沐浴を済ませると、カガは作戦会議を行うガイア教団本部ロビーに出向く。
今回はカガと手練れのガイア教徒達、それに幹部であるミイとケイが出る事が決まっている。
それにミイとケイは、仕上がったばかりのトキを連れていくようだ。
ガイア教団は居心地がとてもいい。
カガも物心ついた頃には大戦の後の世代なので、力が全ての時代に生きてきた。何もかもを奪い合って生きる世界で、人が恐ろしい勢いで減っていく時代だった。
だが、今になって思うと。
あれは本当に、強い奴が生き残る時代だったのだろうかと疑念が浮かぶ。
どんなに強い奴でも、強力な悪魔には手も足もでなかった。力自慢で、手練れの人外ハンターを素手で圧倒していたような奴が、悪魔に踏みつぶされて一瞬で死んだのを間近で見たとき。
その考えは、確信に変わった。
厳しい修行をして、身を引き締めて。
それで雑念を消すようにし。
悪魔召喚プログラムにすら頼らずに、己の身で雑魚悪魔だったら斃せるように鍛えに鍛えた今でも。
それでも疑念は心の奥から消えない。
ガイア教団は居心地が良い。
強いのなら何をしても許されるし、強い者にはとても寛容だ。
カガは男を近づける気はないが、それも強いから許されている。
カガは子供を作りたくない。
子供を作っても、主観で選別して、弱いのなら悪魔のエサにしてしまうようなガイア教団のあり方では子供を苦労して産んでも無駄だと考えているし。
今の東京では、現実的に考えて。子供を作っても、育てられなどしない。
人外ハンターは、最近シェルターと言う場所で、弱者をどんどん保護しているらしい。それで軟弱になったかというとそんなこともない。
武器も装備も、服すらも。
今では作り出せなくなった品が、どんどん新しく支給されている。
鉄砲の弾も、どんどん再生産されているそうで。近々戦車やらも動き出すのではないかとさえ言われていた。
弱者なんか助けて何の意味がある。
そう嘲笑っている同胞に対して、カガは何も言わない。
ただ、疑惑は膨れあがるばかりだった。
カガは恋愛願望なんて持っていないが、子供は欲しいと思っていた。
これは誰にも話したことはない。
ガイア教団では、誰かに腹を割って話をすることは、そのまま弱みを握られることを意味している。
超能力という魔術の類種の力を持っているミイやケイには見抜かれているかも知れないが。
それでも、強い間は少なくとも自由は許される。
だが、そんなものは自由なのだろうか。
カガの中で、疑問は膨らむばかりだった。
それに、である。
カガは見たのだ。
調べていて、仏教の思想について。
ガイア教団はどちらかというと仏教系の思想だと喧伝しているようだが、実際に見た仏教哲学は、それとはまるで違っていた。
確かに男尊女卑思想とか、色々と不愉快なものはあったが。
それでも混沌の時代を貴ぶ思想ではなく。
むしろ混沌よりも平穏と秩序を作ろうと考え出されたもので。
特に過剰な修行は毒にしかならないと開祖である仏陀が唱えていることも知ってしまった。
それではまるで、今やっているのは、真逆ではないか。
そういう思想を持つのも、ガイア教団では自由だが。
しかし、ガイア教団そのものがおかしいのではないのか。
そう、カガには思え始めていた。
ユリコは出かけている。
そのため、作戦指揮はミイとケイが執る。
この本部は強力な悪魔が複数守っており、更に言うと精鋭が死ぬのなんていつものことだ。
今回の作戦でも、それを誰も疑問にさえ思っていなかった。
「皆、集まったようだねえ」
「それでは行くとしようか。 ひひひっ」
「おおーっ!」
ガイア教徒達が吠える。
カガは静かに黙り込んでいた。
此奴らは熱狂の中にいる。
だが、それだけだ。
「カガ。 お前は人外ハンター側の精鋭とともに、西王母に当たって貰うぞ」
「はっ」
「羨ましい!」
「武の誉れぞ!」
周囲はいうが、本当にそうか。
どうもミイとケイは、カガの不審を見抜いた上で、それで鉄砲玉として使うつもりにしか思えない。
ただ、同時に。
西王母ほどの強大な悪魔と戦えるのは誉れだと考える自分もまた、いるのだった。
四十名の精鋭が出る。それを、ガイア教徒達はわいわいと囃しながら送る。
教団本部の守護をしている悪魔も、それを見送る。
堕天使ベリアルが現在此処に守りに来ているが。
そのベリアルも、半笑いで行く様子を見送っていた。
ベリアルはソロモン王72柱で、最強とされる悪魔。序列は一位ではないが。その名前は、無価値という意味を持つとか。
それはそれとして、ベリアルが時々子供、特に女の子をいとおしそうに見ている事もカガは知っている。
あれは食糧として見ているのではなくて、単純に守るべきものとして見ているのも分かっていた。
だが同時に、こうやって死ぬ事を怖れないというか。
むしろ死ぬ事を名誉と考えるようなガイア教徒のことは、内心で馬鹿にしていることも分かるのだ。
知恵が回ると、却って色々と余計なものが見えてしまうのかも知れない。
「カガよ。 我等を代表しての一番槍、頼むぞ」
「ああ、分かっている」
「それにしても、ミイ様とケイ様が作戦の指揮を執るわけではないのだな」
「人外ハンターの方が組織戦には向いているというご判断だそうだ。 まあいい。 西王母を殺せるなら、それでかまわん。 この地に害なす存在、悉く滅ぶべし」
周囲がそんな事を話している。
ガイア教団が、そのこの地に害なす存在かも知れない、ということは思ってもいないのがよく分かる。
力を貴ぶ組織。
その現実をこう間近で見ていて。
カガは時々悲しくなる。
ただ、今はとにかく、西王母を討ち取る事が先だ。
霊夢といったか。あの凄まじい使い手が先に情報を展開してくれなければ、ただ西王母に特攻して皆殺しにされていたかも知れない。
ありとあらゆる意味で。
カガは複雑で。
迷いはどうしても、心の奥底に残り続けていた。
(続)
ガイア教団に所属している人って、普段どんなことを考えているんでしょうね。
チンピラだとしか思えないような奴とか、力の理論に捕らわれているだけの奴とか。人間の強みを捨てた野獣の群れのような有様ですが。ただ対抗馬のロウ勢力がそれ以上に酷いせいで、メガテン世界の住人は色々大変でしょうね。
本作では、そんなガイア教団のカガさんにも少し内面の描写を入れています。
どんな思いでカガさんが西王母との戦いに挑んだのか。
そういう一場面です。
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