「え、俺があのリッパーさんと組むんスか」
そういったのは、大型の槍を手にしている男だ。長槍のゲンと言う。
長身で、腕自慢では知られているのだが。何度も強力な悪魔に負けて逃げた話も同時に知られている。
依頼達成率はあまり高くないのだが、逆に言うとそんな強い悪魔に負けても逃げて帰ってきていると言う事だ。
それだけ勝負運が強いとも言える。
「鹿目さんもお願いするよ」
「は、はい。 お願いいたします」
触ったりするとそのまま生きた凶器と化すリッパー鹿目だが、普通に接している分には内気な女性だ。
なお年齢は三十路近いらしい。
この状況だ。
非力な頃は、色々あったのかも知れない。女性の人外ハンターも多いが、それも自衛のためにやっている人も多いのだから。
一方ライフルの野田は、淡々と聞いてくる。
「それで、俺の相手はなんなんですかねフジワラさん」
「恐らくは五神……中華の方角神だ。 ただし本来のものではなく、堕落して荒神と化しているだろうが」
「厄介ッスねそれ。 黄龍と誰がやり合うのかを先に決めておかないと、ババ引きかねないッスし」
その通りだ。
黄龍については、今まで腕利きのハンターが遭遇例が幾度かある。分霊体としては、何回か東京に出現しているのだ。
他の四神とは桁違い。
それが一致した答えだった。
麒麟として出現してくれれば、殺傷力はむしろ落ちそうなのだが。まあ、そうもいかないだろう。
麒麟は黄龍と同様の方角神の中央に存在する霊獣であり、何も殺さないという伝承がある。
だが、それを守護者として配置するとは考えにくい。
一度持ち帰ると話して、一旦待機して貰う。
戻ると、軽く話をする。
シェルターの守りは、規格外マーメイドにやってもらう。これは此処にどんな逆撃があるか分からないからだ。
その上で。起きて来た霊夢も交えて話をする。
霊夢が挙手して、サムライの四人組と一緒に、西王母本体と当たると言う。つまり四人がかりだと、秀よりも強いと判断しているのかも知れない。
頷くと、フジワラの方からも手札を公開する。
「今回はガイア教団と連携して動く事になった。 あまり評判がいい集団ではないが、それでも必要な共闘なんだ。 分かって欲しい」
「……そう。 西王母にはあたしとフリン達サムライ、それにそのカガというガイア教団の手練れで当たるとして。 後の五体をどう手分けするかね。 人外ハンターのチームで二体を相手にするとして。 黄龍はどうする?」
「私が斬る」
秀が即答。
確かに、他に頼める存在もいないだろう。
ガイア教団の者達が、残りの二体のうち一体に当たる。問題は、最後の一体だが。
殿が挙手。
「わしが対応する」
「しかし、外に出られても大丈夫でしょうか」
「阿修羅会の阿呆どもが監視しているからか? その上よ。 わしはただ、無言で戦うだけとする。 阿修羅会の連中は、既に霊夢と秀、それにマーメイドについては把握しているとみていい。 此処でわしという手札が更にある事を見せる。 それでますます奴らを混乱させる事ができる。 ただでさえ憶病なタヤマだ。 この状態でまだ切り札があると知ったら、恐慌状態に陥るだろうな。 そうなればより与しやすくなる」
なるほど。しかし危険だ。
だが、無表情のままの銀髪の娘と裏腹に、殿の口調は余裕に満ちていた。
「この娘の戦闘力を見せておくのもいいだろう。 数限りない戦場に立ったわしだが、この娘の実力は保証するぞ。 五神が元になっている相手とすると、一番堅いのは玄武であろうな。 そいつはこの娘の力とわしの武技でかち割ってくれる」
「分かりました。 それから、不測の事態に備えて、私とツギハギが、六……八名の予備のハンターとともに待機します。 純喫茶フロリダは、志村と小沢に守って貰います」
純喫茶フロリダは、シンボルとして重要な店だ。
勿論切り札になる悪魔も配置しているから、簡単に落とされる事はない。それでも、念の為である。
問題は同時に出る六名だが、いずれもまだ大した実績は積んでいない面子だ。
後見人として、錦糸町の名物ハンターであるニッカリとともに出て貰う。あの男なら、フジワラも一人前成り立てくらいの人外ハンター達を任せられるだろう。
咳払いすると、フジワラは皆を見回した。
「連携はとても難しくなると思う。 状況に応じて、それぞれが臨機応変に動く必要もある。 後ろを討たれるようには私がしないように務める。 だから、それぞれが現場で最善を尽くして欲しい」
「交渉は任せるぞ。 いずれにしても開戦の狼煙は霊夢が握っておろう。 ガイア教団の縄を、しっかりそなたが引け」
「分かりました。 必ずや」
さて、此処からだ。
皆が解散したあと、地獄老人と話をしておく。
もう一枚、切り札を用意した方が良いだろう。
今話に加わったメンバーに、裏切りものがいるとは思っていない。しかしながら、此処での話が聞かれていないとは限らないのだ。悪魔の中には、時々とんでもない能力を持っている輩がいるのである。
そこで、更に切り札をもう一枚用意しておく。
これについては、後で殿にだけ話をする。
殿についてだけは、フジワラは疑っていない。もしも殿に悪意があるならば、これまでに幾らでもフジワラ達をまとめて壊滅させる事ができた。
それをしていないということは、つまりそういうことだ。
軽く地獄老人も交えて話をする。
殿は腕組みして考え込んでいたが。たまに技術的な説明を地獄老人がしていた。これはあくまでテクノロジーの産物で、魔術とは関係無いからだ。
「よし、分かった。 決戦は明日朝になるが、それまでに間に合わせられるか」
「つつがなくできるじゃろう」
「うむ……」
殿が頷いた(声だけだが)のは理由も簡単。
翌朝では何かしらを仕掛けるにしても不可能だからだ。
一度シェルターを出る。
タバコは吸わなくなって随分と久しい。もっとも大戦前には既に殺人的な価格になっていたし。
それほどヘビースモーカーでもなかったが。
ただ、落ち着くという点で、あれは有用だったかも知れない。
話が終わった事を殿が告げたのだろう。銀髪の女の子はぱたぱたと歩いて行く。歩く所作にも育ちの良さが出ているが、あの子が本当にそこまで強いのか。残念ながら、フジワラには分からない。
ただ、前に秀が強いと断言していたし、そこは信用していいと思う。
問題は明日の本番だ。
稚拙な連携なんか上手く行くわけがないので、ガイア教徒はまとめて一つの敵に当たって貰う。
カガという戦士はかなりの使い手のようだが、それでも場合によっては足を引っ張るだけだろう。
霊夢とサムライの四名が、何処までやれるかだが。
此処は信じるしかない。
問題は、ガイア教徒が当たる相手を選びたいとかごねる場合だが。それについても事前に対策は練っておく。
出立する戦士達には、充分に休息を取るように指示。
純喫茶フロリダから来たツギハギは、シェルター内部の様子を見て、まともに動かせなくなった顔で、それでも目を細めていた。
天使達との戦いで顔をグチャグチャにされて、それでもどうにか形だけ整えた状態。酷い渾名だが、ツギハギはそれでいいと言ってくれた。
今では寡黙なことが却って凄みに変わっている。唯一の、第一空挺団の生き残り。
元々は寡黙ではあったが、不器用に良く笑う男だったのだが。今ではその笑顔も、すっかり減ってしまった。
作戦の説明はしてある。
後は、軽くほんの少しだけある酒を入れる。これは地獄老人が作ってくれたなけなしだが。
この戦いの重要性を鑑みて、参加者にだけ配布したものだ。
池袋はどうにかして助けなければならない。例え住民が最悪の決断の結果、西王母を招いてしまったとしてもだ。
積極的に弱者を殺して回った、とでもいうような事でもしていない限り。
今の東京で、人を見殺しにすることなどあってはならないのだ。
ツギハギと久々に二人だけで飲む。
久しぶりのおおいくさだ。
ほんの少しだけしか酒はない。
だけれども、それでも。
不思議と、酔う事は出来た。
東京に戻ってきたフリンは、既に臨戦態勢にあるのを悟って、身を引き締めていた。
牙の槍の手入れも終わっている。
今回は手入れをしっかりしてもらいたかったので、丁寧にやってもらった。また、遺物の納入と、それでもらった食糧類の引き渡しもある。
何度か東のミカド国と東京を行き来して、物資を運ぶ。
やはりターミナルでは生き物を運ぶのはかなり難しく、鶏がギリギリである。
それでも、東京のシェルターでは、生きた鶏をとても喜んでくれる。
奧で見せてもらうが、不思議な畑が拡がっていた。
水が大量に使われていて、光がランタンではないなにかの装置から発せられている。
農家の人間には当たり前なのだが、夏などで光が弱いと、作物の出来は当然のように悪くなる。
自分で作った光でも大丈夫なんだなと驚かされるし。
何段にもなった機械の棚の中で、大量の作物が作られて。
これもからくりなのだろう。
不思議な腕がそれの手入れをしているのは、何度も驚かされていた。
ドクターヘルと以前名乗った老人が、何体かの悪魔とともに管理をしている。スマホを操作しながら、幾つかの指示を出して。
一本足で歩き回る一本ダタラという悪魔達が、あまり会話になっていない様な言葉を発しながら。
指示に従って、手入れをして。
どんどん修理もしているようだった。
「A4棚、な、なおったあ!」
「うむ。 新しく其処で作物を育てる。 廃棄分はコンポーザーに入れて、肥料にして再利用だ」
「わ、わかった、うぉああああ!」
「五月蠅い奴らじゃ」
僕の胸くらいまでしかない小人達も働いている。
地霊ドワーフというらしい。
知名度が高かったらしく、見た目と違う高い能力を持っているようだが。ドクターヘルの言う事はきちんと聞いている。
ドクターヘルの事は、素直に認めているのだろう。
「駄目になっていたビオトープのC6区画の手入れはおわったぞ、ドク。 それでそこで鶏の飼育を更に拡充するんじゃな」
「おう、頼む。 エサは野菜屑と悪魔肉でかまわん」
「任せておけ」
僕らが既に運び込んだ鶏は三十羽を超えているが、もっと運び込んで欲しいと言われている。
現時点ではシェルター内で、病人用くらいにしか卵を提供できない状態らしく、まだまだ大量にいるそうだ。
卵は様々に使い路があるらしく、病気に対するお薬を作るのにも使ったりするらしい。
回復魔術ではどうにもならない病気もあるらしいし。
鶏の卵がとても栄養価が高いことは僕らも重々承知している。
故に、きちんと活用してくれているのはとても有り難い。
「お前さん達に此処を見せているのは、きちんと理由があってな」
「どういうことだよ」
「感謝の言葉もあるが、こういう設備を使ってなお、まだ食い物が行き渡らないくらい、東京の状態が悪いと言う事を知っておいて欲しいという、フジワラの意思だ。 しかも少し前までは、此処すらも生きていなかった」
「それは、酷いですわね」
シェルターの地下はまだまだ広くて、色々な区画に色々な設備があるらしいが。
まだ三割くらいは死んでいるらしくて、ドクターヘルが毎日この悪魔達と修理して、機能を拡張しているらしい。
ただそれでも全然足りないということで。
今、このシェルターを拡大する作業をしているそうだ。
僕らが開放したターミナルがあった辺りは、悪魔と戦う装備を生産する工場にするらしい。
他にも天王洲という場所にあるシェルターを大改装して、似たような拠点にする予定があるそうだ。
「僕らの方でも遺物を探している。 それを更に提供していただければ、支援を大規模にすることが可能だ」
「それはいいんだがな。 東京を焼き払った天使の事は、わしも覚えておる。 もしも東のミカド国が天使によって支配されている国だとすると、何をされるか分からないという問題もあってな。 お前さんらは信頼に値するとわしは思っているが、フジワラは慎重な姿勢だ。 ただ、新宿の件で、信用するつもりになったようだがな。 次の池袋の件で、更に信頼に値するところを見せて欲しいということだ」
「……」
僕も考え込む。
あのギャビーという女司祭だか司教だか。
国王なんて歯牙にも掛けていない様子のあの怪人物の正体は、人間ではないのではないかと思うのだ。
もしもあの存在が東京で破壊の限りを尽くした天使だった場合、どうするのか。
ヨナタンと一度話したほうがいいと思う。
ヨナタンは民のためにと第一に考える。
僕も農民出身だから、それについては同意できる。
だが、もしも東京と東のミカド国を天秤に掛ける場合。
ヨナタンは、東のミカド国を選ぶのではないかと思うのだ。
不意に、何か思い出す。
また、知らない記憶だ。顔が見えない人が、とても苦悩している。ひげ面の、明らかに歴戦と分かる人物が、涙を流しながら平伏していた。
「〇〇様はお怒りです。 これが言いがかりであり、〇〇様も〇〇様も無罪であることは分かりきっています! しかし〇〇様の言葉は今や絶対! 〇〇を非常に憎んでいるあの御方が言ったのなら、白も黒なのです。 そして全盛期の〇〇公がいた時代の〇〇以上に今の〇〇様は強大……! もしも逆らったら、〇〇の民は……!」
「分かっておる! だが、戦下手な〇〇と比べて、嫡男に相応しいあ奴を、ばかげたいいがかりで失っていいものか! 〇〇様も、少しずつ鈍り始めておる。 近年〇〇が怪しい動きをしているが、それにも気付いておらぬようだ」
「鈍り始めていたとしても、絶対は絶対! ご決断を!」
「……分かった。 分かったがしばし一人にしてくれ」
その場にいる誰もが、悔し涙を流している。
僕ははっと正気に戻る。
時々出てくるこの記憶、なんだ。
そしてあのひげ面の、決断を促している人が。どうもヨナタンのように思えてならないのだ。
似ても似つかないのに。
頭を振って、雑念を払う。
時々見るようになったこの不思議な記憶、笑い飛ばしていいものだとはとても思えないのである。
「フリン、どうしたんだ」
「うん。 後で話そう。 これから池袋に出向くらしいし、軽く体を温めておかないとね」
「ならば外でちょっと悪魔を倒したり、雑魚を捕まえておこうぜ」
「そうですわね」
ワルターとイザボーが気を利かせてくれる。
こう言うときは、動いていた方が良いか。
シェルターの入口を守っているマーメイドに一礼。
あの霊夢が、自分より強いと断言する程の存在だ。しかもとても人間に対して友好的である。
だったら、丁寧に接しないといけないだろう。
シェルターの周囲は、殆ど雑魚悪魔もいない。特に重点的に、人外ハンターが駆逐して回っているのだろう。
それでも時々姿を見せるので、すぐに狩っておく。
そうすることで体を温めておいて、決戦に備えておいた方が良いだろう。
しばし悪魔を狩って、体を温めていると。
伝令らしい鳥の悪魔がきた。
ちょっとカタコトで、用事を伝えてくる。
「フリン様フリンさマ! 作戦の会議をおこなうというコトで、彼処にアル国会議事堂に来てほシイということです! でわ!」
「作戦開始か。 とりあえず雑念は晴れた。 体も温まった。 池袋とやらで大暴れしている極悪な悪魔を退治に行こう。 それでサムライと人外ハンターは、もっと緊密に連携出来るはずだよ」
「問題は頻繁に出てくる天使って言葉だな。 東のミカド国と此処で、一体何があったのか、知らないとこの軋轢を解消するのは難しいと思うぜ」
「それは同感ですわね」
ヨナタンが苦しそうにしている。
天使を使役しているヨナタンは、どうしても天使が破壊の限りを尽くしたことを信じられないのだろう。
実際極めて献身的に戦ってくれていて、それで活路が開かれたことが幾度もあるのだ。
だが、それでも天使の献身性を通り越した盲目的な忠誠は、見ていて僕ですらちょっと危ういなと思う。
いずれ、腰を据えて話し合うべきだった。
国会議事堂の、空になっている建物に入る。
装備も背格好も雑多な男女が八人。二人はちょっと見かけ倒しみたいだが、残り六人は強いし。
特に二人は、相当な使い手だ。
其処に霊夢達が来る。更には、帽子を被った、しゃれた格好の男性も。この人が、多分フジワラだろう。
志村達もいる。
総力戦なんだな。
僕は身を引き締めると、そのまま説明が始まる作戦会議に、神経を集中していた。