もう一人の東京守護者   作:dwwyakata@2024

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ついに東京議事堂側のシェルターを奪回する事に成功。

これと明確な指導者の獲得によって人外ハンターは阿修羅会に対して大きなアドバンテージを得る事になります。

原作でのフジワラさんは、阿修羅会も迂闊に手を出せない使い手ではありましたが、もうちょっと積極的に動いて欲しかったですね……




ともあれ、これで原作には無かった強力で歴戦の指導者が人外ハンターに追加。

更に生半可な悪魔では手出し出来ない戦力もおまけで追加。

かくして最悪の支配者への反撃が開始されます。






3、拠点奪回

フジワラがいる純喫茶フロリダに志村は戻る。拠点奪還を告げると、フジワラは歓喜。純喫茶フロリダをツギハギに任せ、すぐに向かうと行った。志村も一緒にシェルターに同行する。

 

阿修羅会と人外ハンターの抗争はしょっちゅうだ。だからこれが問題になることもないだろう。

 

阿修羅会は基本的に自己保身のためだけに行動しているが。

 

それに対して現在の人外ハンターは比較的緩やかな組織で、自己責任で行動している。

 

各地の街を悪魔から守ったりもしているが、それは給料が出る場合のみ。

 

阿修羅会に荷担する人外ハンターもいるし、悪魔に人間を突きだして安全を買うような人外ハンターすらもいる。

 

それくらい人の心が荒んでいるのだ。

 

それは、希望が存在しないから。

 

卓越した指導者が存在しないから。

 

悪魔達は人間の混乱が、自分達への恐怖を生むと知っている。だから一部の悪魔は、意図的に阿修羅会を支援したという噂がある。

 

阿修羅会がボンクラの集まりであり、最終的に自滅を招く事を承知で手を貸したのは。

 

数が減っている人間が、悪魔をより恐怖するようにし。

 

恐怖をエサにしている悪魔達の力を増すように仕向けるようにするため。

 

そういう話は志村も聞いていた。

 

フジワラは元新聞記者だが、今はすっかり人外ハンターの顔役。ただし、全員の面倒を見ている訳では無い。

 

混乱初期に英雄的な活躍をした一人であるフジワラは、阿修羅会の幹部にも慕う人間が多く。

 

フジワラが来たと聞くと阿修羅会のチンピラでさえ態度を改める。

 

阿修羅会のボスであるタヤマが怖れる所以だ。

 

悪魔にすら顔が利くフジワラは、タヤマのような臆病者には一番厄介な……得体が知れない相手なのである。

 

そうなるように動いている事を、志村は聞かされている。

 

勿論それでも時々フジワラに刺客が差し向けられるから。護衛はついているのだが。

 

今回は、純喫茶フロリダに戻る途中、同行を申し出て(筆談で)くれた、「秀」という名前の女がついてきていた。

 

秀は物珍しそうに色々見ていたが、興味があるかというとそうでもないらしい。

 

若いように見えるが、あの霊夢という女の言葉を信じるなら、地獄の深部で戦い続けていたような者だ。

 

普通の人間とはとても思えないし。

 

年齢も見た目通りだとはとても考えられなかった。

 

「それにしても、たった三人でアドラメレクを退けたのか」

 

「実質戦っていたのは霊夢という女だけです。 とどめは連れていたマーメイドが差しましたが」

 

「アドラメレクには大きな被害がずっと出ていた。 阿修羅会がいう悪魔が減っただの管理できているだのが大嘘だとよく分かる事例だった。 それでありながら、誰もが逆らう事を諦めてしまっていた」

 

「はい。 情けない事です」

 

志村は警戒しながら、歩く。

 

秀は自然体のまま歩いているが、時々目にも止まらぬ速度で、悪魔を斬り伏せている。手にしている刀は長大で、普通の刀とはとても思えなかった。

 

「銃が通じない」というような、特殊な特性を持っている悪魔は珍しく無い。このため人外ハンターは近接武器を銃と一緒に持つのが普通になっている。だからどうしても剣の力量は分かるのだが。

 

これは、多分剣限定なら今東京でこの女に勝てる人間はいないとみて良い。

 

ツギハギがかろうじてやり合えるか、というところで。それも勝ち目は薄いのでは無いかと志村は見ている。

 

勿論高位の悪魔には人間など歯牙にも掛けない剣技を持つ者もいる。そういうのが相手になるとどうなるかは分からないが。

 

「人外ハンターの本部からはどれくらいの人員を集めますか」

 

「まずは司令部の状況を整えてからだ。 阿修羅会に荷担する悪魔が攻勢を掛けてきた場合、アドラメレク以上の強さの悪魔が何体でも来るだろう。 人外ハンターの総力を挙げても勝ち目は無い。 まずは此方も戦力を整えなければならないが、人を束ねるということ自体が出来ようがない」

 

「……」

 

「まずはかの方に相談しよう」

 

かの方。

 

あの銀髪の子供の事だ。

 

正確にはそれに憑いている何者か。

 

あの銀髪の子供は、あれはあれでとても強い。アドラメレクと霊夢の戦闘の余波を。光の壁のようなものであっさり防いだのを見た。あれは全力攻撃でも防ぎきったかも知れない。

 

憑いている何かが、志村達なんかよりよっぽど修羅場を潜っているというような話をしていたが。

 

確かにアドラメレクのプレッシャーに臆している様子は一切見られなかった。

 

悪魔がまた数体現れる。

 

豚のような姿をしたカタキラウワと言われる悪魔だ。

 

魔獣に分類されるが、鹿児島の妖怪の一種で、片耳がない豚の姿をしている。

 

実際には豚は野生化した場合かなり危険な動物なのだが、このカタキラウワはそれ以上に危険だ。

 

人間に対する非常に危険な呪いの魔術を使う事ができ、これをまともに受けてしまうと即死するか、運が良くても生殖能力を一生失う。

 

ただし元が妖怪であり、しかも日本という地元の存在だからか「存在が濃く」、殺す事でマグネタイトではなくあまり質が良いとはいえないが肉になる。だから、危険を承知でこれを狩りに行く人外ハンターもいるし。悪魔召喚プログラムで使役して、独自の繁殖法を研究している人外ハンターもいる。

 

「銃弾は使うな。 貴重な蛋白源だ」

 

「分かっています」

 

志村が剣を抜くと、一斉に呪いの魔術の詠唱にカタキラウワが入る。勿論唱えさせるつもりはない。

 

お手並み拝見と、秀が見ているなか、二体を左右に斬り伏せ。更にもう一対の首を刺し貫く。

 

突貫してくる一体。

 

此奴らに股を潜られるのがかなり致命的で、即死の魔術をそれで発動させることが出来る。

 

そういう魔術の代用めいた事が出来る悪魔はたくさんいる。

 

これもその一種と言う事だ。

 

態勢を低くして、相手が突っ込んでくるのを引きつけながら、首を刎ね飛ばす。

 

最後の一体が、フジワラの方に向かうが。

 

フジワラは悪魔も呼び出さず、すっと身を引くと、一撃でカタキラウワを蹴り倒していた。

 

首が折れている。即死だ。

 

「よし、切り分けろ。 肉はすぐに燻製にする。 幾らでも腹を減らしている奴はいるからな」

 

「これらの豚は繁殖しているのか」

 

「!?」

 

誰の声かと思ったら、秀だ。

 

しゃべることができないのかとすら思っていたのだが、口は利けるらしい。

 

フジワラが咳払いすると、説明する。

 

「何しろ今の東京は大量の怨念や悪意で満ちていますからな。 こういった呪いの権化のような悪魔は、ちょっとした切っ掛けですぐに具現化します。 これらの肉の質が低いのは、恐らく下水やら死体やらのマグネタイトを元に実体化したからという理由もあるのでしょう」

 

「……」

 

こくりと頷くと、それだけでまた秀は喋らなくなった。

 

ずっと口をへの字に結んでいる事もあり、美人だがとにかく怖いと思っていたのだが。

 

声はかなり低めで、ちょっとドスが利いていた。

 

それもあって、喋らないのかも知れないと志村は思ったが。

 

まあ、それはいい。

 

他の人外ハンターと協力して、カタキラウワを捌く。肉など食べられる箇所を全て取った後は、焼いて処理してしまう。

 

焼き跡を砕いてそれでおしまい。

 

それで残りからまたカタキラウワが出現したりするので、その時はまた肉を取らせて貰う事になる。

 

国会議事堂の近くにいくまでそれなりに時間が掛かる。

 

今は車があってもガソリンがない。

 

自転車などは悪路過ぎて乗れたものではない。

 

文明は全ての利点を捨て去ってしまった。これで阿修羅会みたいな連中が東京を牛耳っていなければ。まだ少しは対応のしようがあったものだが。

 

途中で何度も悪魔に襲われたが、手強い相手は殆ど秀とフジワラが片付けてしまった。志村は護衛も出来ていないが、出来る事はするだけでいい。

 

かなり上空を、とんでもなく大きな竜が飛んでいる。

 

あれが何なのかは分からないが、関わらないのが賢明だ。

 

シェルターの前につく。

 

数度の戦闘の跡。

 

霊夢という女が、シェルター近くの壁に背中を預けて、腕組みしていた。

 

「ようやく到着ね。 客が何回か来たわよ。 全部追い返しておいたわ」

 

「ありがたい。 貴方が秀さんと強力なマーメイドとともに志村くん達を助けてくれた霊夢さんですね。 私はフジワラ。 昔は新聞記者をしていました」

 

「……新聞記者には正直いい印象がないのだけれど、其奴らと同じでない事を祈るわ」

 

「俺は此処で守りに入ります。 内部については、既に確認をしてありますので、ご安心を」

 

敬礼して、フジワラを送る。

 

敬礼を返すと、フジワラはシェルターに、秀と霊夢と一緒に入っていった。

 

ここから先は、東京に未来が関わる話だ。聞かない方が良い。

 

出来るだけ信頼度が高い人外ハンターを集めてはあるが、それでも此奴らの誰が裏切ってもおかしくない。

 

それくらい、今の東京では。

 

人の心が、荒んでしまっている。

 

志村は周りに言い聞かせる。これから下で行われる話は、恐らく東京に生きる人全ての未来に関わる事だ。

 

死守。断固。そういうと、人外ハンターは皆緊張した面持ちで頷く。

 

状況を阿修羅会が把握した場合、どんなとんでもない悪魔が送り込まれてくるか、わからないからである。

 

 

 

フジワラはコンソールルームに来て、懐かしいと思った。

 

自衛隊と在日米軍だけでは手が足りなくなって、混乱する東京で戦い続ける人外ハンターが募集された。当時は悪魔討伐隊だったが。ともかく、その中に混じって、フジワラも戦った。

 

冴えない新聞記者だったフジワラには、戦いの才能があったらしい。運動はそれほど得意ではなかったのに、戦えば戦うほど強くなり。

 

その頃には大量に流通していた悪魔召喚プログラムもあって。

 

やがてアキラとツギハギという同志を得て。

 

三人で、閉ざされた東京で無茶苦茶の限りを尽くす悪魔を片っ端から倒して行った。

 

やがてスカイツリーを登って、天井を目指した。その上にある存在がいると知ったからである。

 

スカイツリーは強力な悪魔の巣窟になっており。更にその上には巨大な岩盤があった。其処を確保して、必死に仲間と仲魔とともに掘り進め。ついに最上部にまで上がって。

 

そして。

 

アキラと別れた。

 

ツギハギと一緒に戻って来たフジワラは、その戦いの記憶を生かして。もう誰も代わりがいないから、人外ハンターの顔役になった。

 

阿修羅会と何度もやりあったが。それも物量に押され。悪魔の援護を奴らが受けている事もあり。

 

損耗を避ける為に、此処を放棄せざるをえなくなった。

 

此処が、これほど残っているなんて。

 

涙が溢れそうになる。

 

これで彼奴が。アキラがいてくれれば。

 

そう思い、嘆息する。

 

シルキーとゴエモンが来たので、頭を下げる。良く、留守を預かってくれたと。

 

他の悪魔達にも礼を言う。

 

勿論契約というものもあるが、それ以上にただ個人としての礼を言いたかった。

 

機械類を直しているのは、屈強な老人だ。

 

側であくせく働いているのが、銀髪のあの娘。憑いている例の存在は、文句を言っているようだが。

 

「わしを顎で使うとは、生意気な爺よな」

 

「別に使っておらんぞ。 その娘が自主的に手伝ってくれているだけよ。 元々働き者で心優しいのであろう。 あんたとは偉い違いだな」

 

「抜かせ。 わしほど働いた人間なんぞそうはおらんわ」

 

「確かにそうかもしれんが、それはあくまで過去の話だろう。 ……おお、そうだそうだ、それをそうつなぐ。 さて、これで概ねこの辺りの細々したものの復旧は出来たな。 後は核融合炉を起動させる必要があるが、それにはもう少し彼方此方直さなければならん」

 

あの老人は、数度見かけたことがある。

 

青ざめている閣僚達を、凄まじい勢いで罵倒していた。

 

わざわざわしを呼んでおきながら、なんだこの為体はとか。それで閣僚達は何も言い返せていなかった。

 

ドイツ出身らしいが、詳しくは素性を知らない。

 

ただ。前世紀初めの生まれだとかいうらしく。

 

もしそうだとすると、仮に25年冷凍睡眠で加齢しなかったとしても、現在の年齢はあまり考えたくない。

 

ともかく、此処の機能復旧は後で本腰を入れてやるとしても。まずは情報の展開が先になる。

 

咳払いして、皆に集まって貰う。

 

会議室は埃も積もっていない。

 

シルキーがずっと手入れをしてくれていたのだ。

 

本当に有り難い事である。

 

まずは自己紹介をする。

 

銀髪の娘は、首を横に振る。それに、憑いている存在が付け加えてくれた。

 

「名前がないらしくてな。 身内にはある名前で呼ばれていたそうだが、今はそう名乗りたくないそうだ」

 

「わかりました。 それで貴方はどう呼びましょうか」

 

「殿とでも呼んでおけ」

 

「それでは殿、今の東京の状態を説明させていただきます」

 

まあいいだろう。実際問題偉人だし、この人に頼らないと未来は無い。

 

いい年になったフジワラだが、そんなフジワラですら子供にすら思えるような過酷な人生経験を積んで来た存在である。一応、この人に関するプロジェクトについては聞かされている。

 

それが成功したという前提で今は話を進めていくしかない。

 

周囲にこの存在の正体を明かさないのには理由があるが、それはまた後でいい。

 

ともかく、順番に説明していく。

 

「私も細かい経緯は分からないのですが、およそ25年前、世界が終わりました」

 

「ほう」

 

「経緯がよく分からないのですが、ともかく世界中を破壊するのに充分な兵器が放たれました。 その前後から大混乱が起きていてよく分かっていないことも多いのですが、ともかくこの東京にもその兵器が降り注ごうとしました。 それを混乱の中勇敢に立ち回っていたある男が、命を守護者に捧げたのです」

 

「守護者だと」

 

黙って聞いている皆。「地獄」氏も例外ではない。

 

此処にいる面子の中では例外として「地獄」氏もその場にいたはずだが。確かずっと技術顧問として動いていたから、細かい経緯は分からないのかも知れない。

 

「結果、守護者は目を覚まし、東京をその恐ろしい兵器から守る天蓋を作りました。 それが今の、空を覆う天蓋なのです」

 

「その守護者とは何者ぞ」

 

「平将門公です」

 

「ふむ……将門公か。 確かに板東武者の祖とも言える御方ではある」

 

殿が考え込む。

 

この様子では殿が当の平将門公と言う事は無さそうだ。万が一それもあり得るかも知れないと、プロジェクトでは言っていた。

 

銀髪の娘と殿のプロジェクトは、それらの事件の後に行われた。

 

平将門公は多くの影武者を従えていたという伝承が残っており、或いは……という話もあったのだが。

 

この感じではそれはないだろう。

 

ともかくである。東京は核兵器の恐怖からは守られて、その場で消し飛ぶのは避けられた。

 

平将門公は、しかしそれで力尽きてしまった。

 

東京以外が守られたとも、とても思えなかった。

 

そして守られたとしても、その後から本当の地獄が始まったのだ。

 

「闇の中の世界で混乱が始まりました。 多くの悪魔が人々を襲い続け、それに抗う者は勇敢で責任感がある者から斃れていきました。 悪魔が支援していた阿修羅会のようなクズが東京の支配を成功させたのには、そういう理由もありました。 他にも色々ありましたが、その結果、25年ほどで1000万を超えていた人々は、わずか10万程度にまで減ってしまったのです」

 

「そうか。 無惨な話だ」

 

「いずれこの過程についてもお話しさせていただきます。 それでは、現在の状況について解説させていただきます」

 

プレゼンは既に頭の中で練ってある。

 

プロジェクトの成果をついに回収出来たと志村から聞いた時には、内心では跳び上がって喜びたいほどだったのだ。

 

此処への道中で、フジワラはずっとプレゼンを練っていたほどである。

 

まずは、現在の状況を打開する事が大事。

 

それは、殿に対して、情報の細かい把握をして貰う事から始まる。

 

「現在東京には幾つかの大きな勢力があります。 まずは我々人外ハンターですね。 この組織の前身は、自衛隊と在日米軍からなっていた特務部隊、「悪魔討伐隊」でした。 現在では人員を大きく減らし、特に「必殺の霊的国防兵器」と言われた強力な守護悪魔を全て手元から失っている事もあって……各地での最低限の治安維持しか出来ていない状態です」

 

「ふむ、最低限の治安維持か」

 

「後進を育てようとしてはいますが、何しろこのような情勢です。 力が全てと考える者も多く、事実必要となれば逃げ出すような者が生き残る状態であり、力があっても阿修羅会に与するような輩や、弱き者の盾になろうという気概のあるものは殆どおらず。 それどころか……阿修羅会が主催で行っている腕利き同士の力自慢などという愚かしい大会で、つぶし合っている始末です」

 

「分かった。 わしがある程度面倒を見て、一人前の兵に育てようぞ」

 

有難うございますと頭を下げる。

 

フジワラもツギハギも、これはと思った若者は何人も見てきたが。そういう若者から殺されていった。

 

心がすり減ってしまっている。

 

今の状態で、若者を育てること何て出来そうにもない。

 

ブラック企業が蔓延していた頃は、「最初から何でも完璧に出来る新人」なんてありもしないものを、大まじめに企業が求めていた。そんな事をするようなアホが、社会の上層に蔓延っていたのだ。

 

フジワラはその愚を繰り返すつもりはない。

 

だが、そもそもこの状態では、育てるという行為がとても厳しいのだ。

 

「何名か優秀な子らがいます。 面倒を見ていただけると助かります」

 

「うむ。 続けよ」

 

「はい。 次の組織は、銀座に本拠を置く組織、ガイア教団です」

 

「ガイア教団?」

 

殿が小首を傾げる。

 

意外にも、話に乗ってきたのは霊夢と「地獄」だった。

 

「聞いたことがあるわねそいつら。 うちの隠れ里に攻めこんできた天使やらが、その名を口にしていたわ。 ガイア教団か貴様等。 我等が秩序の光に逆らう愚か者に死を、ってね。 そんな奴ら知らないっての」

 

「まあ知らなくても無理はなかろう。 わしも存在を知ったのはナチが崩壊してからだからな。 各地を回って古代文明の遺跡を探しているときに接触してきたのがそやつらだったわ。 役に立ったり立たなかったり、或いは裏切られたり、色々あったわ。 ガハハハハ」

 

色々とんでも無い単語が地獄氏の口から出ていたが、それは気にしないことにする。

 

フジワラとしても、前世紀の初頭から生きているという怪人が、どこまで本当の事を口にしているかはちょっと計りかねるからだ。

 

咳払いして説明を続ける。

 

「ガイア教団は優性思想そのものを掲げた、力こそ全てという組織です。 力があれば誰でも抜擢する反面、弱者に対してはあまりにも冷徹で、ほとんど家畜のように扱う組織です。 一方戦闘部隊は鍛え抜かれていて、恐らく現在人外ハンターの精鋭を除くと、高位の悪魔とやりあえる可能性がある数少ない集団でしょう」

 

「フジワラよ。 教団というからには何かの信仰をしているのか」

 

「何かというよりも……彼等は悪魔が仕切っている組織です。 上層部には悪魔がいて、それを隠してさえいません」

 

「ふむ……」

 

殿が腕組みする。

 

現在ユリコと名乗る女がガイア教団を仕切っていることがわかっているが、此奴の正体はどうやらリリスであるらしいのだ。

 

リリスとは、一神教における最初の人間、アダムの最初の妻だった存在である。

 

リリスはアダムとの婚姻の際、男性優位の結婚を拒否。

 

そのまま神の下を離れ、悪魔の子を大量に産んだ淫婦として知られている。この子らがリリムと言われる存在だ。リリムは東京でも多数見かける。

 

リリスはユダヤ教の神秘主義などでも強大な悪魔として知られ、時にはアダムとその妻イヴに知恵の実を食べるようにそそのかした「蛇」サマエルの妻とされる事もあるのだが。

 

今は現実の脅威として、認識していなければならない。

 

「ガイア教団は欲望を全肯定する組織で、力がある者は金もあると考えています。 膨大なマッカを蓄えており、また家畜扱いでいいなら弱者も守るため、中には進んでガイア教団に保護を願うものまで出て来ています」

 

「ふむ、仮想敵としては阿修羅会とやらより格上のようだな」

 

「ただ、場合によっては共闘も出来ます。 ガイア教団は東京に存在している悪魔の集団全てと仲が良い訳でもなく、現在池袋で猛威を振るっている西王母とは対立していて、近々掃討作戦を実施するという噂もあります」

 

顔を霊夢が上げる。

 

知っている様子だ。恐らく西王母の方だろう。

 

まあ、それはいい。

 

咳払いして、次に行く。

 

「最後が阿修羅会です。 正確にはこの組織は八部連合阿修羅会という名前です。 東京に昔からあったいわゆる反社会的組織の一つで、元は広域暴力団の三次団体でした」

 

「三次団体?」

 

「早い話がチンピラと言う事です」

 

「それにこの東京を乗っ取られたのか」

 

嘆く殿。

 

フジワラも情けないのは同感だ。

 

現在この阿修羅会は、タヤマという男を頂点にして最大の勢力を誇っているのだが、問題が非常に多い。

 

まず各地のインフラを破壊して、人が行き来できる道をなくし、僅かに残った道を独占してしまっている。これにより人々は情報のやりとりもろくに出来ない有様だ。

 

人外ハンター達が悪魔召喚プログラムを使うのに用いるスマホも、阿修羅会が独占。それどころか、大量のスマホがあった秋葉原を、米軍が持ち込んでいた気化爆弾でまとめて消し飛ばす暴挙にさえ出ている。

 

食糧などに関しても暴利で売りつけているばかりか。

 

人間をさらって、あるおぞましい行動をしていることも既に掴んでいる。

 

その結果「赤玉」と呼ばれるものを作り出し。

 

これを用いて、悪魔の一部を懐柔。

 

「東京の治安を守ってやっている」などとうそぶいている連中だ。

 

いずれもが人類の首を絞める行動ばかりだが、これらは自分さえ良ければどうでもいいという、反社の行動原理である。

 

タヤマは大戦の時は若造のチンピラに過ぎず、のし上がった今もその性根はいっさい変わっていない。

 

フジワラも何度か対面したことがあるが、明確に此方を怖れているのが分かった。

 

やりあったら勝てないと一目で見抜いたらしい。

 

相手の力を見抜く術だけには長けているのだ。

 

「ふむ。 そしてそやつらが必殺の霊的国防兵器とやらを有しているのだな」

 

「はい。 これらはいずれも極めて強力な悪魔で、それぞれが東京に跋扈している高位の悪魔に対抗できる存在でした。 しかし今では、阿修羅会の縄張りを守る番犬として使われたり、或いは人々を苦しめる阿修羅会の走狗として使われてしまっています……」

 

「だいたい分かった。 ガイア教団とやらもそうだが、まずは阿修羅会とやらを潰さなければならぬな。 フジワラよ、 このシェルターとやらは相応の人数を集められるということだが」

 

頷く。

 

志村が確認してくれたが、食糧の生産プラント、生活用のスペース、全てが揃っている。

 

入口を守りきれば、内部には安全を確保できるだろう。

 

ただ、それでも物資は足りない。

 

現在、東京の各地に廃墟化したビルなどが大量にあり、電子機器を初めとする物資はそれらで眠っている。

 

ただ悪魔と言うのはアティルト界といわれる情報世界に普段は住んでおり、そこからマグネタイトを介してこの世界……アッシャー界と言われているのだが。そちらに具現化する方法で姿を見せる。

 

他にも姿を見せる方法はあるのだが、あくまで例外だ。マグネタイト方式がもっとも簡単で、負担も小さい。だからそれがよく使われる。

 

「まずは幼い子供や、老人や病に伏せる自分で身を守れぬものを集めよ。 人外ハンターもこの様子ではまともに戦う前に命を落とすものが大勢おろう。 半人前のものは全て集めよ。 それと人外ハンターと共同して、悪魔を可能な限り集めよ。 弱い者でもかまわぬ」

 

「悪魔をですか」

 

「此処にいる間にそこにいる爺から話は聞いている。 悪魔召喚プログラムとやらのな」

 

悪魔召喚プログラムは、この大戦前後から、「スティーブン」と呼ばれる謎の人物が大量に配布したことが分かっているプログラムだ。ちなみに大戦の直前には、なんとネットでオープンソースとして公開されていたらしい。しかも出来があまりにも良すぎて、誰も手を入れる事ができなかったとか。世界的なハッカーですらだ。

 

この悪魔召喚プログラムは交流を持ったガイア教団員などからの情報を総合する限り古くから存在し、少なくとも1990年代くらいには裏の世界では出回っていたらしい。なんと初期はbasicやfortranと呼ばれる現在では殆ど使われていないプログラム言語で組まれており。しかも容量も破格の小ささだったそうだ。スティーブンという人物がすべて組んだのかどうかは分からないが、ともかく天才が作ったのは間違いない。

 

このプログラムは後に様々な機能が追加されたが、基本の能力は、悪魔との契約をすること。

 

契約は基本的に複雑な手順を踏まなければならないのだが、悪魔召喚プログラムはその手順を代行してくれて、要求を呑めば、自分より力の弱い悪魔であれば契約で縛る事ができる。

 

更には悪魔召喚にも元々は複雑な手順が必要なのだが、これも改良が進められており、今では非常にスムーズに悪魔を召喚することが可能だ。

 

また悪魔同士を合体させることで、より強大な悪魔を作り出す事も出来る。

 

勿論悪魔より自分が強くなければ相手を従える事は出来ないのだが。それでも神話的に相性が良い存在などを用いれば、強力な神などを作り出し、使役する事が可能である。

 

場合によっては、伝承が一人歩きした結果誕生した伝説としての英雄も。

 

ツギハギが使役しているゴエモンもその一体だ。

 

「戦える人間を増やし、更には走狗として扱える悪魔も増やす。 現役引退に近い年齢の人外ハンターも積極的に保護しろ。 後進の育成に役立って貰う」

 

「各地の守りは如何なさいますか」

 

「自力で身を守れないような連中は、此方で全て引き取れ。 そうでない連中は、好き勝手にさせておけ。 人間というのは、ある程度年を取ると変わるのは非常に難しくなる。 今更力こそ全てなんて生き方をしてきた連中は変われぬ」

 

「分かりました。 すぐに手配を進めます」

 

他にも順番に行動の指針を示してくれる。

 

もの凄く具体的で、とにかく助かる。

 

このシェルターを奪還できたのも大きいが。

 

とにかく助かった。

 

「ただ手元の戦力がまだ心細いな。 霊夢とやら」

 

「何かしら殿様?」

 

「しばらくはこのシェルターの守りを秀とともに頼む。 今は行動しようにも、手札が少なすぎるでな」

 

「そうね、此方としてもこれでは動きようがないわ。 偶然アドラメレクに襲われている貴方を助けられなかったら、どうしていいか途方に暮れていた所よ」

 

他にも指針を示される。

 

機械いじりが得意な者はいるか、と。

 

フジワラにも何人か心当たりがある。

 

ただ、今の時代は戦える人間が基本的に求められる。機械いじりが得意な人間は、冷や飯を食っているのが現状だ。

 

助けると言えば、喜んで此方につくだろう。

 

「すぐに連れてこい。 その地獄爺だけでは手が足りぬだろう」

 

「分かりました、それもすぐに手配します」

 

「その人魚、そなたは独立して行動できるのか」

 

「ええ。 でも、あまり乱暴なことはしたくないわ。 それに、私には使命もあるの」

 

マーメイドが独自の使命を。

 

不思議なマーメイドだ。志村から報告を受けているが、アドラメレクを圧倒した霊夢との戦闘でダメージを受けていたとは言え。

 

アドラメレクを再生不能、転生不能のレベルで滅ぼしたのはこのマーメイドだ。あのアドラメレクをだ。

 

「話に聞く限り人魚は不吉の象徴と聞くが、そなたは随分と真面目で優しいのだな」

 

「ありがとう。 でも、私は……」

 

「それは分かった。 ただ利害が一致している間、フジワラの護衛を頼む。 当面忙しくなるし、今まで通りの守りでは、高位の悪魔に襲われて助からぬかも知れぬ」

 

「分かったわ。 ……私の使命にも、大きなうねりが必要なの。 それを引き起こせるなら」

 

そうか、心強い。

 

このマーメイドの実力は文字通りのレベル違いで、生半可な邪神程度では手も足も出せないだろう。

 

フジワラも切り札として強力な悪魔は従えているが、それでも頼りにさせて貰いたいところだ。

 

銀髪の娘と殿は、姿をシェルターに隠すという。

 

それが良いかも知れない。

 

このシェルターは霊的防御も強力にされていて、電子戦が得意な悪魔も簡単に入る事が出来ない。

 

事実今まで、阿修羅会も突破を試みて出来なかったのだ。

 

ただ、それでも大事な場面では出ると言う。

 

それだけ力が足りないことは、誰もがこの場で理解していた。

 

後幾つかの指針を示されて、それで解散となる。

 

フジワラは活力が満ちるのを感じた。

 

確かにこの年になると、簡単に変わる事なんて出来ない。それは分かっている。

 

だが、アキラとともに、天井を越えてその先に向かった時のような高揚が身に満ちていた。

 

マサカド公が東京の守護者だとしたら。

 

あの殿は、もう一人の東京の。

 

だから、任せて、フジワラは出来る事をする。それだけで良いと感じていた。








※「秀」について


描写からぴんと来た人もいるかも知れませんが、和風妖怪死にゲー「仁王2」の主人公です。

この人日本の妖怪に興味があるとびっくりするような経歴持ちで、色々な偉人とも関わりがあるのですが、実の所色々事情があって、「現在世界の偉人には」直接面識はありません。

これは原作DLCを最後まで遊んでみると理由がわかると思います。

実際の所この主人公、多芸ではあるのですが死にゲーと言う事もあってあんまり強くなくて、とにかく簡単に死ぬんですよねえ。ゲームシステムを理解するまではまともな立ち回りすら厳しいです。防具の重量制限がそんなに大事ならもっと細かく説明してくれ本当にもう。重量と相談しながら重装備しても雑魚にも簡単に殺されるし……


そんなあっさり死ぬ人も、本作では超歴戦の武人になっています。上級者が操作している秀さんのように。

なお葵の紋入り陣羽織は、原作で屈指のかっこよさを誇る装備なので、興味があったら調べて見てください。




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