池袋における総力戦開始です。
原作ではろくに調査もせず突っ込んだ結果甚大な被害を出す事になった戦いですが。本作では事前調査と入念な戦力配置、それに相手の手札の解析も行った上での戦闘となります。
それでも相手は主神級の神格が堕落した存在。
簡単に勝たせてはくれませんが……
序、戦力集結
池袋の戦いに参加するのは、僕も吝かじゃない。東京で今最も人々を苦しめている悪魔と言えば、西王母だ。
人間で一番悪辣なのが阿修羅会なのは既に見ている。
其奴らもいずれはぶっ潰すとして。
その前に、今現在大量の人間をすり潰しながら殺している西王母を撃ち倒すのは急務と言える。
池袋には、人外ハンター達と徒歩で出向く。
移動経路が複雑で、簡単にはたどり着けないからだ。十数人に達する人外ハンターと一緒に移動するが、青い服が不思議なのか、色々聞かれる。
上から来たという話をすると、けらけらわらう奴もいるが。
フジワラという人が、賓客だという話をすると。
即座に其奴らが黙るのはちょっと面白い。
顔役と言う訳だ。
フジワラという人もかなり強い。一番強いのは、隣にいる……顔がツギハギだらけになっている人だろうが。
戦傷が原因だろう。
此処まで凄惨な顔になっている人は初めて見る。
だが、ツギハギと呼んでいる所を見ると、本人も受け入れているようだ。戦傷を憎まず武器にする。
そんなしたたかさも、この地獄では必要なのかも知れない。
あの超強いマーメイドがシェルターを守り、志村さん達は別の拠点を守るのだという。
霊夢と秀という戦士は、先行しているそうだ。
気になるのは、当たり前のように混じっている銀髪の女の子だ。背丈は僕と同じかちょっと低いくらいだろうか。
いや、見て分かる。強い。
そもそも淡く輝いているのは、凄まじい力の発露だろうか。白い服を着込んでいる事もあって、真っ白なイメージを受ける。
ただ儚げで、この中に混じっているのは不可解だ。
靴だけこういう所でも大丈夫そうな頑丈そうなのを履いているのも、違和感があるが。まあそれはいい。
無手だが、大丈夫なのだろうか。
「ふ、フジワラさん。 あの子供は……」
「最近加わってくれた精鋭だ。 下手な悪魔なんぞ束で捻る使い手だぞ」
「へえ……」
心配そうにしている人外ハンターにそう明確に答えるので、人外ハンターも黙らざるをえないという雰囲気である。
やがて、凄まじい炎が見えてきた。
だが、暑くは無い。
あれだけ燃え上がっているのだったら、熱気が凄まじい事になっていそうなものなのだが。
全くそんな事もなく、ただひたすら炎だけが上がっている。
それに、あの炎。
煙も出ている様子がなかった。
「恐ろしい光景だ……」
「西王母が中のエサを逃がさないように展開した呪詛の炎らしいな」
「色々な悪魔を試したらしいが、みんな焼け死んだそうだ。 相手は道教の上位神格。 易々とはいかないよな……」
ひそひそと話している声。
僕も西王母という存在については既に聞かされて知っている。それにしても、此処までの力を振るえるとは。
間違いなく、今までで交戦する相手としては……いや、あの黒いサムライと同等かは分からないが。
生半可な相手でないのは確実だった。
秀が来る。
手を振っているが、周囲の道は壊れてしまっているようだ。空を征くような不思議な道が縦横に走っていて。
それが炎で寸断されている。
この世の終わりのような光景である。
そして、赤い服の者達がいた。首に丸いものを連ねたものを下げているが。
前に仏教系の神格というのを呼び出した悪魔使いの人が、あんなのを手に持っていたっけ。
もっと小さかったような気がするが。
「ガイア教団は既に到着か」
「数は四十前後。 子供もいるようだな」
「子供と侮らない方が良い。 あの子は前に見たが、既にいっぱしの暗殺者だ」
フジワラが言うと、人外ハンター達が気を引き締める。
いずれにしても、ガイア教団は侮れる存在ではないと話を聞いている。僕が見た所、僕らとやり合えそうなのは。
奥の方に浮かんでいる不思議な老婆二人。
それと、皆の中に混じっている、背の高い女性。
それくらいか。
霊夢が空から降りて来て、手を叩く。
今回はフジワラが指揮を取るが。その前に、打ち合わせをしなければならないのだ。
この中で恐らく最強は霊夢と秀の二人で、戦力は拮抗していると僕は見る。
ただ秀はとにかく寡黙なので、音頭を取るのは霊夢が最適なのだろう。
この炎を、クエビコが落としていった符。
僕もクエビコ戦で見たが。あれでかき消すことが可能であるらしい。
だが、その前に。
戦いについての、最終確認をするのだそうだ。
「集まってくれて助かる。 これより、池袋に巣くう邪悪な神を討伐する作戦を開始する。 ただし相手は強大極まりない上に、池袋を完全に陣地に変えている。 道教での陣地というのは様々な古典文学に出てくるが、何かしらの手段を用いないと破る事ができない無敵の土地とみていい。 今回西王母が敷いている陣地は、五つの要地と連携する事で、自身を最大限強化し、要地には西王母が力を供給することで、相互で最大限の増幅をする厄介なものだ」
その説明は受けているが。
バロウズに情報が来る。
ガイア教徒達も、スマホにデータを受け取ったようである。
「要地の場所は既に霊夢さんが確認してくれた。 今、データを送った地点をそれぞれが総力で攻略して欲しい。 相手は堕落した五神であることが分かっている。 くれぐれも気を付けて当たってくれ」
「我々は総力で白虎の相手か? 随分と舐められたものだな。 二体くらいは倒してみせるが」
「私とツギハギが予備戦力とともに遊撃として控える。 相手は西王母によって強化されており、今回集めた精鋭でも一体ずつを相手に勝てるかどうか分からないと判断している。 故に、それぞれ余裕を持って対処できる戦力を揃え当たる。 もしも余裕があるようなら、他の要地の支援に回って貰いたい」
「なるほど、それは確かにありか」
ガイア教団は力の理論全肯定、欲望も全肯定の賊のような集団だと聞いていたが。
フジワラの話を聞いて、納得するだけの知恵はあるのだと分かって、そこはちょっと安心した。
西王母は我々でどうにかするとか言われて押しかけられても困る。
カガという戦士は事前に想定していたよりずっと出来るようだが、それでも池袋から感じるこの凄まじい邪気。
ちょっとばかり、僕も武者震いを感じているほどなのだ。
ミイとケイと名乗るガイア教団の指揮官は、気味悪く笑う。
「ヒッヒッヒ。 それでは突入と行こうか?」
「六カ所同時攻略が必須になる繊細な作戦だ。 この混成軍だと、おおざっぱな戦術行動しか出来ない事をもう一度肝に銘じて欲しい。 司令塔として私が指示を飛ばすから、くれぐれも無理はせず、戦況を逐一報告して欲しい」
「おうっ!」
「やってやるぜ!」
士気は高い、か。
気になるのは銀髪の子だ。
そういえば、前にシェルターですれ違ったか。その時は戦えるのだとは知らなかったが。やっぱりどこかであった事がないか。
武器すら手にしていないということは、この子は悪魔だろうか。
いや、そうとも思えないのだが。
作戦開始前の細かい指示も出る。
まず炎を消した後、指定の地点に全員で殺到。群れている悪魔を根こそぎ始末する。作戦行動開始はそれから。
六カ所に戦力を分散しなければならない上に、それぞれに全て同時に打撃を与え続けなければならない。
恐らく西王母が生きている限り他五カ所の要地を守る悪魔は再生し続けるだろうし。
他五カ所が無事である以上、西王母も体力が回復し続ける。
持久戦だ。
ただ、相手の持久力をこっちの戦力が上回れば勝ちである。
「では行くわよ!」
霊夢が札を展開し、なにやら詠唱。
魔法の言葉だが、意味はわからない。いずれにしても、ばつんと音がして、池袋を覆っていた炎がまとめて吹っ飛んでいた。まるで最初からそこには何もなかったかのように。
「おおっ!」
「まだだ! 西王母はこの段階では無敵に等しい! 一つずつ敵陣を攻略する!」
「了解!」
「まずは作戦地点を確保! それより、六カ所に散り敵陣を粉砕する!」
フジワラが声を張り上げると、一気に士気が高まる。
流石はこの東京を完全な破滅から救った三人の英雄の一人。場数の踏み方が違うと言う訳だ。
僕は最前線に立つと、複雑な構造をしている天を征くような道を飛び降りる。悪魔が……見た事もない格好の奴らが多数立ちふさがってくるが、当たるを幸いになぎ倒す。かなり強いのもいる。だが、上空から霊夢が多数の針を叩き込み、動きが止まった瞬間、秀が一刀両断にしていた。
凄まじい太刀筋だ。
平地に降り立つが、辺りの地面はドロドロのグズグズ。それもこれは、臭いが完全に血。それも腐敗している。
どれだけの人を殺して喰らったのか。
クエビコはあれだけ懺悔していて、荒神になってしまったことを悲しんでいたが。これは、違うな。
人間なんぞなんとも思っていないし、食い散らかすことを楽しんですらいた跡だ。
ヨナタンが作った階段を使って、わっと主力が降りてくる。上空の敵は、霊夢が片っ端から叩き落としているようだ。
「中華系の悪魔が目立つな」
「だが大した相手はいない。 西王母のやり口についていけなくて離れていったものも多いのだろう。 殆どが小物の妖怪が悪魔となったものばかりだ」
「左、複数!」
「効力射!」
一丸となって全員が降りて来て、しばし雑魚の退治に全力を尽くす。その過程で見たが、銀髪の子は、普通に戦えている。
太刀筋は見える。悪魔が真っ二つに切り裂かれている。しかし、手に何か持っている様子はない。魔術の力だろうか。ちょっと分からないが。続いて、何かの質量体が、襲いかかった悪魔の横腹を吹き飛ばしていた。体は最小限しか動かしていないようだが、時々いきなり加速して、悪魔の懐に潜り込み。或いは跳躍すると、さらに空中でもう一度跳躍するような、もの凄い動きを見せている。
それだけではなく、多数を相手にしながらも、確実に一体ずつしとめ、背後に目がついているかのように立ち回っている。
凄い。
立ち回りが熟練者のそれだ。多数を相手にしながら、多数を「同時に」相手にせず、それで常に優位を作りあげている。
かなりの修羅場のくぐり方だ。
相当に出来るな。
感心しながら、僕も苦戦している者の所に行き、悪魔を牙の槍で貫き、払い、叩き伏せる。
ヨナタンは多数の天使で平押しするが、天使と怒りの声を上げる者もいる。本当に嫌われているんだな。
だが、ヨナタンは冷静に指揮。
天使達も、苦戦している者を支援しながら、回復魔術も掛ける。悔しそうにしながらも、その支援を背に、皆戦う。
イザボーの大規模冷気魔術が炸裂して、山みたいな一つ目の大男が倒れる。
ひゅうと声が上がる。
双子の老婆が、同時にかあっと鋭い声を上げると。巨大な毛が生えた蛇の悪魔が、空中に持ち上げられ、ねじ切られて果てた。
ワルターは最前線で暴れ続けている。大剣が次々悪魔の頭をかち割り、胴体を吹き飛ばす。
「次はどいつだ! 幾らでも来やがれ!」
人外ハンターも負けていない。特に僕が見立てた人外ハンターの二人は、縦横無尽に暴れ回り、次々目につく悪魔を倒して行っていた。
程なく、最初に想定されていた地点を制圧。
霊夢が何か術を展開。
そうすると、光がばっと拡がって、悪魔がそれをみて離れる。明らかに、敵性勢力を遠ざけるものだ。
フジワラが声を張り上げる。
「目標地点制圧。 一旦補給と休憩。 回復魔術を使える悪魔を展開し、それぞれ第二次作戦に備えよ」
「よしっ!」
作戦が分かりやすい。
まだ雑多に仕掛けて来る悪魔もいるが、ガイア教団の者達が出て、徒手空拳で次々打ち倒して行く。
それぞれの戦力はギリギリで悪魔とやり合えるくらいだが、集団戦を徹底的に仕込んでいる印象だ。
子供のガイア教徒もいる。
異常に色白な子で、悪魔の背後を取っては鉈で切り伏せていた。淡々と殺して行くあの様子。
いわゆる暗殺者のようである。
動きも音が出来るだけ出ないようにしている。
気配を可能な限り消して、背後を取って急所を一撃。
理想的な奇襲だ。
戦闘を避けていた輸送班が食糧を取りだし、配布。
「うめえ! これスポーツドリンクか?」
「工場が拡張して少しずつ生産出来るようになったんだよ。 ただ、いざという時や、病人のために使う生産ラインだ。 いつも飲めるわけじゃないぞ」
「懐かしくて涙が出そうだ!」
「食糧も持って来ている! 口に入れて、補給を急いでくれ! そっちには簡易トイレも組み立てる! 使ってくれ!」
フジワラが大柄な人型の悪魔に指示して、なにやら箱を組み立てる。あれもトイレなのか。
順番に使い始める人外ハンターとガイア教徒。
きちんと並んでいるのを見ると、ちゃんと秩序があれば行儀良く出来るのだと分かって、僕としては複雑になる。
ワルターもそれを見て、しっかり並ぶ。
まだ小競り合いは続いているが、最前線で暴れていた面子は、順に休憩と、食事とトイレを済ませ始める。
僕もトイレは使わせて貰ったが、とても衛生的な仕組みで驚いた。水が勝手に洗ってくれるとは驚きだ。
東のミカド国とはやっぱり技術が違う。
ただ此方は物資が足りず、悪魔の脅威も段違いだ。
やはり手を結ぶべきだと思う。
障害になるのは、こっちで暴れている阿修羅会やら、それに何処にいるかわからないあの黒いサムライ。リリスであろう奴を初めとする敵対的な悪魔。
東のミカド国の無能なラグジュアリーズと、それに東京にあからさまな敵意を向けてきているギャビー。
それらだろう。
スポーツドリンクというのを貰うが、確かに信じられないくらいうまい。蜜水という高級な飲み物が東のミカド国にもあって、それも美味しいのだが、段違いの味だ。イザボーもヨナタンも驚いている。
「良く冷やした蜜水は一部のラグジュアリーズや王族程度しか飲めない、しかも時期が限られる品ですのに。 これはそれらとは次元違いの味ですわ」
「これは一体どうやって作っているんだ!?」
「昔はこれが大量にあって、どこでも誰でも買えたんだよ」
「すっげえな……味覚えておくぜ」
ワルターも気に入ったようだ。
だが、量があまりない。
今後飲んでいくためには、どんどん此方を復旧しなければならないし。
問答無用の邪悪と化している西王母みたいな輩は、片っ端からぶちのめしていかなければならないだろう。
休憩終わり。
仕掛けて来る悪魔もほぼいなくなった。
それぞれの陣列を組み直す。
既に、誰が何処に仕掛けるかは決められている。
フジワラが咳払いしていた。
「よし、これよりいよいよ本番だ。 先に五カ所の敵陣を攻略に懸かってくれ。 西王母に仕掛けるのは、少し時間差で後になる」
「分かった」
「行くぞ!」
秀が立ち上がり、それぞれ攻略に懸かる面子もそれに続く。
銀髪の子も、一人で一カ所を相手にするようだ。無茶じゃないのかと思ったが。しかし此処までに来る間に見た立ち回りを思い出す。
この子は充分なくらい強い。
生半可な悪魔では、太刀打ちなんか出来ないだろう。
僕達は、霊夢と、カガというガイア教団の女戦士と組む。
カガは髪の長い、だが険しい顔をした屈強な長身の女性だ。とにかく自他共に非常に厳しい雰囲気である。
だが、実力は僕より落ちるな。
それについては、冷静に分析をしていた。
一方で、強烈な精神力も感じる。死ぬまで敵に食いついていきそうな雰囲気だ。体がどうなろうとも。
霊夢が冷静に説明を入れる。
「相手は道教における最高位に近い神格よ。 他には黄帝や女禍や伏羲なんて存在もいるけれど、信仰を集めたという点では恐らくそれら以上の存在になるわ。 これより仕掛けるけれども、何をやってきても不思議ではないわ。 死人が出ることは覚悟して。 それはあたしも例外ではない」
「ひゅう。 武者震いが出るねえ」
「怖いのなら此処で控えていろ」
「冗談いうな。 俺等は最強なんでね」
カガに対して、ワルターが言う。
まあ、謎の自信も、こう言うときに怖じ気づかないのならそれでいいだろう。ただ、ワルターも分かっている筈だ。
まともに交戦する相手としては、恐らく今までで最強だということも。
既に戦いが五カ所で始まっている。
激しい戦闘音。
長引けば長引くほど被害が大きくなるだろう。
僕達も、それこそ一瞬で決めるつもりで出向く。
「此方も情報が少ないから、とにかく臨機応変でいくしかないわ。 最大級の努力はするけれど、あくまで一発勝負、死んだら次もない。 くれぐれも、命を無駄にしないで」
霊夢は言う。
この人、多くの仲間を失ってきたんだな。それが、今の言葉で分かってしまった。
頷く。
そして、既に戦いは始まっていた。